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第八章【東方大地】
8-2 急転直下
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――イエロー・ノースポート門外。
三人は奴隷馬車の話を聞いて、港町に一つしかない門から外へと飛び出した。
すると、すぐにアサシン盗賊団の二人が言っていた通り「馬車」がすぐそばに停車していたが、その様子がおかしいことにすぐに気が付いた。
魔剣士「……何だ?」
白姫「何だか様子が……」
猛竜騎士「……不味いッ!!」
馬車の周囲には先ほどのゴルドたちと同じコートを着用した男が複数倒れており、馬車の周りには血だまりと争った形跡があった。更に、馬車の内部からは悲鳴に聞こえ、遠くには別の馬が走り去る姿が見える。
猛竜騎士「魔剣士、剣を抜け!白姫を間に入れて、守るようにして縦に並んで後ろを守れッ!」
魔剣士「お、おう!?」
猛竜騎士はすかさず武器を構えると、先陣を切って馬車へと突撃した。
すると、予想通り"別の賊"が奴隷馬車に対し攻撃を仕掛けた後で、男性はみな切り殺された状態で床に転がり、奥には襲おうとする賊に対し、必死に抵抗する女・子どもの姿が伺えた。
猛竜騎士「やはりっ……!」
魔剣士「うぉっ!?なんじゃこりゃ…!」
白姫「ひ、酷いっ…!」
三人の声に、奥にいた賊は反応し此方を振り向く。そして、言葉なく剣を抜く。
……だが。
猛竜騎士「この…外道めがぁぁっ!」
賊が剣を振り下ろすよりも更に早く、猛竜騎士は容赦のない"刃"の電光石火の一撃を脇腹へと繰り出すと、賊は叫び声をあげて吹き飛んだのだった。
魔剣士「お、おぉう……」
猛竜騎士「魔剣士、敵がいないか確認しろ!馬車の奥に潜んでいるかもしれん!俺は周囲を確認する!」
魔剣士「わ…分かった!」
猛竜騎士「白姫、傷を負っている者がいたら治癒魔法をしてやってくれるか!」
白姫「は、はい!」
猛竜騎士の指示を受け、魔剣士と白姫は奴隷たちの元へと近づいた。
すると、最初は暗がりで気づくことが出来なかったが、その全員が服も着用せずに鉄球に鎖で繋がれ自由を奪われた状態で脅えるように身体を震わし、凄惨たる現場に二人は言葉を失った。
魔剣士「ひ…ひでぇ……」
白姫「ひど…すぎるよ……」
魔剣士「……服も着せられず」
白姫「鉄球で自由まで奪われて…傷も……」
魔剣士「…っ!」
白姫「ま、魔剣士……!」
魔剣士「分かってるっつーの!ちっと刺激的過ぎけどな、オイ!」
念のために片手剣を構えたまま、魔剣士は奴隷たちに近づいたのだが、恐怖に駆られた奴隷たちは悲鳴を上げ、わずかしか動かない細い腕を振り回して抵抗をしたのだった。
魔剣士「お、おいおい……」
魔剣士の行動に対する彼女たちの反応も当然のことであった。奴隷として扱われ、非道の毎日から目の前で惨劇が繰り広げられ、一部の奴隷たちは既に連れ去られた後。次は自分の番だと、魔剣士たちが敵であると認識していた。
魔剣士「俺らは敵じゃねぇよ!アンタらを助けてやるんだって!」
必死な訴えも意味はなく、誰一人として聞く耳は持たない。
魔剣士(クソッ…!鎖の一本も切って自由にしてやれば分かって貰えるんだろうが、無理やり近づくのもアレだしな……っ)
傍から見れば、まるで魔剣士が彼女たちを襲っているようにしか見えず、自分にとってもこの状況はどうかと思う。
彼女らは脅えながら抵抗し、それに対して無理に行動をするのは非道に違いなく、動けるに動けない状況が続いたが、そこで白姫がゆっくりと口を開いた。
白姫「……み、みなさん。これを見てください…!」
白姫は掌を奴隷たちの前に差出し、眩いばかりの真っ白な光を放った。
