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七.勇者さえいれば問題ない
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七.勇者さえいれば問題ない
物の例えといっては下の下だが、『向こう』の世界は思った以上にファンタジーをしていた。夜のその『ファンタジー』はなんちゃら祭りの真っ最中で、星明かりの下、眩く目に映る。
「松浦さん、あまり周囲を見渡していると、おのぼりさんみたい、です」
「いや、俺の想像だとさ、もっと平たい土地に城が鎮座してて、もっと地味だと思ってたわけなんだよ。それが、水の柱が神殿を支えているとか、雨がそこから恵まれるシステムとか、あ、何あれめっちゃ美味そう」
「さっちゃんがいないから安心だとは思った、です。でも、松浦さんも男の子、です」
串焼きの水牛ステーキを頬ばっている俺に、マーちゃんはやれやれ感を隠さなかった。『転移の加護』を奪取して以来、俺はこうして毎晩、仕事の後に転移をしては、見聞を広めていた。
バッテリフル充電のスマホが十分間の滞在ビザになっている現状、それほど長居はできないのだが、人間に変装したマーちゃんのガイドを得て、『向こう』を満喫している。感受性鈍麻の呪術が効いているとはいえ、俺の男の子の部分ははしゃいで仕方がなかった。
火の国、風の国、木の国、鉄の国、そして今いる水の国。それぞれがそれぞれに余すところなく特徴を発揮していて、非常に興味深い。
「『こっち』の通貨、貸してもらって悪いね」
「いい、です。協力していただけるなら、ちょっとしたクズ魔石を換金すれば、さして、腹は痛まない、です」
「元の世界に来た時に返させてもらうよ」
マーちゃんへの協力を始めて五日が経った。初めて転移した時は転移酔いでフワついていたが、今はもうぴんしゃんした状態で現実から非現実へと没頭している。
各国の状況を鑑みるに、彼ら住民はさほど魔王軍の侵攻に怯えている、というものではなかった。市場に流通している食料はもちろん、ちょっとした装飾品の屋台まで見たところ、品揃えに問題もなく、さして困っていないようだった。
マーちゃんの言っていたように、魔王軍は無為に人を傷つけないように振舞っているようだ。でなければ、夜間にこのような大騒ぎができるものとは思えない。
「お通夜的な空気もないし、全然住民に圧かかってないな」
「彼らは勇者という存在に寄りかかっている、です。あるいは、寄りかかり過ぎている」
国は勇者を召喚あるいは転生させることで、充分に役割を果たした、とでも言わんばかりに、嫌になるくらい平凡なのだった。こういうの、代理戦争って言うんだっけか。それともただの平和ボケか? いかん、言葉が出ない。
「国は、国防の責務を勇者に託す。その図式の前提は、魔物群が悪である、ということ、です。各国間の関係性は、いかに国益を確保するか、を勇者の進撃具合で取り決めている、とのこと、です」
「じゃあ俺が殺──アレした勇者の国はどうなるんだ?」
「それは、また明日赴く、です。拳の国、です」
十分間の現実逃避が終わり、俺はスマホにたまった勇者ユウキくんの相談メールを返信し始める。バッテリが完全に尽きると、一旦、俺にとっての現実世界へ戻ることで異世界メール返信機能だけが生きている状態になる。
『あれ以来、仲間が見つかりません、、、』
『いいんじゃないか。初代の勇者だって一人でドラゴン倒してたぞ』
『初代?』
『すまん、俺も聞きかじり。とにかく今の内に実力つけるんだな』
充電ケーブルにつないだスマホで、フリック操作をしていると、一般フォルダにメールが届く。差出人は、櫻井だった。
『それで、今宵のお散歩はいかがでしたかな?』
『挨拶抜きで要件はそれだけか?』
『質問に質問で返すのはバカのやることですよーこんばんわー。っていうかメッセージアプリ導入しましょうよ。メールだとリアルタイム感なくて味気ないです』
俺はメッセージアプリやらの類が苦手だ。いい思い出がない。既読スルーという言葉に代表される、押し付けがましい通信が本当に苦手なんだ。なんなら矢文か伝書鳩でいいとすら思っている。
『その話はもういいだろ。まあ水の国、よかったよ』
『いいですよねー、あそこのチーズ使ったピザ的な何かが非常に美味!』
……水の国、明日も行きたくなってきた。
『お前はあっちでマーちゃんを導いてどこまでやったんだ?』
『どこまで、とは』
『人をどれぐらい虐殺したのか、とか』
『あはは、やだなあ。虐殺だなんて。騎士団やらの人たちのアキレス腱だけ切った状態で放置とか、疫病で弱らせて国一つを半壊させるとか? あ、あと視界をシャッフルさせて日常生活に著しい支障をもたらす、とかですね!』
『それって殺してやった方が楽だったんじゃ』
っていうかお前は悪魔か何かか?
