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チャネリング
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「りお? なんだ、君か。びっくりしたじゃないか、どこにいるんだ」
彼女の声のした方向が、分からなかった。洞窟の中で急に呼ばれた、あれと同じだ。話している相手の位置が分からないと、人は、いつまでもそわそわと落ち着かない。
「りお?」
わたくしはお堂を一周して、落ち着きなく、頭を動かした。野面積みの石垣、緑色のトタン葺きの屋根、朱地に金襴模様の布など、その一つ一つをライトで照らした。何の変哲もない。もしや、小型のワイヤレススピーカーでも置かれていないかと思った。
「りお」
『おじさん、大丈夫です、おじさんの声は、ちゃんと聞こえています』
また、頭が痛む。
『わたしは今、駅のホームにいます。電気がついて、明るいだけの、誰もいないM高原駅のホームです。雪は、除雪した跡に、うっすら積もるくらいで、今はだいぶ良いみたいです。忘れた頃になると、白い息をした駅員さんが、線路の上の何かを確認しに来ますから、見つかって、警察に突き出されないように、跨線橋の階段の裏側、壊れた除雪機の真横に、わたしはひっそりと身を隠しています。本当に誰もいなくなる、終電の時刻までの辛抱です』
たまに、声の出所が分かりそうになる。その度に、方々をライトで照らす。それがまた、安定してやって来ない。声が遠くへ去って行く時もあれば、いきなり耳元に聞こえる時もある。そうして、ずきんと頭が、額の裏側が、痛む。
「駅のホームだって? おいおい、冗談はやめてくれ。君はその辺にいるのだろう? からかっていないで、早く姿を見せてくれ」
声の出所が分からぬ時、いつか試してみると良い。そんな場合は、空に向かって話し掛けるのが、一番すわりが良い。
『おじさん、わたしは、駅のホームです。Aスキー場のチケット売り場から、シャトル運行しているバスに乗って、何とかここまでやって来ました。わたしとおじさんは、数十キロは離れています。ですからこれは、精神感応という能力なのです』
「精神感応?」
左手を首の後ろへ当てた。
「それも、超能力の一種か? ああ、もしかして、黙っていても、人の心が直接に相手の心に伝達される、いわゆるテレパシーってやつか? 透視能力者である君は、透視の他にも、そんな芸当までできるのか?」
『いいえ。使っているのは、わたしではありません』
「?」
『わたしは、美咲さんの透視に失敗して、悪魔がうろつく世界から、禍々しい影の一体を、この世に連れて来てしまいました』
降雪が弱まって、山の向こうへ流れる雲の動きがはっきりと見えるようになった。
『そして、その怪しい影は、今なお、わたしの居場所を探しています。悪魔の住処へと足を踏み入れ、禁断の業を使った、許されざる者を探して』
〝人知を超える超能力とは、本当はとても危険なのです、命が惜しければ、わたしはそのような悪魔の世界へ行きたくはありません〟最初にりおと会った時、彼女はこう語っていた。本当に、この世界には悪魔が存在するのか?
『怪しい影は、わたしの透視に反応を示します。それを頼りに、あちこちを嗅ぎ回っています。つまり、悪魔の世界で手に入れた透視の力、それは、それを使うこと自体、奴らの気を引いてしまうという事なのです。ですから、怪しい影の気配が無くなるまで、奴が根負けしてこの世界から立ち去るまで、わたしはじっと息を潜めていなければならない、決して能力は使ってはならないのです。そこをわたしが、精神感応という、ことさら目立つ能力を使ってしまえば、いま言った努力は台無しになってしまいます』
「そんな、だって、もう使っているじゃないか」
わたくしは、足元を照らす光が無意味に思われて、ライトの電源を切った。
『だから、使っているのは、わたしではないと言っているのです。使っているのは、おじさんです。おじさんがたった今、精神感応という能力を使ったのです』
「な!」
突拍子もない、展開だった。
『さっきのおじさんの精神感応は、世界へ向けて発信されました。発信された事だけを考えれば、宇宙までです。そう強いものではありませんが、複数回。それをわたしが、まずいと思って、慌てて受け取ったのです』
「受け取ったって、電話じゃあるまいし」
ライトを持つ手で、頭の後ろを掻いた。
『電話。おじさん、うまい事を言いますね。これは全く、電話のしくみと同じです。こう考えてみて下さい。夜遅く、公園に設置された公衆電話、その呼び鈴が人知れず鳴っている、それも、あちこちの公園から、です。これは、近隣住民や、道行く人から、とても目立ちますよね? だんだん、人が寄って来ますよね? 気が付いてその電話に出た人が、善い人だったら、問題はないです。その人の良心に委ねます。だけど、中には悪い人もいます。電話に出て、相手の情報だけを盗み取って、後から財産を盗ってしまう人や、そもそも、人ではない禍々しい奴らも。
