魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

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第九章【セントラル】

9-6 長い夜に

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―――30分後。
ブリレイの計らいで運ばれた料理の数々に舌をうならせる魔剣士と白姫、酒を愉しむ猛竜騎士とブリレイ。
陽は完全に落ちたようで空には満天の星空、村には火炎魔石による燃やされた赤い灯りがほんのりと光り、人々の声は止むことがない。
楽しげな雰囲気に包まれる村に聞こえてくるのは、幸せそうな笑い声ばかりだった。

魔剣士「っかー、すげぇな…!まるで祭りみてぇだ……」
猛竜騎士「確かにな。だが、冒険者の集う村や町は全てこんな感じだ」
白姫「みんな幸せそうですね。私も凄く楽しくなってきますっ」
ブリレイ「ならず者も多いですが、楽しむということを第一に考える人々ばかりですからね」

自分たちのいる屋台風の酒場も、開いて間もないというのに既に混雑していた。ザワつく声は、普段こそやかましくもあるだろうが、この淡い雰囲気の中では酒を飲まずにも酔えるようなそんな気さえする。

魔剣士「しっかし料理美味いな……」
白姫「うんっ、お肉は柔らかいし野菜は凄く新鮮だし!」

並ぶ料理は、その辺の酒場とは思えないほどグレードが高かった。明らかに素材の質はレベルが違う。肉は赤身と霜降りがそれぞれ分けられ、野菜は採れたて新鮮そのものに思えた。

ブリレイ「ここは冒険者の集う場所。ですから、お店が自然に眠る素材をクエストとして発注するので新鮮そのものなんです」
魔剣士「へぇ、なるほどな」
ブリレイ「それに、いっぱしの冒険者なら本当の意味で舌を持っていますから…料理人も並大抵のシェフではまかり通りません」

ブリレイは笑いながら舌を軽くベロっと出す。

魔剣士「本当の意味で…舌?」
ブリレイ「えぇ、魔剣士…さんとはあまり呼ばないほうがいいですね。貴方も、大自然の新鮮な食事はしてきたのではないですか?」
魔剣士「ん?」
ブリレイ「命を賭して得た食べ物、ありませんか?」
魔剣士「ん…まぁ、いやあー…そりゃあ……」

西方大地の大自然で、長いことサバイバルをして過ごした時に血抜きをして、解体をして生活していた経験としてあるが。

魔剣士「あるにはあるが……」
ブリレイ「それですよ。普通の生活をする人々が、大自然で戦い抜く一流にも育てられたお肉を捌いて、新鮮なうちに食べることはありますか?」
魔剣士「……普通はないな」
ブリレイ「いっぱしの冒険者の舌が肥えているということはそういう意味です」
魔剣士「あ、あぁ……!」

なるほど、ようやく分かった。

ブリレイ「それに冒険者として優秀なら、国として晩餐会や富豪のパーティも少なくないはずです。そこでの一流シェフの料理は、美味のは勿論、その味を知っているはずです」
魔剣士「なるほど、そういうことか……」
ブリレイ「そこの御嬢様も、貴方も、この料理を見て"新鮮だ"と、"味付けが一流だ"と、そう認識できた時点で冒険者としては一流だと思いますよ」
魔剣士「おっ…?」
白姫「えっ…!」
ブリレイ「なんて、僕が言うセリフじゃないですけどね……はははっ…」

ブリレイは言ったことに対して、やや恥ずかしそうに微笑みを見せる。

魔剣士「ンだ、ブリレイ…良い奴だなァお前!!」

"バンバン!"と肩を叩き、一流と呼ばれたことにまんざらでもない様子で「うへへ」と漏らした。

ブリレイ「ハハハ、痛いですよ!」
魔剣士「っつっても、ブリレイだっていっぱしのハンターだったんだろ?」
ブリレイ「昔の話です。そう、遠い昔のお話ですから……」

その話に少し声のトーンは低くなるが、すぐにビールをグイっと流し込んで変わらない笑みを浮かべる。

魔剣士「何で冒険者を止めたんだっけ?」
ブリレイ「重ねてとなりますが、僕もこのままではダメだと安定した生活のために手に職と思ったんです」
魔剣士「アンタって昔は相当強かったんだろ?」
ブリレイ「強いというか、運が良かったというか。僕が現役の頃は今と比べて攻撃魔法がまだまだ成長段階にあったので、魔法が得意なだけで食べれた時代だったんです」
魔剣士「でも、魔法使いで一人で立ち回っていた…ってのは凄い気がすっけどなぁ。パーティならまだしも、詠唱にも時間かかるっしょ?」
ブリレイ「フフ、僕は無詠唱による魔法を得意としていたので左程気になることはありませんでした」
魔剣士「あ……」

