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日常編 袖触れ合うも多少の縁
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旅先の危険性を確認した一夜であったが、夜はみんなも旅の移動で疲れたので大人しく寝てくれたようだった。
「わふぅうう(グレイズ殿も一緒に寝るくらいしてあげればいいのに。ここはブラックミルズじゃないんですよ)」
「うるさいぞ、ハク」
馬車で起きた俺は、足元に丸まっていたハクの言葉に苛立っていた。
一歩踏み出す勇気を持てなかった俺を詰っているようにも聞こえたからだ。
俺も若い身の上だったら、勢いで一線を越えたかもしれないが、いささか歳を取り過ぎていたため現状維持に傾いてしまった。
「いやー、グレイズさん! マジ、快調っすねー。温泉効果凄いっすわー」
そんな俺のいた馬車を訪ねてきたのは、ヨシュアに拉致されたジェネシスであった。
スッキリ艶々して、顔に生気に漲っていた。
昨日の夜はさぞ楽しんだのであろうと思われる。
「お前は若いからいいな。俺みたいな歳になると……」
「い、嫌だなぁ! グレイズさん、オレは別に温泉の効果がすごいってことで。女の子がスゲーって意味じゃないっすよー。やだなー」
うん、まぁほどほどにな。ほどほどに。
嫁取りは俺と違って早めがいいぞ。
歳を取ると色々としがらみが増えて動くに動けなくなるからな。
俺は照れて顔を赤くしているジェネシスを見て、自分にも勇気を出すように言いかせていた。
「わふぅうう(グレイズ殿もあんまり焦らすと逃げられちゃいますよー)」
「分かってるさ、ハク」
「でも、グレイズさんはココで寝てるってことは、姉上たちはほったらかしということっすね。ほんと、頼んますよグレイズさん。姉上たちがおばあちゃんになる前にちゃんとしてやってくださいよ」
「分かっている。ジェネシス」
ふぅ、この旅は色々と変化が起きる旅になるかもしれないな。
俺は今回の旅の一件を裏でアクセルリオン神が糸を引いているのでは勘ぐっていた。
神様が不足しているのを俺の子孫で補填しようとしないで欲しいぞ。
「グレイズさーん、朝ご飯の準備できたよー」
色々と今後のことに関して考えていたら、ファーマが朝ごはんの準備ができたと呼んでいた。
「おっと、飯っすねー。オレも腹ペコなんすよ」
「わふぅうう(あたしもお腹空いたのでお先にいきます)」
ジェネシスとハクが俺を置き去りにして、居室の方へ走り去っていった。
朝食を終えると俺たちは旅の支度を整え、馬車に乗るとコーリアンの街を後にした。
そして、馬車は王都への本街道とも言える街道を走っている。
行き交う馬車の数は今まで見たこともないほどの多さになっていた。
「馬車がいっぱいだねー。こんなに走ってるのを見るのはファーマ初めて―」
「ここが主街道。この国で一番人が行き交う街道。ここから先に進めば馬車がもっと増える」
今日は俺が御者役の番だったので、ファーマとカーラが御者席の隣に座っていた。
前を行くアルマたちの馬車を追って街道を王都へとひた走っていくが、荷を積んでいることもあり、自分たちを追い抜く馬車も多数いる。
「グレイズさん、また後ろの馬車が追い抜きさせてくれって言ってますよー」
「おぉ、了解。スピード落とすぞ」
荷台にいたジェネシスから、後方の馬車が追い抜きたいと伝えてきたとの報告があったので、馬車のスピードを落としていく。
ハクがアルマの馬車に乗っているので、思念通話でこちらがスピードを落とす伝えていた。
「兄ちゃん、ありがとなー。こっちは急ぎの荷物があるからすまんのー」
人当たりの良さそうな初老の老人が乗った馬車が追い抜きをかけていく。
荷台には俺たちの荷馬車よりも山積みされた荷を積んでおり、スピードを上げる度にグラグラと不安定に揺れていた。
「おじさん、荷物が揺れてるー」
ファーマが揺れている荷物を初老の老人に指摘した時、揺れていた荷が音を立てて崩れ落ち始めていた。
「うあああぁ!! た、倒れる!!」
荷崩れを起こした馬車が横転をしかけていた。
「カーラ、ファーマ、御者を代わってくれ!」
俺は手綱を二人に渡すと、横転しかけている馬車に飛びついていた。
「兄ちゃん、無茶するな。一緒に横転するぞ」
「大丈夫だ」
俺は横転しそうだった馬車を掴むと、一気に地面に引き戻し、崩れて落ちそうだった荷物の木箱を地面に落ちる前にすべて受け止めていた。
「に、兄ちゃん……す、すげえな……。一体何者だ」
「通りすがりのただの冒険者だ。それ以上でもそれ以下でもないぞ」
初老の老人が驚きの顔でこちらを見ていた。
「グ、グレイズさん、ブラックミルズのギルドマスターが抜けてますよ!」
「あと、わたくしの治めるブラックミルズ公爵家の相談役も抜けております」
「ブラックミルズ商店街連合会会長も抜けてるわね」
「Sランクパーティーになる予定の『追放者』のリーダーも抜けてる」
「グレイズさんはいっぱい肩書きがあるのー」
「へ、へぇ……兄ちゃん、大層な肩書きを持つ人物じゃねえか……」
止まった馬車から、うちの女性陣が俺が持つ大層な肩書きを初老の老人に伝えていた。
はっきり言って流れで引き受けた役職であるため、俺自身にはそういった自覚はあまりないのだがな……。
「まぁ、そういった肩書きはあるけどみんな雇われだからな。俺自身は一介の冒険者に過ぎんさ」
俺は崩れ落ちそうになっていた木箱を荷台に戻していた。
ーーーーーーー
おっさん商人二巻は七月下旬に発売予定です。WEB版を一部改良して構成し直しておりますので、よければ書籍もよろしくお願いします。
新作の『おまパパ』の方もHOTランキング7位入りさせていただけました。皆様の応援に感謝しております。
まだ、未読だよという方がいらっしゃいましたら下記リンクから飛べるようになっておりますので、お時間ありましたらご一読いただければ幸いです。
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「うるさいぞ、ハク」
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一歩踏み出す勇気を持てなかった俺を詰っているようにも聞こえたからだ。
俺も若い身の上だったら、勢いで一線を越えたかもしれないが、いささか歳を取り過ぎていたため現状維持に傾いてしまった。
「いやー、グレイズさん! マジ、快調っすねー。温泉効果凄いっすわー」
そんな俺のいた馬車を訪ねてきたのは、ヨシュアに拉致されたジェネシスであった。
スッキリ艶々して、顔に生気に漲っていた。
昨日の夜はさぞ楽しんだのであろうと思われる。
「お前は若いからいいな。俺みたいな歳になると……」
「い、嫌だなぁ! グレイズさん、オレは別に温泉の効果がすごいってことで。女の子がスゲーって意味じゃないっすよー。やだなー」
うん、まぁほどほどにな。ほどほどに。
嫁取りは俺と違って早めがいいぞ。
歳を取ると色々としがらみが増えて動くに動けなくなるからな。
俺は照れて顔を赤くしているジェネシスを見て、自分にも勇気を出すように言いかせていた。
「わふぅうう(グレイズ殿もあんまり焦らすと逃げられちゃいますよー)」
「分かってるさ、ハク」
「でも、グレイズさんはココで寝てるってことは、姉上たちはほったらかしということっすね。ほんと、頼んますよグレイズさん。姉上たちがおばあちゃんになる前にちゃんとしてやってくださいよ」
「分かっている。ジェネシス」
ふぅ、この旅は色々と変化が起きる旅になるかもしれないな。
俺は今回の旅の一件を裏でアクセルリオン神が糸を引いているのでは勘ぐっていた。
神様が不足しているのを俺の子孫で補填しようとしないで欲しいぞ。
「グレイズさーん、朝ご飯の準備できたよー」
色々と今後のことに関して考えていたら、ファーマが朝ごはんの準備ができたと呼んでいた。
「おっと、飯っすねー。オレも腹ペコなんすよ」
「わふぅうう(あたしもお腹空いたのでお先にいきます)」
ジェネシスとハクが俺を置き去りにして、居室の方へ走り去っていった。
朝食を終えると俺たちは旅の支度を整え、馬車に乗るとコーリアンの街を後にした。
そして、馬車は王都への本街道とも言える街道を走っている。
行き交う馬車の数は今まで見たこともないほどの多さになっていた。
「馬車がいっぱいだねー。こんなに走ってるのを見るのはファーマ初めて―」
「ここが主街道。この国で一番人が行き交う街道。ここから先に進めば馬車がもっと増える」
今日は俺が御者役の番だったので、ファーマとカーラが御者席の隣に座っていた。
前を行くアルマたちの馬車を追って街道を王都へとひた走っていくが、荷を積んでいることもあり、自分たちを追い抜く馬車も多数いる。
「グレイズさん、また後ろの馬車が追い抜きさせてくれって言ってますよー」
「おぉ、了解。スピード落とすぞ」
荷台にいたジェネシスから、後方の馬車が追い抜きたいと伝えてきたとの報告があったので、馬車のスピードを落としていく。
ハクがアルマの馬車に乗っているので、思念通話でこちらがスピードを落とす伝えていた。
「兄ちゃん、ありがとなー。こっちは急ぎの荷物があるからすまんのー」
人当たりの良さそうな初老の老人が乗った馬車が追い抜きをかけていく。
荷台には俺たちの荷馬車よりも山積みされた荷を積んでおり、スピードを上げる度にグラグラと不安定に揺れていた。
「おじさん、荷物が揺れてるー」
ファーマが揺れている荷物を初老の老人に指摘した時、揺れていた荷が音を立てて崩れ落ち始めていた。
「うあああぁ!! た、倒れる!!」
荷崩れを起こした馬車が横転をしかけていた。
「カーラ、ファーマ、御者を代わってくれ!」
俺は手綱を二人に渡すと、横転しかけている馬車に飛びついていた。
「兄ちゃん、無茶するな。一緒に横転するぞ」
「大丈夫だ」
俺は横転しそうだった馬車を掴むと、一気に地面に引き戻し、崩れて落ちそうだった荷物の木箱を地面に落ちる前にすべて受け止めていた。
「に、兄ちゃん……す、すげえな……。一体何者だ」
「通りすがりのただの冒険者だ。それ以上でもそれ以下でもないぞ」
初老の老人が驚きの顔でこちらを見ていた。
「グ、グレイズさん、ブラックミルズのギルドマスターが抜けてますよ!」
「あと、わたくしの治めるブラックミルズ公爵家の相談役も抜けております」
「ブラックミルズ商店街連合会会長も抜けてるわね」
「Sランクパーティーになる予定の『追放者』のリーダーも抜けてる」
「グレイズさんはいっぱい肩書きがあるのー」
「へ、へぇ……兄ちゃん、大層な肩書きを持つ人物じゃねえか……」
止まった馬車から、うちの女性陣が俺が持つ大層な肩書きを初老の老人に伝えていた。
はっきり言って流れで引き受けた役職であるため、俺自身にはそういった自覚はあまりないのだがな……。
「まぁ、そういった肩書きはあるけどみんな雇われだからな。俺自身は一介の冒険者に過ぎんさ」
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