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続章【夢の後先】
禁断の血脈編(前編)
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禁忌の時代、通称「災厄の禁忌」から20年の月日が流れた。
ここ「セントラル王都」では、世界を恐怖に貶め一時代を築きあげた災厄の象徴ハイル王の処刑に伴い、新たなる女王が統治してからは新たな時代の幕開けに長き平和が訪れていた。
「……みんなの笑顔が、溢れる世界でありますように」
新たなる女王は、かつて世界踏破ともいえる冒険を経て、決して相容れぬ国同士だった氷山帝国と砂国と真の平和と懇意を結ぶ。結果として、それが今日の平和の礎を築くことになった。
「フフッ、セントラルの騎士様と結婚するなんて、一昔前じゃ考えられなかったわよねぇ?」
「分かった、分かったから、そう近づくな……」
また、18年前には氷山帝国のマスターとセントラルの聖騎士が結婚したことは世界的に大きな話題を呼んだ。
「セントラルに負けないくらいに巨大な国家?興味は無いわ。私は、セントラルの糧になれる国を作る」
そして、砂国の女王もセントラルの為に尽くすことを発表。その際、現セントラル聖騎士と女王が災厄の一人である"アサシン討伐"に一役買っていたことも、大きな話題となった。
「…」
世界は、目まぐるしく変化していくものだ。
災厄と呼ばれたあの頃は、既に過去。今や世界は誰もが笑顔の素晴らしい世界に包まれている。
―――だが。
「ジイチャン……」
だが、変わらないものもある。
「……オルデンジイちゃん、ただいまぁっ!!」
―――…冒険者の心意気である。
オルデン「戻ったか、フランメ……」
フランメ「ただいま!」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オルデン「世界は、どうだった……?」
フランメ「どうもこうも無いって。世界踏破なんて、簡単だったぜ?」
オルデン「2年も掛かったクセに、生意気な口を利くな」
"ゴンッ!!"
フランメの頭部に、鈍痛が走った。有り余る力で振り下ろされたゲンコツは、身体を床に叩きつけるほどに強く。
オルデン「あ…、お、おっと!スマンな!」
フランメは五体投地の格好でピクピクと痙攣した。
オルデン「お前、思った以上にヤワだったか。よくそれで、世界踏破を成し遂げられたもんだ」
フランメ「うるっさいなー…。予想以上に世界踏破なんて簡単だったって言ってるだろ!」
オルデン「2年も掛かったがな」
フランメ「うっさい!」
フランメは久々に戻った自宅に、持っていた荷物入れを乱暴にベッドに投げ、片手剣を適当に置く。久方ぶりの自分のベッドに横になると、何ともリラックスすることが出来た。
オルデン「こら、ちゃんと片付けてから休まないか」
フランメ「……俺は世界踏破してきたんだぞ!疲れてるし、もっとさ…感動的な会話とかないわけ?」
オルデン「簡単だったんだろう。だったら、片付けくらいやらないか」
フランメ「…はいはい」
ベッドから起き上がったフランメは、投げ飛ばした荷物をまとめる。軽剣は剣立てへ仕舞う。
フランメ「あぁ疲れた…。ちょっと休むよ……」
オルデン「お前、コーヒーは飲むか?」
フランメ「淹れてくれたのなら」
オルデン「分かった。ちょっと待ってろ」
"飲む"と聞いたオルデンは、棚からコーヒーメーカーを取り出し、お湯を沸かし始める。フランメは「出来たら教えて」と言って目を閉じた。
オルデン「……やれやれだ」
お湯が沸くまでの間、オルデンはロッキングチェアに寄りかかり、キィキィと音を立て、窓の外を見つめた。
オルデン(……あれから、16年も経ったか。こいつも、大きくなったものだ…)
ベッドで休むフランメを見ながら、オルデンは自慢の白髭を軽く撫でたあと、彼も目を閉じる。
―――…彼がいるこの場所は。
世界の中心セントラル大地の領地内にある、山奥の小さい村である。
昔は「冒険者の集う場所」として大勢の人々がいたが、新女王の統治が行き届くようになってから随分と立ち寄る冒険者が減り、数え切れない程あった酒場も今は1店を残すのみだ。
オルデン(しかし、時代は変わるものだ。悪いことではない)
世界においては、五大大地の1つである西方大地の大自然には謎も多く、まだまだ夢を見る冒険者はいる。そこで寝ているフランメと同じように"世界踏破"を目指している冒険者だっている。だが、数年前に氷山帝国が発表した錬金術の技術革命や、平和の象徴である騎士団たちが動くようになってからは戦う必要がなくなり、冒険者たちの仕事が減少し、生活のスタイルが大きく変化したのだ。
オルデン(フランメも、父と同じように世界踏破を夢見た。そして、現実にした。父と母、そして私が成し得なかった南方大地まで踏破し、それを叶えてくれた。今は、それで充分だ……)
白髭が目立つ、初老のオルデン。
この男は、16年前までセントラル聖騎士団の団長を務めていた。
しかし、時代の変化と共に自分の役目を終えたと、とある理由から赤子だったフランメを引き取り、立派に育て上げたわけだ
オルデン(夢の後先とは良く言ったものだ。俺は時代の変化に流され、決して抗ったりはしない。寂しい限りだが、今の俺は、せめて老害とは馬鹿にされないように心がける程度で良い……)
57歳を迎えた肉体は、1日1日毎に疲弊していくのが嫌でも分かったが、その前に一目だけでも、我が息子をもう1度、抱きしめることが出来たのならと思うことが日に日に強く……。
フランメ「……おい、ジイちゃん!!」
オルデン「ん、んお……?」
物思いにふけっていると、いつの間にか目の前に怒り顔のフランメがあった。
フランメ「何でジイちゃんまで寝てるんだよ!!お湯沸いてるよ、火事にする気かよ!?」
オルデン「お、あ…、そ、そうか。スマンな……」
フランメ「ちゃんとしてくれよ。全く、よく今まで火事にならなかったなぁ……」
オルデン「……お、老いた害と言われないように心掛けたところで…笑わせてくれる…」
フランメ「え?」
オルデン「いや、こっちの話だ……」
錬金術の技術革命で生まれた、火魔石を利用した火場。ボタン1つで発火と消火が出来る優れものだが、自分は外で薪を利用したほうが楽な辺り、本当に歳を取ったと思ってしまう。
フランメ「……ほら、座れよ。俺がコーヒー淹れたぞ」
オルデン「フフ、優しいなお前は」
フランメ「うっせ!」
たまに見せる優しさと、時折感じる乱暴な言葉遣い。全くもって、フランメの親父と母親を思い出させた。
オルデン「では、頂くとするか」
部屋の中央にある大きいテーブルの椅子に腰掛ける。既に座っているフランメは、"ずずず"とコーヒーを飲んでいたが、苦そうな顔で、無理をして飲んでいるのが分かった。
オルデン「お前、砂糖は……」
フランメ「いらねぇ」
オルデン「……随分と苦そうだが」
フランメ「この苦味がいいんだよ。分かってるだろ」
オルデン「そうか、なら俺も頂こうか」
オルデンも熱々のコーヒーに手を伸ばし、口に運ぶ。しかし、ブラックコーヒーが大好きなオルデンも「うっ!?」と言ってコップを置いた。
フランメ「ど、どうした?」
オルデン「こりゃ苦すぎだ。お湯を熱くし過ぎて、苦味が酷くなったんだ。しかも、挽いた豆と湯量が合っていない上に……」
舌を"んべっ!"と出して、砕いた豆が形あるまま残っていたのを見せた。
オルデン「豆をそのまま食ってるようなもんだ。お前、よく我慢したな」
フランメ「お、おろ……」
オルデンは笑いながら、テーブルにあった砂糖とクリーム、スプーンを「無理するな」と言ってフランメに渡す。自分もいつもより多めに混ぜて、ようやくまともにコーヒーを飲むことが出来た。
オルデン「んむ…」
まだ渋い味がしたが、取り敢えず飲める物にはなった。
オルデン「今度は、コーヒーの淹れ方をきちんと教えないとな」
フランメ「別にコーヒーの淹れ方くらい分からなくても生きていけるっつーの」
ふん、と鼻息を鳴らし苦いコーヒーを飲む。
オルデン「ハッハッハ、そうかそうか。それで、フランメ」
フランメ「ん?」
オルデン「世界はどうだった。楽しかったか?」
テーブルに肘を置いて、顎髭を触りながら尋ねた。フランメはその問いにニヤっと笑い、答える。
フランメ「……面白かったよ。滅茶苦茶、面白かった」
この二人、顔を会わせる2年ぶりだというのに、一切の緊張感も、久方ぶりの再会だということも感じさせない。まるでいつも一緒にいたかのように、何も変わらず、気兼ねなく会話をしていた。
オルデン「最初、どこへ行ったんだ」
フランメ「まずはセントラル領地の南方港。そこから西方大地に船で行った」
オルデン「そこは噂で聞いていたな」
フランメ「何だよ…。じゃあ、西方大地のジャングルで道に迷って、死にかけた話は聞いてないだろ?」
オルデン「あー…、そこも、その後に行った氷山帝国の幹部連からお孫さんは無事ですと……」
フランメ「全部聞いてるじゃん!?」
フランメは「っちぇー」と口を尖らせ、残り少ないコーヒーを一気に流し込む。
オルデン「まぁ、そういうな。しかし、お前が辿った道は……」
フランメ「知ってるだろ。つーか、ジイちゃんが教えてくれたんだろ」
オルデン「あぁ、そうだな……」
かつて、お前の親父が通った道なのだと。
オルデン「結局、俺たちは南方大地に足を運ぶことは適わなかった。だが、お前が叶えてくれたんだな」
嬉しそうに、笑いながら言った。
フランメ「南方大地はただのリゾート地。面白くもなかったけどな」
オルデン「ハハハ、お前の親父も、母親も、喜んでいるに違いないさ」
フランメ「……それならいいんだけどさ。でも、結局は…」
その言葉だけは、下を俯き、悲しそうに言う。
フランメ「父さんも母さんも、会えなかった。やっぱりダメだったみたいだ!」
それでもジイちゃんに辛い顔を見せまいと、苦しそうに笑って言い切る。フランメが若干16歳にして世界踏破を成し遂げた理由は、そこにあった。
オルデン(フランメ…)
もしかしたら、知らぬ親父と母親の姿を追えるんじゃないかと、父と母が通った道を歩んだ。だが、追ったところで、冒険を終えたところで、何も得ることはできなかった。
オルデン(お前の親父も、母親も、お前の存在も…。本当のことは、伝えられなかった……)
お前が、禁忌と呼ばれた人にあらざる魔力の血を紡いでいることを。お前が、世界を納めた王の血を紡いでいることを。
フランメ「俺の父さんも母さんも、死んじゃったんだよな…。でも、道を追ったら、もしかしたら会えるかもって思ってたんだ」
オルデンは、彼には父も母も、生まれて間もなく亡くなったと伝えていた。
誰が、お前の父は禁忌であると言えたものか。誰が、お前の母は禁断の愛としてお前を産んだんだと言えるものか。
オルデン「……フランメ、旅は有意義なものだったか」
フランメ「それは…。どこかで、父さんと母さんの姿を見れるんじゃないかって思ってた。だけど……」
オルデン「足跡を追っても、二人の姿を見ることも…それ以前に影を踏むことは出来なかっただろう」
フランメ「……っ」
フランメは生後間もなくオルデンに預けられ、幼少期、少年期をオルデンと共に過ごした。そして2年の旅を終えた今も、フランメはオルデンを祖父として慕っているが、血の繋がりを持っていないことは、幼き頃に伝えていた。
オルデン「……お前は、可愛い子だ」
フランメ「へ?」
オルデン「俺と一緒に居てくれて、本当に嬉しく思う。有難う」
フランメ「な、何だよ急に!」
急な"有難う"に、恥ずかしくなったフランメは既に空っぽになったコップで飲んだ振りをして顔を隠した。
オルデン「……お前も16になるんだったな」
フランメ「まーな、大人ってやつだ」
オルデン「大人ならコーヒーの淹れ方を失敗したりはしないぞ?」
フランメ「も、もうそれはいいよ!」
ふてくされた顔をして、ため息を吐いた。
オルデンは「ハハハ」と笑いながらも、実は内心、あることについて恐怖があった。それは、彼が旅を終えた時が来たら、あることを伝えるため、今日という日に備えて覚悟を決めていたからだ。
オルデン「……さて、フランメ」
急に真面目な口調になったオルデンは、フランメを見つめた。
フランメ「何だ?」
オルデン「お前に一つ、質問がある」
フランメ「……何だよ改まって」
眉を掻きつつ、言いにくそうに質問をした。
オルデン「お前はこれから、どうするつもりだ?」
フランメ「えと、しばらくは休もうかなって思ってる」
オルデン「そうか。それも良いだろう」
フランメ「うん……」
もうすぐ、日が暮れる。徐々に傾き始めた西日が眩しい。このまま夜になって、明日を迎えて、これからも一緒に暮らせたらきっと幸せなことだ。だが、このフランメは、自分のような老いぼれと過ごすには余りにも大きすぎる。改めて、"それ"を話す覚悟を決める。
オルデン「フランメ、お前の旅についてだがな…教えておくことがあるんだ……」
フランメ「何だ?」
「ンンッ」と咳き込んで、一呼吸置いて話を続ける。
オルデン「……お前が父と母の影すら見えなかったのは、仕方ないことなんだ」
フランメ「な、何?どういう意味だ?」
オルデン「以前に話はしただろう。俺は、お前の父と母と世界を旅していたと」
フランメ「おうよ。だから俺はジイちゃんに教えてもらったルートを通ってさ……」
―――この時代の旅に、何の意味がある。
世界は平和になり、かつて冒険時代と呼ばれた幕は下ろされた。
人と人が戦うことは勿論反対だが、それでも、平和統治された世界に消えて行った冒険者は大勢いる。
オルデン「お前の冒険譚においては、二人の影を踏む以前の問題だ。影すら見ることは出来ないんだ」
フランメ「―――えっ?」
その言葉に、目を丸くする。
オルデン「本当は言うべきか迷っていた。願わくば、お前と一緒に余生を過ごすことが願望でもあるくらいだ……」
フランメ「ジイちゃん?」
オルデン「しかし、お前はこの村に収まる…いや、この世界に収まるべき人間じゃないということだ」
フランメ「待ってくれ、何を言ってるんだよジイちゃん…!」
テーブルを両手で叩き、身を乗り出す。
オルデン「よく聞け。お前の父親と母親は、生きている」
フランメ「……へっ?」
突然の真実。小さな反応を見せた。
オルデン「隠さざるを得ない理由があったんだ。旅を終えた今、お前にはそれを伝え……」
"ドンッ!!"
全てを話そうとした時。フランメは机を飛び越え、オルデンの両肩を掴みそのまま押し倒す。信じられない真実に、動揺を隠すことが出来なかった。
フランメ「ど、どういうことだよジイちゃん…。俺、ジイちゃんにはずっと前に……」
オルデン「親は死んだと話をしていたな。すまなかった……」
フランメ「話をしてくれ!お、俺の母さんも父さんも生きているのか!?」
オルデン「生きている。だがその話をするには、少しばかりこの体勢ではきついのだが……」
フランメ「あ、ご、ごめん……」
両腕をどけ、オルデンに手を貸す。どのような状況でも、身を案じるとは。本当に優しい子だと思う。
オルデン「それで、お前の親についてだが……」
フランメ「う、うん…。俺の母さんと父さんは!?」
オルデン「今から話すことを決して口外するな。お前の両親の存在は、最大の禁忌と破滅を呼ぶからだ」
フランメ「……は、破滅に?」
オルデン「あぁ、よく聞け。そして、決して絶対に誰も言うな。絶対に、必ずだ。約束してくれ」
フランメ「わ、分かった…!分かったから、教えてくれ!」
"どくん…!"
フランメの心臓が、高鳴った。オルデンは目を閉じ、いよいよそれを伝える。
オルデン「お前の母親は……」
フランメ「母さんは…?」
一瞬閉ざした口。しかし、ここまで言って止めることは適わず。
「現セントラル女王の、シュヴァン女王だ」
―――それを、伝えた。
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