いつかのフラストレーション

たいやき さとかず

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問1 青く澄み渡る冬を思い出せ。

2:素晴らしきサービス

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「あー……」秋が頬を押さえる。「ンーーまーーー」
 三時間目、四時間目と来れば昼休みだ。
 俺達は今、学園の食堂にて美味しい昼食を頂いている。
 俺は餃子とチャーシュー麺とご飯を、秋は卵とじカツ丼とミニうどんを食べている。炭水化物と肉ばかりなのは分かっているが、育ち盛り故にこうでもしないと満たされない。
「これはホントこの学園のいいところだよな。朝昼晩無料とか幸せすぎだろ」
 言葉の通り幸せそうに秋がカツ丼を頬張っている。黄色い卵に閉じられた厚みのあるカツと白いご飯をにこにこ顔で口に含む秋の姿は、俺の食欲を更に刺激した。
 俺は勢いに任せてもちもちで歯応えのある麺を啜った。
「あー、やっぱり豚骨だな」
「だよなー」
 秋がうんうんと同意する。
 俺の心が満たされた気がして、上機嫌で餃子を頬張った。一口で食べきれるサイズの餃子はサクサクと口の中で音を立てた。ニンニクは効きすぎていない。少し焦げたところと、焼くときに使われただろう胡麻油、タレにいれた少量のラー油がとても香ばしい。
 噛む度に溢れる肉汁と共に飲み込むと、俺は麦茶を喉に流した。
 そこで漸く秋が物欲しそうな顔でこちらを見ていることに気がついた。
「あ、渡、餃子二個……」
「カツ一個な」
 交渉成立。
 餃子の皿を秋の方へと軽く動かすと、秋が皿の空いたところにカツを置いた。
 二人して互いのものを食べる。
「「あー……」」
 幸せな声が重なる。
 ほんの一瞬の余韻に浸っていると、秋の隣の席がガタリと動いた。
「なに年寄りみたいな顔してんだ」
 栗先生だった。
「いえ、肉があまりにも美味しくて……」
「肉ヤバイっすわ」
 俺はチャーシュー、秋はカツ。二人して肉を口にいれた。
「肉ってお前ら……一括りにしやがって」栗先生は苦笑した。「肉がいいならこの唐揚げもいいぞ。どこよりも旨い」
「唐揚げ……絶対食べます」
 俺は真顔で頷いた。
 対して秋は少し遠くを見つめるようだった。「唐揚げか……」
「なんだ、家が恋しくなったか?」
 歯を出してからかう先生に秋はぼーっとしたまま「違うんすけど」と言った。
「じゃあ何だ?」
 軽く首を傾げる先生を見て、俺はにんまりと笑った。
「秋は最後に食べた彼女の料理思い出してるんですよ」
「はあ!? 千晴と付き合ってるわけねーだろ!?」
 覚醒した秋は顔を真っ赤にして大声をあげた。
 周りからじろりと睨まれ、小声で「すいませーん」と謝るっている間も顔の赤みは取れていない。
 俺が「千晴なんて一言もいってないぞ?」と言うと、可哀想なくらいに秋の身体中真っ赤になる。
 栗先生は新しいおもちゃを見つけたような目で挙動不審の秋を見ていた。
「へー、ふーん、千晴ちゃんねぇ?」
 ニマニマと心底楽しそうな先生に秋はハッとしたような顔になった。しかし、もう遅い。
「へー、千晴ちゃん。千晴ちゃんねー……後でメモっとくな」
「やめてください!!」
 秋の必死の声は全く効いていないらしく、先生は目を丸し口をすぼめて愉しそうにしている。
 しばらく押し問答していたが、諦めたらしい秋が涙目で俺を睨みつけた。それも一瞬のことで、すぐに目を逸らすと慌てた様子でカツ丼とうどんを掻き込んだ。
「ごちそうさまっした! 俺もう行くんで!」