魔剣士「うっ…」
白姫「皆さん、落ち着いてください!私たちは…敵じゃないです……!」
魔剣士(この…光は……)
それは、彼女が習得した"純粋な光魔法"の魔力だった。最初こそ奴隷たちはその光に驚いていたものの、光に触れた身体の傷が治癒され、痛みが引いていくことに気が付き、白姫の言葉に耳を傾け始めた。
白姫「わ、私たちは冒険者です!盗賊に捕まった奴隷たちがいると聞いて、助けに来ました!」
白姫「信用も出来ないかもしれませんが、信じてください……!」
北方大地で見せた"指導者"としての片鱗、彼女が嫌でも血を継いだ"言葉で促す力"は脈々と成長をしているらしい。
魔剣士(……お前の行動は、あの親父とは違う優しいモンだけどよ)
白姫の行った光魔法のパフォーマンスにもとれた行動は、まさに見事な立ち回りだった。
現に彼女の訴えに対し、奴隷の一人が"か細い声"で魔剣士に「助けて…くれるんですか……」と寄ってきたのは彼女の言葉の力からだったからだ。
魔剣士「あ…あぁ……!?も、もちろんだ!腕と足…鎖の部分を出してくれるか!」
女性の一人が、静かに両手両足を差し出した。それを見て、魔剣士は片手剣を振り下ろしたの――…だが。
"ガキィンッ!"
鈍い金属音に、微かな魔力と火花が散ったばかりで縛る鎖を切り落とすことが出来なかった。
魔剣士「何っ!?」
白姫「き、切れない…?」
魔剣士「……嘘だろ。このくらいの鎖なら俺の剣術で簡単に…!」
「切り落とせるハズなんだが」
そう言いかけた時、女の声で「無理よ、切れるわけがない」と誰かが口を開いた。
魔剣士「……あん?」
その声の方向を見ると、彼女は馬車の一番奥、両腕は馬車の天井と直接繋がれ、他の奴隷と比べても厳重に身動きの一切が取れないような状態の一人の少女が、こちらをジっと向いていた。
魔剣士(……随分と頑丈に繋がれているヤツだな)
不思議な奴だと、思わず見つめる魔剣士だったが、それに対し彼女は「変態……」と呟く。
魔剣士「は…誰が変態だよ!?」
確かに、衣服は着用をしていなかったが……。
テイル「アンタよ」
魔剣士「いきなり罵倒かよ…!クソみてぇな女だな……!」
テイル「誰がクソ女よ。私はテイルっていう名前があるの」
魔剣士「スープみてぇな名前しやがって!知るか!」
テイル「フン…またそうやって、繋がれてる私を見てそんなに楽しい?」
魔剣士の目線は、彼女の全身をがっちり捉えている。
魔剣士「ばっ…馬鹿野郎!ちげぇよ、お前だけ妙にガッチリ縛られてるなって思っただけだっつーの!」
テイル「フン、当然でしょ」
魔剣士「何がだよ!?」
テイル「私は"砂国のプリンセス"よ?」
魔剣士「ぷりん?甘いモンでも好きなのか?」
テイル「貴方って馬鹿なの?」
魔剣士「……オイ、テメェは助けねぇぞ」
テイル「フン、だからね…それは無理って言ってるでしょ」
魔剣士「あ?」
テイル「……どうせ、私たちの手枷は貴方たちに外せないから」
魔剣士「だからどういうことだよ」
テイル「私たちに使われてるのは魔力の手枷なの。専用の魔力が込められた鍵がないと開かないの……」
魔剣士「……なるほどな」
―――魔力の手枷。
北方大地の錬金道具の一種で、鍵と手枷が同じ魔力が込められており、鍵穴を合わせたとしても魔力が合致するもの以外で開くことは不可能である。
テイル「さっきまで襲ってた盗賊たちは、別に手枷を取らずにも私たちを"利用"出来るから気にしないで他の奴隷を連れてっちゃったけど」
テイル「助けるとなったら話は別……。鍵を持った面子が誰かなんてもう分からないし、私たちも鉄球を持って生きれるわけないし……」
テイル「貴方たちも私を見捨てることになるんだから、希望を持たせるような言葉は――……」
"ガチャンッ!!"
