イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない

藤永ゆいか

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第2章

◇遠足の実行委員

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「そろそろ教室戻ろうか」
「そうだね」

 中庭で一堂くんとランチを終え、ベンチから立ち上がって教室へ戻ろうとしたとき。

「あれ」

 わたしは、隣のベンチの下に何かが落ちていることに気づいた。
 近づいて拾ってみると、それは白いハンカチだった。ピンクのリボンの刺繍が可愛い。

「それ、依茉の?」
「ううん、わたしのじゃない。誰かの落とし物かな?」
「そんなの、見ていないフリしてそのまま置いていけば良いじゃん」

 見ていないフリしてって、一堂くん……。

「……なーんてな」

 わたしが軽く睨んだからか、冗談だと言って笑う一堂くん。

「これを落とした人、今頃きっと探してるよね」

 ハンカチには『R』って、アルファベットの文字も入ってるし。
 中庭の時計を見ると、昼休みは残り15分を切っている。

「あの。一堂くんは、先に教室戻ってて」
「え? 依茉、どこか行くの?」
「うん、ちょっと。わたし、このハンカチを落とした人がいないか、教室を1クラスずつ聞いてまわってみるよ」
「は!? 1クラスずつ聞いてまわるって、何言ってるんだよ」
「だって、落とし主が困ってるかもしれないし。もしかしたらこれ、すごく大事なものかもしれないから」

 わたしが駆け出そうとしたとき、一堂くんに腕を掴まれた。

「……っ!?」
「依茉は、優しいんだな」
「え? これくらい、別に普通じゃない?」

 今までも、道端で落とし物を見かけたら拾って交番に届けたりもしていたし。

「ううん。普通は、わざわざ教室を聞いてまわってまではしないと思う。さっきのトマトのことと言い、俺の周りには依茉みたいな子って、なかなかいないから。……やっば。まじで惚れそうなんだけど」

『依茉みたいな子って、なかなかいないから』のあとの言葉がよく聞こえなくて、わたしは首を傾ける。

「ねぇ、そのハンカチ俺に貸して」

 一堂くんはハンカチをわたしから受け取ると、それをスマホのカメラで撮影する。

「俺も協力するよ」
「えっ、いいの?」

一堂くんの申し出に、私は目を見開く。

「うん。だってこの学校1学年10クラスあるのに、依茉一人で聞いてまわるとか大変だろ? 俺はこの写真を見せて、聞いていくわ」
「あっ、ありがとう」
「見つかったらすぐに連絡するから。依茉の連絡先、教えてくれない?」
「分かった」

