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六.やってしまえばどうということもない
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六.やってしまえばどうということもない
日曜の熱帯夜。俺は公園で時を待った。打ち合わせでは、俺へのメールから十秒以内に目標が眼前に転移してくるとのことだった。
そのメールを見逃さないようにスマホを凝視すること二時間。さすがに「俺なにやってんのバカみたい」モードに入っていたが、それでもメールを待った。
俺は給料分の仕事はきちんとする男だ。それ以上の仕事に関しては残業代いただけるなら喜んで、そうでなければ謹んでお断りをする。
メールが、きた。
「よし、十、九、八……」
深夜の公園に新たな光が現れた。噴水近くで発光する、やたらめったら眩いそれに、たまらず腕で視界を覆う。
「はあ、疲れた疲れた。とっとと帰って風呂って寝るか」
光の中心に、疲労した顔の青年が一人、スーパーヒーロー着地のポーズで出現した。
俺はその瞬間に距離を詰めて、背後に回る。
「あ、誰だ?」
「そぉい!!」
俺は振りかぶったスマホを、即座に相手の頭部めがけて振り下ろした。
「なん──」
スマホが空間を削り取るように、転生勇者の頭を通過し、肉片も残さず煙へと変えた。音もなく発生した事象に、俺は一瞬打ち震えた。
「スマホパンチすごっ!」
背後から、俺の心境を代弁する櫻井の声が上がった。芝生の上で蚊取り線香を焚きながらビールを飲んでいる。ちなみに芝生に入るな、との注意札が真横に立っているのだが、お構いなしだ。
「やはり、こちらの世界では、不滅の加護が意味をなさないよう、です」
俺は頭部を失い、そこから解けるように存在が抹消されていく転生勇者を見下ろすマーちゃんに気付いた。
「読みは当たったってことだ」
「まずは一人、片付きました、です」
魔物たちのいる転生先の世界では、各国が先を争って魔王軍を殲滅しようと勇者転移、転生、召喚を行なっていることがわかったのが六時間前。そして、それを逆に狩っていくことに同意してから三時間。
方法は、加護を受けた損壊無効のスマホで物理攻撃すること。これに首を縦に振ったのが、つい二時間前だ。
自身の良心の死にっぷりに、冷たく冴え渡った頭でどこか、恐ろしさを覚えながらも満足感を得ていた。
「松浦さん、ご気分は」
「悪くないよ。感受性鈍麻の呪術は強力なんだな」
「適性と根本的な考え方がうまく噛み合った結果、です」
遠回しに俺の本質が攻撃的であることを、素直に認めざるを得なかった。いつかはしようと思っていた行為を、ついに行ったというだけのことだと、頭のどこかで納得していた。
「松浦先輩すごいなあ、攻撃力のステータスどうなってんですかね」
「私たちの世界に数値化されたパラメータは存在しません、です。だから、比較しかできません、です。が、おそらく魔王城の宝物庫に番として置いているドラゴンより強いことは、わかる、です」
二人の会話を聞き流しながら、俺は、完全に消失させられた転生勇者の体があった位置を手のひらで触っていた。
対象は、不慮の転落事故で行方不明となった高校生だった。実際には死亡しており、向こうへ転生したものの、こっちへの未練を断ち切れず、週に一度だけ家族と会えるよう異世界転移の能力を得た、とのことだった。
それを、俺は完全に消滅させた。魔物のためではない、魔王のためでもない、単に、自身のやりたいことをやるためだ。その障害となる存在を滅し切って、本来の生きる目標を達成させるためだった。
「マーちゃん、これで、残り何人だったっけか?」
「厄介な勇者は五指に入ります、です。他は私たちで屠ります、です。次の目標を叩く機会は、今回よりもずっと短く、シビアなものになるはず、です」
「やるよ。それが終わるまで俺も身動きが取りづらい」
手を打ち合わせて土埃を落とすと、俺は自覚できるほどに冷めた目で街灯の下、櫻井とマーちゃんを見た。
「じゃあ、明日があるんで今日はこの辺で。櫻井、飲みすぎるなよ」
「あーい、おやすみなっせー」
マーちゃんの方の返事はなかった。彼女はすでに自分のいるべき世界に帰ったのだろう。
帰宅すると、異世界メールが三三七拍子抜きで通知をポップアップさせた。勇者くんからのメッセージは八十件ほどたまっていたが、それはそれとして後で処理すればいい。
『異世界転移の能力を奪取しました。満充電で十分間、異世界への存在が許されます』
「これが『奪取の加護』か。便利なもんだ」
俺のスマホは本来勇者くんに与えられるはずであった加護のほとんどを譲り受けていたために、こんな機能も付与されていた。
なんらかの属性を得意とする対象を倒せば、その属性耐性を奪い取り、異能を持った対象を倒せば、それを奪う。
「はあ。長い一日だった」
ふう、と息を吐いて、トイレに向かって、瞬間、俺は嘔吐した。何が起きたかわからなかったが、なんのことはない、体調不良だろう。
