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#3 昨夜のつづき
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会社のエントランスを抜けたとき、私はようやく肩の力が抜けた。
田上さんとは課が違う。普段、顔を合わせる機会なんて、滅多にない。
そう気がついた私は、前を向いてタイムカードを押し、静かに席へと向かった。
いつも通りパソコンの電源を入れ、いくつかのファイルに目を通すと、すぐに資料作成に取り掛かった。
——仕事に集中すれば、きっと余計なことは考えずに済む。
と、そのときだった。
「おやつにどうぞ。手作りのクッキーです。」
あの甘い声が、今日もまたオフィスに響く。順番に配られ、誰もが笑顔で「ありがとう」と受け取っていく。
でも、私のデスクの後ろに差し掛かると、ひと言もなく、笑顔のまま素通りした。
別に驚かない。
むしろ、納得。
でも、どうしてそこまで?と、面白く無い気持ちにはなる。
そのときだった。
「阿部さんいますか?」
突然、背後から響いた低い声に、私の指が止まった。
まるで心臓が急に外の空気に触れたように、跳ねる。
振り返ることもせず、私はただ背筋を伸ばし、手元の資料に目を落とす。
「あ、田上さん!お疲れ様です。これ、手作りなんですけど良かったら」
誰もが笑顔で受け取っていたそのクッキーを、田上さんは一瞬冷たく一瞥した。
「そのクッキー、駅前に新しく出来た話題のカフェの商品だよね。ナチュラルが売りなんだっけ?さすが、磯崎さん。情報通だね。」
田上さんのその返答に、オフィスの空気が一瞬だけ揺れた気がした。
「……や、やだぁ。私のクッキー、そんなにプロ顔負けの仕上がりですか?お褒めいただいて光栄です。」
背中越しに聞こえる磯崎美優の声に甘さは消え、代わりに氷の様な冷たさを含んでいた。
その磯崎美優になんのフォローもせず、阿部さんの席のほうへと向かって歩き出した——その途中、ふいに私のデスクの前で立ち止まり、何かを置いた。
手元を見ると、小さく折られたメモ。
そっと開くと、そこには一言だけ。
「忘れ物だよ」
包みの中には、ピアスが入っていた。
昨日、私がつけていたお気に入りの……あの——片方だけ落としたと気づいて、あきらめたはずのピアス。
体の奥が、ほわっと温まった。
お礼が言いたくて視線を上げたとき、彼の背中はすでに阿部さんの席に向かっていた。
声もかけられず、ただその紙片を指先で握りしめたまま、私は、自分の鼓動を抑えるように胸に手を当てていた。
田上さんとは課が違う。普段、顔を合わせる機会なんて、滅多にない。
そう気がついた私は、前を向いてタイムカードを押し、静かに席へと向かった。
いつも通りパソコンの電源を入れ、いくつかのファイルに目を通すと、すぐに資料作成に取り掛かった。
——仕事に集中すれば、きっと余計なことは考えずに済む。
と、そのときだった。
「おやつにどうぞ。手作りのクッキーです。」
あの甘い声が、今日もまたオフィスに響く。順番に配られ、誰もが笑顔で「ありがとう」と受け取っていく。
でも、私のデスクの後ろに差し掛かると、ひと言もなく、笑顔のまま素通りした。
別に驚かない。
むしろ、納得。
でも、どうしてそこまで?と、面白く無い気持ちにはなる。
そのときだった。
「阿部さんいますか?」
突然、背後から響いた低い声に、私の指が止まった。
まるで心臓が急に外の空気に触れたように、跳ねる。
振り返ることもせず、私はただ背筋を伸ばし、手元の資料に目を落とす。
「あ、田上さん!お疲れ様です。これ、手作りなんですけど良かったら」
誰もが笑顔で受け取っていたそのクッキーを、田上さんは一瞬冷たく一瞥した。
「そのクッキー、駅前に新しく出来た話題のカフェの商品だよね。ナチュラルが売りなんだっけ?さすが、磯崎さん。情報通だね。」
田上さんのその返答に、オフィスの空気が一瞬だけ揺れた気がした。
「……や、やだぁ。私のクッキー、そんなにプロ顔負けの仕上がりですか?お褒めいただいて光栄です。」
背中越しに聞こえる磯崎美優の声に甘さは消え、代わりに氷の様な冷たさを含んでいた。
その磯崎美優になんのフォローもせず、阿部さんの席のほうへと向かって歩き出した——その途中、ふいに私のデスクの前で立ち止まり、何かを置いた。
手元を見ると、小さく折られたメモ。
そっと開くと、そこには一言だけ。
「忘れ物だよ」
包みの中には、ピアスが入っていた。
昨日、私がつけていたお気に入りの……あの——片方だけ落としたと気づいて、あきらめたはずのピアス。
体の奥が、ほわっと温まった。
お礼が言いたくて視線を上げたとき、彼の背中はすでに阿部さんの席に向かっていた。
声もかけられず、ただその紙片を指先で握りしめたまま、私は、自分の鼓動を抑えるように胸に手を当てていた。
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