テイル「――…え?」
話の途中で、魔剣士は最初に手を差し出した女性の手枷を見事に切り裂いてみせたのだった。
魔剣士「何が無理だって?」
テイル「えっ、ちょっ……!?」
白姫「魔剣士…♪」
魔剣士「オラどんどん来い!助かりたい奴は俺が鉄球でも何でも、その奴隷の鎖ぃ断ち切ってやるからよ!」
テイル「ど、どうやって鎖を……」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――20分後。
魔剣士らは外にいた猛竜騎士と合流し、一連の流れを説明。
そして、奴隷たちの話によれば、自分たちは"住んでいた村が滅ぼされた後"だったり、"故郷を持たない子どもたち"だったりと、最早戻る場所がないという。
その話を聞いた猛竜騎士は"これも何かの縁"だと話し、奴隷たちに服を着せ、港へと案内してちょうど補給に訪れていた旅客船のチケットと、当面の資金を人数分で手配をしに行ったのだった。
白姫「……猛竜騎士さんて、余り気にしなか結構お金持ってるよねっ」
魔剣士「元バウンティハンターだし、冒険者の知識で商人として立ち回ってたし金はあるんだろ」
白姫「そっかぁ…。それに、やっぱり猛竜騎士さんも本当に優しい人だな~って思う」
魔剣士「お節介なだけだろ」
白姫「またそんな言い方して~…!でも、皆も別の土地で上手くやれると嬉しいな……」
魔剣士「奴隷でいるよりは遥かにマシだろうし、金も相当渡すだろうしよ、新しい生活くらいは出来るんじゃねぇの?」
白姫「うん、みんな幸せになったら嬉しいな……」
魔剣士「おうよ、俺もそう思ってはいるんだ…が、それより気になることがあるんだ」
白姫「うん?」
魔剣士「どうしてコイツがここにいるのかが気になるんだが…?」
隣には何故か、東方大地から離れることを拒んだ"彼女"が座っていた。
テイル「私はテイルっていう名前があるって言ってるでしょ」
魔剣士「へいへい、分かりましたよ」
出会った時にも聞かされたことだが、どうやら彼女の名は"テイル"というらしい。
奴隷として扱われていた為か、全身が薄汚れてはいたがその髪の毛はサラリとした銀色で美しく、顔立ちもどちらかといえば良い方だった。
テイル「フンッ」
魔剣士「……っつーかよ、お前も他の大地に行ったほうが幸せだったんじゃねーのか」
テイル「私は他の大地に行くわけにはいかないのよ」
魔剣士「何でだよ」
テイル「私は砂国の王女だって、さっきも言ったでしょ!」
魔剣士「嘘こけ」
テイル「フン…、信用しなくてもいいわよ!」
魔剣士「いやいや、信用しろっつーほうが難しいだろ」
テイル「…フンッ」
"プイッ"
魔剣士の言葉に、彼女はそっぽを向く。
魔剣士「今度はスネてんのかよ」
テイル「…」
魔剣士「おい…」
テイル「…」
魔剣士「……おい、今度はだんまりか」
テイル「…」
魔剣士「ちっ…!」
他人に振り回されるのが好きではない魔剣士は、彼女の肩を掴み、「話を聞けよ!」と引き寄せたが、テイルは「触るな!」とその手を強く払いのけた。
魔剣士「いでっ!」
テイル「触らないで!」
魔剣士「テメェな、人がちょっと心配してるっつーのによ!」
テイル「余計なお世話よ!」
魔剣士「んだとコラ!その辺に捨てちまうぞテメェ!」
テイル「上等よ!」