ですからわたしは、公衆電話の受話器を取ったのです。わたしが受話器を取ったのですから、世界に発信されている呼び鈴は、ひとまず止まりました』
わたくしは、すぐには言葉が出なかった。無理に何かを言おうとして、やはり、言葉にならなかった。
その言葉とは、ガンツフェルト実験。これは、研究プログラムに基づいたテレパシーの実験で、アメリカの超心理学者が実際に行った実験だ。なぜわたくしがこのような専門的な言葉が頭に浮かんだのか、それは、わたくしが小学の頃、ガンツフェルト実験の研究結果やその様子が、子供向けの雑誌に、特集という形で紹介されていたからだ。狐の霊を呼び出す『コックリさん』、これが子供たちの間で大流行したのと同じ原理で、当時、わたくしを含む同級生の間で、テレパシーの実験が一躍人気を博した。放課後、先生の目を盗んで、こそこそと教室に現れては、大真面目な顔をして、ガンツフェルト実験の真似事をやった。別の教室から、りんごやパイナップル、クジラや犬など、簡単なイメージを念じて、隣の教室の仲間がイメージを紙に描写する、という遊びだった。その結果がどうかなどは言わずもがなだが、とにかくわたくしは、いつか大人になって、このような精神感応という能力を使う日が来るとは、夢にも思わなかった。
「俺が、テレパシーか。信じられない。しかも、こんなにはっきり会話ができる」
『おじさん、勘違いしないで下さい。この精神感応は、チャネリングという、高次元の存在に意識レベルで繫がる事が出来る相手、つまり他でもないわたしが相手だからこそ、このような交信が成立しているのです。おじさんが、誰とでも精神感応が出来るようになったわけではありません』
「え? そうなの?」
『そうです。ごく一般的な人でも、人生最大の窮地に追い込まれ人や、大きな災害によって死に直面した人など、度たび精神感応を発信します。心の叫び、と形容されていますが、さっきのおじさんのも、その一種です。
ただ、多くの場合は、無意識に精神感応を発信し、それが誰かと繋がる事は殆ど無く、そのまま発信は消えてしまいます。〝神様、どうかお助け下さい〟こう必死に祈っても、殆どは返事が返りませんよね? 返ったとしたら、それは、神様の声と考えない方が良いです。
とにかく、波長と呼ばれるもの、その人が持つ精神エネルギーの振動数ですが、その波長でもって精神感応が発信され、けれども、他の人の波長とは一致せず、その人を中心に放射状に拡散され、やがて薄れ、最後は消えます。稀に、一卵性双生児のシンクロニシティによって、二人の波長がほぼ同一の場合や、災害時の母親が、一時的にでも、高次元の存在に意識レベルで繋がる事が叶い、瓦礫の中から被災した娘を見つけた場合など、奇跡的に波長のチャネリングが成功したケースもあるようです。
でもそれは、恐ろしく稀なケースで、大多数の波長は、発信した後あっという間に消えてなくなります。それが消えないで、その場に残り続ける、いわゆる残留思念と呼ばれるものになれば、オルメカ文明の遺跡トレス・サポテスの発見に大きく関わった、サイコメトラーたちによって、当時発信された精神感応を吸い取る事も可能と聞きます。これは、液体に残りやすいとも言われています。
たくさん言いましたが、結局の所、数限りない波長に対して、チャネリングができる能力が備わっている者でなければ、偶然放ったおじさんの精神感応と交信する事は不可能です』
わたくしは、何と答えていいものか、半ば呆気に取られた。
「まあ、とにかく、俺が超能力に目覚めたわけではない、と言う事だな」
『そういう事です。だけどおじさん、油断は禁物です。おじさんの波長で精神感応が発信されているとは言え、携帯電話で言えば、おじさんは電磁波を発信して、わたしに電話をかけている状態です。そうなると、怪しい影は、その電磁波の気配、不自然な流れ方に、動きが止まります。何と言っても彼らは、そういった不思議な力の動きに、大変敏感なのです。どうしてそうなのか、その存在自体がそういった力に由来するものなのか、彼らは波長の流れのちょっとした変化に対してとても敏感に察知します。犬の嗅覚は人間の一〇〇万倍。それと同じで、奴らは恐ろしい嗅覚のようなもので、波長の動きを読み取っています。つまりおじさん、あなたが発信している精神感応に、怪しい影が反応しています』
「な、なに! それは、まずいじゃないか! 大変まずい! 君の話では、君の小学の同級生三人と、その担任は、悪魔の世界の怪しい影によって、変死したのだろう」
わたくしは再びライトをつけて、周囲を、特に死角となったお堂の足元を照らした。
『ですからおじさん、手短にいきます。おじさんは今、大変困っていますよね』
「ああ困っている。晦冥会の祠へ通ずる石扉、その開け方が分からん」
それからわたくしは、大分要点を絞って、岸本と行った山中の祠について、りおへ伝えた。
『そうですか。すいません、わたしの透視が、不完全だったようです。まさか十年以上も前の光景を見て、その場所に美咲さんがいると言ってしまって、本当にごめんなさい』
昔の光景を見た?
