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第九章【セントラル】
9-7 静かな時間(1)
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―――次の日、午前8時。
魔剣士はようやく酷い頭痛によって目を覚ましたのだが、その頃には開かれたカーテンから眩い光が差し込んでいた。
気づかない間に宿部屋にいた魔剣士は辛そうに片目をつぶりながら辺りを見回し、近くにいた白姫の後ろ姿を確認すると声をかけた。
魔剣士「んあ…白姫……?」
白姫「…あっ、魔剣士!おはよう!」
魔剣士「お、おうっ……」
酒が抜けきっていないのか、まだ視界がボヤける。そして言えるわけがないが、白姫の少し高い声が頭に響いた。
白姫「魔剣士、えっと…ちょっと待ってね……」
魔剣士「あ…?」
白姫は何かをパタパタと準備をし、それからすぐ、ベッドの近くに温かいお茶と白い紙に乗せられた黒い飴のようなものを置いた。
魔剣士「んだ、これ……」
白姫「猛竜騎士さんが、魔剣士はそろそろ目を覚ますはずだから、起きたらこれとお茶を飲ませろって」
魔剣士「オッサンが…?」
白姫「えーと、アウルベアの胆のうとかっていうので、それが効くはずだーって言ってたよ」
魔剣士「……とにかく飲めばいいんだな?」
白姫「うん、たぶん。凄く苦いから注意しろって」
魔剣士「はいはい」
身体を前のめりにすると、頭が"ズキン!"という痛みを放った。
「うぐっ!」
鈍く重い痛みを感じながらも何とかお手を伸ばし、胆のうを口に放り込むと一気にお茶で流し込んだ。
魔剣士「……うぶっ!?」
胆のうは一気に流し込んだというのに強烈な苦みを発し、少しでも触れた舌、喉、胃がビリビリと痺れた。
魔剣士は堪らず、熱いお茶をグビグビと飲み込み、渋みが効いた味のおかげか、苦みは少しずつ無くなり、5分もすれば落ち着くことが出来たのだった。
魔剣士「な、なんつーものを飲ませやがる……!」
白姫「ご、ごめんね……」
魔剣士「いやお前じゃないだろ…。こんなクッソにげぇヤツ、何でオッサンは俺に……」
白姫「とにかく、起きたら一番に効くからーって」
魔剣士「何にだ?」
白姫「本人なら分かるはずだって」
魔剣士「分かるはずだってお前……」
言われなければ、分かるはずがない。
魔剣士「……って、あ…」
嘘をついた。言われなくても、分かってしまった。
魔剣士「頭痛が……」
先ほどまで放っていた頭の痛みが、嘘のように引いていた。
魔剣士「そういうことね……」
白姫「な、何が…?」
魔剣士「いや、結局見透かされてたってことだよ。……ところでオッサンは?」
白姫「あ、えっとね…何かブリレイさんとお出かけするって、ちょっと待っててくれって」
魔剣士「ふーん……」
猛竜騎士が眠りこけていた自分と、戦えない白姫を一人にする筈はない。恐らく、今はまだ危険ではないと悟ってからの行為だろう。
魔剣士「……あぁ、そう。そんじゃゆっくりしますかねぇ…」
魔剣士は後方へとジャンプし、ベッドへとダイブして毛布をかぶり直した。
白姫「また寝ちゃうの?」
魔剣士「まだ何かちょっとだけボーっとしてんだよなぁ」
昨晩大量に飲んだ酒は魔剣士の身体から抜けきっておらず、風邪を引いたようなだるさを感じていた。
白姫「うー…、じゃあ…ちょっと待ってて!」
魔剣士「…あ?」
白姫は風呂場へと走り、小タオルを冷たい水で濡らすと、ベッドへと寝る魔剣士の額にそっと乗せた。
少し火照っていた身体に丁度良い冷たさで、魔剣士は「ありがとな」と笑った。
白姫「ううん、それより大丈夫?」
魔剣士「心配し過ぎだ。大丈夫だっつーの。情けねーけど、そこまで酒に強い身体じゃねーみてーだな俺は……」
白姫「あんなにガブガブ飲んでる人見たことないもん!飲みすぎ!」