魔剣士「言ったなコラ!?」
テイル「えぇ言ったわよ!!」
魔剣士「……こ、このクソ女が…!嘘つきのうえにこの性格か!」
テイル「フンッ……」
再びそっぽを向くテイル。
……しかし、今度は何かが違っていた。
魔剣士「ん……」
白姫「……あっ」
ふと、彼女の目が潤んでいることに気が付く。
魔剣士「お前、泣いてるのか……?」
テイル「そ、そんなわけないでしょ!!」
魔剣士「俺のせいか…?」
テイル「アンタのせいで泣いてるわけじゃない!」
魔剣士「……やっぱ泣いてるんじゃねぇか」
テイル「あっ!……くっ…!」
涙を流すことが恥なのか、両端の膝を抱えて座り込み、顔を隠す。
魔剣士「お前、どうして……」
テイル「関係ないでしょ!」
魔剣士「いや、俺のせいなら謝るだろ……」
テイル「…っ」
魔剣士も白姫と出会ってから、どうも涙には弱くなっていた。それも、白姫と同い歳くらいの女子というのなら尚更のことである。
魔剣士「その…なんだ……悪かった…な…?」
テイル「…ッ」
魔剣士「何が気に障ったのかは分からねぇが、す…すまん……」
テイル「……うっさい…!」
魔剣士「うぐっ…!」
テイル「わ、私だって好きで奴隷狩りにあったわけじゃないのに……ッ」
魔剣士「ごめんて…」
テイル「うるさいっ!どうせ信じてないんでしょ、私が砂国の王女だなんてことっ!!」
魔剣士「そ、それは……」
――…信じられないのは当たり前のことだ。
奴隷狩りに捕まる王女とは信じられるわけもなく。
もし、それが本当だとしたら。
この大地でそれが起きたとしていたら。
それは恐らく――……。
テイル「わ、私だってお父様だって……!」
テイル「国が…アサシン盗賊団に乗っ取られるなんて思ってもなかったんだから……ッ」
魔剣士「…」
魔剣士「……なぬ?」
―――国が、滅ぼされたことと同じ意味になるのだから。
…………
……
…
―――イエロー・ノースポート門外。
三人は奴隷馬車の話を聞いて、港町に一つしかない門から外へと飛び出した。
すると、すぐにアサシン盗賊団の二人が言っていた通り「馬車」がすぐそばに停車していたが、その様子がおかしいことにすぐに気が付いた。
魔剣士「……何だ?」
白姫「何だか様子が……」
猛竜騎士「……不味いッ!!」
馬車の周囲には先ほどのゴルドたちと同じコートを着用した男が複数倒れており、馬車の周りには血だまりと争った形跡があった。更に、馬車の内部からは悲鳴に聞こえ、遠くには別の馬が走り去る姿が見える。
猛竜騎士「魔剣士、剣を抜け!白姫を間に入れて、守るようにして縦に並んで後ろを守れッ!」
魔剣士「お、おう!?」
猛竜騎士はすかさず武器を構えると、先陣を切って馬車へと突撃した。
すると、予想通り"別の賊"が奴隷馬車に対し攻撃を仕掛けた後で、男性はみな切り殺された状態で床に転がり、奥には襲おうとする賊に対し、必死に抵抗する女・子どもの姿が伺えた。
猛竜騎士「やはりっ……!」
魔剣士「うぉっ!?なんじゃこりゃ…!」
白姫「ひ、酷いっ…!」
三人の声に、奥にいた賊は反応し此方を振り向く。そして、言葉なく剣を抜く。
……だが。
猛竜騎士「この…外道めがぁぁっ!」
賊が剣を振り下ろすよりも更に早く、猛竜騎士は容赦のない"刃"の電光石火の一撃を脇腹へと繰り出すと、賊は叫び声をあげて吹き飛んだのだった。
