23 / 122
23話 『小屋に灯る、迎えの明かり』
しおりを挟むヴーヴー。
床の上に転がったスマホが震えている。手に取り、画面を見る。菫からだ。
「菫さんから電話きた」
「早く出てください!!」
通話ボタンを押すと、すぐにあちらの焦った声が飛び込んできた。
『もしもし!! 坊ちゃんですか?! 水都さんもそこに居ますか?! お二人とも無事ですか!?』
「ああ、ごめんね。すぐに連絡しなくて。僕たち、今小屋にいて……昨夜の雨がひどくて、避難していたんだ」
『昨日、お二人が居なくなって、すぐに探しに行く手筈だったのですが、雨がすごくて探しに行けず、申し訳ありません』
「大丈夫だよ。こっちは僕も水都も無事だから」
ちらりと水都を見る。首を傾げ、僕を見て、にっこりと笑った。可愛い。そっと腰回りに腕を回し、膝の上に抱き寄せた。
「ちょっ!!」
「僕も水都も雨で全身びしょ濡れなんだ。少し暖まりたいからお風呂の準備をお願いしたい」
『かしこまりました』
水都のTシャツの下に手を忍ばせ、腹筋の割れ目を指先でなぞる。腹筋がびくりと震えた。可愛い。
「あっ……」
「しぃ~~……」
「~~~~っ」
『では、今からお迎えに行きますので、しばらくお待ちください』
「わかった」
ぷつ。
通話を終えた瞬間、水都が振り返り、僕の頬を両手で引っ張った。
「こんの!!! 破廉恥御令息!!!!」
「いたぁい~~」
「電話中に変な声出させるな!!!」
「もう~~離して? 勝手に変な声出したのは水都でしょ。ほら、そんな格好で菫さんに会うつもり? えっちしたのがバレバレだよ」
「なっ!!!」
僕の頬からパッと手を離すと、膝から下りて、水都が着替え始めた。僕も着替えないとね。穿いてきたズボンに手を伸ばし、湿ったズボンに足を突っ込んだ。
*
それからしばらくして、小屋の外に車のエンジン音が響いた。
「来たみたいだよ、水都」
「やっと帰れますね!」
乾き切らない洋服は身体に張り付き、肌寒さを感じる。でも、乱れは綺麗に整えたし、寝癖のついた髪もなんとか直した!!! ソファも綺麗に拭いた!!!
これで、ここで何があったかなんて誰も分かるまい!!!
ドアの向こうから何人かの話し声と足音が聞こえる。迎えが来たのかな? 扉がギィイと鈍い音を立て開くと、菫や社長達が安堵した表情で立っていた。
後ろには他の従業員の姿も見える。菫がドアから入るなり、駆け寄ってきて、俺たちを軽く抱きしめた。
「坊ちゃん!! 水都さん!! ご無事で良かった……」
「大丈夫だよ」
「あぁ、坊ちゃん。お顔にお怪我をされて……」
「こんなの擦り傷。すぐ治る」
「水都さんもご無事でなにより」
「はい!!」
あ、社長さんだ。今思えば社長さんが面接してくれるってすごいなぁ。当たり前か、自分の屋敷で働いてもらうんだもんね!
