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第二章 セレスティアの伝承
第四十八話 『ふたりで迎える、最初の朝』 相関図あり
しおりを挟む窓の外はまだ夜の名残を引きずるような淡い藍色で。朝の光が、ゆっくりと寝台のカーテンを透かす。
毛布の下で、俺は殿下の腕に包まれていた。ぬくもりと安心を抱きしめながら、静かに瞬きをする。
夜中、何度も悪夢に揺れかけたけれど、そのたびに殿下の手が背中を撫でてくれた。それがどれほど心強かったか、言葉にできない。
「……おはよう、ルイス」
低く落ち着いた声が耳をくすぐる。後れ毛を払うように額に口付けが落ちた。
「……っ、おはようございます……」
昨夜のことが一気に蘇ってきて、頬が自然と熱を持つ。殿下の指が、そっと頬を撫でた。
「もう少し……こうしていようか?」
甘い囁きに心臓が跳ねる。肩を引き寄せられ、そのまま胸に頬を寄せた。そっと瞼を閉じると、耳元に吐息が落ちてきた。
「っ……あ……ぉ、起きます……っ」
「……私はまだ、こうしていたい」
微笑むような声音と、逃がしてくれない腕に鼓動が早くなる。優しさに満ちた独占が、こそばゆくて甘くて。こっそり殿下の頬にキスをすると、からかうように言葉が続いた。
「唇には?」
「えっ……?!」
くすっと笑う翠の瞳が、物欲しげに唇を指し示す。その視線に、息を詰めた。
「まだ?」
「い、いやっ、それは、その……っ」
頬がまた熱くなる。目をつぶって、そっと顔を寄せた、その瞬間、ガチャリと扉の音が響いた。
「おはようございます! リアム殿下、ルイス様……!」
「……ノックをしろ」
殿下がうんざりしたように小さく息を吐き、仕方なく身体を起こす。入ってきたのは、着替えを抱えたエリオットで。そして、無邪気な笑顔で言った。
「着替えのお手伝いに参りました」
「……そうか。君は、ゆっくり起きてくるといい」
「でっ、でも……」
「いいから。……また可愛い顔で私に抱きついてくれ」
「もぉ……っ、そういうこと言うの、ずるいです……」
抗議するように、殿下の胸元を拳でぽこぽこと叩く。かあっと赤くなった顔で見つめれば、いたずらっぽい笑顔で、今度は頬に口付けが落ちた。
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雨はすっかり上がっていて。宿を出ると、濡れた木々の匂いが鼻をくすぐった。肌寒い風に、マントをぎゅっと胸元に引き寄せる。
「……寒いですね」
袖を握りながら呟くと、背中にふわりと布が掛けられた。リアム殿下のコートだった。
「身体を冷やさないように」
「でっ、でも……リアム殿下が……」
「私は大丈夫だから」
優しい笑みに、昨夜、近づいた心と体の距離が、不意に思い出されて俯く。顔が自然と赤くなる。
(……なんか、いっぱい甘えちゃった気がする……)
自分の中に芽生えた『もっと近づきたい』という気持ちと、『怖さ』がせめぎあう。それでも、隣にいてくれるリアム殿下の優しさが、少しずつ、その境界を溶かしていった。
「……リアム殿下、昨日は……ありがとうございました」
小さな声で呟くと、殿下がくすりと笑った。
「ありがとう、は私の台詞だよ。……ふふ、ここ、痕が見える」
「どっ、どうしようっっ!」
首筋を指先でなぞられて、飛び上がるように慌てる。けれどそんな俺の姿に、殿下はどこか嬉しそうに笑った。
そのとき、馬車の準備が整ったことを告げる、エリオットの声が響いた。
「……では、出発しようか」
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そこからさらに半日。山を越え、川を渡り、小さな街道を馬車で進むと、目的の村が広がっていた。
そこは木造の家が並ぶ小さな農村で。その外れに、石造りの洋館がぽつんと建っていた。どこか厳かで、けれど温かな雰囲気に包まれている。
その屋敷の奥にある温室は、分厚いガラスで覆われており、内部の花々が揺れる影が透けて見えた。
「……あれが、ロジェの家か」
玄関先に現れたのは、背筋のしゃんと伸びた老紳士だった。ロジェに似た穏やかな瞳が印象的で、上質な黒の服に身を包み、静かに頭を下げた。
「ようこそ、遠いところを。……王族の方を迎えるのは、久しぶりのことですな。わしは、ロジェの祖父、エルネスト・アメリックと申します」
「お忙しいところ、すみません。……少しだけ、お時間をいただけますか」
リアム殿下が深く頭を下げると、エルネストは目を細めて微笑んだ。
「頭を上げてください。アメリック家は、花を求める者に門を閉ざしたことはありません。さあ、温室へ。……ゆっくり花でも眺めながら、お茶でも飲みましょう」
その言葉に、張りつめていた空気がふっと和らいだ気がした。
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