魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-40 ブレイダー(2)

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―――陣の世界。
以前は気絶してしまったが、今回はしっかりと気を保つことが出来ていた。
魔法化した瞬間、光に包まれ、身体が吸い寄せられたかと思えばチカチカと眩い魔力の煌きの中をひたすら流れ続け、やがて生成される床と壁。

魔剣士「…」

天井は相変わらずの吹き抜け状だったが、足場は鏡というよりクリスタルのように美しく、壁も同様に七色の光を放つ透明なのに色づいたような不思議な光の世界であった。

魔剣士「……ふぅ、お前も来たのか!」
ウィッチ「今の私は貴方と一心同体なんだから仕方がないでしょう」
魔剣士「そうだったな。つかお前、ずっと具現化していられるのか?」
ウィッチ「魔剣士が具現化するイメージを続けている限りはね。それと、この世界は魔法に成り立つ世界だから…具現化というより実体化しているのに等しいかもしれないわね」

手を伸ばし、魔剣士の髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。

魔剣士「おま、やめろって!」
ウィッチ「フフッ、同じ存在同士だとこうやって触れられるのに。生きているのと変わらないのに、死んでいるなんて不思議な感覚ね」
魔剣士「……そういうなよ」
ウィッチ「ごめんなさい、どうしてもまだ納得が出来なくて。だけど、こうやっていられるのは凄く嬉しいから」
魔剣士「分かってるよ……」

嫌というほどに伝わる、哀しい感覚。魔剣士は口を尖らせつつも、撫でるその手を払いのけることはなかった。
そして、そろそろ出発するかと右足を踏み出したのだが……その時。

"ヒュウウッ!"
何か降ってくるような擬音が、空のほうから、どこかで聞いた叫び声と共に耳を貫き――…。

魔剣士「むぎゃっ!!?」

"ずどぉん!!"
魔剣士の身体は何かに押しつぶされ、声にならない声をあげた。

ウィッチ「あらあら……」
魔剣士「な、何だ一体コラァ!!」

勢いよく起き上がると、上に乗っかっていた"それ"は吹き飛び、転び、また「痛いです!」と叫んだ。

魔剣士「痛いですって……って!…ってっ!?はァ!?」
ブレイダー「うぅ…、な、何が……」

そこにいたのは、誰が予想したか"ブレイダー"であった。

魔剣士「テ、テメ…!どうしてここにいやがる!?」
ブレイダー「うぅ、どうしてって、光に包まれたと思ったら何故かここに……」
ウィッチ「ふぅむ……」

威嚇する魔剣士、怯えるブレイダー、考察するウィッチ。
かなり異様な光景だったが、最初に動いたのは考察を終えたウィッチだった。

ウィッチ「やっぱり、か……」
魔剣士「あん?」
ブレイダー「ど、どうかしたのですか…?」

ウィッチはブレイダーに近づき、"クン"と匂いを嗅いで言った。

ウィッチ「魔剣士の攻撃を受けた時、著しく魔法化が進行したみたいね。以前、アサシンにもやられたように極度の発症した術者の魔法を受けた時、覚醒する手段になるみたい」
魔剣士「はぁ!?じゃあやっぱりそいつは魔法化の技術を!」
ウィッチ「……でもその感覚はない。前も今回も、ブレイダーが陣世界に入ったのはあくまでも魔剣士の術に感化されて反応したっていうか、自分でなれるようなものではないはずよ」
魔剣士「そ、そうなのか……?」
ウィッチ「ブレイダーが発してる魔力は確かに無造作かつ私に類似してるけど、レベルは違う。何がきっかけて産まれるか分からない卵のような状態ね」
魔剣士「危険な存在ってことだが、何をするわけでもなければ産まれることはないと?」
ウィッチ「そういうことね」
魔剣士「ふぅ、そうか……」

一旦落ち着き、抜こうとした剣から手を離す。
ブレイダーは右往左往し、ここはどこですかと繰り返し質問した。

魔剣士「ここは魔法の世界だよ。人間じゃない人間しか来れない、不思議な世界っつーのかな」
ブレイダー「え、えぇ!?人じゃない人!?」
魔剣士「だから何度も言ってんだろうが。お前は強く、力を得て、更に力を得ようと妹を殺しかけたってな」
ブレイダー「うっ……」
魔剣士「早く立てよ。さっさとこの道を歩いて出口に向かわねーといけねーんだ」
ブレイダー「わ、分かりました……」

