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浮かばせていただきます?!
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マキアは最近悪夢を見ていた。リリィーアルが床に膝をついてマキアを睨み上げる、酷い夢だ。
(……違う、夢じゃない)
悪夢を見ると必ず夜中に目を覚まして、頭を抱える。眉間に寄った皺を伸ばして拳をぎゅっと握った。
「……こんな未来、絶対に認めない」
少女は来るかもしれない運命に、か細い否定を溢した。
◆
「………さま」
心地よい声が聞こえる。微睡みに身を任せながらリリィーアルはその声に耳を済ませた。
「リ……さま」
何だかほっとする声だ。一体誰のものだろうか。
好奇心が疼いて、少しだけ目を開ける。
「おはようございます、リリィーアル様」
暗い世界から目を覚ましつつあったリリィーアルは、視界に広がった美少女の顔に「ひゃっ」と声を漏らした。
「え、酷い、リリィーアル様! 私の顔ってそんなに酷いんですか!?」
ブロンドの髪を揺らした美少女――マキアが自分の顔をペタペタと両手で触っている。
その光景を呆然と見上げて、リリィーアルは小首を傾げた。
「マキアさん? ……なぜ?」
「もしかして、まだぼーっとしてます?」マキアが右の掌をリリィーアルの頬に添える。「いつも可愛いですけど、今はちょっと子供っぽい感じですね」
「なっ……ぁ……!」
目も口も大きく開いてリリィーアルはカチカチに固まった。血行が急によくなって指の先まで真っ赤になっていく。
口をはくはくとしていると、マキアの柔い指が頬をかすめ、衝動的に身体が震えた。
「リリィーアル様……もしかして、照れてくれてるんですか……?」
目を細めたマキアがゆっくりと首を傾げる。
リリィーアルは思わず顔を背けて、マキアの身体を押した。
「そ、そんなわけ、ありませんわ……!」
「そうですか」
マキアが肩を竦めてくすくすと笑っている。
リリィーアルはなんだか恥ずかしくなって、こほんっと仕切り直すように一つ咳払いをした。
「それで、ここは……保健室ですわね。何故わたくしはここに?」
両手ではたはたと熱い顔に風を送りながら、リリィーアルは睨み上げえるようにマキアを見た。
「裏庭で倒れられてたんです。それで私と先生方でリリィーアル様をここに。……覚えてませんか?」
マキアに言われ、リリィーアルは少し前の記憶を辿った。
茶室を出た後、確か教室に戻るために廊下を歩いていたはずだ。茶室は三階で教室は二階――どう考えても外に出るはずはないし、何よりそんな記憶はない。
「……ええ。ありませんわ」
「分かりました」
マキアがリリィーアルから目線を外した。何か考え込んでいるようで、眉を寄せ固い顔をしている。
リリィーアルは無意識に「マキアさん」と名を呼んでいた。
「はい! なんですか、リリィーアル様」
先程とは打って変わり、花を咲き乱らせたような笑顔でマキアが振り向いた。
「え、ええっと……」
リリィーアルは勝手に動いた口に驚き、動揺した。何故、マキアの名前を呼んでしまったのだろうか。
唇を指で隠しながらちらりとマキアを窺うと、きらきらとした瞳でこちらを見下ろしている。
何かを期待している顔だ。リリィーアルは更に動揺して、すぐに目を離した。
どうしてあんな顔をしているのだろうか。訳が分からなくなった頭が、とにかく誤魔化さなければと言葉を急かした。
「……マキアさんのブロンド、とても綺麗ですわね」
頬が自然と動いて、渾身の笑みを顔に浮かべる。
マキアがぽかんとした顔で瞬きをした。
(……って何を言っているのわたくしは!)
