Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu

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臆病な恋 side真乃

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 窓の外は、どんよりとした灰色の空。
 12月の冷たい空気が、窓ガラス越しにも伝わってくる。

 スマホを片手にため息を吐き、一人では抱えきれない悩みを打ち明けるため、通話マークを押した。

「――もしもし、真乃? どうした?」

 1コールなりきる前に出たのは美春さん。心配そう……というよりは、
昨夜の事を面白がっているような気がしてくる。

「美春さん……佐野先生の事なんだけど」
「うん」
「あの後、家に送ってもらって……」

 言葉にした瞬間、頬が熱くなった。

「……え?」

 少しの沈黙。
 それから、美春さんの声のトーンが変わった。

「真乃ちゃん?その話、お姉さんに詳しく話してごらん」

 やっぱり面白がってる美春さんに話した事を後悔しかける私。

「私の部屋で朝まで一緒にいて」
「うんうん……ん!?」
「あ、でも何もしてないんです。一緒にベッドで寝てただけで!」
「一緒に……ベッドで!!?」
「……うん」
「それ、世間では朝チュンって言うんだけど」
「朝チュンじゃないです」
「でも、キスしたんでしょ?」

 その一言に言葉を詰まらせると、美春さんは何かを察した様に
「ほぉぉ~~~ん。うんうんうん。それは、朝チュンです。」

 美春さんが笑う気配がしたけれど、もうどうでもよかった。
ふて腐れて電話を切りかけた時、美春さんの声がいつものトーンに戻った。

「で、それで私に電話してきたってことは、何かあったのよね?」

 窓の外で、小さな雪がちらちらと舞い始めているのを横目に、ぽつりと話す。

「……喧嘩になっちゃって」
「何で?」
「イケメンならだれでもよかったんだろって言われて」

 その言葉を口にするだけで、また胸が痛んだ。

「それで、真乃はどうしたの?」
「ひっぱたきました。平手打ち」
「あら、やるじゃない」
「それで……誤解を解きたいとか……って」
「うんうん」
「19時に駅前のクリスマスツリーの前で待ってるって言われて……」

 時計の秒針が、カチコチと規則正しく時を刻んでいる。
 美春さんが、ふっと息を吐く音が聞こえた。

「……真乃」
「うん」
「佐野先生が、あの元カレだったんだ」

 その声には、少し驚きが混じっていた。

「うん……高校生の時の」
「そっか。8年ぶりの再会か。ドラマみたいね」
「……うん」

 窓の外の雪が、少しずつ強くなってきている。
 白い結晶が、風に舞いながら落ちていく。

「で、真乃はどうしたいの?」
「怖いんです」
「怖い?」
「……うん。また、傷つくのが怖い」

 膝を抱えて、小さく丸くなる。
 喉の奥が熱くなって、また涙が込み上げてきた。

「真乃、一つ聞いてもいい?」
「うん」
「その人のこと、まだ好き?」

 図星を突かれて、言葉が出なかった。
 沈黙が、すべてを物語っている。

「好きなら行くしかないんじゃない?」

 美春さんが、小さくため息をついた。
 でも、そのため息は優しかった。

「真乃、いい? お姉さんがこれから言うこと、ちゃんと聞いてね」
「……うん」

 部屋の暖房が効いてきて、じんわりと肌が温まってくる。
 私は枕を抱きしめたまま、美春さんの言葉を待った。

「まず一つ目」

 美春さんの声が、いつもより真剣だった。

「佐野先生は遊びじゃなく本気」
「……本当に?」
「遊びだったら据え膳喰ってる。」
「……確かに」
「そもそも。いくら具合が悪そうだからって、わざわざ家まで送ったりしないよ。興味ない女の事なんて。」

 顔が熱くなる。
 でも、美春さんの言葉は続いた。

「二つ目」

 美春さんが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「待ち合わせ場所。わざわざツリー前って、ただ誤解を解きたいだけなら電話で十分。でしょ?」
「それも確かに」
「わざわざロマンチックな場所を選ぶってことは、ちゃんと特別な場所でケジメつけたいってこと」
「ケジメ……」
「謝りたいんだと思う。それと、やり直したい」

 胸が、ドクンと大きく跳ねた。
 鏡に映る自分の顔が、少し赤くなっているのが見える。

「誰とも付き合わなかったのも、合コン嫌がるのも、全部その人が忘れられなかったからでしょ?」
「……」
「じゃあ、自分のキモチに素直になってもいいんじゃない?」

「あの日、傷ついて殻に閉じこもったのは真乃だけじゃない。」
「……うん」
「だったら、ちゃんと話し合えば、わかり合えるんじゃない? 8年前にすれ違った気持ち、今なら通じるよ。」

 窓の外の雪が、キラキラと光って見えた。

「それに、三つ目」

 美春さんの声が、少しだけ厳しくなった。

「今逃げたら、真乃、一生後悔する」
「……」
「30歳になっても、40歳になっても、『あの時行けばよかった』って思い続ける。人生で本気で好きになれる人なんて、そうそういないんだから」

 涙が、ぽろぽろと溢れてきた。
 枕に顔を埋めると、まだ彼の温もりが残っている気がした。

「傷つくことを恐れて何もしないより、傷ついてもいいから前に進む方が、ずっといい」
「……美春さん」
「それに……もし本当にダメだったら、今度は私が佐野先生をひっぱたくから♪」

 その言葉に、ふっと気持ちが緩む。

「でも……会って、何を話せばいいのか」

 顔を上げると、窓の外の景色が涙で滲んで見えた。

「まずは、ちゃんと謝る」
「謝る?」
「あの日、何も言わずに帰ったこと。不安にさせたこと。」

 美春さんの声が、優しく諭すように響く。
 時計の秒針が、静かに時を刻んでいる。

「男の人って子供だから。傷ついた時ほどクールなフリをするの。でも、内心はそうじゃなかったと思うんだよね」

 窓の外では、雪が静かに降り続けている。
 世界が、少しずつ白く染まっていく。

「だから、真乃が先に心を開けば、相手も開いてくれるよ」
「心を開く……」
「そう。怖いって気持ちも、好きだって気持ちも、全部正直に話すの」
「……できるかな」
「できるよ。だって真乃、8年間ずっとその人のこと好きだったんでしょ?」

 その言葉に、胸が熱くなった。

「その気持ちは本物だから。自信持って」
「……うん」

 立ち上がって、鏡を見る。
 泣き腫らした目をした自分がいた。
 でも、その目は少しだけ、前を向いている気がした。

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