ブリレイは両手、両人差し指を伸ばすと、指先で小さい"炎"と"風"を具現化させた。

魔剣士「んおっ、それは!」
白姫「魔剣士と一緒の魔法ですね!」
猛竜騎士「同時による別属性の具現化!」

三人がブリレイの魅せる技に食いついた。

ブリレイ「おっとっと、驚くことでは…。この技は貴方も確か……」
魔剣士「おうよ、出来るぜ!」

負けず嫌いの魔剣士は、ブリレイの前で両指を突出して同じように炎と風を具現化させた。

ブリレイ「ははっ、流石ですね」
魔剣士「そりゃ当たり前だ!ってか、俺にしてみれば俺と同じように魔法を別々に扱える奴を初めて見たぞ……」
ブリレイ「中々珍しい技ではあると思います」
魔剣士「ははぁー……」
猛竜騎士(……珍しい技だと?馬鹿言うな…)

いつかの猛竜騎士が言った通り、二つの違う属性を同時に具現化することは至難の業である。
ブリレイは何でもないように技を見せているが、実際には尋常ではない集中力を要するはずで、同時属性を具現化しつつ彼が涼しげな表情を見せているのは"レベルの違う"噂通りの魔術師なのだと分かる。

ブリレイ「…っと、この辺にしておきましょうか。お互い目立ってはいけない存在ですからね」

"フっ"と指先から放っていた魔法を停止させ、魔剣士もあわせて具現化を止める。
そして、それを見ていた白姫はどこか嬉しそうな顔で「綺麗でした!」と小さく拍手をした。

白姫「すっごくきれいでした!魔法って本当に不思議ですよね!」
ブリレイ「……ハハ、これは嬉しい言葉です」
白姫「私はまだまだ修行中で、光魔法が少し使える程度で、本当に足を引っ張ってて……」
ブリレイ「足を引っ張る、ですか」
白姫「はい…。私ももっと頑張らないとって思います」
ブリレイ「……確かに努力は必要でしょうが、貴方には光魔法が似合っているのではないかと思いますよ」
白姫「光魔法が…?」
ブリレイ「魔法は確かに美しい。輝き、自然と重なる一体感、人々の生活に役立ち、魅了は止むことがない。ですが、忘れてはいけないことがあります」
白姫「は、はい」
ブリレイ「魔法は、生命を殺めることが出来る。生きる者を傷つけるということを理解することです」
白姫「!」

ブリレイは丸眼鏡を外し、細目の片側を薄らと開いて白姫の目をジっと見つめた。

ブリレイ「魔法への努力、大いに結構だと思います。体力、知力、魔力、その全てを培う冒険者は生きる者を傷つけるために学ぶことと同じなのです」
白姫「あ、う……」
ブリレイ「そして、その覚悟も。傷をつける、命を奪うというのは奪われる覚悟があるということ。どこにでもある台詞が、何よりも現実であるということです」
白姫「はい……」
ブリレイ「貴方のその手は、傷をつけるものではない。…と、そうですね、魔剣士さんならそう言いそうですが……?」
白姫「!」
魔剣士「!」

西方大地であった、エルフとの戦いで白姫に放った一言。
だが、同じ一言であっても、猛竜騎士と同じ長い経験を生きてきた男の言葉。重みのあるように聞こえた。

ブリレイ「どうして光魔法を習得できたのかは聞きませんが、ただ…光は照らすモノとして唯一、魔法の中では"人を救う"魔法です」
白姫「…はい」
ブリレイ「僕が見た限りでは、本当は貴方は守るべき道を進みたいのではないかと。勝手な解釈で申し訳ありませんが、そう思えたのですが……」
白姫「そ、その通りです……」
ブリレイ「強くなりたい努力は悪いことではない。ですが、その全てが武力である必要はありません。強さとは、暴力だけではないのですから」
白姫「は、はいっ……!」