 ご丁寧にトレイを返し口に入れてから、秋は扉までダッシュで逃げていった。
「あ、餃子三つ減ってる」
 あいつ……まあ、弄れたので良しとしたい。
「ん、何だ取られたのか?」
「あ、いえ」
「俺の一個いるかー、成長期ー」
 栗先生が紅い箸で茶色く揚げ上がった唐揚げを掲げた。
「いります」
「即答かよ……」
 掲げた唐揚げを口に頬張ると、先生は皿をこちらに寄せた。「ほへお」
「戴きます」大きくもなく小さくもなく、中ぐらいのサイズの唐揚げを箸で掴み口へといれた。
 油がしっかりと切れた唐揚げの衣がサクサクと音を立てる。肉も衣で誤魔化さない大振りで、柔らかで、じんわりと脂が口に広がった。かといって油っこいわけではなく、さっぱりしていてそれでいて甘味があって、なんというか、凄い好みだ。
 ゴクリ。一口丸々飲み込んで一言。「旨すぎません?」
「だから言っただろ」先生が満足そうに頷く。
「あー、これはあれですね……明日の夕食は二人一緒にこれです」
 正直美味しすぎてもう一つ欲しいが、これは先生のものだし、なによりこの感動を秋と共に味わいたい。
「同中だったか。お前ら仲いいな」
「ついでに幼馴染みです」
「へぇ」
 パクリ、と大ぶりの唐揚げが先生の口の中に一瞬で消えた。
「そういえば栗先生」
「なんだ」
 俺はチャーシュー麺のスープを残ったご飯にかけた。
「何で先生って〝栗先生〟なんですか? 先生の苗字って確か斧栗ですよね、何で斧先生じゃないんでしょう」
 因みに先生の本名は斧栗おのくり三崎みさきだ。
「あーそれはな」先生が頭を掻いた。「前田先生のせいだ」
「前田先生……ああ、用務員の」
 三日前に出会ったワイルドな壮年の男性を思い出した。真っ赤なアロハシャツと所々破れたジーンズ、無精ひげに黒々とした大きいサングラスをかけてバラの手入れをするというとんでもない用務員さんだった。1ℓのコーラをがぶ飲みしていたのが印象深い。
「その前田先生はな、俺がこの学校にいたときの先生なんだ」
「先生ここの生徒だったんですか。というかもしかして……」
「ああ。……その前田先生が、俺のことを〝栗〟って呼んでたんだ。で、赴任直後に堂々生徒の前で言われて」
「それで定着したんですか」
「ああ」
 頷く先生はどこか遠くを見るように目を細めた。眉間に皺を寄せているからもしかしたら嫌だったのかもしれない。
 先生を横目で見ながらスープを啜った俺は手を合わせた。「ごちそうさまでした」
 時計のある方を見ると食べ始めてから15分ほどたっている。
「あ、俺もう行きます」
「おー」
 栗先生は片手をひらひらと振るとまたからあげを口につっこんだ。
 立ち上がった俺はトレイをもって返し口に向かった。
「ありがとうございました」
「はい。こちらこそありがとうございました」
 若い男性がにこりとこちらに笑みを向ける。俺は軽く会釈をして食堂を出た。
 ……ここ一週間、この学園を秋と見て回ったが全体的に顔面偏差値がとても高い。食堂で働く人すらもイケメンだ。勿論、俺のような普通の顔の男も多数いるが、圧倒的に見目がいい人間が多い。
 男子校なので女性が一人もいないのが勿体ないとも思える。
 自身の平凡顔に少し気落ちしてとぼとぼ廊下を歩いていると、後ろに入れたスマホが震えた。
 秋からのラインだった。
『今購買><』『アイスかなんか買おうぜ( *´艸`)』
 顔を真っ赤にして食堂を出ていったのにもう復活しているらしい。
 いつも通り顔文字が使われているラインに呆れたため息をついて、俺は二階の購買へと階段を駆け上がった。
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