「じゃあ、岸本が毎月通っている、あの祠は一体、何なんだ?」
わたくしは、恐ろしくでかく、恐ろしく黒い、海抜二千メートル級の山の稜線を振り返った。その山腹には、灯りなど一つも無かった。
『分かりません。わたしの透視能力を以てしても、晦冥会の祠と似て非なるもう一つの祠、その意味が分かりません。ただ、十年以上も昔に、作業服を着た多くの男の人たちが、設計図のような紙を手にして、その祠を建造している光景が見えました。それは、いまおじさんが目の前にしている、晦冥会の祠と、全く同じ構造の祠を建造している光景です』
「全く同じ祠? ますます、意味が分からない。なぜ晦冥会は、あんな山奥に、ここと同じ祠を造る必要があったんだ? 一体どんな目的で、そんな」
雪が止むと、夜は厳しく冷えて来た。グローブをしていても、指の先の感覚が怪しくなる。
『おじさん、この祠は、想像を絶するほど闇が深いです。この石扉の向こう、晦冥会の祠の奥に何があるのか、それはもしかしたら、禍々しい悪魔の世界のような、とても恐ろしい世界かも知れません。どうしてかって、わたしが美咲さんを透視した時、祠の中に見えて来る映像が、歪んで、乱れて、捻じ曲がるのです。こんな事は、今まで一度もありませんでした』
彼女の声のした方向が、分からなかった。洞窟の中で急に呼ばれた、あれと同じだ。話している相手の位置が分からないと、人は、いつまでもそわそわと落ち着かない。
「りお?」
わたくしはお堂を一周して、落ち着きなく、頭を動かした。野面積みの石垣、緑色のトタン葺きの屋根、朱地に金襴模様の布など、その一つ一つをライトで照らした。何の変哲もない。もしや、小型のワイヤレススピーカーでも置かれていないかと思った。
「りお」
『おじさん、大丈夫です、おじさんの声は、ちゃんと聞こえています』
また、頭が痛む。
『わたしは今、駅のホームにいます。電気がついて、明るいだけの、誰もいないM高原駅のホームです。雪は、除雪した跡に、うっすら積もるくらいで、今はだいぶ良いみたいです。忘れた頃になると、白い息をした駅員さんが、線路の上の何かを確認しに来ますから、見つかって、警察に突き出されないように、跨線橋の階段の裏側、壊れた除雪機の真横に、わたしはひっそりと身を隠しています。本当に誰もいなくなる、終電の時刻までの辛抱です』
たまに、声の出所が分かりそうになる。その度に、方々をライトで照らす。それがまた、安定してやって来ない。声が遠くへ去って行く時もあれば、いきなり耳元に聞こえる時もある。そうして、ずきんと頭が、額の裏側が、痛む。
「駅のホームだって? おいおい、冗談はやめてくれ。君はその辺にいるのだろう? からかっていないで、早く姿を見せてくれ」
声の出所が分からぬ時、いつか試してみると良い。そんな場合は、空に向かって話し掛けるのが、一番すわりが良い。
『おじさん、わたしは、駅のホームです。Aスキー場のチケット売り場から、シャトル運行しているバスに乗って、何とかここまでやって来ました。わたしとおじさんは、数十キロは離れています。ですからこれは、精神感応という能力なのです』
「精神感応?」
左手を首の後ろへ当てた。
「それも、超能力の一種か? ああ、もしかして、黙っていても、人の心が直接に相手の心に伝達される、いわゆるテレパシーってやつか? 透視能力者である君は、透視の他にも、そんな芸当までできるのか?」
『いいえ。使っているのは、わたしではありません』
「?」
『わたしは、美咲さんの透視に失敗して、悪魔がうろつく世界から、禍々しい影の一体を、この世に連れて来てしまいました』
降雪が弱まって、山の向こうへ流れる雲の動きがはっきりと見えるようになった。
『そして、その怪しい影は、今なお、わたしの居場所を探しています。悪魔の住処へと足を踏み入れ、禁断の業を使った、許されざる者を探して』
〝人知を超える超能力とは、本当はとても危険なのです、命が惜しければ、わたしはそのような悪魔の世界へ行きたくはありません〟最初にりおと会った時、彼女はこう語っていた。本当に、この世界には悪魔が存在するのか?