魔剣士の言葉にブレイダーは立ち上がり、歩き始めた二人の後ろをよたよたと着いていった。

魔剣士「……しっかし、不思議な空間だよなぁ」
ウィッチ「そうね。ここは全てが魔力で彩られた、魔力そのものでできた世界。普通に生きている人間は絶対に見ることが出来ない光景ね」
魔剣士「現実世界と鎖のように繋がってて、この壁もセージが描いた墨絵のもんなんだろ?不思議だよなー……」

七色を輝きを放つクリスタルの壁に触れると、"しゃんしゃん"と音をたて煌く光が破裂しては消え、幾重にも輝きを生む。
元々魔剣士とウィッチの魔力で生成された世界だからか、まるで祝福の音のように聞こえた。

魔剣士「綺麗だな。これの全てが、俺とお前の魔力でできているのか……」
ウィッチ「私を口説いているの?」
魔剣士「ばっ、ちげぇよ!!」
ウィッチ「フフッ、冗談よ」

笑みを浮かべるウィッチの心は、どこか嬉しいのだと魔剣士の心と共感をしあった。

魔剣士「ま、まぁさて急ぐか!時間の経過も分からんし、のんびりやってたらセージに怒鳴られるしな……」

向きを変え、今度こそ出口に向かうぞと意気込む魔剣士。
しかし、何者にも干渉しないはずのこの世界で、ふいに現れた強い"魔力"の存在に、反応しないわけがなかった。

魔剣士「―――何だっ!」
ウィッチ「強い、この魔力は……!?」
ブレイダー「な…何か…、悍ましい何か……感じる気が……!」

全てを忘れているブレイダーにすら感じ得た魔力。
……いや、違う。全てを忘れていたというのは語弊になるだろう。

ブレイダー「う…!あぅっ、うぅぅうっ!!?」

この魔力は、本来、彼にとって重要な存在であるものだからだ。

魔剣士「どうした!?」

徐々に近づいてくる強烈な魔力は、ブレイダーの頭を痛める。

ウィッチ「待って魔剣士!こ、この魔力は……!」

そう、彼は"ここ"に居たのだ。

ブレイダー「い、痛いっ!!痛いぃぃいっ!!」

誰が考えただろうか。

魔剣士「そういう…ことかよ……!」

彼、ブレイダーが記憶を失った理由がそうであったと、誰が考えただろうか。

ウィッチ「さすがにこればっかりは、予想できなかった……!」

やがて、強烈な魔力を発しながら目の前に降り立った"彼"は、笑いながら言った。
「ようやく見つけた、僕の身体」と。

魔剣士「……ッ!!」

両手を拡げ、歓迎の挨拶。憎たらしい笑みと、人をなめたような態度。彼こそ、魔剣士が警戒し続け、殺そうとした本人。

魔剣士「……ブ、ブレイダーッ!!!」

現れた男こそ、本物のブレイダーの"意識"であった。

ブレイダー「ぼ、僕がいる!?」

そこにいたのは瓜二つ、全く同じ身体を持つ、謎の存在。現実世界に身体を持つブレイダーは驚きを隠せず、恐怖に後退した。
すると、意識のブレイダーは「君は僕じゃない」とため息を吐いたあとで、その名を言った。
「君の名前はリヒトだ。僕の身体に宿る、魔力の存在だよ」と。

リヒト(ブレイダー)「えっ!?」
魔剣士「リヒトっていうのか……!」
ウィッチ「光の名…か……」

一同の注目はリヒトに集まるが、当の本人は理解が出来ていない。

リヒト「ど、どういうことですか!?」
ブレイダー「だから言ってるでしょ。君は僕の身体に宿る意識人格なだけで、君は君じゃないんだ」
リヒト「何を言ってるんですか!?」
ブレイダー「……あぁもう、話が通じないなぁ。そこの魔剣士クンと、美人のお姉さんはよっぽど分かっているみたいだし聞いたら?」
リヒト「魔剣士さんとウィッチさんが!?」

