恋が温まるまで

yuzu

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#6 残業の後で

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***

 「……やっぱり、カフェ経営してますよね?」

 田上さんは、フライパンを傾けながら笑った。

 「趣味がちょっと暴走しただけ」

 「ちょっと、の範囲じゃないと思います」

 そう返すと、彼は熱したフライパンに海老を並べながら、淡々と続けた。

 「休日の朝、こういうキッチンでエスプレッソ淹れてるとさ……それだけで“整ってる大人”になった気がするんだよね」

 「……自己暗示ですか?」

 「自己満足ってやつ」

 フライパンから立ち上るバジルの香りが、ふっと会話の間を埋める。
 それはもう、思わず深呼吸したくなるような香りだった。

 「まずは、パスタ」

 白いプレートが、静かに目の前に置かれる。

 「香りが逃げると、バジルがすねるから。」

 思わずくすっと笑い、フォークを受け取る。

 口に運んだ瞬間、バジルの香りがふわりと広がって、オイルとエビの旨味が舌の上で滑らかに混ざり合った。

 「……おいしい!」

 ひと呼吸置いて、それだけしか言葉が出てこなかった。

 「よかった。あり合わせでごめんね」

 「“あり合わせ”のレベル、ちょっと反則です」

 思わず本音がこぼれる。
 田上さんはふっと笑い、ワイングラスとボトルを手にした。

 「よかったら、少し飲む?」

 差し出された白ワインを見て、私は小さく首を振る。

 「……帰れなくなるので」

 「安心して。運転手はコーラです」

 そう言って、彼は自分のグラスにシュワッと音を立てて黒い液体を注いだ。

 不思議だ。

 ふたりきりの深夜の部屋にある空気は、ただの同僚にしてはどこか心地が良かった。
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