『怪しい影は、わたしの透視に反応を示します。それを頼りに、あちこちを嗅ぎ回っています。つまり、悪魔の世界で手に入れた透視の力、それは、それを使うこと自体、奴らの気を引いてしまうという事なのです。ですから、怪しい影の気配が無くなるまで、奴が根負けしてこの世界から立ち去るまで、わたしはじっと息を潜めていなければならない、決して能力は使ってはならないのです。そこをわたしが、精神感応という、ことさら目立つ能力を使ってしまえば、いま言った努力は台無しになってしまいます』
「そんな、だって、もう使っているじゃないか」
わたくしは、足元を照らす光が無意味に思われて、ライトの電源を切った。
『だから、使っているのは、わたしではないと言っているのです。使っているのは、おじさんです。おじさんがたった今、精神感応という能力を使ったのです』
「な!」
突拍子もない、展開だった。
『さっきのおじさんの精神感応は、世界へ向けて発信されました。発信された事だけを考えれば、宇宙までです。そう強いものではありませんが、複数回。それをわたしが、まずいと思って、慌てて受け取ったのです』
「受け取ったって、電話じゃあるまいし」
ライトを持つ手で、頭の後ろを掻いた。
『電話。おじさん、うまい事を言いますね。これは全く、電話のしくみと同じです。こう考えてみて下さい。夜遅く、公園に設置された公衆電話、その呼び鈴が人知れず鳴っている、それも、あちこちの公園から、です。これは、近隣住民や、道行く人から、とても目立ちますよね? だんだん、人が寄って来ますよね? 気が付いてその電話に出た人が、善い人だったら、問題はないです。その人の良心に委ねます。だけど、中には悪い人もいます。電話に出て、相手の情報だけを盗み取って、後から財産を盗ってしまう人や、そもそも、人ではない禍々しい奴らも。
ですからわたしは、公衆電話の受話器を取ったのです。わたしが受話器を取ったのですから、世界に発信されている呼び鈴は、ひとまず止まりました』
わたくしは、すぐには言葉が出なかった。無理に何かを言おうとして、やはり、言葉にならなかった。
その言葉とは、ガンツフェルト実験。これは、研究プログラムに基づいたテレパシーの実験で、アメリカの超心理学者が実際に行った実験だ。なぜわたくしがこのような専門的な言葉が頭に浮かんだのか、それは、わたくしが小学の頃、ガンツフェルト実験の研究結果やその様子が、子供向けの雑誌に、特集という形で紹介されていたからだ。狐の霊を呼び出す『コックリさん』、これが子供たちの間で大流行したのと同じ原理で、当時、わたくしを含む同級生の間で、テレパシーの実験が一躍人気を博した。放課後、先生の目を盗んで、こそこそと教室に現れては、大真面目な顔をして、ガンツフェルト実験の真似事をやった。別の教室から、りんごやパイナップル、クジラや犬など、簡単なイメージを念じて、隣の教室の仲間がイメージを紙に描写する、という遊びだった。その結果がどうかなどは言わずもがなだが、とにかくわたくしは、いつか大人になって、このような精神感応という能力を使う日が来るとは、夢にも思わなかった。
「俺が、テレパシーか。信じられない。しかも、こんなにはっきり会話ができる」
『おじさん、勘違いしないで下さい。この精神感応は、チャネリングという、高次元の存在に意識レベルで繫がる事が出来る相手、つまり他でもないわたしが相手だからこそ、このような交信が成立しているのです。おじさんが、誰とでも精神感応が出来るようになったわけではありません』
「え? そうなの?」
『そうです。ごく一般的な人でも、人生最大の窮地に追い込まれ人や、大きな災害によって死に直面した人など、度たび精神感応を発信します。心の叫び、と形容されていますが、さっきのおじさんのも、その一種です。
ただ、多くの場合は、無意識に精神感応を発信し、それが誰かと繋がる事は殆ど無く、そのまま発信は消えてしまいます。〝神様、どうかお助け下さい〟こう必死に祈っても、殆どは返事が返りませんよね? 返ったとしたら、それは、神様の声と考えない方が良いです。