白姫は彼の言葉に強く頷く。瞳をそらさず、最後まで本気で話を聞いていた様子を見ると、彼の口から出たことは本音から出たものだろう。

魔剣士(……何だこの丸眼鏡、以外としっかり冒険者の先輩らしいっつーか)
猛竜騎士(俺にとっても目上にあたる男だが、この腰の低さに冒険者だった経験を活かし、白姫をも納得させる言葉……)
魔剣士(実力は分からないが、同時属性を見せたり、昔の強さを自慢しなかったり……)
猛竜騎士(人として出来ている。尊敬をもしてしまうような、流れるような言い草ばかり……)
魔剣士(だが……)
猛竜騎士(……しかし)

この男は、世界の敵であるかもしれない―――…。

ブリレイ「……はて、お二人とも」

そう思った瞬間、ブリレイは不思議そうにこちらに声をかけてきたことに、ビクリとした。

魔剣士「んっ!?」
猛竜騎士「なんだ…?」

あまりに強く疑い過ぎたかと、思わず声を上げて返事をする。

ブリレイ「あまり食が進んでいないようですが、さすがにお腹が膨れてきてしまいましたか?」

しかし、彼の観点は別のところにあったらしく、ホっと一安心した。

猛竜騎士「あぁいや、その…なんだ。ブリレイ、君の話があまりにも…、素晴らしいというか……」
ブリレイ「僕の話が?」
猛竜騎士「そう、やはり一時代を築いた男だけあって…、話の一つ一つが心に響くというか……」
ブリレイ「……ハハハ、そんなお世辞は要りませんよ。ただの冒険者の、他愛のないお話なので聞き流して下さい」

照れくさそうに眼鏡を着け直すと、恥ずかしいのかコップに余っていた酒を一気に飲み干す。
しかし、コップを置いたその時。勢いが良すぎたのか、ケチャップが盛られた小皿に裾を引っかけ、自らのベストへと"べちゃり"と零してしまった。

ブリレイ「あらっ…!し、失礼しました……!」

それを見ていた店員がいたようで、ブリレイの元へ近づくと手際よく別のディップ・ソースの盛られた小皿をテーブルに、小型の水魔石と乾燥用の火魔石で汚れたベストを綺麗に洗い上げたのだった。

魔剣士「おぉ……」
白姫「手際がいいー……」

関心する二人。
落ち着いたブリレイは深く反省した様子で「申し訳ありません」と何度も頭を下げた。

魔剣士「い、いやそんなに謝らんでもいいんじゃねえの」
ブリレイ「折角の席を汚してしまって、本当に……」
魔剣士「別に気にしてねーって。つーか、そこまで謝られても困るしよ」
ブリレイ「そ、そうですか……」

魔剣士の言葉に、ブリレイは頭を上げた。もちろん白姫たちも何ら気にする様子はなく、猛竜騎士は「楽しく飲もう」と空になっていたコップに酒を注ぐ。

猛竜騎士「気にせずに気持ちよく飲もう。アンタ、まだまだイケる口なんだろう?」
ブリレイ「えぇ、ありがとうございます」
猛竜騎士「では…、改めて乾杯といこうか。夜は長い」
ブリレイ「はい、お気遣いありがとうございます」

二人はコップを持ち上げ、"チン"と鳴らすと、互いにグイっと酒を流し込んだ。

魔剣士「……酒好きだねぇアンタら」
白姫「美味しいんですか?」
猛竜騎士「んーむ、ピリリとした辛みや苦み、クラっとする感覚が何とも言えんな」
白姫「そうなんですかっ!」
魔剣士「……いやいや、騙されるなよ。少し飲んだことあっけど、苦いばっかで美味くねぇよ」
白姫「う?そうなの?」
魔剣士「あぁ、全くもって味らしい味なんかねぇよ」

完全否定する魔剣士。対して、猛竜騎士は少し残念そうに呟く。

猛竜騎士「酒の味を知らぬとは、残念だ」
魔剣士「あー?」
猛竜騎士「女の子はともかく、男は若い頃から酒を知って育つモノだと思っていたが…時代は変わってきたんだな」
魔剣士「時代とかの問題じゃなくて、美味くねぇもんは美味くねぇ。つか、俺はまだ未成年だっつーの」
猛竜騎士「興味もないのか?」
魔剣士「無い」
猛竜騎士「……本当に時代は変わった」