魔剣士「お、おぉう……」
猛竜騎士「魔剣士、敵がいないか確認しろ!馬車の奥に潜んでいるかもしれん!俺は周囲を確認する!」
魔剣士「わ…分かった!」
猛竜騎士「白姫、傷を負っている者がいたら治癒魔法をしてやってくれるか!」
白姫「は、はい!」
猛竜騎士の指示を受け、魔剣士と白姫は奴隷たちの元へと近づいた。
すると、最初は暗がりで気づくことが出来なかったが、その全員が服も着用せずに鉄球に鎖で繋がれ自由を奪われた状態で脅えるように身体を震わし、凄惨たる現場に二人は言葉を失った。
魔剣士「ひ…ひでぇ……」
白姫「ひど…すぎるよ……」
魔剣士「……服も着せられず」
白姫「鉄球で自由まで奪われて…傷も……」
魔剣士「…っ!」
白姫「ま、魔剣士……!」
魔剣士「分かってるっつーの!ちっと刺激的過ぎけどな、オイ!」
念のために片手剣を構えたまま、魔剣士は奴隷たちに近づいたのだが、恐怖に駆られた奴隷たちは悲鳴を上げ、わずかしか動かない細い腕を振り回して抵抗をしたのだった。
魔剣士「お、おいおい……」
魔剣士の行動に対する彼女たちの反応も当然のことであった。奴隷として扱われ、非道の毎日から目の前で惨劇が繰り広げられ、一部の奴隷たちは既に連れ去られた後。次は自分の番だと、魔剣士たちが敵であると認識していた。
魔剣士「俺らは敵じゃねぇよ!アンタらを助けてやるんだって!」
必死な訴えも意味はなく、誰一人として聞く耳は持たない。
魔剣士(クソッ…!鎖の一本も切って自由にしてやれば分かって貰えるんだろうが、無理やり近づくのもアレだしな……っ)
傍から見れば、まるで魔剣士が彼女たちを襲っているようにしか見えず、自分にとってもこの状況はどうかと思う。
彼女らは脅えながら抵抗し、それに対して無理に行動をするのは非道に違いなく、動けるに動けない状況が続いたが、そこで白姫がゆっくりと口を開いた。
白姫「……み、みなさん。これを見てください…!」
白姫は掌を奴隷たちの前に差出し、眩いばかりの真っ白な光を放った。
魔剣士「うっ…」
白姫「皆さん、落ち着いてください!私たちは…敵じゃないです……!」
魔剣士(この…光は……)
それは、彼女が習得した"純粋な光魔法"の魔力だった。最初こそ奴隷たちはその光に驚いていたものの、光に触れた身体の傷が治癒され、痛みが引いていくことに気が付き、白姫の言葉に耳を傾け始めた。
白姫「わ、私たちは冒険者です!盗賊に捕まった奴隷たちがいると聞いて、助けに来ました!」
白姫「信用も出来ないかもしれませんが、信じてください……!」
北方大地で見せた"指導者"としての片鱗、彼女が嫌でも血を継いだ"言葉で促す力"は脈々と成長をしているらしい。
魔剣士(……お前の行動は、あの親父とは違う優しいモンだけどよ)
白姫の行った光魔法のパフォーマンスにもとれた行動は、まさに見事な立ち回りだった。
現に彼女の訴えに対し、奴隷の一人が"か細い声"で魔剣士に「助けて…くれるんですか……」と寄ってきたのは彼女の言葉の力からだったからだ。
魔剣士「あ…あぁ……!?も、もちろんだ!腕と足…鎖の部分を出してくれるか!」
女性の一人が、静かに両手両足を差し出した。それを見て、魔剣士は片手剣を振り下ろしたの――…だが。
"ガキィンッ!"
