転生勇者はスマホで殴ると死ぬ

服部ユタカ

文字の大きさ
5 / 9

五.魔王様は案外怖くない

しおりを挟む
五.魔王様は案外恐くない

「アイスコーヒー三つ」

「かしこまりました」

 日曜。昼の喫茶店で、俺と櫻井は四人がけテーブルに隣り合って待っていた。

「マーちゃん、スッと現れてスッと帰るんで、驚かないでくださいね」

「ほう」

 左右を見渡しても、それらしい、すなわち魔王然とした人物は一切見当たらなかった。俺の想像では、マーちゃんとやらは背の高い低音ボイスのナイスミドルかそれ以上の年齢の男性だったのだ。

 そんなわけで、まばたきをした瞬間に向かいの席に可愛らしいメガネ少女が現れた時、俺は声を上げそうになった。

 女子高生と呼んでもちょっと高く見積もりすぎたような外見年齢だった。衣服のチョイスこそ落ち着いているが、どうにもやはり、子どものように見える。髪型もボブにヘアピンを二本挿した、ちょっと地味な印象だ。

 が、あくまでも相手は魔王様。侮ってはならぬ、と俺は咳払いをしてから背筋を正した。

「こんにちは、わたしは松う」

「マーちゃん久しぶり!」

 俺の言葉を遮り、パッと明るい声とともに櫻井が手を上げる。

「さっちゃん、久しぶり、です」

 対して、ぽそぽそと喋る魔王様は会釈をするのみだ。その声は、喫茶店のBGMにも負けそうなぐらいの声量だった。

「……はじめまして、松浦です。そちらの世界の勇者をサポートしてます」

「聞いています、です。それで、あの、御用件というのは」

 無表情で話を続ける魔王様の言葉を食い気味に声が上がる。

「あのさ、なんで勇者くんぶっ殺せないの? あの子死ねば話済むんだけど」

 櫻井の単刀直入すぎる言い方自体はもちろんまずかったが、あけすけに大声で訊くものだから、周囲の客が数名会話を止めてこちらをぎょっとして見た。

 突き刺さる視線の痛いこと痛いこと。

「『不滅の加護』ってやつ、です」

 両手でメガネの位置を直しながら、そう言う魔王様。いや、マーちゃんだな。マーちゃんと呼ぶ方がしっくりくる。

 テーブルに置かれたアイスコーヒーを両手で持ち、ストローをくわえた少女、マーちゃん。

「そー、それそれ。『不滅の加護』ってやつ。あれ、どうにかできないの? 魂が折れない限り復活してくるって話だっけ?」

 こくり、マーちゃんが頷く。

「正直言って困ってるんですよ。俺も暇じゃないんで、あまり意義を見出せないことに時間を割きたくない」

「魂は、壊れにくい、です。特に、勇者っていうのは」

 ちゅごごご、と早速アイスコーヒーを干した櫻井が人差し指をピンと立てて、口を開く。

「心折れるまで爪剥ぐとか!」

 再度集まる周囲の視線。

「ちょっと櫻井さんは黙ってようか」

「まず、使命を与えられた転生者っていうのは、自分をあまり顧みない、です。ですから、肉体の滅びになぜか、強い、です」

 じゃあじゃあ、と櫻井が心を折るための代案を列挙しようとしたので、俺は頭をスパン、と叩いておいた。

「じゃあ何をすれば?」

「徹底的に精神をくじくことができれば、あるいは、です。それで、あたしたちもちょっと手を打っておきました、です」

「え、すでに?」

 こくり、とマーちゃん。

「腹心の人間を、パーティに紛れ込ませておきました、です」

 てん、てん、てん、と三点リーダを並べてから、合点がいって、俺は「ああ」と口にした。

「もしかしてソフィアっていうのは」

「です」

「へ? 例の女盗賊がマーちゃんの仕込んだ罠だったってこと?」

「です」

 頷くたびにずれるメガネの位置を正すマーちゃん。

「一応効果はあったみたい、です。でも、やっぱりちょっと弱い、です」

 おかわりのアイスコーヒーを注文する櫻井に「お前の分は金出さないぞ」と釘をさしてから、俺は問う。

「すると、君はあいつの所属する国にも息のかかった人物を少なくない数、投入しているわけか?」

 こくり。

「戦争は情報戦の時代だ、です。さっちゃんに教わりました、です」

 ただのサイコパスかと思いきや、割と要点は突いてんだな、櫻井。

「そのあとは、宿屋の食事に、欲望をさらけ出させる薬品を混入しておきました、です。何か弱点が出ればと思った、です」

「それがあれか、ファイアーフィストと下半身露出か」

 っていうか、この情報は最終的に明らかになって「魔王やべえ、やり手じゃないか」とかいう展開が待ち受けてしかるべき事案なんじゃないのか……?

 伏線というものを用意せず、回収する気もなく、話を捌いていくマーちゃんに、俺はなんらかの問題を感じてしまったが、まあそれはいい。

「最終的にパーティが解散したのは、さっちゃんから聞いてました、です」

 ここまで無感情に話をしていたマーちゃんだったが、そこで初めて表情を変えた。

 なんと、沈痛な面持ちだった。

「あれあれ~? マーちゃんなんかつらそうじゃな~い?」

「勇者さえどうにかなれば、それでよかった、です」

 どうにも彼女からは良心というものが感じられて仕方がなかった。俺の隣に座る櫻井からは微塵も感じられないものだ。

「あまり、多くの人に与えたくはない、です。苦痛というものは」

「……魔王軍っていうのはもしかして、そこまで悪いことしてないのか?」

 思い返せば櫻井の話でも、悪い思考の持ち主が羨ましい、とかそういう理由でこの人でなしにオファーを出したんじゃなかったか。

「本来、私たちは、魔物の群れで、魔物群、です。敵意を向けられなければ、何かすることはほとんどない、です。でも人からすれば魔物軍、あるいは、魔王軍、です」

 さらに記憶をさらうと、マキナも別に「世界に平和を取り戻せ」という旨の発言はしていなかったように思われた。なにか、非常にキナ臭いものを感じる。

 氷が、カラン、とマーちゃんの手に持っていたグラスの中で音を立てた。

「やる気の連中にやり返すことの何が悪いのかわかんないんだよなー」

 櫻井、湿っぽい空気ぶっ壊し。

「あの、松浦さん」

 マーちゃんが両手でメガネを支えながら、初めて俺の目を見据える。

「協力、してもらえますか」

「協力というと」

「各地で転生してきた勇者を止める協力、です。報酬はもちろん出させてもらう、です」

 金額を聞いて、俺はふたつ返事で親指を立てた。いい副業きたわ、これ。

 で、各地ってのは一体どういうことだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...