"はぁぁ"と深くため息をつく猛竜騎士。
もしかすると、魔剣士と酒を酌み交わすことが一つの楽しみだったのかもしれない。

ブリレイ「まぁまぁ猛竜騎士さん。自分たちの時代とは違うということですよ」
猛竜騎士「んーむ……」
ブリレイ「今は昔と違い、娯楽も増えてきましたし…自分たちが若い頃とは違って酒や煙草といった嗜好品以外にも楽しみがあるんでしょう」
猛竜騎士「随分と物わかりが良さそうに……」
ブリレイ「変わる時代に着いて行けないのは、いずれ身を滅ぼします。自分もそうやって、冒険者としての時代を終わらせて次のステップへ歩んだのですから」
猛竜騎士「……アンタにそれを言われたら、俺は納得する他ないんだが…な」

納得はするが、やはり寂しそうにして猛竜騎士はコトリとコップを置く。
するとその気持ちを察したのか、魔剣士は「だぁぁ、しゃあねぇえなぁぁ!!」と叫びながら置いたコップを奪い取った。

猛竜騎士「お、おい!」
魔剣士「ブリレイ!酒を注げ!!」
ブリレイ「え、いや…し、しかしですね……」
魔剣士「……面倒くっせぇなクソ丸眼鏡が!!そこの空いてない瓶の酒を寄越せオラァ!!」

テーブルにあったまだ開けていないビール瓶を奪うと、奥歯で「フンッ!」、強く回して硬い蓋をこじ開けた。
そして、溢れんばかりの勢いで高い位置から勢いよく注ぎ、泡だらけになったビールを口に運ぶ。

魔剣士「っだらぁーーーっ!!んむっ…!」

気合いに任せ、それなりの量が入ったビールを一気に流し込む。
普段あまり飲まないこともあってか、強い炭酸と深い苦みがによる喉へのダメージは計り知れず、涙目になりつつも全て飲み干し、ドン!とテーブルへ空のコップを置いた。

魔剣士「ぶはーーーっ!!どうだ、ごのやろォ!」
白姫「ぜ、全部飲んじゃった!?」
猛竜騎士「い、いや…別に酒が飲めるからと自慢はいらないんだが……」
ブリレイ「それより大丈夫ですか…!飲みなれていないアルコールを一気に摂取すると……!」
魔剣士「あァ!?」

飲んですぐには苦い味が口いっぱいに広がっているばかりで、"それ"はすぐに現れないのだが、少しの間を置いて、過剰たる摂取、脳内の分子は暴れ出す。

魔剣士「……はら?」

ボヤっとするような、頭が浮く、どこかだるいような、まぶたが少しばかり重くなる、不思議な感覚。
魔剣士にとって"酒"による酔いの始まり、初めての感覚が襲い始める。

魔剣士「な、なんじゃあ……?」
白姫「魔剣士ー…?」

まぶたを何度もパチパチと動かし、体勢を整えようとするが微妙にズレる。
平静を装うとすればするほど浮足立っていくのが分かるが、普段なら"ダサい"と思うことも、今はそれもまたつまらない感じでは思えない。

魔剣士「お、おほっ!なんじゃこの感覚はぁっ!!フワフワすんぞ、オイッ!!!」

魔剣士、完全に酒に飲まれる―――。

ブリレイ「あ、あらら……」
猛竜騎士「言わんこっちゃない…。酒を飲むはずが、酒に飲まれたか……」
白姫「酔っぱらっちゃった…?」
魔剣士「うほほーーっ!!」

すっかり気分が良くなった魔剣士は叫びながら、ビールを注ぐと、また一口、また一口と飲む。

猛竜騎士「おいおい、魔剣士…。酒ばっかり飲まないで何か食え、そのペースじゃ倒れるだろうが」
魔剣士「にゃー!?俺ぁ、全然余裕だぉ!」
猛竜騎士「いや余裕じゃないだろう」
魔剣士「食えっていうなら食うけんどもねーっ!!」

並んでいた料理に手を伸ばし、豪快に骨肉を噛みちぎりながら酒を入れる。最早、止まる術はない。

魔剣士「んなぁ、旨いなっ!!何だか楽しくなっちょってきちゃっちょ!」
猛竜騎士「おいおい……」

自分の所為とはいえ、まさかこんなことになるとは思わなかったと、猛竜騎士は反省した。
すると、隣にいたブリレイは笑いながら「気にしないであげてください」と声をかける。

