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 コーデリアがヴァリエに腕を引かれて連れてこられたのは、神殿の敷地の端にある今にも倒れそうな粗末な作りのあばら長屋であった。
 どうやらここがこの神殿で生活している者たちが寝起きしている場所であるようだ。
 実家で与えられていた部屋や王立貴族学院での寄宿舎の部屋とは比べ物にならないほど、狭く粗末な作りをした建物であるが、掃除はかなり行き届いていた。

「コーデリアが住んでいた家からしてみたら掘っ立て小屋かもしれないけど、住めば都っていう人もいるし、案外住み心地はいいかもしれないわよ」
「むしろ、暑い気候とのことですし、案外隙間のある建物の方が涼しいのかもしれませんね。土地柄に合わせて家は作った方がいいのかも」
「あら、好意的な意見をくれるのね。でもね、ただ単に作るための道具が足りないだけよ。ここは、未開地だから物資も限りがあるし、ないものだらけだから知恵を出し合ってみんなで頑張ってるの」

 ここに来るまでに神殿の中を案内してもらったが、建物のあちこちに補修を施した形跡が多々見られた。
 ヴァリエの話では年に数回ほど行商人が訪れるそうだが、来るときに通った峠道があるため、大規模な隊商はこないそうだ。
 おかげで、生活物資の補充にも事欠くことが日常茶飯事で、助け合って生きているとヴァリエは笑いながら話していた。
 
 そんなしたたかに生きるヴァリエたちが住むアルテシオン大神殿だが、この地に神殿が建立されて有に数百年は経っているそうで、建物を覆っているツタはかなりの太さにまで育ち、石積みの神殿と一体化をしている箇所も多い。
 自然溢れる緑豊かな地とも思えるが、実際のところは迫りくる自然との闘いを絶えず続けれなければ、飲み込まれてしまう土地だとコーデリアには思えた。

「っと、そう言っている間に着いたわね。ここが貴方と相部屋になるフロースの部屋よ」

 目的地であったフロースの部屋に着くと、ヴァリエが扉をノックする。
 中からは自分と同じくらい若い感じの声で返事があった。
 返事からしばらくして部屋の扉が開くと、はちみつ色をした癖の強い短めの髪と深緑の瞳が印象的な、人懐っこそうな顔をした若い女性が出てきた。

「お待たせ。あら、ヴァリエさんでしたか。あっ! もしかして、そちらの方が噂になってた公爵令嬢のコーデリア様ですかっ!! わぁ、すごい。ほんとに来たんだ! あ、握手していいですかっ! あ、握手!」

 ヨークから教えられていた人付き合いのとっておきの知恵を試そうとしていたコーデリアの機先を制すように、フロースが顔を紅潮させ手を握ってくる。
 
「あ、あ、あの」

 突然のフロースからの握手責めに呆気に取られたコーデリアは、戸惑いの表情を浮かべ、ヴァリエに助けを求める視線を送る。

「あー、言い忘れたけどこの子ね。集落の大人たちが寝かしつけるために話してたおとぎ話の影響で、貴族令嬢のことが大好きな子なのよ。特に害はないし、お裁縫は大人顔負けの腕だから仲良くしてやってね」
「あ、あの。わたくし、もうただの平民でして……って、ヴァリエさんっ! あ、あの、フロースさんがわたくしの身体を触って……」

 握手を止めたフロースが今度はコーデリアの身体をペタペタと撫でたり、触ったりしてきていた。
 王都や実家にいた時はこんなに親しく自分に触れてくる人は皆無であったため、コーデリアとしてもどう対処すればいいのか知識を持ち合わせていなかったのだ。
 そのため、ヴァリエに助けを求めたのだが、『害はない』の一言で済まされてしまっていた。

「はぁ~、これが貴族令嬢のお肌なのですね。すべすべしてるし、なんだかいい匂いがする。うんっと、コーデリアのスタイルは非常によろしいっと。訂正、ちょっと華奢かもおっぱいは大きいけども」
「あ、ああ、あのぅ。フロースさん!? ヴァリエさん、お、お助けを!」

 フロースは更に遠慮をみせずにコーデリアの身体の隅々まで触り始めていた。
 もぞもぞと身体に触れられ、改めて助けを求める視線をヴァリエに向ける。
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