フラワー・マリッジ ― 咲かぬ花嫁は、王のために咲く ―

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

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第一章 本物の婚約

第十三話 『お姫様抱っこは王族のたしなみです』

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 リアム殿下は、本当に『丁寧なひと』だ。


 一輪ずつ花を選び、余分な茎を払って、向きを揃え、指先でそっと留めていく。その仕草はまるで、宝石でも扱うように繊細で、真剣だった。


「この組み合わせは、どうかな? 柔らかさと色合いが、君に似合うと思う」


 そう言って差し出された、小さな花束を、俺はぎこちなく受け取る。花の香りとともに、リアム殿下の気配を感じて、ふわりと胸がざわめく。


「綺麗だと思います……!」
「では、この組み合わせで、一緒に作っていこう」


 花芯を揃え、茎を束ね、リボンを選んで結び目を作る。ふたりで一つの形を作る時間が、特別に思えた。指先が触れるたびに、息が詰まり、頬が熱を帯びていく。


「ルイス、リボンはこのくらいの長さでどうかな」
「そ、それで……いいと、思います」


 リアム殿下の声は低く落ち着いていて。けれど、どこか嬉しそうだった。作業中の真剣さと、俺を見るときの柔らかさに、胸がぎゅっと締めつけられる。思わず目を閉じて、深く息を吐く。


 ーーそのとき、リアム殿下が静かに言った。


「君と一緒に作ると、どんな花だって、世界にひとつだけの花になる」


 リアム殿下が微笑んで、そっと俺の手首に触れた。花冠を持つ手と、殿下の手のひらが重なる。まるで花弁をそっと包み込むような、やさしいぬくもりだった。


 その柔らかさに、心までほどけてしまいそうになる。


「まだ、未完成だけど……試しにつけてみよう」


 促されるように頭を差し出すと、リアム殿下は慎重に花冠を載せてくれた。花の香りに、殿下の香気が混じり、胸がどきりと鳴る。


 耳のあたりにかすかに触れた指先が、優しくて、意識がそちらに引き寄せられた。


「サイズはぴったりだ。……綺麗だよ、ルイス」
「……ありがとうございます、殿下」
「まだ飾りを整える作業があるから、君は先に部屋で休んでいてもいいよ」
「え、でも……」


 首を振る俺に、リアム殿下は小さく笑って、花冠をそっと頭から外した。


「……なら、もう少しだけ手伝ってくれるかな?」
「はいっ!」
「この花を、もう少し摘んでほしい」


 リアム殿下に小さな花束を手渡され、俺は温室の奥へ足を向けた。


 色とりどりの花が、陽の光に透けてきらきらと輝いていて。風に乗って届く香りは、甘くて、やさしい。それだけで、胸がほんの少し、あたたかくなる。


 咲き誇る花々の間を歩きながら、ひとつ息を吐くと、ずっと張りつめていた心が、ふと緩むのを感じた。


(……きれいだな)


 差し込む陽の光が心地よくて、ふわりと欠伸が漏れた。


「……疲れたか?」
「い、いえ! 太陽の光をたくさん浴びていると、眠くなるのも早くなってくるというか……」
「……君は、光合成でもしているのか?」
「しないですよ~~!」


 不思議そうに首を傾げる殿下の顔に、思わず笑いが溢れる。摘んだ花を籠に入れて渡すと、リアム殿下が不意に俺の頭を撫で、心臓が跳ねた。


「~~~っ! な、なんですか!」
「花、ありがとう。……眠いなら、ここで休んでいいよ」


 指差された先には、白いカモミールが揺れる小さな花畑があった。招かれるように花の中へ身を横たえると、草の香りと花の匂いが胸いっぱいに広がり、目がとろんと重くなる。


「……ふぁ……眠くなって、くる……」


 まどろみは、花の香りとぬくもりに溶けた羽のようで。瞼の裏に、リアム殿下の笑顔を思い浮かべたまま、そっと眠りに落ちた。


 *


 小さな寝息が、花の間から聞こえる。


 作業の手を止めて花畑へ向かうと、ルイスが無防備に眠っていて。白銀の髪に陽光が降り注ぎ、白いまつ毛が影を落としていた。


 その姿があまりに無垢で、頭を撫でる指先にも力が入らなくなる。


「……ほんとに、ここで寝ているのか」


 呆れ混じりに呟きながら、微かな笑みが滲む。隣に腰を下ろすと、ルイスの瞼がゆっくりと持ち上がった。


「……ふぁあ……でんかぁ……?」
「おはよう、ルイス。君はもう、部屋で休んだ方がいい。日も暮れてきたしね」
「……うん~~?」


 とろんとした瞳で見つめられ、思わず息をのむ。その甘えた声に、胸がきゅうっと掴まれた。


「では……王族としての礼節は守りつつーーお姫様抱っこで連れて帰ろう」
「はあ?!」


 どうやら、私の言葉で一気に目が覚めたらしい。ぱっちりと見開かれた目を、無視するように立ち上がり、ルイスを軽々と抱き上げた。


「わ、わあぁあ!! で、殿下っ! おろしてくださいっ!!」


 細い体が腕の中で暴れ、花の香りがふわりと舞う。その姿が可愛くて、抱きしめる腕に力が入った。


「や、やめてください!! 恥ずかしいです!!」
「寝ぼけているようだから、このまま連れていく」
「もう覚めました……って、ちょっ、待って、ぇええっ……!」


 廊下を歩く足音が響き、温室の光が長く伸びる。すれ違う侍女がそっと笑みを浮かべるたび、ルイスの顔がさらに真っ赤に染まった。


 その恥ずかしさと幸福が混ざる顔が、何よりも愛しく思えた。

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