魔剣士「そ、そんなに飲んでたか?あまり記憶がだな……」
白姫「凄く飲んでたよ!その後に猛竜騎士さんに背負われて、ベッドに入ったらすぐ寝ちゃってたけどっ」
魔剣士「あらま……」
白姫「でも、今は元気になったみたいで良かったっ」
魔剣士「うむ……」
かなり心配をしていたのか、元気な姿を見た魔剣士を見た白姫はニッコリと喜んだ様子を見せる。
魔剣士「んー…だけど、酒に酔ったのか……」
白姫「うん?」
魔剣士「いや…うーん……」
魔剣士には少し不思議に思えた。ふと考えてみれば、自身が魔法化してから"普通の生活"に近いことをしている気がする。
腹が減り、酒に酔い、頭痛を患い、とてもじゃないが魔法化したような感覚ではない。あの時、セージの言った"永久の命"を得た存在となるなら、こんなことは有り得ないように思えるのだが。
魔剣士「……死ねるのか、もしかして」
小さく、呟いた。
だが、白姫はそれを聞き逃さない。
白姫「……え?」
魔剣士「あ、いや!何でもない!」
白姫「嘘っ!今ぜったいに死ぬとかって聞こえた!!」
魔剣士「ち、違うって!シネルっていう友達がいてだな……!?」
白姫「嘘つかないで!何、どういうことか教えてっ!」
魔剣士「いや、ちょっ……!」
鬼気迫る表情で魔剣士に近寄る白姫。
しまった…。彼女と目を合わせていたことで、何気なく発した一言がどれほどに重いものか、分かってしまったらしい。
白姫「魔剣士っ!!」
魔剣士「…ッ!」
まさか突き飛ばすわけにもいかず、魔剣士は「分かった分かった!」と両手を振ってアピールをした。
魔剣士「分かったよ!分かったっての!」
白姫「本当に!」
魔剣士「嘘ついたってオメーにゃすぐ分かるだろうが!つけるわけもねーだろうが……」
白姫「そっか、じゃあお話し聞かせてっ!」
魔剣士のベッドへ同じように転がる白姫。毛布の中にごそごそと入り込む。
魔剣士「お、おまっ」
白姫「お話しして!さっきの意味は何!」
魔剣士「…」
白姫「魔剣士!」
魔剣士「…はぁ。あまり話したくなかったんだが………」
白姫「魔剣士…」
魔剣士「……分かったよ。だからそんな目で見るな。ただ、ちょっとばかし…覚悟がいる話だからな……」
白姫「うん」
白姫はしっかりと目を見つめて離さない。
また、魔剣士の言った"覚悟"という言葉は白姫に対してだけでなく、それを伝える自身へ向けて放ったものだった。
魔剣士「……白姫」
白姫「うん」
魔剣士「まぁなんだ…。その……」
白姫「うん」
魔剣士「…」
白姫「…」
魔剣士「……その、俺は…死ねない身体……らしいんだ」
白姫「…えっ?」
魔剣士「アサシンもそうだったように、魔法化した身体は魔力と同じような概念を持ってるらしい。魔力化した身体は、溢れる闇魔力で己が滅ぶことはないってことらしい…んじゃないか…とか……」
白姫「そ、それって……」
魔剣士「だけど、最後まで聞け。だが不思議なことがある」
白姫「う、うんっ」
魔剣士「考えてみれば、アサシンがどうだったかは知らないが、俺は腹が減るし痛みは感じるし酔っぱらう。これは、俺が死ねる身体なんじゃないかってことだ」
白姫「…っ!」
魔剣士「いや、こんな話もおかしい限りなんだけどよ……」
自分で何を言っているのか分からなくなる。
さらさら死ぬ気なんかないが、今は死ぬことが正しいことにも思え、何をどう考えればいいのか、ひたすらに混乱する。
今を生きていたアサシンはそんな考えに、もう一人のアサシンの自我との戦い、何者にも理解されぬ苦しみに生きてきたんだと、いずれ自分もそうなるのではないかと、恐怖さえ覚えた。
白姫「……魔剣士」
魔剣士「う、うむ……?」
白姫「怖い…よね……」
魔剣士「ッ!」
また、やってしまった。
白姫「怖いよね…。魔剣士の気持ち、痛いってくらい…分かるから……」