目線を合わせ、教えてくださいと二人に訴えた。
先に口を開いたのは、現在の状況把握を終え、考察まで済んだウィッチであった。

ウィッチ「ブレイダー……、いえ、リヒト……」
リヒト「は、はい!」
ウィッチ「正直、私は勘違いをしていた。貴方は本来、いるべき存在ではない意識なの」
リヒト「だから…、それはどういうことですか!?」
ウィッチ「貴方はそこにいるもう一人の自分に殺されている。貴方は本来、リヒトという人間であって、ブレイダーではない」
リヒト「い、意味が分かりません!!」
ウィッチ「……闇魔法という存在は知っている?それは覚えている?」
リヒト「え、えぇ…!禁忌の術であることくらいは……!」

パニック状態に陥ったリヒトに対し、ウィッチは一から説明を行った。酷ではあったが、リヒト自身は闇魔法の糧に殺されていることを含めた全ての真実を。

魔剣士「…っ」
ブレイダー「ふふん……」

その間、魔剣士とブレイダーはにらみ合う。

魔剣士「ブレイダー、テメェの本来の意識はここにあったのか……!」
ブレイダー「どうやらセントラルの地下で、この世界に引き込まれちゃったらしいね。やっと感じた出口もすぐに封じられて焦っていたけど、急激な世界の変化に再び現れた君たちから推測するに何かの試験的なものを行っているのかな?」
魔剣士「……変に良い勘しやがって!」
ブレイダー「まぁどうでも良いよ。ここから出る算段と、僕の身体がやっと来てくれたからね」
魔剣士「…」

今までならすぐにでもブレイダーに飛びかかっていただろうが、魔剣士は"不思議だ"と何か考え、足を止めていた。

魔剣士(……クソ憎たらしい性格から本物だってわかるが、この人格は本物なのか?)

以前、魔剣士の精神世界で現れたアサシンは本物から一部分離した存在であった。
もしかすると、同じような現象で、このブレイダーも精神の一部だけ分離して現れただけではないかと考えたのだ。

魔剣士(だとしたら、このブレイダーも殺したあと…やっぱりリヒト自身も…………)

……殺すしかないのだろうと思った。
しかしその時、魔剣士の心に"ウィッチの声"が響く。

ウィッチ(魔剣士、今、リヒトの中にブレイダーの存在は感じないのが分かった)
魔剣士(……何だって?)
ウィッチ(この世界は私自身で創られているから、リヒト…ブレイダーの身体を探った。その結果、一部じゃなく完全に分離をしているのよ)
魔剣士(……有り得るのか?それじゃ、闇魔力を抑える生命の幹として成り立たないんじゃねえの?)
ウィッチ(それなんだけど、彼と会ってから"闇の力"を感じることはあった?)
魔剣士(いや、無いが……まさか!?)
ウィッチ(そう…、彼はリヒトとしての魔力しか有していない。闇魔力は生命の幹を活性化させなければ成り立たないから、今はブレイダーとリヒト、それぞれに分離をしているの)
魔剣士(どうしてそんなことが……)
ウィッチ(この世界は魔法でできた世界だとしても、私や魔剣士の魔力によって成り立った世界。そのおかげで私たちは分離もせず、身体を失わずに済んだけど、干渉できないブレイダーは表の人格をもぎ取られてしまったんだと思う)
魔剣士(じゃ、じゃあもしかしたらリヒトはリヒトとして生きていけるのか!?)

心の中で、ふるふるとウィッチは首を横に振る。

魔剣士(ど、どうしてだ!?)
ウィッチ(そうだとしても、それは彼が受け入れない。自分は自分ではない存在だと知って、それを受け入れることは出来る?)
魔剣士(……俺がブレイダーの身体で蘇ったら、絶対に嫌だな)
ウィッチ(それが人間でしょう。受け入れることは決してできないと思う。普通はね……)
魔剣士(じゃあやっぱり……)
ウィッチ(ううん、それも含めて私は彼を説得してみる。それにちょっと、気になることもあってね)
魔剣士(ん、気になること?)
ウィッチ(うん、だけど今は……、あっ!目の前!!)
魔剣士(んっ!?)

