恋が温まるまで

yuzu

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#5 誰かの2番目

2

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 深夜のオフィスにはもう、人の気配がなかった。

 残された灯りの下、静かにキーボードを叩く音だけが響いている。

 時計の針は、23時を少し回ったところ。
 静まり返ったこの空間で、私ひとりだけが取り残されている。

 机の上には、磯崎美優が残していった大量の資料。

 ざっと目を通しただけで、ため息が漏れた。

 仕方ない、と思いながら1番上のファイルを手に取った瞬間——
 背後でドアが開く音がした。

 誰かが入ってきた気配に、思わず振り返る。

 そこにいたのは、田上さんだった。

 「お疲れ様。差し入れ持ってきたよ」

 そう言って、彼は紙袋から栄養ドリンクを取り出し、私の机にそっと置いた。

 「……どうして?」

 思わず訊くと、彼は肩をすくめて笑った。

 「1人より2人かなって」

 気軽な言葉だったけれど、その一言がなぜか少し胸に触れた。

 「ありがとうございます、でも大丈夫です。他部署の方にご迷惑はかけれません。」

 そう言いながら、私は少しだけ姿勢を正す。
 迷惑をかけたくない、という気持ちが先に立った。

 けれど田上さんは、何も言わずにファイルのひとつを手に取る。

 軽く中身に目を通すと、あっけらかんと口を開いた。

 「手伝うよ。早く終われば、ごはん行けるでしょ?」

 私は戸惑いながらも、咄嗟に言葉が出ず、ただ手元の書類を見つめたまま黙っていた。

 すると、彼の手がそっと髪に触れ、優しく頭を撫でた。

 驚いて顔を上げると、田上さんは無邪気な笑みを浮かべていた。

 「そんな顔しない。別に見返りほしいわけじゃないし。……一緒に片づけて、さっさと終わらせよう?」

 そのあたたかさに、不意に胸がきゅっとなる。

 少し間をおいてから、小さく息を吐いた。

 「……じゃあ、お願いします」

 たったそれだけの言葉が、嬉しかった。

 田上さんは黙ってうなずき、手際よくファイルに目を通しはじめ、その隣で、私もようやく気持ちを切り替えるように作業に戻る。

 しんと静まり返った夜のオフィスに、ふたり分の紙をめくる音が、ゆっくりと重なった。
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