『でも勇者が軒並み解決策探り出すんで、尾を引いているのはないはずですよ』
ああ、思い出した。水の国で俺はコイツの指名手配書を見たな。なんでも、今宵のお祭りは疫病からの復活祭だとかで、その元凶と目される櫻井の似てない似顔絵をみんなが焼いてた。
『うん、尾を引いているのはないのね』
『? はいそうですよー』
俺の同僚はやはりサイコパスの類らしい。
『俺、明日は昼間にあっち行くんで今夜はこの辺でな。じゃあな』
そうメールして、休日を迎える準備を整え、寝床に入った。
そして、あくる日の土曜日。俺はついに勇者を殺したことの重大さを知ることになる。
物の例えといっては下の下だが、『向こう』の世界は思った以上にファンタジーをしていた。夜のその『ファンタジー』はなんちゃら祭りの真っ最中で、星明かりの下、眩く目に映る。
「松浦さん、あまり周囲を見渡していると、おのぼりさんみたい、です」
「いや、俺の想像だとさ、もっと平たい土地に城が鎮座してて、もっと地味だと思ってたわけなんだよ。それが、水の柱が神殿を支えているとか、雨がそこから恵まれるシステムとか、あ、何あれめっちゃ美味そう」
「さっちゃんがいないから安心だとは思った、です。でも、松浦さんも男の子、です」
串焼きの水牛ステーキを頬ばっている俺に、マーちゃんはやれやれ感を隠さなかった。『転移の加護』を奪取して以来、俺はこうして毎晩、仕事の後に転移をしては、見聞を広めていた。
バッテリフル充電のスマホが十分間の滞在ビザになっている現状、それほど長居はできないのだが、人間に変装したマーちゃんのガイドを得て、『向こう』を満喫している。感受性鈍麻の呪術が効いているとはいえ、俺の男の子の部分ははしゃいで仕方がなかった。
火の国、風の国、木の国、鉄の国、そして今いる水の国。それぞれがそれぞれに余すところなく特徴を発揮していて、非常に興味深い。
「『こっち』の通貨、貸してもらって悪いね」
「いい、です。協力していただけるなら、ちょっとしたクズ魔石を換金すれば、さして、腹は痛まない、です」
「元の世界に来た時に返させてもらうよ」
マーちゃんへの協力を始めて五日が経った。初めて転移した時は転移酔いでフワついていたが、今はもうぴんしゃんした状態で現実から非現実へと没頭している。
各国の状況を鑑みるに、彼ら住民はさほど魔王軍の侵攻に怯えている、というものではなかった。市場に流通している食料はもちろん、ちょっとした装飾品の屋台まで見たところ、品揃えに問題もなく、さして困っていないようだった。
マーちゃんの言っていたように、魔王軍は無為に人を傷つけないように振舞っているようだ。でなければ、夜間にこのような大騒ぎができるものとは思えない。
「お通夜的な空気もないし、全然住民に圧かかってないな」
「彼らは勇者という存在に寄りかかっている、です。あるいは、寄りかかり過ぎている」
国は勇者を召喚あるいは転生させることで、充分に役割を果たした、とでも言わんばかりに、嫌になるくらい平凡なのだった。こういうの、代理戦争って言うんだっけか。それともただの平和ボケか? いかん、言葉が出ない。
「国は、国防の責務を勇者に託す。その図式の前提は、魔物群が悪である、ということ、です。各国間の関係性は、いかに国益を確保するか、を勇者の進撃具合で取り決めている、とのこと、です」
「じゃあ俺が殺──アレした勇者の国はどうなるんだ?」
「それは、また明日赴く、です。拳の国、です」
十分間の現実逃避が終わり、俺はスマホにたまった勇者ユウキくんの相談メールを返信し始める。バッテリが完全に尽きると、一旦、俺にとっての現実世界へ戻ることで異世界メール返信機能だけが生きている状態になる。
『あれ以来、仲間が見つかりません、、、』
『いいんじゃないか。初代の勇者だって一人でドラゴン倒してたぞ』
『初代?』
『すまん、俺も聞きかじり。とにかく今の内に実力つけるんだな』
充電ケーブルにつないだスマホで、フリック操作をしていると、一般フォルダにメールが届く。差出人は、櫻井だった。
『それで、今宵のお散歩はいかがでしたかな?』
『挨拶抜きで要件はそれだけか?』
『質問に質問で返すのはバカのやることですよーこんばんわー。っていうかメッセージアプリ導入しましょうよ。メールだとリアルタイム感なくて味気ないです』
俺はメッセージアプリやらの類が苦手だ。いい思い出がない。既読スルーという言葉に代表される、押し付けがましい通信が本当に苦手なんだ。なんなら矢文か伝書鳩でいいとすら思っている。
『その話はもういいだろ。まあ水の国、よかったよ』
『いいですよねー、あそこのチーズ使ったピザ的な何かが非常に美味!』
……水の国、明日も行きたくなってきた。
『お前はあっちでマーちゃんを導いてどこまでやったんだ?』
『どこまで、とは』
『人をどれぐらい虐殺したのか、とか』
『あはは、やだなあ。虐殺だなんて。騎士団やらの人たちのアキレス腱だけ切った状態で放置とか、疫病で弱らせて国一つを半壊させるとか? あ、あと視界をシャッフルさせて日常生活に著しい支障をもたらす、とかですね!』
『それって殺してやった方が楽だったんじゃ』
っていうかお前は悪魔か何かか?
『でも勇者が軒並み解決策探り出すんで、尾を引いているのはないはずですよ』
ああ、思い出した。水の国で俺はコイツの指名手配書を見たな。なんでも、今宵のお祭りは疫病からの復活祭だとかで、その元凶と目される櫻井の似てない似顔絵をみんなが焼いてた。
『うん、尾を引いているのはないのね』
『? はいそうですよー』
俺の同僚はやはりサイコパスの類らしい。
『俺、明日は昼間にあっち行くんで今夜はこの辺でな。じゃあな』
そうメールして、休日を迎える準備を整え、寝床に入った。
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