転生勇者はスマホで殴ると死ぬ

服部ユタカ

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一.そもそも俺が転生してない

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一.そもそも俺が転生してない

 昼下がり、UVカットのされていない窓からオフィス内の俺に殺人光線が突き刺さる。

 夏、滅されよ、などと思っていると、三三七拍子でスマホが振動。メールを受信。

 文面は以下の通りだった。

『今から周辺のモンスターを倒しに行きます。正直、緊張しています。ここらのモンスターはどうやら人を操るタイプらしく、一筋縄でいかないようです』

 俺はイラッときて即座に画面を操作し、返信した。

『安心して死んでこい』

 死ねと言われて死ぬヤツはなかなかいないが、死んで、なおかつ復活するヤツはもっといない。

『すみません、勤務中でしたか?』

『察したなら無駄なメール飛ばすな』

 オフィスの向こうから鋭い声が飛んでくる。

「おい、松浦ァ! 派遣の分際で勤務中にスマホいじくんな!」

「すみません」

 課長の完全なハラスメント発言に対して機械的に返答し、足元の鞄へスマホを放り込む。
なんというくだらないやりとりだ。割り振られた仕事をこなせない時間は、まったくもって無駄としか言いようがない。

 俺は給料分の仕事はきちんとこなす男だ。それがお茶汲みなら全力でやって茶柱三本は立ててやる。なんなら五本でもいい。
 もちろん、定時までに限る。

 その後も鞄から小さく振動音が聞こえる。一度、二度、三度。四度目から先は数えてない。

 大丈夫。安心して死んでこい。異世界に転生した勇者ユウキくん。


 左右に松葉杖を突きながら、俺は夕暮れのオフィス街を行く。このスタイルは悪くない。なんせ、歩きスマホなる愚行を犯すことなくいられるからだ。

「松浦先輩、骨折、まだ完治までかかるんですか?」

 後ろから投げかけられる心配そうな女性の声に、俺は振り向くことなく答える。

「朝伝えたとおりだよ、櫻井さん。全治二ヶ月。あと先輩はやめてくれ」

「派遣社員でも上下関係はしっかりしろって父に言われてるんです!」

 そう言いながら、櫻井は俺の前に回ってグッと拳を握りしめた。両腕の間に挟まる胸元、いとたわわなりけり。いや、今のはたわごとだ。

「素晴らしいお父上だ」

 いや、皮肉でなくね。

 ポケットの中で三三七拍子の振動。勇者様にしては間を空けた方なので、どうやらいっぺん死んだか、戦闘が長引いたらしい。

「先輩、スマホいいんですか? 勤務中も頻繁に鳴ってませんでした?」

 地獄耳。

「大丈夫。俺が返信しなくてもたぶんなんとかなるから」

 嘘じゃない、と思う。万一のことがあってもどこぞの国の王様の下で復活し、「おお、しんでしまうとはなさけない」とか言われるだけの、バイタリティあふれる存在からの異世界メールだ。俺からの助言やらが特段何か役立つとは思えない。

 というか、選ばれし者でない俺に何ができるというのか。せっかくの転生イベントで脚を地味に骨折するだけに留まった俺だぞ。マジで何ができる。

「もしかして……彼女さんとケンカでも……?」

「まずそういうのいねえよ」

「あっ、すみません。ホントすみません。ごめんなさい許してください。怒鳴ったりしないでください……」

 謝りすぎだろ。俺だってそりゃ角度によっては悪くない顔をしているんだ、おそらく。

「先輩の何が悪いんだろ。経済力の低さ? 社会的地位の低さ? あっ、根本的な生命力の低さ? それともやっぱり顔面偏差値の」

「ちょっと待て、俺を主にメンタル方面から殺したいのか」

 めっそうもない! と櫻井は言うが、その悪気が表情に、ありありと出ている。

「まったく」

 上下関係をしっかり、とはまた面白い冗談だ。

「それで、話を元に戻しますけど、昨今の捕鯨反対についてどうお考えですか? それについてアルコールを酌み交わしながら」

「バイバイさよならまた来週」

「まだ水曜日じゃないですかー。つれないなー」

「あのな。俺はそこまで暇でもないんだよ。帰ってやりたいこともある」

「彼女もいないのに?」

 ええい。

 三三七拍子の振動は、依然としてポケットの中で続いている。二重にうっとうしい。


 それから、櫻井と駅で別れるまで、しばらく意味のないやりとりを繰り広げた。地下鉄に乗って、優先席に座ると、ようやく俺はスマホを取り出した。電源? 残念、俺はその辺気にしない系男子だ。なんせ隣のお婆様もスマホでゲームしてるからな。