鈍い金属音に、微かな魔力と火花が散ったばかりで縛る鎖を切り落とすことが出来なかった。
魔剣士「何っ!?」
白姫「き、切れない…?」
魔剣士「……嘘だろ。このくらいの鎖なら俺の剣術で簡単に…!」
「切り落とせるハズなんだが」
そう言いかけた時、女の声で「無理よ、切れるわけがない」と誰かが口を開いた。
魔剣士「……あん?」
その声の方向を見ると、彼女は馬車の一番奥、両腕は馬車の天井と直接繋がれ、他の奴隷と比べても厳重に身動きの一切が取れないような状態の一人の少女が、こちらをジっと向いていた。
魔剣士(……随分と頑丈に繋がれているヤツだな)
不思議な奴だと、思わず見つめる魔剣士だったが、それに対し彼女は「変態……」と呟く。
魔剣士「は…誰が変態だよ!?」
確かに、衣服は着用をしていなかったが……。
テイル「アンタよ」
魔剣士「いきなり罵倒かよ…!クソみてぇな女だな……!」
テイル「誰がクソ女よ。私はテイルっていう名前があるの」
魔剣士「スープみてぇな名前しやがって!知るか!」
テイル「フン…またそうやって、繋がれてる私を見てそんなに楽しい?」
魔剣士の目線は、彼女の全身をがっちり捉えている。
魔剣士「ばっ…馬鹿野郎!ちげぇよ、お前だけ妙にガッチリ縛られてるなって思っただけだっつーの!」
テイル「フン、当然でしょ」
魔剣士「何がだよ!?」
テイル「私は"砂国のプリンセス"よ?」
魔剣士「ぷりん?甘いモンでも好きなのか?」
テイル「貴方って馬鹿なの?」
魔剣士「……オイ、テメェは助けねぇぞ」
テイル「フン、だからね…それは無理って言ってるでしょ」
魔剣士「あ?」
テイル「……どうせ、私たちの手枷は貴方たちに外せないから」
魔剣士「だからどういうことだよ」
テイル「私たちに使われてるのは魔力の手枷なの。専用の魔力が込められた鍵がないと開かないの……」
魔剣士「……なるほどな」
―――魔力の手枷。
北方大地の錬金道具の一種で、鍵と手枷が同じ魔力が込められており、鍵穴を合わせたとしても魔力が合致するもの以外で開くことは不可能である。
テイル「さっきまで襲ってた盗賊たちは、別に手枷を取らずにも私たちを"利用"出来るから気にしないで他の奴隷を連れてっちゃったけど」
テイル「助けるとなったら話は別……。鍵を持った面子が誰かなんてもう分からないし、私たちも鉄球を持って生きれるわけないし……」
テイル「貴方たちも私を見捨てることになるんだから、希望を持たせるような言葉は――……」
"ガチャンッ!!"
テイル「――…え?」
話の途中で、魔剣士は最初に手を差し出した女性の手枷を見事に切り裂いてみせたのだった。
魔剣士「何が無理だって?」
テイル「えっ、ちょっ……!?」
白姫「魔剣士…♪」
魔剣士「オラどんどん来い!助かりたい奴は俺が鉄球でも何でも、その奴隷の鎖ぃ断ち切ってやるからよ!」
テイル「ど、どうやって鎖を……」
…………
……
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―――20分後。
魔剣士らは外にいた猛竜騎士と合流し、一連の流れを説明。
そして、奴隷たちの話によれば、自分たちは"住んでいた村が滅ぼされた後"だったり、"故郷を持たない子どもたち"だったりと、最早戻る場所がないという。
その話を聞いた猛竜騎士は"これも何かの縁"だと話し、奴隷たちに服を着せ、港へと案内してちょうど補給に訪れていた旅客船のチケットと、当面の資金を人数分で手配をしに行ったのだった。
白姫「……猛竜騎士さんて、余り気にしなか結構お金持ってるよねっ」
魔剣士「元バウンティハンターだし、冒険者の知識で商人として立ち回ってたし金はあるんだろ」
白姫「そっかぁ…。それに、やっぱり猛竜騎士さんも本当に優しい人だな~って思う」
魔剣士「お節介なだけだろ」
白姫「またそんな言い方して~…!でも、皆も別の土地で上手くやれると嬉しいな……」