ふと、魔剣士の顔前にはブレイダーの放った巨大な拳が音をたてて迫っていた。

魔剣士「ぬぉあっ!?」

上体を逸らし、寸前で避ける。
「……おっと」
驚いたブレイダーは「やるじゃない」と笑った。

魔剣士「あ、あにすんだテメェ!!」
ブレイダー「どのみち、戦うことに変わりはないでしょ?」
魔剣士「だとしてもなぁ!?」
ブレイダー「不意打ちが卑怯だとでも?馬鹿なの?」
魔剣士「テ、テメェ!!」
ブレイダー「僕の剣はいつの間にかなくなってたし、拳で戦うけど、君は特別にハンデで剣を使ってもいいよ」
魔剣士「うっぜぇぇ、マジでうっぜぇ、本気でぶっ殺す!!俺だって剣を使わずともテメェをぶっ殺すことくらい!!」

剣を投げ捨て、拳を構える。
ウィッチは「挑発に乗っちゃだめじゃない!」という言葉にも、「これが俺の流儀なんだよ!黙れ!」と一掃した。

ウィッチ「はぁぁ……」
リヒト「あ、あはは……、熱い人なんですね、魔剣士さんは……」
ウィッチ「馬鹿っていうほうが正しいけどね…。それより、説明は理解してくれたかしら?」
リヒト「あ、は、はい…。僕は僕じゃなくて、そこの人が本物なんですよね……?」
ウィッチ「理解し難いかもしれないけど、もう一度ハッキリ言うとあなたは死んでいる存在なの。たまたま分離してこんな状態だけど、そこにいるブレイダーの思念は身体を取り戻そうと魔剣士と戦い始めたということで……」
リヒト「……分かりました。だけど僕はどうしたらいいんでしょうか。僕、何も覚えていないんです。身体を返したほうがいいんでしょうか…?」

ブレイダー、もといリヒトにとって目覚めた時にはベッドの上で激痛に悶え目を覚ましただけ。しかも、自分の存在を忘れ、流れるままにこの世界に入り込み、目の前には本人が身体を取り戻そうとしている。こんな現状で、どうしたら良いのか分かるはずもなかった。

ウィッチ「貴方はそれを知って、身体を返したいと思うの?」
リヒト「身体を返したら、ぼ、僕という存在はどうなるんでしょうか……」
ウィッチ「自我はなくなり、暗闇に戻る。次に目覚めることはもうない」
リヒト「えっ!?」
ウィッチ「私もそうなの。貴方と一緒で、ただの思念体なのよ」
リヒト「ウィッチさんも…思念体?あ、あははっ……、嘘ですよね?」
ウィッチ「嘘じゃない。私は魔剣士に宿る思念体で、本当の私はずっと前に亡くなっている。記憶の意識という存在、ただ、それだけ……」
リヒト「で、でも一緒にいますよね!僕もそうやって、生き続けることだって!」
ウィッチ「魔剣士は、私を必要だと…二度と怖い想いをさせないと決心してくれたから。だけど、ブレイダーは破壊者。邪魔になる存在は消されてしまう」
リヒト「僕は闇に消えるってことですか……」
ウィッチ「だけど、助かる可能性はある」
リヒト「……本当ですか!?」

ウィッチの言葉に、顔を明るくするリヒト。だが、器に入るべき人間ではない意識が身体を手に入れるには、相応の覚悟が必要だった。

ウィッチ「リヒト、貴方には覚悟はある?」
リヒト「覚悟ですか?」
ウィッチ「今の貴方は魔剣士の魔力に溺れ、本来の人格を剥がされ、ショック症状で記憶を失い、意識と自我だけが残っている状態だと思う。ここまで分かれば、あとは……」
リヒト「あ、あとは…?」
ウィッチ「この魔力で満ちた世界なら、治癒を行うことで全てを思い出すはず」
リヒト「……僕の記憶がよみがえるんですか!?」