魔剣士「……目を見ないでくれ。こんなかっこ悪ぃこと…」
白姫「ううん、かっこ悪くなんかないよ」
魔剣士「お前にとってはそうかもしれねぇけど、俺にとってはスゲェだっせぇことなんだよ…!」
白姫「…」
魔剣士「クソッ…!クソッ!!クソッ!!!!」
白姫に対して、弱々しい自分を見せたくなんかなかった。
魔剣士「あれから何事もなく過ごしてきたし、深くは考えようともしなかった!だけど、つい頭に浮かんじまうともう離れないんだよ!だから……!」
白姫「魔剣士…」
魔剣士「生きてるんだか死んでるんだか分かりゃしねぇ存在だ!…見ろよ、これを!」
白姫「あっ!?」
魔剣士はベッドの下に置いていた剣を手に取ると、おもむろに自分の腕を切り裂いた。
しかし、血が一瞬滲んだかと思えば、強い魔力がシュワリと音を立ててあっという間に傷は治ったのだった。
白姫「傷が…!」
魔剣士「……確かに、ある程度の肉体のコントロールは効く。だけど薄々気づいてた。自分の身に危険を感じると、身体が勝手に治しちまうんだよ……」
白姫「…」
魔剣士「アサシンの呪いは本物だった。アイツはずっと若いまま、ずっと悩んでたんだ。しかも、俺よりもずっと深く、自分が飲み込まれる感覚に恐怖しながら……」
自分は未だマシだろう。中にいるのはウィッチの記憶であり、彼女は自分に全てを託した。
命を救ってくれた相手に文句を言う程バカではないし、彼女がいなかったら白姫も酷い目にあっていた。
恨むべきはアサシンなのだろうが、それに挑んだ結果がコレであり、自業自得そのもの。……情けなくなる。
魔剣士「だから、さっき……」
つい本音を漏らしてしまった。本当に情けない。死ねるかもしれないと、呟いた。
魔剣士「バーサーカー、闇魔法の術者の成れの果てか……」
白姫「…っ」
魔剣士「化け物だよな、まるで……」
白姫「え…」
魔剣士「闇魔法を手に入れた時、あれほど喜んだってのに。今は強さを手に入れて嬉しいこともあるが、後悔もある。こんな身体、化け物そのもので……」
白姫「化け物なんて、言わないで……」
魔剣士「ん……」
白姫「私は全然そうは思わないから…。魔剣士がそうだって思ってても、私はそうじゃないって思うから……!」
魔剣士「し、白姫……」
白姫の強い口ぶりに、誰かがそう信じてくれるだけで、わずかばかり気持ちが軽くなった気がした。
白姫「元はと言えば、全部私のせいで……」
魔剣士「……っと、それは言いっこなしっていつか言ったはずだぜ」
白姫「だけど、魔剣士は…」
魔剣士「そう言うのなら、お前と親父の喧嘩に巻き込んだのも俺のせいだ。こう言うのもナシだったよな?」
白姫「あ、あうっ……」
魔剣士「なっちまったもんはしゃあねぇんだ。新しい道を探すしかない、過去を振り向いても、活路は見えない……だろ?」
白姫「う、うん……」
魔剣士「……って、何言ってるんだ俺は?」
白姫「え?」
魔剣士「……そうか。過去を振り向いても、なっちまったもんはしゃあねぇ…か…」
自ら言ったその意味は、まんま自分に言い聞かせているように思えた。
そして、白姫との会話の中で納得出来るような言葉がたまたま出たことは、この本音を誰かに聞いてほしかったからかもしれない。
魔剣士「うんにゃ、つーか…。いつまでもかっこつけてばっかじゃ大人になれねーとかなのかねぇ……」
白姫「大人に…?」
魔剣士「……なぁ、白姫」
白姫「なぁに?」
魔剣士「また俺が弱気になったら、力をくれるか?」
白姫「……う、うんっ!私だって隠し事はしないから!絶対に!」
魔剣士「そうか、ありがとな」
白姫「うん……って、ひゃっ!?」
魔剣士は隣に座ってた白姫を片手で抱き寄せると、優しく両手で包む。わずかな魔力で全身を癒すように、温もりを感じる二人。
白姫「んっ…」
魔剣士「しばらくだけ……」
白姫「ううん、魔剣士…いつまでだって……」
魔剣士「あぁ……」