ブリレイ「ハハハッ、猛竜騎士さん……彼が楽しんでいる限りは良いと思いますよ」
猛竜騎士「いや…気にするなと言われてもだな……」
ブリレイ「僕らの若い頃も、こんなものだったんじゃないですか?訳の分からないまま酒を飲み、ただ暴れる。それだけで楽しかった気がします」
猛竜騎士「……まぁな」
ブリレイ「それに、共に酒を飲めたということが、猛竜騎士さんにとっては嬉しいことのように感じます」
猛竜騎士「そ、それはだな……」

本心を当てられ、軽く"ゴホン"と咳払いする。

ブリレイ「持論ではありますが、本当の嗜みを覚えるまではこの程度でいいと思うんです。…いえ、自分もまだまだ大人になりきれていないと思っておりますが」

窮屈な世界より、それを許容することで丁度良い。
自分たちが若かった頃、それに対して不満を覚えていたはずなのに、いつの間にか、それを抑えつけることが当たり前になっていた。

猛竜騎士「そうか…。俺も随分と歳を取っちまったってことなのか。今の言葉、かなり痛み入るよ」
ブリレイ「そ、そんな気にするようなことを言ったつもりはなかったのですが…!申し訳ないです……」
猛竜騎士「いや、その通りだと痛感しただけで。そんな謝らないでくれ」
ブリレイ「……ありがとうございます。本音を言えば、願わくば自分もまだそちら側の立場でいたかったのですが」
猛竜騎士「あぁ…。全てが楽しかった頃か……」
ブリレイ「ですが、僕から見れば猛竜騎士さんはまだまだ現役なのですから、羨ましい存在ですよ?」
猛竜騎士「は…。ククッ…、そうかい……?」
ブリレイ「えぇ、そうです」
猛竜騎士「ハハ…、まさかアンタにそんなことを言われるとは……。ハハ…、クククッ……」
ブリレイ「フフ……」
猛竜騎士「ハハハハッ!」
ブリレイ「ハハッ…!」

二人の男は、大層に笑い合った。
そして、それから四人は良い雰囲気の中で酒、料理、会話を楽しむうち、あっという間に時間は過ぎていった。

猛竜騎士「……んおっ」
ブリレイ「おや……」

ふと、テラスにあった掛け時計に目を向けると短針は既に22時を回っており、小さな宴は随分と長く楽しんでいたようだ。

ブリレイ「もうこんな時間でしたか…。自分はまだまだ余裕ですが、どうしますか?」
猛竜騎士「ふむ……」
白姫「私も楽しくて、まだまだお話ししたいですけど…魔剣士が……」

長い時間の中で、魔剣士はすっかり"出来上がって"しまったようで、ビール瓶を抱き抱えながらすぅすぅと寝息を立てていた。

猛竜騎士「……おい、魔剣士」

魔剣士の肩を揺するが、返事はなく、完全にダウンしてしまったらしい。

猛竜騎士「やれやれ……」
ブリレイ「魔剣士さんもすっかりダウンですね…、おひらきに致しますか?」
猛竜騎士「すまないな、まだ飲み足りないだろう?」
ブリレイ「気になさらないで下さい。そろそろ宿を取らないといけない時間でもありますし」
猛竜騎士「…あぁ、そうだな」

賑わう村というからには、大人数を収容できるクラスの巨大な宿がいくつか存在していたが、日によっては部屋に空きがないこともある。
猛竜騎士はブリレイに従い、魔剣士を肩に抱え、宿に向かう準備を進めた。

ブリレイ「では、ココの会計は僕が。元々、ここに座っていたのは僕からでしたからね」
猛竜騎士「素直に甘えるよ。ありがとう」
ブリレイ「フフ、気持ちいい程に冒険者らしく若いですよ猛竜騎士さんも。では、少々お待ちください」
猛竜騎士「ん、そこで待っている」

白姫を連れて、テラスの外へ出ると、ブリレイの支払いを待った。

猛竜騎士「…」

空を見上げれば満天の星空が浮かんでおり、少し気温が低いのか酔いどれた身体には心地よい冷たさを感じる。
また、一緒にそれを見ていた白姫は隣で「懐かしいですね」と声をかけた。

