フラワー・マリッジ ― 咲かぬ花嫁は、王のために咲く ―

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

文字の大きさ
58 / 83
第二章 セレスティアの伝承

第五十七話 #『夢のつづきを抱きしめて』

しおりを挟む


 胸元に咲いた花が、かすかに揺れていた。肌に残る熱の名残、静寂に響くふたりの鼓動。そのすべてを抱きしめるように、殿下がそっと囁いた。


「……もう一度、触れてもいいか?」


 優しくて、けれど抗えない声色で。拒む理由なんて、ひとつもなかったのに、唇が震えて、返事ができなかった。


 頬に触れた指先が、すっと喉元をなぞる。ひとつ、またひとつ、青い花が咲いていく。綺麗で、眩しくて、なのに少しだけ、胸が苦しかった。


「咲いた君が、あまりに美しいから……もう少しだけ、見ていたい」


 そう言って、殿下が俺の脚の間に身を深く沈める。ゆっくりと、奥を擦るたび、花がまた、ひとつ咲いた。


「やっ……だめっ、んっ……また……っ、あっ、咲いちゃう……っ」
「綺麗だよ、ルイス」


 甘く喘ぎながら縋った腕の内側で、花が次々に開いていく。胸に、腰に、脚に、触れられた場所から花が溢れ咲き、殿下はそのひとつずつに口付けた。


「食ませてもらうよ、ここも……ここも」
「あっ、ん……っ、もぉ、むり、ですっ、もう……っ、だめ、だめぇ……っ」


 食まれても、食まれても、花は途絶えることなく咲き続けて。あまりの気持ちよさに腰が逃げかけるのを、殿下の腕がやさしく支えてくれる。


「……わかっている。君が壊れてしまう前に、やめるよ」


 その言葉に、涙が滲む。嬉しくて、悔しくて、愛おしくて、もう何が何だかわからなかった。咲き乱れた花の中心で、ただ息を震わせながら、殿下の腕に身を預けた。


「……眠ろう。もう十分、愛を咲かせたから」


 耳元に届いたその声とともに、そっと頬に口付けられる。額と額が重なり、あたたかいぬくもりが溶け合った。繋がっていた場所が離れると、少しだけ、寂しく思えた。


 花の香りに包まれながら、殿下の胸の中で、目を閉じる。眠る直前、咲いていた花が、かすかにしぼんでいくのを感じた。


 けれどそれは、終わりではなくて。咲いた証を胸に残したまま、ふたりだけの夜は、静かに朝へと溶けていった。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー


 朝の光が、カーテン越しに差し込んでいた。やわらかな陽が寝台を照らし、白いシーツと、散りかけた花びらが縁を描いている。


 殿下の腕の中で、ゆっくりと目を開けた。肌に触れるぬくもり、胸の鼓動、頬に落ちる髪。そのすべてが愛しくて、まるで夢のようだった。けれど、これは確かに現実で。


 俺たちのあいだに咲いた花は、透けるように淡くなりながら、静かにその役目を終えようとしていた。


「……おはよう、ルイス」


 目を細めた殿下が、額にそっと口付ける。熱はもう引いているはずなのに、顔がふわりと熱くなった。


「……おはようございます、殿下……」


 かすれた声に、自分でも驚く。喉も胸も甘く痺れていて、昨夜の感触が、身体の奥にまで染み込んでいた。


「……声が掠れている」
「そっ、それは……っ、殿下が……!」
「なに? そんなに気持ち良かった?」
「~~~っ!」


 頬がかあっと熱くなる。殿下がくすくす笑いながら、指先で胸元をなぞった。昨日の余韻がまだ残っていて、体がびくりと跳ねる。


「あっ……」
「可愛い。朝から抱きたくなってしまう」
「や、ぁっ……だっ、だめっ……!」


 殿下の手が、腿に触れたーーそのときだった。扉の向こうから、ノックの音が響いた。


「失礼します、リアム殿下。朝食のご準備が整いました。お迎えにーー」


 ゆっくりと開いた扉の隙間から、エリオットが現れる。そして俺を見るなり、動きを止めた。


「…………」


 その瞳が、まっすぐ俺を見つめたまま、かすかに震えていた。


「……花が……こんなに……なんて、お美しい……」
「……え?」
「神が……神がおられるのかと……!」
「ち、ちが……ちがいます……っ!」


 反射的にシーツを引き寄せると、エリオットはふいと目を逸らし、咳払いをひとつした。


「……ご無礼をいたしました。ご朝食は、後ほどでよろしいですか?」
「あぁ、そうしてくれ。まだルイスに触れていたい」
「い、いやっ、今っ、今食べますっっ!」


 俺の声も虚しく、エリオットがにっこり微笑むと、すっと扉を閉じた。


「……ふ、触れていたいって、もうっ……」
「もう一度咲かせたいくらいには触れたい」
「だっ、だめですっっ!!」


 布団にもぐると、殿下が笑いながら俺を引き寄せた。その胸の中は、昨夜と同じぬくもりに満ちていて。俺はきゅっと目を閉じた。


 朝は来たのに、夢はまだ、醒めていないみたいで。もう少しだけ、この胸の中にいたくて、俺はそっと、顔を埋めた。

 

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐
BL
 悪逆の限りを尽くした公爵令息を断罪しろ! そんな貴族たちの声が高まった頃、僕の元に、冷酷と恐れられる王子がやって来た。  その男は、かつて貴族たちに疎まれ、王城から遠ざけられた王子だ。昔はよく城の雑用を言いつけられては、魔法使いの僕の元を度々訪れていた。  ひどく無愛想な王子で、僕が挨拶した時も最初は睨むだけだったのに、今は優しく微笑んで、まるで別人だ。  出会ったばかりの頃は、僕の従者まで怯えるような残酷ぶりで、鞭を振り回したこともあったじゃないか。それでも度々僕のところを訪れるたびに、少しずつ、打ち解けたような気がしていた。彼が民を思い、この国を守ろうとしていることは分かっていたし、応援したいと思ったこともある。  しかし、あいつはすでに王位を継がないことが決まっていて、次第に僕の元に来るのはあいつの従者になった。  あいつが僕のもとを訪れなくなってから、貴族たちの噂で聞いた。殿下は、王城で兄たちと協力し、立派に治世に携わっていると。  嬉しかったが、王都の貴族は僕を遠ざけたクズばかり。無事にやっているのかと、少し心配だった。  そんなある日、知らせが来た。僕の屋敷はすでに取り壊されることが決まっていて、僕がしていた結界の魔法の管理は、他の貴族が受け継ぐのだと。  は? 一方的にも程がある。  その直後、あの王子は僕の前に現れた。何と思えば、僕を王城に連れて行くと言う。王族の会議で決まったらしい。  舐めるな。そんな話、勝手に進めるな。  貴族たちの間では、みくびられたら終わりだ。  腕を組んでその男を睨みつける僕は、近づいてくる王子のことが憎らしい反面、見違えるほど楽しそうで、従者からも敬われていて、こんな時だと言うのに、嬉しかった。  だが、それとこれとは話が別だ! 僕を甘く見るなよ。僕にはこれから、やりたいことがたくさんある。  僕は、屋敷で働いてくれていたみんなを知り合いの魔法使いに預け、王族と、それに纏わり付いて甘い汁を吸う貴族たちと戦うことを決意した。  手始めに……  王族など、僕が追い返してやろう!  そう思って対峙したはずなのに、僕を連れ出した王子は、なんだか様子がおかしい。「この馬車は気に入ってもらえなかったか?」だの、「酒は何が好きだ?」だの……それは今、関係ないだろう……それに、少し距離が近すぎるぞ。そうか、喧嘩がしたいのか。おい、待て。なぜ手を握るんだ? あまり近づくな!! 僕は距離を詰められるのがどうしようもなく嫌いなんだぞ!

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで

月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆ 辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。 けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。 孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。 年齢差、身分差、そして心の距離。 不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

王宮魔術師オメガは、魔力暴走した王子殿下を救いたい

こたま
BL
伯爵家次男のオメガで魔術師のリンは変わり者として知られている。素顔を見たものは少なく、魔力は多いが魔力の種類が未確定。いつも何か新しい魔道具を作っている。ある時、魔物が現れ、その魔術攻撃を浴びた幼馴染のアルファ王子クリスが魔力暴走を起こしてしまった。リンはクリスを救おうと奔走するが、治癒の為には…。ハッピーエンドオメガバース、魔法ありの異世界BLです。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...