嬉しそうに言うが、ウィッチは憐れむような瞳で静かに返す。話の最初に言った「覚悟」という言葉の真意を伝えなければならない。

ウィッチ「……ごめんなさい」
リヒト「ど、どうして謝るんですか?」
ウィッチ「今の今まで、私は貴方が記憶を失ったうえに別の人格そのものだと思わなかったから、魔剣士が貴方に言った言葉の全てが突き刺さっていたんだって思うと凄く申し訳なくて……」
リヒト「いえ…!だ、大丈夫です!」
ウィッチ「そう…、ありがとう。でも、貴方の記憶をよみがえらせることは、私の謝罪だけじゃ足りないかもしれない。言ったでしょう、覚悟がいると……」
リヒト「そういえば、その覚悟っていうのは……」
ウィッチ「私たち"思念体"の記憶は、全て主である表の人格と全て共有される。だから、つまり……」

ブレイダーの行動の全てが記憶として刻まれる。蘇る。それはブレイダーが抱く感情も、幼き頃からの古い記憶すらも。

ウィッチ「勿論、貴方が殺されていく姿を、殺した本人であるブレイダーの視点から見ることになる。それも、自分がブレイダーに殺された時に視点と一緒に……」
リヒト「そ、それは……!」
ウィッチ「言葉は悪いけど、貴方は弱い。痛みも怖いし、勇気もない。人に頼り切りで、この全てを受け切ることが出来ないと思う」
リヒト「さ、散々な言われ様ですね…あはは……」
ウィッチ「……だからこそなのよ。自分を見つめないと、記憶を呼び覚ました時、貴方は記憶喪失をするよりも壊れてしまうかもしれないと分かってほしい」
リヒト「壊れるって……」
ウィッチ「だけどこの状況は、貴方に記憶を呼び覚まして貰うことが切り抜ける鍵なの」
リヒト「僕が?」
ウィッチ「今、貴方はブレイダーの身体に自我を持っているけど、本来の人間であるブレイダーの思念に勝てるわけがない。彼がその身体に触れた時、貴方は消滅してしまう」
リヒト「ちょっと待ってください、僕はどう転んでも壊れたり消えてしまう存在なんですか!?」
ウィッチ「そういう運命だったと思うしかない。私はそれを受け入れたから」
リヒト「……そんな!だったら、記憶を戻さないでこのまま世界から脱出することだって!」
ウィッチ「それは無理なの。見て……」

ふと、指先から仄かに輝く一筋の光が、ブレイダーの思念に向かって走っていることに気付く。

リヒト「こ、これは!?」
ウィッチ「ブレイダーの思念と身体が戻ろうとしているの」
リヒト「嘘だ、嘘ですよね!?」
ウィッチ「……そんなことを言っていては、本当に消えてしまう。まだわずかだけど時間はあるから、話を聞いて。貴方を助ける手段がないわけじゃない」
リヒト「う、うぅっ…!ぼ、僕が助かるって、ど、どうすれば!?」
ウィッチ「私たちも、ブレイダーがその身体に戻るのは阻止したい。貴方はその身体で生きていく意志はある?」
リヒト「……あ、あると思います。記憶が戻ってどうとかは分からないけど、きっと、そう思えるはずです!僕は死にたくない!!」
ウィッチ「フフッ、弱い意志も生きるために強くあるということね……」

余裕を見せて笑うが、この世界の1分が現実世界にどれほどの影響があるかもわからない。
また、魔剣士とブレイダーの戦いや、彼が身体を取り戻した時のことを考えると、冷や汗が流れる。

ウィッチ「そろそろ時間もないから、ハッキリ言う。…私たちはブレイダーを身体に戻したくないからこそ、貴方の精神に強い影響を与え、自我を壊すことも問題視はしていない」
リヒト「ひっ!?」

自我を壊せば、ブレイダーの身体を支える"幹"がいなくなって、魔法世界に耐えられなくなり消滅するだろう。その選択も、充分に有りだった。

ウィッチ「だけど、救いたいとも思う。だから……」
リヒト「だから、だから何ですか!?いい加減に長い話をしないで、助かる方法を……!」
ウィッチ「……"それで生きていく!"という、強い意志がなければならない」
リヒト「そ、それって……」
ウィッチ「さぁ、頭を出して。私が治癒をかけて、記憶を呼び覚ます。自分が殺されたこと、今までのこと、ブレイダーの全てと記憶を繋げる。それでも、生きたいという意志を貫いて」
リヒト「ちょちょ、ちょっと待ってください!まだ、僕は大丈夫だって……!」
ウィッチ「既に死んだ人間が、再び意志を呼び戻すには、これしかない。お願い、覚悟を決めて……!」
リヒト「う、うぅぅっ!?」