魔剣士「奴隷でいるよりは遥かにマシだろうし、金も相当渡すだろうしよ、新しい生活くらいは出来るんじゃねぇの?」
白姫「うん、みんな幸せになったら嬉しいな……」
魔剣士「おうよ、俺もそう思ってはいるんだ…が、それより気になることがあるんだ」
白姫「うん?」
魔剣士「どうしてコイツがここにいるのかが気になるんだが…?」
隣には何故か、東方大地から離れることを拒んだ"彼女"が座っていた。
テイル「私はテイルっていう名前があるって言ってるでしょ」
魔剣士「へいへい、分かりましたよ」
出会った時にも聞かされたことだが、どうやら彼女の名は"テイル"というらしい。
奴隷として扱われていた為か、全身が薄汚れてはいたがその髪の毛はサラリとした銀色で美しく、顔立ちもどちらかといえば良い方だった。
テイル「フンッ」
魔剣士「……っつーかよ、お前も他の大地に行ったほうが幸せだったんじゃねーのか」
テイル「私は他の大地に行くわけにはいかないのよ」
魔剣士「何でだよ」
テイル「私は砂国の王女だって、さっきも言ったでしょ!」
魔剣士「嘘こけ」
テイル「フン…、信用しなくてもいいわよ!」
魔剣士「いやいや、信用しろっつーほうが難しいだろ」
テイル「…フンッ」
"プイッ"
魔剣士の言葉に、彼女はそっぽを向く。
魔剣士「今度はスネてんのかよ」
テイル「…」
魔剣士「おい…」
テイル「…」
魔剣士「……おい、今度はだんまりか」
テイル「…」
魔剣士「ちっ…!」
他人に振り回されるのが好きではない魔剣士は、彼女の肩を掴み、「話を聞けよ!」と引き寄せたが、テイルは「触るな!」とその手を強く払いのけた。
魔剣士「いでっ!」
テイル「触らないで!」
魔剣士「テメェな、人がちょっと心配してるっつーのによ!」
テイル「余計なお世話よ!」
魔剣士「んだとコラ!その辺に捨てちまうぞテメェ!」
テイル「上等よ!」
魔剣士「言ったなコラ!?」
テイル「えぇ言ったわよ!!」
魔剣士「……こ、このクソ女が…!嘘つきのうえにこの性格か!」
テイル「フンッ……」
再びそっぽを向くテイル。
……しかし、今度は何かが違っていた。
魔剣士「ん……」
白姫「……あっ」
ふと、彼女の目が潤んでいることに気が付く。
魔剣士「お前、泣いてるのか……?」
テイル「そ、そんなわけないでしょ!!」
魔剣士「俺のせいか…?」
テイル「アンタのせいで泣いてるわけじゃない!」
魔剣士「……やっぱ泣いてるんじゃねぇか」
テイル「あっ!……くっ…!」
涙を流すことが恥なのか、両端の膝を抱えて座り込み、顔を隠す。
魔剣士「お前、どうして……」
テイル「関係ないでしょ!」
魔剣士「いや、俺のせいなら謝るだろ……」
テイル「…っ」
魔剣士も白姫と出会ってから、どうも涙には弱くなっていた。それも、白姫と同い歳くらいの女子というのなら尚更のことである。
魔剣士「その…なんだ……悪かった…な…?」
テイル「…ッ」
魔剣士「何が気に障ったのかは分からねぇが、す…すまん……」
テイル「……うっさい…!」
魔剣士「うぐっ…!」
テイル「わ、私だって好きで奴隷狩りにあったわけじゃないのに……ッ」
魔剣士「ごめんて…」
テイル「うるさいっ!どうせ信じてないんでしょ、私が砂国の王女だなんてことっ!!」
魔剣士「そ、それは……」
――…信じられないのは当たり前のことだ。
奴隷狩りに捕まる王女とは信じられるわけもなく。
もし、それが本当だとしたら。
この大地でそれが起きたとしていたら。
それは恐らく――……。
テイル「わ、私だってお父様だって……!」
テイル「国が…アサシン盗賊団に乗っ取られるなんて思ってもなかったんだから……ッ」
魔剣士「…」
魔剣士「……なぬ?」
―――国が、滅ぼされたことと同じ意味になるのだから。
…………
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