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「害はないのよ。害わね。もう、そろそろ終わると思うから……もうちょっとだけ我慢してみてね」
「もぅ、変な人みたいに言わないでくださいよ。はい、計測終りっと。ヴァリエさん、コーデリアの神官服はカワイイ系がいいですか? それともゴージャス系?」
「普通でいいわ。コーデリアもここの一員だからね。特別扱いはなしよ」
「え~つまんないです。せっかくのいい素材なのに」

 フロースにされるがままのコーデリアであったが、触られることから解放されたことで一息つけていた。
 アルガン王国で貴族にこのようなことをすれば、同性であれ平民の首は即座に飛んでいる。
 コーデリアとしては着替えこそ、メイドに手伝ってもらっていた身ではあったが、直接的に触れられることは今まで一度も体験したことがなかった。
 そのため、思わず恥ずかしさから顔が火照ってしまっている。

「あ、あのフロースさん。今のはわたくしの服の寸法を測っておられたのでしょうか?」
「そうですよ。コーデリアの着る神官服の採寸させてもらったのですよ。驚かせちゃってごめんなさい。あ!? コーデリアって呼び捨てしちゃってるけど良かったです?」

 フロースの表情は目まぐるしく変わり、その様子を見てなぜだか実家で飼われていた愛犬のような気が親しみをコーデリアは感じてしまっていた。
 そのため不躾な採寸に対しても嫌悪感を抱くことは全くなかった。
 むしろ、人懐っこいフロースに対し好感を抱いている自分が居たことに、コーデリア自身が驚きを感じていた。
 
「あ、ええ。全然大丈夫です。すでにわたくしはただのコーデリアですし……。あっ……じゃあ、わたくしもフロースと呼んでいいかしら?」

 これまでのコーデリアの人生で、こうも明け透けに喜びを表に出して自分に近づいてきた人は出会ったことがなかった。
 常に腹の中に思惑を隠し自分を利用しようと近づいてくる者ばかりであったので、常に自分も距離を保って人と付き合ってきていたのだ。
 それを初対面でぶち破って自分の懐に飛び込んできたフロースの快闊さに羨ましさも感じていた。

「コーデリアが呼びやすいならそう呼んでください。はぁ~、コーデリアとお友達になっちゃった」

 友達。
 その言葉を聞いてコーデリアは頭を殴られたかのような衝撃に襲われていた。
 王立貴族学院で学友こそ多く取り巻きとしていたけれど、『友達』と言える間柄まで進んだ者は皆無であるのだ。
 自分も距離を置いていたこともあるし、相手も利用しようと近づいてきているのが見え見えだったこともあり、心を許せる者はほとんどいなかった。
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