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最終章 そして、伝説へ
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しおりを挟む日暮れ間近となりコーリアンに引き返すと、すでにアルマとセーラ、そしてジェネシスによって冒険者の護衛が付いた隊商が組織され、通行可能となった本街道を動き始めていた。
「さすが、アルマたちだ。仕事が早い」
「街道上はあらかた片付けたしね。護衛冒険者と商人たちの馬車が固まって移動すれば、残った魔物が出ても対処は可能になるだろうし、これでコーリアンの渋滞はある程度解消されるはず」
メリーも街道上を煌々と松明を点け、土埃を上げて移動する隊列を見て、ほっとした顔をしていた。
「物流、大事。物が来ないと、お金あっても買えない。私たちの生活は商人たちが物を運んでくれるから成り立っていると学習した」
「だな。俺も改めてブラックミルズでの生活は色んな商人が物を運んできてくれたから成り立ってたと実感している。だからこそ、絶望都市から魔物が溢れだし続ける事態は何としても止めないといけない。うぬぼれるわけじゃないが、俺にはそれができる力を授けられていると思いたい。ただ、みんなの助けがあってのことだと思うが……」
ダンジョン主討伐なんて、全く考えてこなかったけど、この事態をおさめるには原因となっている物を取り除かなければ根本的な解決を見出せない気がしていた。
神器の所有者の成れの果てと言われるダンジョン主を俺が討てるかどうかの自信はないが、このメンバーたちとなら何とかなるかもしれないと思える。
「グレイズさんは強いよー。ダンジョン主だってビックリして逃げちゃうと思うのー」
俺も全力を出せば、バケモノクラスと言われるダンジョン主と、タイマンをできるだけの実力はあると思う。
今まではその姿を見せて、他人からバケモノ扱いされるのが怖かった自分がいたが、今の自分にはそんなバケモノですら支えて仲間がいる。
それを感じられた今は、全力を出すことを厭う理由は一つもなかった。
「わふうううっ!! (ダンジョン主喰いは神の力を増しますからねっ!! これはアクセルリオン神の御計らいかもしれません! あわよくば、あたしもダンジョン主の肉を食って従属神の力を増したい)」
「ハクちゃんの言う通りですね。私も天啓子としてグレイズさんを支えよとのアクセルリオン神様の思し召しだと思います」
「わたくしもアウリース様やハクちゃんの言う通りだと思います。召喚士としてはまだまだ実力不足ですが、全力でグレイズ様をお支えいたします。ね、クィーンちゃん」
「妾は美味しい物を食べられなくなるのが困るから、全力でダンジョン主を退治するのじゃ」
「すまんな、みんな。色々と大変なことに巻き込むことになると思うが……手を貸してくれ」
メンバーからの力強い言葉をもらい、心がほっこりと温かくなった。
最近、歳を取ったせいか涙腺が弱くなってきていて困ったものだ。
滲む視界を誤魔化すように、そっと袖で目をこすっているとジェネシスたちが出迎えてくれた。
「グレイズさんっ!! オレはきっちりと王様として仕事しましたよ。コーリアンの街に王国の対策本部を組織して全権委譲した。サイアスが王国軍を引き連れて駆けつけてきたら、そのままやつが引き継ぐことになっているっす。遅くとも二週間後には到着するはずだしね。それまではコーリアンの代表者と冒険者ギルドで護衛業務と商人たちの隊商化を仕切ってもらう」
「陛下のお力添えもあり、冒険者からも商人からも非常事態ということで、特に不満も出ておりません。他の地方からの救援組はコーリアンを中継地点としてまずは本街道の警備に尽力してもらうつもりです。魔物の数が数なので慎重に進めないと大惨事が起きかねませんので」
アルマの言う通り、街道上の脅威だった魔物は一掃したが、まだ絶望都市から溢れ出した魔物はたむろっている可能性が高い。
なので、街道の護衛に人手を割くの常道であると思われる。
「ジェネシスもアルマもありがとうな。仕事が早くて助かるぞ。本街道はこれでほぼ安全な通行をできると思うから、俺たちは魔物によって閉ざされたブラックミルズへの枝街道を掃除するとしよう」
「グレイズさん! 今度はオレも戦いますよっ!! 王様としての仕事はキッチリとこなしましたからねっ! 今度は冒険者として、また追放者のメンバーとして戦わせてもらいますからっ!!」
ジェネシスが、コーリアンで留め置かれて後方支援をさせられたことにいたく腹を立てているらしい。
王様なんだから、後ろでデンと座ってればいいのにと思うんだがな……。