 メールチェック。『異世界フォルダ』に三十七件。軽く引いた。

『これからメアリーさんとデートです』

 最新の着信メールだけを読むと、俺はめまいを起こした。

 あの時、俺を助けた冴えない男子学生が、転生して勇者でメアリーとかいう魔法使いが彼女候補で見た目もなんか補正かかってイケメンで時折その様子を画像変換して添付してきて、ああ、くそっ、新たな三三七拍子だ。

『今日のメアリーさん、救った町で新調した服がすっごくかわいくて、本当に夢みたいです』

 異世界の可憐な少女が、やや地味だが、それでも似合っている衣服をまとい、はにかんでいる画像が添付されている。

俺はお前に何か悪いことをしたか? 俺はそのメールで何か得をするか? ダメージ以外に与えるものを内包したメッセージか?

『よかったな』と一言返すと、二秒で返事がきた。

『はい!』

 屈託ねえな。

『ぼく、今日こそメアリーさんに告白しようかと思うんです』

 地下鉄のトンネル内で電波はところにより圏外だが、異世界メールはそんなのおかまいなしにバシバシ飛んでくる。人知を超えた迷惑メールだ。

『いいんでないか。もうそういう雰囲気だろ』

 異世界転生のあと、二週間であっち側はかなり充実した日々を過ごしているらしい。なんせ村を二つ救って、悪徳奴隷商人やらを倒し、道すがら盗賊を討伐したとかいう情報を受け取っているからな。

『絆ってもんも割とできてるだろ。それにお前は根が真面目で顔がいいからな。断る理由もあるまい』

 地下鉄を降りてそのメールを送信すると、俺はスマホをしまってバスに乗り換えた。
今日も俺はよく働いた。ああ、非常によく働いた。だから晩酌に第三のビールをお迎えしてもいいだろう。

「キンッキンに冷えていやがる……!」

 アパートに帰り着いて冷蔵庫から缶を取り出し、頰に当てながら俺は呟く。三三七拍子。

「くう、五臓六腑に染み渡る」

 一息に三百五十ミリリットル缶を半分空け、三三七拍子、満足感からつい古臭い表現をひねり出した。三三七拍子、いやあ、この一杯は清貧を貫く俺を癒してく三三七拍子。

「ええええい! きっさまァァ!」

『予想外のことで驚いてしまって、あの、ぼくはどうしたら』

「状況わかんねえのに何を求めてんだ!」

 口に出したものと一言一句違わずメールを返すと、すぐに返事が届く。

『メアリーさんとキスをしてしまいました、、、』

 読点で三点リーダを代用する感情表現自体にもイラつきながら、俺はスマホをフリック操作した。

『自慢ですか』

『いや、そうじゃなくて、その様子をアイちゃんに見られていて、、、アイちゃんが大泣きしてしまって、、、』

 プッツンする三秒前だよ俺は。格闘家の女の子もそういうアレでコレですか。

 色恋沙汰で空中分解するという勇者様御一行の結末は想像するだけで様々な感情が湧いてくるな。ついほくそ笑みそうになる俺を誰が責められよう。

『勇者様は大変だな』

『そんな他人事みたいに、、、』

 他人事だよ。

『お前が好きなのはメアリーなんだな? だったらそれをアイに伝えてやるしかないんじゃないのか』

『でも、あの涙見たらぼくは、、、』

『その読点三つ打つのやめてくれないか』

『ソフィアさんの寝室に呼ばれました。なんだろう、、、またあとで』

 ガッッッデム。これ絶対そういうアレがコレだろ!

 なんだって俺が、異世界に行くチャンスを奪ったやつの相談役なんだよ!
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