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第2部
最愛なる君へ──ノアより
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花が、咲いている。
雨上がりの空。その花にだけ太陽の光が当たるように、木陰が揺れている。
周りには、咲くはずの枯れた雑草と、腐れた花のなりかけだけ。
雨のにおいが過ぎ去ると、虫たちは活動を始める。
羽音を鳴らして、生きるため食糧に群がって。
虫たちは一匹、また一匹と、その花に集まる。
そして針を立てて、ネクターを分泌する器官から吸うのだ。
蜜腺の一本いっぽんに、余すことなく吸引器を挿し込んで。
胃袋を満たした虫たちは、用済みだとでも言いたげに花のもとを去っていく。
入れ違いに訪れた虫にも分け隔てなく蜜を与えていく花は、それを悦びであるとすり替えられたように、また蜜を生み出した。
繰り返し、繰り返し。
木の幹に隠れて、他の動物が指を咥えながらその花を見ていた。
僕はずっとあの花を見守っていたんだ。
だから、あの花の蜜を吸っていのは僕だけなんだ。
それなのに、なのに。
なぜだ──。
なぜだ、なぜだ、なぜだ────。
口の端から涎を垂らした怪物が、ただ花の行く末を見ていた。
地面は、雨で濡れていた。
*
これは僕の妄想の産物で、意味もないものだよ。忘れたって構わない。
そんなことより、ごめんね、謝るのは僕の方だ。
自分勝手に僕のエゴで君を振り回して、その結果がこんなにも残酷だなんて。
こんな結末を知っていたら、僕は悪魔の血を体に入れるなんてことはしなかった。
でもね。これだけはせめて、この事だけは知ってほしいんだ。
僕は、君を守りたかったんだ。
守りたくて、でも人である僕にはなんの力もなくて。
守るだなんて、口先だけで。
客観的に見ても弱い君に、どうか傷ついてほしくないと願った。
そうだ、これは僕の妄言で、君はこれから傷つくんだ。
僕は君を殺した後で、必ず後悔するだろう。
こんな世界の、こんな理不尽にはもう耐えられない、と。
守るはずだった僕は、君を傷つけている。
あの頃に戻りたい。
この声が、君に届くのなら、なんだっていい。
もう一度だけ、この言葉を届けられるのなら。
でも、僕の願いなんか誰も聞いてはいないだろうから。
僕はもう、言葉の発し方を忘れた。
ありがとう、たった一人の友だち、フィリア。
この世界は僕が終わらせます。
君が幸せになれないアカシック・レコードは、全て焼き尽くしてしまいましょう。
君を僕のちからの糧とします。
だから、感謝を込めて、いただきます。
ああ、おいしい。本当だよ。すごくおいしいよ、フィリア。
髪がとても柔らかくて。
人の体って、ちょっと酸っぱいね。
どの部位も、白くて歯ごたえがあって、もっと食べたいな。
したたる血の汁が、より一層食欲をそそるよ。
フォークっていうんだっけ、これ。止まらないや。
お い しいん だ どう し て 。
ご め ん ね
ご め ん
お い し い
雨上がりの空。その花にだけ太陽の光が当たるように、木陰が揺れている。
周りには、咲くはずの枯れた雑草と、腐れた花のなりかけだけ。
雨のにおいが過ぎ去ると、虫たちは活動を始める。
羽音を鳴らして、生きるため食糧に群がって。
虫たちは一匹、また一匹と、その花に集まる。
そして針を立てて、ネクターを分泌する器官から吸うのだ。
蜜腺の一本いっぽんに、余すことなく吸引器を挿し込んで。
胃袋を満たした虫たちは、用済みだとでも言いたげに花のもとを去っていく。
入れ違いに訪れた虫にも分け隔てなく蜜を与えていく花は、それを悦びであるとすり替えられたように、また蜜を生み出した。
繰り返し、繰り返し。
木の幹に隠れて、他の動物が指を咥えながらその花を見ていた。
僕はずっとあの花を見守っていたんだ。
だから、あの花の蜜を吸っていのは僕だけなんだ。
それなのに、なのに。
なぜだ──。
なぜだ、なぜだ、なぜだ────。
口の端から涎を垂らした怪物が、ただ花の行く末を見ていた。
地面は、雨で濡れていた。
*
これは僕の妄想の産物で、意味もないものだよ。忘れたって構わない。
そんなことより、ごめんね、謝るのは僕の方だ。
自分勝手に僕のエゴで君を振り回して、その結果がこんなにも残酷だなんて。
こんな結末を知っていたら、僕は悪魔の血を体に入れるなんてことはしなかった。
でもね。これだけはせめて、この事だけは知ってほしいんだ。
僕は、君を守りたかったんだ。
守りたくて、でも人である僕にはなんの力もなくて。
守るだなんて、口先だけで。
客観的に見ても弱い君に、どうか傷ついてほしくないと願った。
そうだ、これは僕の妄言で、君はこれから傷つくんだ。
僕は君を殺した後で、必ず後悔するだろう。
こんな世界の、こんな理不尽にはもう耐えられない、と。
守るはずだった僕は、君を傷つけている。
あの頃に戻りたい。
この声が、君に届くのなら、なんだっていい。
もう一度だけ、この言葉を届けられるのなら。
でも、僕の願いなんか誰も聞いてはいないだろうから。
僕はもう、言葉の発し方を忘れた。
ありがとう、たった一人の友だち、フィリア。
この世界は僕が終わらせます。
君が幸せになれないアカシック・レコードは、全て焼き尽くしてしまいましょう。
君を僕のちからの糧とします。
だから、感謝を込めて、いただきます。
ああ、おいしい。本当だよ。すごくおいしいよ、フィリア。
髪がとても柔らかくて。
人の体って、ちょっと酸っぱいね。
どの部位も、白くて歯ごたえがあって、もっと食べたいな。
したたる血の汁が、より一層食欲をそそるよ。
フォークっていうんだっけ、これ。止まらないや。
お い しいん だ どう し て 。
ご め ん ね
ご め ん
お い し い
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