ハッと我に返って、リリィーアルは自分を責め立てた。どう考えても誤魔化すための内容ではないし、全く話が繋がっていない。それにこの台詞、実はいつか婚約者に言われたい言葉のうちの一つなのだ。
恥ずかしい。あまりにも恥ずかしすぎる。
きっとマキアは訝しげに見ているだろう。変な人だと思われたかもしれない。恐る恐るマキアを窺うと、彼女は頬を赤らめてリリィーアルを見ていた。
(……違う、夢じゃない)
悪夢を見ると必ず夜中に目を覚まして、頭を抱える。眉間に寄った皺を伸ばして拳をぎゅっと握った。
「……こんな未来、絶対に認めない」
少女は来るかもしれない運命に、か細い否定を溢した。
◆
「………さま」
心地よい声が聞こえる。微睡みに身を任せながらリリィーアルはその声に耳を済ませた。
「リ……さま」
何だかほっとする声だ。一体誰のものだろうか。
好奇心が疼いて、少しだけ目を開ける。
「おはようございます、リリィーアル様」
暗い世界から目を覚ましつつあったリリィーアルは、視界に広がった美少女の顔に「ひゃっ」と声を漏らした。
「え、酷い、リリィーアル様! 私の顔ってそんなに酷いんですか!?」
ブロンドの髪を揺らした美少女――マキアが自分の顔をペタペタと両手で触っている。
その光景を呆然と見上げて、リリィーアルは小首を傾げた。
「マキアさん? ……なぜ?」
「もしかして、まだぼーっとしてます?」マキアが右の掌をリリィーアルの頬に添える。「いつも可愛いですけど、今はちょっと子供っぽい感じですね」
「なっ……ぁ……!」
目も口も大きく開いてリリィーアルはカチカチに固まった。血行が急によくなって指の先まで真っ赤になっていく。
口をはくはくとしていると、マキアの柔い指が頬をかすめ、衝動的に身体が震えた。
「リリィーアル様……もしかして、照れてくれてるんですか……?」
目を細めたマキアがゆっくりと首を傾げる。
リリィーアルは思わず顔を背けて、マキアの身体を押した。
「そ、そんなわけ、ありませんわ……!」
「そうですか」
マキアが肩を竦めてくすくすと笑っている。
リリィーアルはなんだか恥ずかしくなって、こほんっと仕切り直すように一つ咳払いをした。
「それで、ここは……保健室ですわね。何故わたくしはここに?」
両手ではたはたと熱い顔に風を送りながら、リリィーアルは睨み上げえるようにマキアを見た。
「裏庭で倒れられてたんです。それで私と先生方でリリィーアル様をここに。……覚えてませんか?」
マキアに言われ、リリィーアルは少し前の記憶を辿った。
茶室を出た後、確か教室に戻るために廊下を歩いていたはずだ。茶室は三階で教室は二階――どう考えても外に出るはずはないし、何よりそんな記憶はない。
「……ええ。ありませんわ」
「分かりました」
マキアがリリィーアルから目線を外した。何か考え込んでいるようで、眉を寄せ固い顔をしている。
リリィーアルは無意識に「マキアさん」と名を呼んでいた。
「はい! なんですか、リリィーアル様」
先程とは打って変わり、花を咲き乱らせたような笑顔でマキアが振り向いた。
「え、ええっと……」
リリィーアルは勝手に動いた口に驚き、動揺した。何故、マキアの名前を呼んでしまったのだろうか。
唇を指で隠しながらちらりとマキアを窺うと、きらきらとした瞳でこちらを見下ろしている。
何かを期待している顔だ。リリィーアルは更に動揺して、すぐに目を離した。
どうしてあんな顔をしているのだろうか。訳が分からなくなった頭が、とにかく誤魔化さなければと言葉を急かした。
「……マキアさんのブロンド、とても綺麗ですわね」
頬が自然と動いて、渾身の笑みを顔に浮かべる。
マキアがぽかんとした顔で瞬きをした。
(……って何を言っているのわたくしは!)
ハッと我に返って、リリィーアルは自分を責め立てた。どう考えても誤魔化すための内容ではないし、全く話が繋がっていない。それにこの台詞、実はいつか婚約者に言われたい言葉のうちの一つなのだ。
恥ずかしい。あまりにも恥ずかしすぎる。
きっとマキアは訝しげに見ているだろう。変な人だと思われたかもしれない。恐る恐るマキアを窺うと、彼女は頬を赤らめてリリィーアルを見ていた。
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