魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-12 静かな始まり

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――次の日、朝6時。
早くに目を覚ました白姫は、風呂場の鏡で身だしなみを整え、隣の部屋で休む猛竜騎士たちの部屋を軽くノックした。

白姫「猛竜騎士さん、ブリレイさーん……」

すると、やや重い声で「おーう」と返事、数分後にドアを開いて猛竜騎士とブリレイが現れた。

猛竜騎士「おはよう、白姫」
白姫「おはようございますっ」
猛竜騎士「どうだ、眠れたか?」
白姫「はい、大丈夫です!」
猛竜騎士「…そうか、それは何よりだ。今日から本格的な作戦が始まることにあたって、緊張していたのではないかと思ってな」
白姫「ううん、大丈夫です。今日からしばらくは、まだ魔剣士のほうが本格的に動くのに、本人があんな風なら私も落ち着けますし」
猛竜騎士「本人ねぇ……」

ベッドで腹を出して眠る魔剣士する。

猛竜騎士「なんちゅーやつだ……」
ブリレイ「つくづく、冒険者ですねぇ」
白姫「魔剣士が眠る顔を見てたら、私も落ち着いてきちゃって……」
猛竜騎士「こんな英雄

三人は大したヤツだなと笑うと、それに反応してか"ふごっ!"と鼻息を鳴らしたことに、三人は思わず更に声を上げて笑ってしまったのだった。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔剣士「ごっちそうさん!はぁーっ、食った食ったァ!!」

30分後、テーブルに並べられた朝ごはんを完食した魔剣士は、満足そうにして腹を叩いた。

白姫「はい、お茶。熱いから気を付けてねっ」
魔剣士「んむ…あんがとさん」

テーブルの横にあったポットから熱めの緑茶を注ぐと、魔剣士はこれまた満足そうにしてお茶を飲み干す。
目玉焼きに白米、ベーコン、サラダ、やや油の多めだった朝食に締めで頂く緑茶の苦みは、本当に美味しく感じられた。

魔剣士「ふぅー……」

堂々たる姿勢に、猛竜騎士は「流石だよ、お前は」と隣に腰を下ろした。

魔剣士「あん?」
猛竜騎士「本当に、これから世界の明日を担う戦いに赴くような態度じゃないな、全く」
魔剣士「腹減ってたら動けないだろうが」
猛竜騎士「そうだがな、良く眠るわ良く食べるわ、その神経の太さは折り紙つきだ」
魔剣士「バカにしてんのか、おい」
猛竜騎士「そんなことはない。むしろ、お前がそんなんでこっちまで気が緩くなってきたほとだ」
魔剣士「……あっそ。ってかな、俺はまだ実感がねーんだよ」
猛竜騎士「ん?」

魔剣士はもうひと啜り、お茶を口に運ぶ。

魔剣士「本当に、今日のことが世界を救うとか、明日のためになるってことが…どーにも実感が出来んわけよ」
猛竜騎士「……なるほど」
魔剣士「例えば、今日までぬくぬくしてたやつが明日にでも"戦争に行く"となって命を落とすかもしれないってなった時でも、人って実感って出来るわけねーだろ?よく言う話だけどさ」
猛竜騎士「人は死ぬまで分からないと、そういうことだな」
魔剣士「そうそう。だから、俺にとっては昨晩の話から実感はないわけ」
猛竜騎士「確かに、な……」

人はその瞬間になるまで分からない。そうそう覚悟のできている人なんかのほうが、まだ珍しいということだ。
何が起きるか分からない世界にいるハズなのに、その時が訪れたとしても、あまりの出来事に、呆けるばかりなのだ。

魔剣士「あ、いやだけど勘違いしねーでくれよ。俺ぁできることやるつもりだし、負けるつもりはねーからな」
猛竜騎士「……当然だろう」
白姫「うんっ!」
ブリレイ「期待しておりますよ」

魔剣士の大きい態度は、どこか安心すら覚える気がした。

魔剣士「で、どうすんだオッサン」
猛竜騎士「これからの予定だな」
魔剣士「おう」
猛竜騎士「それについてなんだが、ブリレイ」
ブリレイ「えぇ、僕が説明を」
魔剣士「んむ…」

代わるかたちで、ブリレイが口を開く。

ブリレイ「……まず、これから出発すれば午前中にはセントラルへと到着するはずです」
魔剣士「おう」
ブリレイ「それから、僕はまずセントラルへ派遣されている研究者と入れ替わる形で、王のもとへ挨拶に行かなければなりません」
魔剣士「あ、あぁ……」

彼が謁見する際、王へ自分たちの存在がバラされないように信じるばかり。
本来なら猛竜騎士も着いていきたいところだったが、こればかりは行動を共にするわけにはいかない。

ブリレイ「魔剣士さんと猛竜騎士さん、白姫さんはその際、どこか隠れられる…今からしばらく選考会の開催の間に拠点となる場所に身を置かねばなりません」
魔剣士「……それはどこにするんだよ?」
ブリレイ「それは……」
猛竜騎士「俺の家なら、問題もなかろう」
魔剣士「…へ?」
猛竜騎士「俺だって元、セントラル市場の人間だ。セントラルに家くらいは持っているに決まってるだろ」
魔剣士「そ、そりゃそうかもしれねーけど…危なくないのか?」
猛竜騎士「何がだ?」
魔剣士「ほら、オッサンさ……」