流れるような会話に、二人はそっと目を閉じ、静かな時間が流れていった。
………
…
―――次の日、午前8時。
魔剣士はようやく酷い頭痛によって目を覚ましたのだが、その頃には開かれたカーテンから眩い光が差し込んでいた。
気づかない間に宿部屋にいた魔剣士は辛そうに片目をつぶりながら辺りを見回し、近くにいた白姫の後ろ姿を確認すると声をかけた。
魔剣士「んあ…白姫……?」
白姫「…あっ、魔剣士!おはよう!」
魔剣士「お、おうっ……」
酒が抜けきっていないのか、まだ視界がボヤける。そして言えるわけがないが、白姫の少し高い声が頭に響いた。
白姫「魔剣士、えっと…ちょっと待ってね……」
魔剣士「あ…?」
白姫は何かをパタパタと準備をし、それからすぐ、ベッドの近くに温かいお茶と白い紙に乗せられた黒い飴のようなものを置いた。
魔剣士「んだ、これ……」
白姫「猛竜騎士さんが、魔剣士はそろそろ目を覚ますはずだから、起きたらこれとお茶を飲ませろって」
魔剣士「オッサンが…?」
白姫「えーと、アウルベアの胆のうとかっていうので、それが効くはずだーって言ってたよ」
魔剣士「……とにかく飲めばいいんだな?」
白姫「うん、たぶん。凄く苦いから注意しろって」
魔剣士「はいはい」
身体を前のめりにすると、頭が"ズキン!"という痛みを放った。
「うぐっ!」
鈍く重い痛みを感じながらも何とかお手を伸ばし、胆のうを口に放り込むと一気にお茶で流し込んだ。
魔剣士「……うぶっ!?」
胆のうは一気に流し込んだというのに強烈な苦みを発し、少しでも触れた舌、喉、胃がビリビリと痺れた。
魔剣士は堪らず、熱いお茶をグビグビと飲み込み、渋みが効いた味のおかげか、苦みは少しずつ無くなり、5分もすれば落ち着くことが出来たのだった。
魔剣士「な、なんつーものを飲ませやがる……!」
白姫「ご、ごめんね……」
魔剣士「いやお前じゃないだろ…。こんなクッソにげぇヤツ、何でオッサンは俺に……」
白姫「とにかく、起きたら一番に効くからーって」
魔剣士「何にだ?」
白姫「本人なら分かるはずだって」
魔剣士「分かるはずだってお前……」
言われなければ、分かるはずがない。
魔剣士「……って、あ…」
嘘をついた。言われなくても、分かってしまった。
魔剣士「頭痛が……」
先ほどまで放っていた頭の痛みが、嘘のように引いていた。
魔剣士「そういうことね……」
白姫「な、何が…?」
魔剣士「いや、結局見透かされてたってことだよ。……ところでオッサンは?」
白姫「あ、えっとね…何かブリレイさんとお出かけするって、ちょっと待っててくれって」
魔剣士「ふーん……」
猛竜騎士が眠りこけていた自分と、戦えない白姫を一人にする筈はない。恐らく、今はまだ危険ではないと悟ってからの行為だろう。
魔剣士「……あぁ、そう。そんじゃゆっくりしますかねぇ…」
魔剣士は後方へとジャンプし、ベッドへとダイブして毛布をかぶり直した。
白姫「また寝ちゃうの?」
魔剣士「まだ何かちょっとだけボーっとしてんだよなぁ」
昨晩大量に飲んだ酒は魔剣士の身体から抜けきっておらず、風邪を引いたようなだるさを感じていた。
白姫「うー…、じゃあ…ちょっと待ってて!」
魔剣士「…あ?」
白姫は風呂場へと走り、小タオルを冷たい水で濡らすと、ベッドへと寝る魔剣士の額にそっと乗せた。
少し火照っていた身体に丁度良い冷たさで、魔剣士は「ありがとな」と笑った。
白姫「ううん、それより大丈夫?」
魔剣士「心配し過ぎだ。大丈夫だっつーの。情けねーけど、そこまで酒に強い身体じゃねーみてーだな俺は……」
白姫「あんなにガブガブ飲んでる人見たことないもん!飲みすぎ!」
魔剣士「そ、そんなに飲んでたか?あまり記憶がだな……」
白姫「凄く飲んでたよ!その後に猛竜騎士さんに背負われて、ベッドに入ったらすぐ寝ちゃってたけどっ」
魔剣士「あらま……」