さあて、今後も元気に勇者さまたちを殺していきますか。
ゲロを掃除してからな。
日曜の熱帯夜。俺は公園で時を待った。打ち合わせでは、俺へのメールから十秒以内に目標が眼前に転移してくるとのことだった。
そのメールを見逃さないようにスマホを凝視すること二時間。さすがに「俺なにやってんのバカみたい」モードに入っていたが、それでもメールを待った。
俺は給料分の仕事はきちんとする男だ。それ以上の仕事に関しては残業代いただけるなら喜んで、そうでなければ謹んでお断りをする。
メールが、きた。
「よし、十、九、八……」
深夜の公園に新たな光が現れた。噴水近くで発光する、やたらめったら眩いそれに、たまらず腕で視界を覆う。
「はあ、疲れた疲れた。とっとと帰って風呂って寝るか」
光の中心に、疲労した顔の青年が一人、スーパーヒーロー着地のポーズで出現した。
俺はその瞬間に距離を詰めて、背後に回る。
「あ、誰だ?」
「そぉい!!」
俺は振りかぶったスマホを、即座に相手の頭部めがけて振り下ろした。
「なん──」
スマホが空間を削り取るように、転生勇者の頭を通過し、肉片も残さず煙へと変えた。音もなく発生した事象に、俺は一瞬打ち震えた。
「スマホパンチすごっ!」
背後から、俺の心境を代弁する櫻井の声が上がった。芝生の上で蚊取り線香を焚きながらビールを飲んでいる。ちなみに芝生に入るな、との注意札が真横に立っているのだが、お構いなしだ。
「やはり、こちらの世界では、不滅の加護が意味をなさないよう、です」
俺は頭部を失い、そこから解けるように存在が抹消されていく転生勇者を見下ろすマーちゃんに気付いた。
「読みは当たったってことだ」
「まずは一人、片付きました、です」
魔物たちのいる転生先の世界では、各国が先を争って魔王軍を殲滅しようと勇者転移、転生、召喚を行なっていることがわかったのが六時間前。そして、それを逆に狩っていくことに同意してから三時間。
方法は、加護を受けた損壊無効のスマホで物理攻撃すること。これに首を縦に振ったのが、つい二時間前だ。
自身の良心の死にっぷりに、冷たく冴え渡った頭でどこか、恐ろしさを覚えながらも満足感を得ていた。
「松浦さん、ご気分は」
「悪くないよ。感受性鈍麻の呪術は強力なんだな」
「適性と根本的な考え方がうまく噛み合った結果、です」
遠回しに俺の本質が攻撃的であることを、素直に認めざるを得なかった。いつかはしようと思っていた行為を、ついに行ったというだけのことだと、頭のどこかで納得していた。
「松浦先輩すごいなあ、攻撃力のステータスどうなってんですかね」
「私たちの世界に数値化されたパラメータは存在しません、です。だから、比較しかできません、です。が、おそらく魔王城の宝物庫に番として置いているドラゴンより強いことは、わかる、です」
二人の会話を聞き流しながら、俺は、完全に消失させられた転生勇者の体があった位置を手のひらで触っていた。
対象は、不慮の転落事故で行方不明となった高校生だった。実際には死亡しており、向こうへ転生したものの、こっちへの未練を断ち切れず、週に一度だけ家族と会えるよう異世界転移の能力を得た、とのことだった。
それを、俺は完全に消滅させた。魔物のためではない、魔王のためでもない、単に、自身のやりたいことをやるためだ。その障害となる存在を滅し切って、本来の生きる目標を達成させるためだった。
「マーちゃん、これで、残り何人だったっけか?」
「厄介な勇者は五指に入ります、です。他は私たちで屠ります、です。次の目標を叩く機会は、今回よりもずっと短く、シビアなものになるはず、です」
「やるよ。それが終わるまで俺も身動きが取りづらい」
手を打ち合わせて土埃を落とすと、俺は自覚できるほどに冷めた目で街灯の下、櫻井とマーちゃんを見た。
「じゃあ、明日があるんで今日はこの辺で。櫻井、飲みすぎるなよ」
「あーい、おやすみなっせー」
マーちゃんの方の返事はなかった。彼女はすでに自分のいるべき世界に帰ったのだろう。
帰宅すると、異世界メールが三三七拍子抜きで通知をポップアップさせた。勇者くんからのメッセージは八十件ほどたまっていたが、それはそれとして後で処理すればいい。
『異世界転移の能力を奪取しました。満充電で十分間、異世界への存在が許されます』
「これが『奪取の加護』か。便利なもんだ」
俺のスマホは本来勇者くんに与えられるはずであった加護のほとんどを譲り受けていたために、こんな機能も付与されていた。
なんらかの属性を得意とする対象を倒せば、その属性耐性を奪い取り、異能を持った対象を倒せば、それを奪う。
「はあ。長い一日だった」
ふう、と息を吐いて、トイレに向かって、瞬間、俺は嘔吐した。何が起きたかわからなかったが、なんのことはない、体調不良だろう。
さあて、今後も元気に勇者さまたちを殺していきますか。
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