そんなことを考えていると、社長さん…所謂、旦那様が俺たちに近づいて来た。
「綾明~~、心配したぞ?」
「あ、そう(僕のことが心配なら少しは家に帰ってきたらどうなんだ)」
「冷たいなぁ~~。水都くん、面接ぶりだね。仕事は慣れた?」
「え? あ、はい……慣れました(なんか、面接の時と雰囲気が違う)」
突然、社長に指先でとんとん、と首筋を叩かれ、耳元に口唇が近づく。あたたかい吐息が吹きかかり、びくりと身体が小さく震えた。
「斜面から落ちて、小屋で一晩、綾明と過ごしたって聞いたけど、どうやら楽しんだようだね?」
「!!!!!」
「(未来の)じぃじは君のこと応えーー」
「父さん!!! 水都に余計なこと吹き込むな!!!」
社長が綾明に首根っこを掴まれ、俺から引き剥がされた。じぃじ? いや、まぁ、年齢的におじさんか? 何を言いかけたのだろう。
「二人とも無事だったようだから、とりあえず、別荘に戻ろうか。雨で濡れてるみたいだし。体、冷えてるだろう? 二人とも顔色悪いよ。今すぐ温かいシャワーを浴びた方がいい」
「……そうだね」
「もちろん、二人で一緒にな!」
「もう、黙ってくれ……クソ親父……」
はぁ、と溜め息を吐いて、片手で額を押さえる綾明を見て、思わず笑ってしまう。綾明さんが振り回されている。しかも、お父さんに。
家に家族が帰ってこなくて、寂しい思いはしていたのかもしれない。だけど、お父さんは綾明さんのこと、ちゃんと愛しているんだなぁ。
……羨ましい。
力なく微笑み、二人の光景をただ、見つめた。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
別荘へ戻ると、すぐに従業員の家族たちが、タオルと温かい飲み物を用意してくれた。みんなが優しくて、あたたかくて。無事に戻って来られたことにホッとする。
しばらくすると、菫が俺と綾明さんをゲストルームへ案内した。
「水都さん、今日はこの部屋をお使いください。少し熱っぽかったと伺いました。今は何より身体を暖めてください」
「ありがとうございます」
菫の言葉に頷くと、後ろから綾明が俺を抱きしめた。
「……僕も一緒に」
「何を一緒に?」
「そのままだけど?」
振り返り、綾明を見る。少しだけ顔を伏せながら、けれど真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。それって、一緒にお風呂入りたいってこと?!
一緒にお風呂なんか入ったら……『水都……全部丸見えだね…』『あっ…だめっ…』(※妄想)ぁああぁあっ!!! むりっっ!!!
「だって、ひとりにして、急に熱が上がって倒れたら、誰が水都に気づくの? ちゃんと水都のこと見ていないとね」
「あっ、ぁあね!! 大丈夫です!! 俺、元気ですから!!」
「だーめ。心配だからそばにいる」
「結構です!!!」
一瞬でも、えっちな想像をした自分が恥ずかしい!!! でも、綾明さんのことだから、建前上、優しい気遣いをしている可能性は十分、ある!!!
ここで受け入れた場合、優しい仮面が剥がれて、獣属性、破廉恥御令息スキルを発動するに違いない!! そんな手に乗るもんか!!
「何を警戒しているの? み~~つ、こっちを向いて?」
「やだ!!!」
「あらあら、少し離れた間に随分仲良くなったようですね。ふふっ、それでは、お邪魔虫は退散しようかしら」
「なっ!!! 菫さん!! 待って!! 違う!!」
菫がふっと笑って、「ごゆっくり」とウインクして部屋を出ていった。菫に向かって手を伸ばすも、ぱたん、とドアが閉まる音がして、部屋に綾明とふたりきりになった。
「ふたりになっちゃったね?」
「……そうですね」
「じゃあ、一緒にお風呂入ろうか」
「ほらぁ!!! やっぱり!!! 一緒には入りませんから!!!」
「主人の誘いを断るの?」
「その言い方はずるいですよ!!!」
一緒にお風呂なんか入ったら、また身体がへんになっちゃう。後ろから抱きしめて離れようとしない綾明を、ずりずりと引きずりながら浴室へ向かった。
27
あなたにおすすめの小説
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~
大波小波
BL
フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。
端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。
鋭い長剣を振るう、引き締まった体。
第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。
彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。
軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。
そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。
王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。
仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。
仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。
瑞々しい、均整の取れた体。
絹のような栗色の髪に、白い肌。
美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。
第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。
そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。
「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」
不思議と、勇気が湧いてくる。
「長い、お名前。まるで、呪文みたい」
その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる