おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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王都編 グレイズ、冒険者ギルドに喧嘩を売る

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「おい! お前! 聞いてるのか! 私が貴重な時間を費やして説教をしてやっているのにその態度なんだ!! 名前と職業を言え!! お前には冒険者ギルド本部から厳重注意を通達してやる!!」

 一人で勝手にヒートアップしたハリアーが、俺の名と職業を尋ねてきていた

 ここで、真面目にブラックミルズの冒険者ギルドマスターと答えると、色々と問題がややこしくなりそうだった。

 ただでさえ、自分の頭を飛び越えて王に直接任命されたギルドマスターである俺に面子を潰されたと思っているハリアーだ。

 今、この状況で名乗り上げれば逆効果しか発生させない気がしている。

 とはいえ、この後結局面談するので、ここで偽名を名乗ってもバレてしまうのだ。

「困ったな……。これ、絶対にアルマに怒られるパターンだろ」

「なんか言ったか? 早く名前と職業を名乗れと言っている!! この間も私の貴重な執務時間を奪っているのだ!! 後で御者の怪我の分も含め、損害賠償請求もさせてもらうからな!!」

 俺が返答に困っていると、背後から声がした。

「あー、グレイズさんみーつけた!! やっと追いついたよ。ハクちゃんの匂い追っかけてきたらいた」

「わふうぅう!?(ファーマちゃん、それは狼のあたしの仕事なのでは!?)」

 犬のように鼻をヒクヒクさせて近づいてきたのはファーマだった。

 最近、気配読みが更に敏感になっているのに加え、匂いまでハクの嗅覚に迫る物を見せてきてもいたのだ。

「ファーマか。スマン、今取り込み……」

「グ、グ、グ、グレイズーーーーーーーっ!! お前の名前はグレイズと申すのか!! ま、まさか私の頭越しにブラックミルズの冒険者ギルドマスターになったグレイズではないだろうなっ!!」

 俺の名を聞いたハリアーの額に青い筋が浮き上がっていた。

 完全に先ほどよりまた一段とヒートアップして地団駄を踏んでいる。

「ファ、ファーマ。何かマズいことしたかな……」

「別に悪いことじゃないさ。相手が勝手に怒ってるだけだからな。ふぅ、バレたからにはきちんと名乗らないと」

 俺はハリアーの怒りをなだめることを諦めた。

「わふう(また、これで何か事件に発展するですよねー。きっと)」

 うるさいぞ、ハク。

 俺も好きでトラブルを呼んでるわけじゃないからな。

「そこ!! 私を無視するんじゃない!」

「あーわかった、分かった。そう血圧上げるな。ポックリ逝くぞ。お察しの通り、俺はブラックミルズのギルドマスターとなったグレイズだ。冒険者ギルド本部のギルドマスターであらせられるハリアー様におかれましてはご機嫌麗しいご様子。拝謁できたこと恐悦至極に存じ上げます……っと。これで、いいか?」

 先ほどから、目の前のハリアーには組織のトップとしての威厳を感じなかったので、最低限の挨拶をで済ませた。

 できれば、これで話を終え、後はアルマに実務的な折衝を任せたいところである。

「き、ききき、貴様!! やっぱり、ブラックミルズのクソいけ好かないギルドマスターのグレイズかぁああああ!!!」

 正式に名乗ったことで、ハリアーの怒りのテンションが振り切れた。

「王から勝手に任命されただけじゃなく、冒険者ギルドが手を付けていない宿泊業への出資、ギルドでの消耗品販売、冒険者への報酬ベースの加算、果ては訓練校まで作る計画まであるそうだなっ!! どれも、冒険者ギルド本部が禁じている事項だと知ってやっているのか!! 貴様っ!!」

 ハリアーは、代行に任じたアルマや領主のメラニア、そして共同出資者のメリーたちが進めているブラックミルズでの冒険者ギルド関連の施策が気に入らないらしい。

 俺としては本部分の利益はきちんと納めた上で、余った資金を街と冒険者に還元しているだけなのだが。

 それがどうにもハリアーの気に障るらしい。

「ハリアー殿、冒険者ギルド本部に納める分の上納金はきちんとお支払いしているはずですが……」

「うるさいっ! ブラックミルズだけ勝手気ままに施策を実行されては、全国の冒険者ギルドが迷惑を被るだろう! それぐらいの知恵を使わぬか! たわけ者めっ!」

 拳を振り上げて奇声を上げて吠えるハリアーにため息しか出ない。

 ハリアーはどうやら前例踏襲の無難な本部運営をしたいらしいそうだ。

「お前のところが本部にあげた施策のせいで、大規模ダンジョン都市にある冒険者ギルドのギルドマスターたちが『うちにも許可出せ』と騒ぎ出して、私の仕事が激増しておるのだ!」

 ジェイミーやアルマを派遣した際に持たせた資料が他のギルドマスターたちに流れたのか。

 きっと、ヨシュアたちが施策が通りやすくなるよう、下ごしらえとして、世論形成要員としてバラ撒いた気がする。

 普通なら、これで他のギルドマスターたちによって施策推進の圧力が本部に掛かるはずだが……。

「他のギルドマスター殿の賛同があるなら、こちらとしては本部主導で推進して頂きたいと思っております」

「馬鹿者ぉおおおおおおっ!! なんで、私が本部のギルドマスターの時にそんな大きな改革を行う必要があるのだ!! 今まで問題なく運営できているのだぞ!! この改革に失敗したら私の名が無能ギルドマスターとして冒険者ギルド史に残されるだろうがっ!」

 絶叫するハリアーを見て、元ギルマスだったジェイミーが説得を諦めて折れた理由が窺いしれた。

 頑なに現状を変える気がないようだ。

 このままだと、何を言っても施策は本部の許可が下りずに宙に浮きかねない気がする。

「ちょうどよい。これから、本部に出頭して査問会議を開催することにした。いくら王が任命したとはいえ、解任に関しては冒険者ギルドの専権事項だからなっ! 冒険者ギルドを騒がした罪でその首を飛ばしてやる。ブラックミルズには後任を送るから安心しておけ!」

 喚き散らしていたハリアーから、査問会議という単語が出た。

 出発前にアルマからその懸念は聞いてはいた。

 だが、前例のない王から直接任命者であるギルドマスターの俺を解任するとなると、王様と冒険者ギルドのガチの喧嘩に発展しかねない。

 いや、あのジェネシスなら、俺の解任を理由にして、特権組織になりかけている冒険者ギルドに大ナタを振るいかねないのだ。

「ハリアー殿、待たれよ。王との喧嘩はマズいだろ……」

「うるさいっ! あの気狂い王など知るか! 冒険者ギルドに王家は不要なのだ!! お前はクビだ! クビ!!」

 テンションがMAXまで上がったハリアーは口から泡を飛ばしてイキリ立っている。

 あ、やばい。

 こいつ、そう言えばがちがちの王国否定派だったな。

 これは喜んでジェネシスと喧嘩しちまう気がするぞ……。

「これは、面白い話を聞いたな……フフフ、気狂い王か。余のことを言い得ておる、よい言葉だ」

 声に振り替えると、ファーマに追いついたメンバーたちに紛れ、『気狂い王』と言われたジェネシスの姿があった。

「ジェ、ジェネシス。落ち着け! ここは往来だからな! 自重をするように!」

「大丈夫っすよ! オレも往来で無礼討ちする気はないですから! きっちりとカタにはめてやりますよ」

 ジェネシスの目にやる気が漲っているのが見て取れた。

 一番最悪の展開である。

 王家と冒険者ギルド本部の代表者同士がガチの喧嘩寸前に陥ってるのだ。

 俺はいきり立つハリアーと、やる気満々のジェネシスの両者の顔を見てため息を吐いた。
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