フラワー・マリッジ ― 咲かぬ花嫁は、王のために咲く ―

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

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第二章 セレスティアの伝承

第二十四話 #『測れぬ想いと、記されぬ罪』

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 ーー王都、高級仕立て店・仮縫い室。


「ルイス様、次は胸囲を失礼しますね」


 職人の手にある細いメジャーが、するりとルイスの胸元に触れた。


 仮縫い室の中は、午後の日差しに満ちていて。高窓から落ちる光が白いカーテン越しに揺れ、淡くルイスの肌を照らす。


 民族衣装の上着は既に脱がされ、透け感のあるインナーを一枚だけ身にまとった姿は、あまりにも、無防備だった。


(……こんな姿、他人に見せるべきじゃない)


 壁際に控えていた私は、胸の内に怒りすら湧く。けれど今、最も理性を試されているのは、自分だと理解していた。


 インナー越しに浮かぶ鎖骨。小さく浮き出ている、胸の尖り。布の上からでも感じ取れる、かすかな体温と匂い。そのすべてがいやらしい。


「……っ、すこし、くすぐったいです……」
「動かないでくださいませ、メジャーがズレますので……」


 胸に沿って慎重にメジャーを引っ張る手元が、わずかに下へずれたその時だった。


「っ……ちょ、ちょっと、そこ……っ」
「ルイス様にはこのインナーは少し緩いですね。なくてもよろしいかもしれません」


 職人がインナーを軽く引いたその拍子に、ルイスの胸の突起がちらりと覗いた。


「あっ……」
「では、続きを測っていきましょう」
「……やめろ」


 低く、思わず声が零れる。職人の動きがピタリと止まった。


「……その先は、私が測る」
「……は?」
「部屋を出ろ。外で待機していろ。ルイスの肌に、他人の手が触れる必要はない」
「ちょっ、殿下っ?!」


 ルイスの目が大きく見開かれる。職人は青ざめ、慌てて退室していく。扉が閉まると、仮縫い室には沈黙が落ちた。


「……っ、な、なにしてるんですか殿下っ!」
「何とは。君が恥じらうからいけない」


 立ち上がり、私は、そっとルイスの背に手を添え、真正面から向き合った。指先で、インナーの布地を摘み、滑らせるように胸元まで捲り上げる。


「ひゃっ……?! や、やめ……っ」


 露わになった胸の先端は、すでに淡く色づき、立っていた。


「……さぁ、胸囲を測ろうか。それとも私に触れて欲しいのか?」
「っ、ち、ちが……っ、早く測ってくださいっ」


 メジャーを巻いたまま、指先で先端にそっと触れる。ルイスが反射的に膝をすくませ、私の胸にしがみついた。


「あっ……、っん、だめっ、そこ、……さわられたら、声、出ちゃ……っ」
「出せばいい。……可愛い声を、もっと私に聞かせてくれ」
「っ……やっ、だめ……、これは、採寸ではありません……っ」
「ならば、測ろう」


 メジャーを片手で扱いながら、もう片方の手でルイスの腰を抱き寄せる。そっと、胸の尖りに口付けた。


「……っ、やぁ……っ、殿下っ……!」


 小さな身体がびくりと震える。潤んだ瞳で肩をすくめるルイスが愛おしくて、下腹に熱が籠る。


「……可愛い。君は私だけのものだ」
「っ……もう……っ、こんなのっ、採寸……できていません……っ」
「はぁ……私はそんなことより、早く君に挿れたいよ」


 そっと耳元で囁くと、ルイスは首筋を赤らめたまま、目を逸らした。


「……次は、ズボンの採寸だな」
「ぜっったいに、職人さん呼んでください!!」


 真っ赤な顔でルイスが拳をトントンと私の胸元に当てる。小さな衝撃が、妙に心地よかった。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー


「だから、殿下はここで待っていてください!」
「私は見ているだけだ。手は出さない」
「さっき出していました!! というか、見られるのがいちばん恥ずかしいんですっ!」


 顔を真っ赤にしたルイスに、背中を押されて扉の方へ追いやられる。その小さな手に押される感触が、なぜか愛おしかった。


「私の花嫁が、どこを測られているか確認する義務がある」
「大丈夫ですっ! 間に合ってます!!」
「……だが、いやらしい目で見る者がいたら……」
「それは殿下だけです! もうっ! 外で静かにしていてください!」


 パタンと扉が閉まり、仮縫い室に残された温もりが遠のく。外で立ち尽くしながら、ぽつりと呟いた。


「……可愛い」


 私の背後で、控えていたザインが腕を組んで歩み出た。


「殿下。あの場で衣服を乱すのは、さすがに不用意かと」
「……心得ている」
「……それでも手を出されたのは、やはり『死の花』の誘惑ゆえですか?」
「……それは違う。ルイスを愛しているからだ」


 仮縫い室の中から、職人の「もう少し腕を上げて」「少々失礼します」といった声と、ルイスの「……あっ、くすぐったい……」という声が漏れ聞こえ、思わず眉がぴくりと動く。


「……お前がルイスを見張っていろ」
「……承知しました」


 ザインは軽く頭を下げ、私を別室へと案内した。


 *


 殿下を『安全地帯』に押し込めると、静かに廊下へ戻った。懐から一枚の文書を取り出す。手元にあるのは、ブランシェ家との婚姻記録の写しだった。


(……やはり、何かがおかしい)


 本来、王族への縁談は外戚か王命によって進むはず。だが、ルイス様の婚約は『特例』として処理されている。


 誰が、どの経路で通したのか。記録上は不自然なほど空白が多い。


「……この縁談を通した者を探る必要があるな」


 静かに呟き、仕立て屋の受付係に一礼すると、外の門まで足を向けた。


 向かう先は、貴族たちの推薦状が集まる大公文書室。王族直属の従者である自分なら、ある程度の閲覧権限を持っている。少し深くまで探れるかもしれない。


(……ルイス様は『身代わりで嫁いだ』ことを隠してはいない。だが、それでもーー)


 『死の花』は王家を滅ぼす、とセレスティアには伝承がある。たとえ殿下が癒されたとしても、花食みの血を継ぐ者として、ルイス様との結びつきは、希望であると同時に災いでもあった。


(……私は、殿下を守らなければならない)


 その思いのもと、小さく息を吐き、呟いた。


「ブランシェ家に縁談を送った者を、必ず突き止める……!」


 その名が明らかになった時、この婚姻が『祝福』か『破滅』かが決まる。その事実を胸に、文書室への道を歩き出した。


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