白姫「でも、今は元気になったみたいで良かったっ」
魔剣士「うむ……」
かなり心配をしていたのか、元気な姿を見た魔剣士を見た白姫はニッコリと喜んだ様子を見せる。
魔剣士「んー…だけど、酒に酔ったのか……」
白姫「うん?」
魔剣士「いや…うーん……」
魔剣士には少し不思議に思えた。ふと考えてみれば、自身が魔法化してから"普通の生活"に近いことをしている気がする。
腹が減り、酒に酔い、頭痛を患い、とてもじゃないが魔法化したような感覚ではない。あの時、セージの言った"永久の命"を得た存在となるなら、こんなことは有り得ないように思えるのだが。
魔剣士「……死ねるのか、もしかして」
小さく、呟いた。
だが、白姫はそれを聞き逃さない。
白姫「……え?」
魔剣士「あ、いや!何でもない!」
白姫「嘘っ!今ぜったいに死ぬとかって聞こえた!!」
魔剣士「ち、違うって!シネルっていう友達がいてだな……!?」
白姫「嘘つかないで!何、どういうことか教えてっ!」
魔剣士「いや、ちょっ……!」
鬼気迫る表情で魔剣士に近寄る白姫。
しまった…。彼女と目を合わせていたことで、何気なく発した一言がどれほどに重いものか、分かってしまったらしい。
白姫「魔剣士っ!!」
魔剣士「…ッ!」
まさか突き飛ばすわけにもいかず、魔剣士は「分かった分かった!」と両手を振ってアピールをした。
魔剣士「分かったよ!分かったっての!」
白姫「本当に!」
魔剣士「嘘ついたってオメーにゃすぐ分かるだろうが!つけるわけもねーだろうが……」
白姫「そっか、じゃあお話し聞かせてっ!」
魔剣士のベッドへ同じように転がる白姫。毛布の中にごそごそと入り込む。
魔剣士「お、おまっ」
白姫「お話しして!さっきの意味は何!」
魔剣士「…」
白姫「魔剣士!」
魔剣士「…はぁ。あまり話したくなかったんだが………」
白姫「魔剣士…」
魔剣士「……分かったよ。だからそんな目で見るな。ただ、ちょっとばかし…覚悟がいる話だからな……」
白姫「うん」
白姫はしっかりと目を見つめて離さない。
また、魔剣士の言った"覚悟"という言葉は白姫に対してだけでなく、それを伝える自身へ向けて放ったものだった。
魔剣士「……白姫」
白姫「うん」
魔剣士「まぁなんだ…。その……」
白姫「うん」
魔剣士「…」
白姫「…」
魔剣士「……その、俺は…死ねない身体……らしいんだ」
白姫「…えっ?」
魔剣士「アサシンもそうだったように、魔法化した身体は魔力と同じような概念を持ってるらしい。魔力化した身体は、溢れる闇魔力で己が滅ぶことはないってことらしい…んじゃないか…とか……」
白姫「そ、それって……」
魔剣士「だけど、最後まで聞け。だが不思議なことがある」
白姫「う、うんっ」
魔剣士「考えてみれば、アサシンがどうだったかは知らないが、俺は腹が減るし痛みは感じるし酔っぱらう。これは、俺が死ねる身体なんじゃないかってことだ」
白姫「…っ!」
魔剣士「いや、こんな話もおかしい限りなんだけどよ……」
自分で何を言っているのか分からなくなる。
さらさら死ぬ気なんかないが、今は死ぬことが正しいことにも思え、何をどう考えればいいのか、ひたすらに混乱する。
今を生きていたアサシンはそんな考えに、もう一人のアサシンの自我との戦い、何者にも理解されぬ苦しみに生きてきたんだと、いずれ自分もそうなるのではないかと、恐怖さえ覚えた。
白姫「……魔剣士」
魔剣士「う、うむ……?」
白姫「怖い…よね……」
魔剣士「ッ!」
また、やってしまった。
白姫「怖いよね…。魔剣士の気持ち、痛いってくらい…分かるから……」
魔剣士「……目を見ないでくれ。こんなかっこ悪ぃこと…」
白姫「ううん、かっこ悪くなんかないよ」
魔剣士「お前にとってはそうかもしれねぇけど、俺にとってはスゲェだっせぇことなんだよ…!」
白姫「…」