両腕を彼の頭へ触れると、魔力を込め、黄金色の煌きが眩く輝く。瞬間、リヒトの意識は一瞬の暗闇に落ちたが、遠くから光が襲い、ブレイダーの生きてきた記憶の全てが現れる。その速度は尋常ではなく、1年が1秒にも値しない、まるで馬車の窓から見える流れゆく景色のように、しかし、その全てはハッキリと記憶されていった。

リヒト「うっ…!うあぁぁっ!!?う、うぐっ…!ふぅうぅう、ふぐぅうっ!!うぅぅぅううあぁぁっ!!!」

二人の記憶が交差する。見たもの、聞いたもの、触れたもの、味わったもの、快感も、痛みすらも、その全てが一瞬で通り過ぎる。

ブレイダー「……何をやっているんだ!?」
魔剣士「ちっ、気付いたか!」

さすがに大声を出す自分の身体を見て、ブレイダーは気づく。
良からぬことには違いないと、一気に距離を詰めるが、寸前で魔剣士の縮地が勝り、顔面を蹴飛ばされたブレイダーは空を舞う。

ブレイダー「くっ、邪魔をしないでくれるかな!」
魔剣士「お前が邪魔をしているんだよ!」
ブレイダー「それに僕が思念体だというのに、魔法化した身体はよっぽどに便利で…僕もその力が欲しいよ!」
魔剣士「お前にこの力を与えてどうなるか分かったもんじゃねぇ!」
ブレイダー「ククッ、どのみち力を手に入れるには身体を取り戻さないとね!」

空高く飛び、風魔法、足場の展開から急速に落下する。
魔剣士は余裕をもって弾き返そうとするが、目の前でそれが"偽物"だと気付く。

魔剣士「うっ、なんだ!?」
ブレイダー「アディオス、魔剣士くん」

それは火と水、霧を濃くして魔力と練った"偽物"の身体。弾き飛ばしたがそれは"ぱしゃり"と水に変化するばかりで、思念本体を見過ごしてしまった。

魔剣士「さ、さすがに戦闘のセンスは…!ウィッチ、お前のほうに向かっちまった!!」
ウィッチ「……ちょっと待って、まだリヒトの記憶は!」

あとわずかのところで、ブレイダーは身体に迫る。
だが、その時。リヒト以外の三人は「何だ?」と疑問を抱いた。

魔剣士「……どうした?」
ウィッチ「リヒト!?」
ブレイダー「僕の身体で、無様なことは止めてほしいな……!」

リヒトは目を瞑り、涙を流していた。
全身を震わせ、拳を強く握り、嗚咽を発しながらボロボロと涙を流していた。

ブレイダー「……邪魔だよ、美人のお姉さん!」

ウィッチ「あっ!?」

魔剣士「ウィッチ!!」

涙に気を取られたウィッチは、反応が遅れた。
ブレイダーは拳に魔力が込めると、手刀となった腕をウィッチの顔を目がけ振り下ろす。

ウィッチ「……ッ!」

……が、しかし。
その手刀は皮膚を割くことなく、白い魔香の煙を"しゅうしゅう"とあげながら彼女に触れる寸前で止まった。

ブレイダー「何…っ!」

それは、魔剣士が守ったものではない。
唯一、ウィッチのことを守れたのは、近くにいた勇気のない彼だけである。

リヒト「…」

彼、リヒトだけだった。

ブレイダー「ぼ、僕の攻撃を素手で!?」
リヒト「元々は魔力を帯びた一撃に過ぎませんから、魔法には魔法を用いて対することで容易に止められます」

鋭いブレイダーの手刀を、リヒトは素手で受け止めた。
それも容易な様子で、余裕さえも持って。

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