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#4 約束
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しおりを挟む「そういうの、遠慮します。苦手なので」
言ったあと、わずかな間が落ちた。
視線をそらすように足元に目を落とす。胸の奥で何かが揺れる音がして、咄嗟に言い訳を足しそうになるのを、ぎりぎりで飲み込んだ。
空気がふっと和らいだのは、田上さんが笑ったからだった。
「そっか。……だよね」
からかうでも、突き放すでもなく、ただ淡く笑った。その柔らかさに、張りつめていた感情が少しだけ緩んでいくのを感じる。
「前も言ってたね『ああいうの、苦手だから』って」
「……言いましたっけ」
「言ってた、新歓のとき。みんな盛り上がってる中で、ちょっと距離とってたでしょ?」
その場面を思い出す。照明の暗い居酒屋、ざわめき、グラスの音。私は壁際で笑ってるふりをして、ただやり過ごしていた。
確かに覚えているけど、そういう自分を他人に見られていたことが、少しだけ恥ずかしかった。
思わず、田上さんから目線を逸らした。
……自分が思っている以上に、感情が顔や態度に出ているのかもしれないって気づいて、小さくため息を吐く。
「じゃあ……」
話を終わらせるように声を落とし、私はゆっくりと扉の方へ歩き出す。
外はもう夕暮れで、窓の外には茜色に染まった雲が流れていた。
取っ手に手をかけたとき、背中越しに呼び止められる。
「花田さん」
静かだけれど、明確な意志を含んだ声だった。
振り返ると、田上さんが少しだけ身を乗り出すようにして、こちらを見ていた。
その目は穏やかで、なのに柔らかさの奥に、どこか引き下がらない強さが潜んでいた。
「昨日、何があったか本当に知らなくていいの?」
優しさと誠実さのあいだに見え隠れする強気に、胸の奥が静かにざわつく。
知らないほうが楽だってわかってる。もう、恋をする気なんてないし……最初から始める勇気も、誰かを想い泣くのもお腹いっぱいで……
だけど、そのまなざしから目を逸らせなかったのは、心のどこかでじぶんのきもちに嘘をつきたく無かったのかもしれない。
始まってもいないのに。
沈黙のあと、観念したように吐息が漏れる。
「……わかりました」
小さく頷いた私を見て、田上さんがふっと、今度は無防備な笑顔を見せた。
その一瞬の表情に、胸が静かに跳ねる。
「約束ね」
冗談めかすでもなく、淡く言うその声が、やけに耳に残った。
私は再び扉に手をかける。
少しだけ開いていた扉が、私の動きにあわせてゆっくり閉じていく。背中越しに感じる視線に気づかないふりをして、そのまま階段の扉を閉めた。
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