 わたしが、一堂くんとスマホの連絡先を交換したとき。

「あれー? 慧じゃない」

 中庭を歩いていた2年生の派手な女子3人組が、一堂くんに話しかけてきた。

 一堂くんの知り合いかな? たまに忘れそうになるけど、一堂くんも本来であれば2年生だもんね。

「慧ったらどうしたの? こんなところで」
「ああそれが、このハンカチがそこに落ちてたんだけど。キミたち、これ誰のか知らない?」

 一堂くんが、2年生に話しかける。

「えー、知らない」
「あたしもー」
「ねぇ。それより、久しぶりに会えたんだし。そんなハンカチなんか置いておいてさ。慧、私たちと話さない?」

 茶髪のロングヘアの先輩が、一堂くんの腕に手を絡める。

「ごめん。俺、これからハンカチの持ち主探さないといけないから。あ、良かったらキミたちも協力してくれない?」
「えー?」
「ねっ、いいでしょ、お願い」

 首を傾けて可愛くおねだりする一堂くんに、先輩たちはみんな頬を赤くさせている。

「もう、しょうがないなぁ」
「手伝うから。慧くん、今日の放課後あたしたちと一緒に遊んでよね?」
「うん、おっけー」

 す、凄い。一気に3人も協力者を増やすなんて。さすが、一堂くん。
 これなら次の授業が始まるまでに、ハンカチの持ち主を見つけられるかもしれない。


「すいません。このハンカチ、落とした人いませんか?」

 それからわたしたちは手分けして、1クラスずつ順番に聞いてまわった。だけど、すぐに持ち主は見つからなくて。

「あの! 中庭に、このハンカチが落ちてたんですけど……」

 1年生の教室を順番に声をかけてまわっていたわたしのスマホに、しばらくして一堂くんから着信があった。

『そのハンカチ落としたの、3年生だって』
「ほんとに!?」

 あと少しで昼休みが終わる頃、ついにハンカチの持ち主が見つかった。
 連絡をもらったわたしは、急いで3年6組の教室へと向かう。

「これ、年の離れた小学生の妹がお小遣いを貯めて初めて私にプレゼントしてくれたハンカチだったから。ああ、見つかって良かった。本当にありがとう!」

 わたしがハンカチを届けに行くと、その持ち主の先輩にとても感謝された。
 やっぱり、大切なものだったんだ。良かった。ちゃんと持ち主に返すことができて。

「ありがとう、一堂くん。手伝ってくれて」

 ハンカチを届けたあと、わたしは一堂くんと並んで廊下を歩く。

「わたし一人だったら、今もまだ持ち主を見つけられていなかったかもしれない。だから、ありがとう」
「全然。依茉が、知らない誰かのためにも一生懸命だったから。俺も協力したいなって思ったんだよ」

 一堂くんの手が、わたしの頭に優しく置かれる。

「本当に優しい子だよな、依茉は」
「……っ」

 一堂くんにくしゃくしゃと頭を撫でられ、その手のぬくもりと笑顔に不覚にもときめいてしまう。

「依茉ちゃん、いい子いい子。えらいねぇ」
「……あの。その言い方、なんか子供扱いしてない?」
「だって、子供だろ? その体型だし……そこも、全然成長してないみたいだし?」

 一堂くんがわたしの胸のほうに目をやり、ニヤリと口角を上げる。
 もう、この人はまた失礼なことを言って……!

「まあ俺は、今日の放課後にさっきの女子たちと遊ぶ約束もできたし。ハンカチの持ち主も見つかったしで、一石二鳥だよ~」

 あっ、そうか。一堂くん、さっきの2年生の先輩たちと遊ぶんだ。付き合ってる彼女以外の子とも遊ぶなんて、相変わらずだな。

「ああ、放課後が楽しみだなぁ」
「……っ」

 一堂くんが女の子にだらしないのは前からのことだし、そもそも一堂くんはわたしの本当の彼氏じゃないのに。
 彼が他の女の子と遊ぶんだなって思うと、胸の辺りが少しだけモヤッとした。

 * * *

 昼休みのあとの5限目は、ロングホームルームの時間。今日は、2週間後に控えた遠足のことを色々と決めるらしい。

「えー、まずは遠足の実行委員だけど、誰か立候補はいるか?」

 黒板の前で担任の先生が声をかけるが、教室はシーンと静まり返る。
 遠足の実行委員って多分、しおりの作成とか遠足の準備をしなきゃいけないんだよね。ちょっと、大変そうだなぁ……。

「高校生になって初めてのイベントだぞー。誰か、意欲のある者はいないかー?」

 先生が更に声をかけるが、クラスのみんなはやりたくないからか、またもや無反応。

「仕方ない。誰もやってくれる人がいないようなら、最後の手段。くじ引きで決めよう」

 え、くじ引き!?

「えーっ」
「くじ引きなんて嫌だ~」

 教室はブーイングの嵐。

「そんなこと言われてもなぁ」

 先生、すごく困ってる。誰もやらないなら、ここはわたしが……。
 そう思い、手をあげようとしたとき。

「……あの、先生。僕、やりますよ」

 わたしよりも先に、名乗りをあげた人が一人。

「おお、やってくれるか三原!」
「はい、喜んで」

 それは、三原楓吾くんだった。
 誰もやりたがらなかったのに、自分から進んで手を挙げるなんて。三原くん、えらいな。

「それじゃあ、男子は三原で決まりだな。あとは女子だけど、誰か……」
「はいっ!」
「三原くんがやるなら、私やりたい!」

 すると、何人かの女子が続々と手を挙げた。
 わ、さっきまでとは違ってすごい人気だな。

 有名リゾート会社の御曹司で爽やかイケメンの三原くんは、一堂くんに次いで女子から人気がある。
 入学式の日に一緒にカラオケに行ったときも、わたしにポテトを譲ってくれたりと、三原くんは優しかったから。人気があるのも頷ける。

「なんだなんだ。お前ら急にやる気出して。うーん、どうしようか……」

 顎に手を当て、悩む先生。

 まあ、これだけ手をあげている子がいるんだから、わたしが出る必要もないよね。ここは、三原くんに好意がある女の子が委員をするほうがいいだろうし。
 そう思い、わたしは挙げようとしていた手を机の下へとやった。