とにかく、波長と呼ばれるもの、その人が持つ精神エネルギーの振動数ですが、その波長でもって精神感応が発信され、けれども、他の人の波長とは一致せず、その人を中心に放射状に拡散され、やがて薄れ、最後は消えます。稀に、一卵性双生児のシンクロニシティによって、二人の波長がほぼ同一の場合や、災害時の母親が、一時的にでも、高次元の存在に意識レベルで繋がる事が叶い、瓦礫の中から被災した娘を見つけた場合など、奇跡的に波長のチャネリングが成功したケースもあるようです。
でもそれは、恐ろしく稀なケースで、大多数の波長は、発信した後あっという間に消えてなくなります。それが消えないで、その場に残り続ける、いわゆる残留思念と呼ばれるものになれば、オルメカ文明の遺跡トレス・サポテスの発見に大きく関わった、サイコメトラーたちによって、当時発信された精神感応を吸い取る事も可能と聞きます。これは、液体に残りやすいとも言われています。
たくさん言いましたが、結局の所、数限りない波長に対して、チャネリングができる能力が備わっている者でなければ、偶然放ったおじさんの精神感応と交信する事は不可能です』
わたくしは、何と答えていいものか、半ば呆気に取られた。
「まあ、とにかく、俺が超能力に目覚めたわけではない、と言う事だな」
『そういう事です。だけどおじさん、油断は禁物です。おじさんの波長で精神感応が発信されているとは言え、携帯電話で言えば、おじさんは電磁波を発信して、わたしに電話をかけている状態です。そうなると、怪しい影は、その電磁波の気配、不自然な流れ方に、動きが止まります。何と言っても彼らは、そういった不思議な力の動きに、大変敏感なのです。どうしてそうなのか、その存在自体がそういった力に由来するものなのか、彼らは波長の流れのちょっとした変化に対してとても敏感に察知します。犬の嗅覚は人間の一〇〇万倍。それと同じで、奴らは恐ろしい嗅覚のようなもので、波長の動きを読み取っています。つまりおじさん、あなたが発信している精神感応に、怪しい影が反応しています』
「な、なに! それは、まずいじゃないか! 大変まずい! 君の話では、君の小学の同級生三人と、その担任は、悪魔の世界の怪しい影によって、変死したのだろう」
わたくしは再びライトをつけて、周囲を、特に死角となったお堂の足元を照らした。
『ですからおじさん、手短にいきます。おじさんは今、大変困っていますよね』
「ああ困っている。晦冥会の祠へ通ずる石扉、その開け方が分からん」
それからわたくしは、大分要点を絞って、岸本と行った山中の祠について、りおへ伝えた。
『そうですか。すいません、わたしの透視が、不完全だったようです。まさか十年以上も前の光景を見て、その場所に美咲さんがいると言ってしまって、本当にごめんなさい』
昔の光景を見た?
「じゃあ、岸本が毎月通っている、あの祠は一体、何なんだ?」
わたくしは、恐ろしくでかく、恐ろしく黒い、海抜二千メートル級の山の稜線を振り返った。その山腹には、灯りなど一つも無かった。
『分かりません。わたしの透視能力を以てしても、晦冥会の祠と似て非なるもう一つの祠、その意味が分かりません。ただ、十年以上も昔に、作業服を着た多くの男の人たちが、設計図のような紙を手にして、その祠を建造している光景が見えました。それは、いまおじさんが目の前にしている、晦冥会の祠と、全く同じ構造の祠を建造している光景です』
「全く同じ祠? ますます、意味が分からない。なぜ晦冥会は、あんな山奥に、ここと同じ祠を造る必要があったんだ? 一体どんな目的で、そんな」
雪が止むと、夜は厳しく冷えて来た。グローブをしていても、指の先の感覚が怪しくなる。
『おじさん、この祠は、想像を絶するほど闇が深いです。この石扉の向こう、晦冥会の祠の奥に何があるのか、それはもしかしたら、禍々しい悪魔の世界のような、とても恐ろしい世界かも知れません。どうしてかって、わたしが美咲さんを透視した時、祠の中に見えて来る映像が、歪んで、乱れて、捻じ曲がるのです。こんな事は、今まで一度もありませんでした』
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