まぁ、次は数もある程度減っているし、連れて行ってやるか。
「分った。きちんと王様としての仕事をしたのなら、次は連れてってやる。その代わり、油断は絶対にするなよ。乱戦になるとどこから敵が出るか分からないからな」
「りょ、了解っすっ!!」
「グレイズさん、枝街道の魔物討伐に割ける冒険者の人員は今のところ無いですが……」
アルマが心配そうな顔をして俺を見てくる。
冒険者が護衛業務で不足しているのは認識しているので、そちらは当てにはしてない。
最悪、俺と追放者のメンバーだけでもいれば、なんとかブラックミルズまでの道は切り開けれるはずだ。
「承知している。うちのメンバーだけでも大丈夫さ。アルマとセーラには引き続きコーリアンでの後方支援を頼みたい」
「承知しました。手が空いた人員がいたら、なるべく枝街道にも回します」
「ああ、そうしてくれ。しばらくはコーリアンを拠点に枝街道の魔物狩りを進める予定をしている」
俺はアルマに今後の予定を伝えておいた。
一気にブラックミルズまで駆け戻ってもいいが、そうするとまた絶望都市から溢れ出した魔物によって交通が遮断されかねない。
それを防ぐには街道防衛用の拠点を確保し、王国軍の到着を待って、ブラックミルズ入りを果たした方が安全性が高いと思われた。
ヨシュアたちがブラックミルズとの連絡を確保してくれているので、危機に陥りそうなら急いで駆けつける準備はしておくが、今のところは住民も冒険者たちも落ち着いていると聞いている。
「さて、今日はいっぱい魔物の返り血を浴びたから、さっぱりするとしよう。いやー、コーリアンに温泉があって助かった。そろそろ、冷たい水は身体にこたえる時期だしな」
「温泉ー! ファーマも魔物の血でべったりだから早く入りたーい! ハクちゃん、行こう」
「わふうううっ!! (あたしも早く身体を洗って欲しいです!)」
「そうねー。今日はいっぱい魔物を狩ったし、髪まで帰り血でべっとりしてるから早く洗い流したいわね」
「メラニアーおやつと晩御飯マダー!」
「はいはい、クィーンちゃんちゃんとお風呂入ってからあげるから、早いところ入りましょうね」
「温泉は魔力がきっと回復するスピードがあがる……はず。それを確かめなければならない。すぐに入ろう」
魔物と戦闘した者たちは、激闘を物語るようにみんな返り血を浴びていた。
帰る道すがら、綺麗な布にしみこませた水で拭き取ってきたが、奥の方までは綺麗にできていないので、さっぱりとしたい気持ちはよく理解できた。
「おーし、ここでいったん解散して、風呂タイムとしよう。各自、本日の戦闘ご苦労様! 解散!」
「はーい! じゃあ、女性陣はこっちに宿を取ってあるんでどうぞー! グレイズさんは陛下の宿でお休みください!」
アルマが女性陣たちを引き連れて今日の宿へと連れて行ってくれた。
前回の失敗を踏まえ、アルマも学習してくれたようだ。
これで、ゆっくりと風呂に浸かれるな。
「グレイズさんはこっちすねー。みんながいなくて身体洗えないなら、うちの嫁たちに洗わせましょうか?」
ジェネシスがおどけた顔でとんでもないことを言ってきた。
ジェネシスが嫁というのは、ヨシュアの一族の女の子たちのことだ。
そんなのがみんなにバレたら、せっかくの信頼関係が無残に砕け散ることくらい、俺でも分かる。
「馬鹿野郎! いらんわ! 身体くらい自分一人で洗える!」
「全く、お堅いっすねー。グレイズさんはー。今回の事案が片付いたらちゃんとしてくださいよ。ちゃんと、姉上も含めて全員とね。そのための身分も権力も手に入れてるはずですし。オレに先に子供ができたら困ったことになるんすからねっ!」
おちゃらけているジェネシスであったが、目は笑っていなかった。
こ、これはもう逃げられんかもしれんな。
散々理由を付けて、引き伸ばしてきたが、この問題が片付くと断る理由が無くなり、内堀まで完全に埋め立てられ、白旗を上げるしかなくなる未来しか見えない。
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あっと、いかんいかん。今はそれよりも、目の前のことに集中しないといかんな。
「分かってるさ、この問題が片付いたら俺も覚悟を決めて、きちんと正式に発表するつもりだ」
「言質は頂きました。いやーこれでオレも心置きなく結婚できるわー」
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まぁ、なんだかんだ言ってそういう時期なのだと思うことにした。
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