「そうだ。それじゃあここは、三原本人に決めてもらうとするか」
「えっ、先生、僕が相手の女子を決めて良いんですか?」
「ああ。三原が一緒に委員をやりたい奴を指名しろ」
「……だったら僕、西森さんがいいです」
 え? うそ。今、三原くん……西森さんって言った? いや、もしかしたら聞き間違いかも。

「おい、西森! 三原から指名されたけど、どうだ?」

 先生がわたしに聞くのと同時に、クラスメイトの視線が一斉にわたしへと向けられる。

 えっ、え……やっぱり三原くんが言ってたのって、わたしだったの!? でも、なんで!? わたし、結局手をあげていないのに……。

「西森、実行委員やってくれるか?」
「えっと……はい。やります」

 この状況で、わたしの性格上、断るなんてことはもちろんできなくて。

「よろしく、西森さん」

 爽やかな笑みをこちらへ向けてくる三原くんに、わたしは戸惑いながらも微笑み返す。

「う、うん。こちらこそよろしくね、三原くん」

 こうしてわたしは、三原くんと一緒に遠足の実行委員をすることになってしまったのだった。


 放課後。

「依茉ちゃーん。一緒に帰ろう」

 スクールバッグを肩にかけた杏奈が、わたしの席へとやって来た。

「あっ、ごめん。杏奈、わたし……」
「西森さんはこのあと、遠足の実行委員の集まりがあるんだよね」
「み、三原くん!?」

 わたしの席に、いつの間にか三原くんが来ていた。

「三原くん、どうしたの?」
「あのさ。西森さん、委員会の教室まで一緒に行かない?」
「あっ、うん。いいよ。というわけだから、杏奈。ごめんね」
「ううん。依茉ちゃん、委員会頑張って!」

 杏奈と別れ、わたしが三原くんに続いて教室を出ようとしたとき。

「わっ!」

 わたしは後ろから誰かに、ブレザーの裾を思いきり引っぱられた。

「えっ、誰……って、一堂くん!?」

 後ろに立っていたのは一堂くんで、彼は何も言わずに、わたしのことを後ろからいきなり抱きしめてくる。

「キャーッ」

 教室には、複数の女子の悲鳴にも似た声があがる。

「ち、ちょっと、ここ教室だよ!?」

 わたしが彼から慌てて離れようとするも、腰にまわされている一堂くんの手に力が込められてしまって離れられない。

「あのさ。分かってると思うけど……」

 一堂くんの艶やかな薄い唇が、わたしの耳へと近づく。

「仮にでも依茉は、俺の彼女なんだから。俺以外の男と、あんまり仲良くしたらダメだよ」

 後ろから耳元に囁かれて、背筋がゾクリとする。
 な、仲良くって……。わたしはこれから、三原くんとただ委員会に行くだけなのに。

「分かった? 依茉」
「……っう、うん」

 耳に吹きかけられた息がくすぐったくて、ぴくりと肩が揺れる。

「慧ーっ。そんなところで何やってるの? 早く行くよー」
「ああ。今行く」

 わたしの体から一堂くんの手がするりと離れ、彼は廊下にいる2年生の先輩女子のもとへと駆けていく。

 自分はこれから、昼休みに約束していた2年生の先輩たちと遊びに行くくせに。どうしてわたしに、あんなことを言ったの?

 それから三原くんと一緒に委員会が行われる教室に行き、わたしは彼の隣に座る。

「あの、西森さん。さっきは突然、西森さんのことを委員に指名しちゃってごめんね?」

 三原くんが、申し訳なさそうに話しかけてくる。

「ううん。別にいいんだけど……でも、どうしてわたしを?」
「それは……西森さんって、真面目そうだし。カラオケのときも、みんなの分の飲み物を入れてあげたりして優しい子だなって思ったから。それに、委員決めのときに手をあげようとしてただろ?」 

 まさか、三原くんに見られていたなんて。

「だから、委員の仕事は、ちゃんと意欲のある子としたいなって思ったんだよ」
「そうだったんだ」

 三原くんにそんなふうに思ってもらえたのなら、しっかり頑張らないとな。
 わたしは、机に配布されていたプリントに目を通す。

「でも、一番の理由は単純に……どうせやるなら、好きな女の子としたいって思ったからなんだけどね」
「ん? 三原くん、何か言った?」
「ううん、何も?」

 プリントを読むのに集中していて、三原くんの声がよく聞こえなかったけど……独り言だったのかな?

「西森さん、これから一緒に頑張ろうね」
「うん。改めてよろしくね、三原くん」

 よーし。遠足に向けて、これからの2週間、頑張ろう……!
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