魔剣士「クソッ…!クソッ!!クソッ!!!!」
白姫に対して、弱々しい自分を見せたくなんかなかった。
魔剣士「あれから何事もなく過ごしてきたし、深くは考えようともしなかった!だけど、つい頭に浮かんじまうともう離れないんだよ!だから……!」
白姫「魔剣士…」
魔剣士「生きてるんだか死んでるんだか分かりゃしねぇ存在だ!…見ろよ、これを!」
白姫「あっ!?」
魔剣士はベッドの下に置いていた剣を手に取ると、おもむろに自分の腕を切り裂いた。
しかし、血が一瞬滲んだかと思えば、強い魔力がシュワリと音を立ててあっという間に傷は治ったのだった。
白姫「傷が…!」
魔剣士「……確かに、ある程度の肉体のコントロールは効く。だけど薄々気づいてた。自分の身に危険を感じると、身体が勝手に治しちまうんだよ……」
白姫「…」
魔剣士「アサシンの呪いは本物だった。アイツはずっと若いまま、ずっと悩んでたんだ。しかも、俺よりもずっと深く、自分が飲み込まれる感覚に恐怖しながら……」
自分は未だマシだろう。中にいるのはウィッチの記憶であり、彼女は自分に全てを託した。
命を救ってくれた相手に文句を言う程バカではないし、彼女がいなかったら白姫も酷い目にあっていた。
恨むべきはアサシンなのだろうが、それに挑んだ結果がコレであり、自業自得そのもの。……情けなくなる。
魔剣士「だから、さっき……」
つい本音を漏らしてしまった。本当に情けない。死ねるかもしれないと、呟いた。
魔剣士「バーサーカー、闇魔法の術者の成れの果てか……」
白姫「…っ」
魔剣士「化け物だよな、まるで……」
白姫「え…」
魔剣士「闇魔法を手に入れた時、あれほど喜んだってのに。今は強さを手に入れて嬉しいこともあるが、後悔もある。こんな身体、化け物そのもので……」
白姫「化け物なんて、言わないで……」
魔剣士「ん……」
白姫「私は全然そうは思わないから…。魔剣士がそうだって思ってても、私はそうじゃないって思うから……!」
魔剣士「し、白姫……」
白姫の強い口ぶりに、誰かがそう信じてくれるだけで、わずかばかり気持ちが軽くなった気がした。
白姫「元はと言えば、全部私のせいで……」
魔剣士「……っと、それは言いっこなしっていつか言ったはずだぜ」
白姫「だけど、魔剣士は…」
魔剣士「そう言うのなら、お前と親父の喧嘩に巻き込んだのも俺のせいだ。こう言うのもナシだったよな?」
白姫「あ、あうっ……」
魔剣士「なっちまったもんはしゃあねぇんだ。新しい道を探すしかない、過去を振り向いても、活路は見えない……だろ?」
白姫「う、うん……」
魔剣士「……って、何言ってるんだ俺は?」
白姫「え?」
魔剣士「……そうか。過去を振り向いても、なっちまったもんはしゃあねぇ…か…」
自ら言ったその意味は、まんま自分に言い聞かせているように思えた。
そして、白姫との会話の中で納得出来るような言葉がたまたま出たことは、この本音を誰かに聞いてほしかったからかもしれない。
魔剣士「うんにゃ、つーか…。いつまでもかっこつけてばっかじゃ大人になれねーとかなのかねぇ……」
白姫「大人に…?」
魔剣士「……なぁ、白姫」
白姫「なぁに?」
魔剣士「また俺が弱気になったら、力をくれるか?」
白姫「……う、うんっ!私だって隠し事はしないから!絶対に!」
魔剣士「そうか、ありがとな」
白姫「うん……って、ひゃっ!?」
魔剣士は隣に座ってた白姫を片手で抱き寄せると、優しく両手で包む。わずかな魔力で全身を癒すように、温もりを感じる二人。
白姫「んっ…」
魔剣士「しばらくだけ……」
白姫「ううん、魔剣士…いつまでだって……」
魔剣士「あぁ……」
流れるような会話に、二人はそっと目を閉じ、静かな時間が流れていった。
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