白姫「……旅立ちの頃を思い出します。外で寝転がったあの日に、星空が綺麗だった夜。この場所の近くで見た空と一緒です」
猛竜騎士「あぁ、そうだったな…。あの時はただ逃げるばかりの日々となると思っていたというのに、このような形で戻ってくるとは誰が予想していたか……」
白姫「きっと神様がそう望んだんだと思います。私が家出を決意した時から、そうなる運命だったんです」
猛竜騎士「……ハハ、本当にお前も成長したと感じるよ。魔剣士から聞いたな、最初は"アカノミ"が自然に生ることすら知らなかったんだろう?子どもすら当たり前に知っていたことだったのになぁ…」
白姫「あぅっ!そ、それはー……!」
猛竜騎士「ハハハハッ!」
白姫「猛竜騎士さんー……」
猛竜騎士「悪い悪い。しかし、"旅は良きものだった"だろう?」
白姫「ふぇ?」
猛竜騎士「……っと」

つい、酒の酔いもあってか口を滑らせた。
何が"だった"と言っていいものか。

白姫「それは……」
猛竜騎士「すまない、口を滑らせた。気にしないでくれ」
白姫「……で、ですよね!何でもないですよね!」
猛竜騎士「あぁ、そうだな……」

白姫とて、分かっていないわけではない。王を倒すということ、自分がその立場となったその時、何を意味するのかくらい、よく分かっていた。

猛竜騎士「…」
白姫「…」

ここで魔剣士が起きていたら、何を言ったことか分からない。
(やれ、助かったな)と考えつつも、ブリレイが支払う時までしばらくの間、会話は途絶えたのだった。

ブリレイ「……お待たせしましたーっ!」

やがて、支払いを終えたブリレイは手を振りながら合流し、お待たせしましたと何度も頭を下げた。

猛竜騎士「ん、ご馳走様」
白姫「ご馳走様でした、ブリレイさんっ」
ブリレイ「このくらいどうってことないですよ!」
猛竜騎士「ハハ、さすがの有名人は懐っぷりも半端ないようで」
ブリレイ「研究員としても給料は決して低くないんですよ!……っと、これを言ってはセージ様に叱られてしまうので、内緒でお願いしますねっ!」

たははと頭をかきながら、失敗したと言わんばかりに苦笑する。

猛竜騎士「心配しなくても秘密にするさ」
ブリレイ「是非、よろしくお願いします…はは……」
猛竜騎士「……それじゃ、宿でも探しに行くか?」
ブリレイ「えぇ、承知しました」
白姫「はいっ!」

四人は酒場を出ると、人ごみを分けつつ宿場を目指して歩き始めた。
すっかり夜だというのに活気は様子はなく、時折り酔っぱらってぶつかってくる人はいたが、笑顔で和気藹々とした口っぷりはこちらまで嬉しくなる。
しかし、白姫と逸れてはいけないと、猛竜騎士は手を差し出した。

猛竜騎士「気を付けろ、手を繋いでおくか?」
白姫「あ、お願いします……!」

白姫は猛竜騎士に従って手を伸ばすが、その時。何故か、いつの間にか。寝ぼけ眼になっていた魔剣士が「ふざけるなぁっ!」と猛竜騎士の手を遮り、白姫の手を強く握った。

白姫「ま、魔剣士っ?」
猛竜騎士「お、おいっ…起きてたのか?」
ブリレイ「あらあら……」

背中に担がれた状態になっていた魔剣士は、白姫の手を握ると「へっへっへ」と笑い、満足したのかカクンと白目を剥いて気絶してしまった。

白姫「あ、魔剣士!?」
猛竜騎士「コイツは本当に…、また寝えしまったみたいだな…」
白姫「寝ちゃったんですか?」
猛竜騎士「こいつは……」
ブリレイ「あはは、愛されているようで何よりです」
白姫「愛されてる…ですか?」
ブリレイ「おっと!いえ…余計なお世話でしたね。それよりも宿を目指して参りましょう」
白姫「は、はい……?」
猛竜騎士(ブリレイめ……)

ちょっとした気遣いに猛竜騎士は苦笑しつつ結局白姫の手を引っ張りながら宿場へと向かった。
その後、宿に着いて無事に部屋を取ると、白姫は魔剣士の隣であっという間に就寝。
だが、猛竜騎士はしばらく隣に部屋を取ったブリレイの気配を読みながら監視を続け、ようやく問題ないと自身が眠りについたのは深夜2時過ぎを回ってからのことだった。

…………
……


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