異世界は鬼畜でした。〜クラス転移したが唯一スキルなしで見放された俺は最後の魔女と出会い最強に成り代わる〜

丸手音狐

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一章

12.シノは語る

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 数時間ほどしてハルトはようやく目を覚ました。

(まさか本当に寝てしまうとは。何やってんだ)

「そう言えば馬車に乗る時随分急いでたけど今も急いだ方がいいのか?」

「あ、大丈夫です」

「そうか。ならこのまま安全運転で行くぞ」

 だが安全運転はあっけなく終わってしまった。馬車はガタガタと揺れ不快な音を鳴らしていた。御者は一度馬車を止め確認をしてみたところどうやら車輪が外れてしまっていたようだ。

「悪いな二人共。でもここからちょっと歩けば【カーシス村】だから行ってくれ。俺はここで車輪を治しとく」

「わかりました。ありがとうございます」

 シノはコートの中から硬貨の入った袋を取り出しその中から銅硬貨を数枚取り男に渡した。

「まいど」

 それじゃあ行くかとなった時いきなり二人の後ろから足音が聞こえてきた。何者かと二人が振り返るとそこには三人のロングマントを着た奴らが立っていたのだ。ハルトはシノを守るために前に立ち姿が見えないようにする。御者の男は慌てて馬車に身を隠した。

「何者だ」

「我々はこの世を支配する九神エニアグラムの仲間だ」

「その魔女を渡せ」

「さもなければお前も殺すぞ」

「渡さない」

 ハルトは三人の脅しに屈することなくそう言い切った。

(フードで顔は見えないが声的に男か。てかなんでまだ明るいのにあんなに黒いの着てるんだ? 意味ないだろ)

「その言葉、後悔させてやろう」

「後悔」

「後悔」

 二人の男が剣を持ちハルトに向かって走っていく。
 
「ハルト任せて」

 シノはハルトの後ろから姿を現すと向かってくる男達に向けて指を指した。その時もう一人の男が能力スキルを発動し始める。

(あいつ能力スキル持ちなのか。ならあっちは俺が…)

 だがハルトが指を指す前にシノが魔法を放つ。大きな火の弾は三人の男達を飲み込みそのまま奥に飛ばされていく。そしてシノが「ばん」というとその大きな火の弾は途中で大爆発を起こした。ハルトと馬車の男の人は爆風に必死に耐えなんとか遥か彼方に飛ばされずに済んだ。

「やりすぎだろ」

「これくらい当たり前」

「ちょっとくらい加減しないと俺達まで巻き込まれるところだったぞ」

 ハルトがシノに強く言うと「その時は」と言ってシノは指で唇を触った。呆れきったハルトはシノの行動を完全に無視して馬車の男に話しかけた。

「今あった事は内密でお願いします」

「あぁ、わかったよ。絶対にバラさない。バラしたら殺されそうだしな。それよりお前達は早く行けよ!」

 二人は馬車の男に礼を言って【カーシス村】へと歩き出した。

「そう言えばシノって炎しか使えないのか?」

「ん? 炎以外も使える」

「でも俺は使えないぞ」

「愛の誓約でどーたらこーたらで結構難しい」

「????」

 シノが言っているどーたらこーたらをまとめるこういうことらしい。
 愛の誓約、それは遥か昔から行われていた儀式的なものでそれを行うと多くの事が可能になるが魔法に関してはかつての男もハルトと同様に一つしか扱う事が出来なかった。それの原因として確かな情報かはわからないが魔女に伝わる話では愛の誓約の本領を発揮するには愛し合う事が条件だそうだ。だがかつての魔女は世界に生きる多くの人間から化け物だ、人間ではないと忌み嫌われ迫害をされてきたがその中で魔女達は子を残すために愛の誓約を人間と行ってきた。しかし嫌われる者を好きになる者は現れるはずがなくどれだけ魔女が愛しても愛し合う事は出来なかったそうだ。

 つまりハルトが完全に力を引き出したいのならシノと愛し合わなければならないということになる。

「俺がシノに愛されてるだけじゃだめってことか」

「そう。愛し合わないと。ハルトは愛してくれてないから使えない」

「あ、いや。物事には順番があるしな」

 シノは愛してくれないハルトに対して軽くパンチをした。しかし高校生のハルトには愛という感情がわからずどうすればいいんだと困惑した様子だった。

「それにまだ愛って段階にたどり着けてないだけで近いかもしれないぞ」

 その言葉でシノは機嫌が治ったのかハルトの手を握りルンルンと歩く。その頃ハルトは愛とは何なのかという人生の大きな壁に激突したのだった。
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