猛竜騎士は魔剣士たちが賞金首になってから直ぐに姿を消している。それに伴い、疑いをかけられていても不思議ではない。

猛竜騎士「その辺は心配するな。お前を追うバウンティハンターとして復帰したと、市場の仲間に伝えてあったからな。それにいち個人、わざわざ身辺調査はしないだろう」
魔剣士「ほー…」
猛竜騎士「むしろ、酷かもしれんがお前こそ自宅には近づくなよ。家出事件以降、お前の家に調査が入っていないわけがないんだ」
魔剣士「……分かってるよ」
猛竜騎士「そうか…」
魔剣士「それよりも、計画の続きだ。ブリレイが王に謁見と研究者の交代、オッサンの家に俺らが滞在するとして…それからどうする?」

再びブリレイへ目線が向けられる。

ブリレイ「えぇ、それからは本日より開催すると思われる選考会への参加が必要になります」
魔剣士「それが要なんだから、当然だな」
ブリレイ「いつも通りなら13時より開催のはずなので、その前に猛竜騎士さんの自宅へ向かいます。それから、顔の認識を変える幻惑魔法の仮面を渡しますので」
魔剣士「ほぉほぉ、仮面…準備してんの?」
ブリレイ「道中村にて、昨晩、猛竜騎士さんと一緒に出掛けて準備を進めておりました」
魔剣士「あ、そうなの」

白姫と魔剣士が寝てから、二人は酒を煽ったあとに外出し、近くの夜店で木板の購入をしていたらしい。

ブリレイ「そこから選考会にエントリーしていただき、あとは選抜者として残り…。そこからまた、改めて計画の練り直しを行いましょう」
魔剣士「……あいよ分かった。だけど、ちょっと質問があるんだが良いか?」
ブリレイ「何でしょうか?」
魔剣士「もし、選考会の途中で闇魔法の使い手と王が並んだ一瞬があった時。俺がそいつらを倒せると踏んだら、行動してもいいのか」
ブリレイ「……構いません。二人が揃ったその時こそ、何よりの好機となりますので」
魔剣士「分かった…、じゃあ勝手にやらせてもらうところは、やらせてもらうぜ」
ブリレイ「はい。ただ、無茶はしないよう……」
魔剣士「分かってるっつーの。あくまでも、アンタの考えた作戦に従っては行動するってぇの」
ブリレイ「よろしくお願い致します」

……これからの予定は決まった。
猛竜騎士の自宅を拠点とし、まずは選考会で残ること。単純だが、敵の本拠地であることもあって気の抜けない作戦になる。

魔剣士「……んじゃ、計画も決まったし出発すっか?」
ブリレイ「えぇ、そろそろ参りましょうか」
猛竜騎士「白姫も、準備はいいか」
白姫「…」

彼女にとっての準備は、心の落ち着き。いよいよ、故郷を相手にした戦いが始まる。生まれ育った都市、肉親、民を犠牲にしなければならない未来のための戦いが。

白姫「……大丈夫です。行きましょう、皆さん!」

猛竜騎士「…あぁ、良い返事だ」

ブリレイ「えぇ、参りましょう」

魔剣士「おぅ、白姫!」

四人は顔を合わせ、頷き、立ち上がる。
すると同時に"コンコン"とドアをノックする音が聞こえた。

猛竜騎士「……ん、どうぞ」

"キィ…"
軋む木音、そこへ現れたのはガストフだった。

ガストフ「……よ、失礼」
猛竜騎士「おや、ガストフさん」
ガストフ「朝飯食べ終わった頃かと思ってな。1号室から周ってたんだが、ここで最後ってわけだ」
猛竜騎士「まさに丁度というお時間です」
ガストフ「お、そうか。それで、ゆっくりできたかい?」
猛竜騎士「えぇ、大変お世話になりました」
ガストフ「それならいいんだ。それで…その様子はそろそろ出発するのか?」

立ち上がり、支度を整える四人の様子をまじまじと見る。

猛竜騎士「えぇ、そろそろお暇(いとま)しようかと」
ガストフ「お、やっぱりそうか。うちの宿を気に入ってくれてたら嬉しいぜ!ま、客室じゃあない部屋だったがな!」
猛竜騎士「いえいえ、最高のお部屋でした。お気遣いいただきまして、ありがとうございました」
ガストフ「だぁっはっはっは!お前さんも、魔剣士や姫様と一緒で今度はVIPルームに宿泊してくれよな!」
猛竜騎士「もちろん、是非」

ガストフは朝からハッハッハと笑いながら、テーブルに並んだ食器の片付けを始めた。
四人はそれを見つつ荷物をまとめ、支度を終えると、改めてガストフへと挨拶を行う。

猛竜騎士「それでは、ガストフさん」
魔剣士「おうガストフのオッサン、またな!」
白姫「本当にありがとうございましたっ」
ブリレイ「わざわざ素敵なお部屋をご用意頂き、本当に有難うございました」

各々感謝を述べ、ガストフに軽く会釈する。礼を言われることに慣れていないのか、ガストフは「へへ、バカ野郎!」と言いながら手をチラチラと、さっさと出てけと合図した。

猛竜騎士「えぇ、それでは」
魔剣士「じゃーな!」
ガストフ「……おう!」

恥ずかしそうなガストフに対し、四人はそれでもお礼を言いながら部屋から出て行った。
すると、ガストフは全員が出て行ったことを確認したあと。

ガストフ「……ったく、俺もつくづくお人好しだと思うよホントに!四人の料金…2万ゴールドを稼ぎそこねた分、今日も頑張らねぇーとなぁ!!」

まんざらでもなく、嬉しそうにガストフは一人、部屋の中で背伸びをしたのだった。

………


―――それから。
四人は、道中村を後にして決戦の地セントラルへと向けて出発する。
あの時歩いた道、変わらぬ風景に魔剣士と白姫は沸々とあの日を思い出していた。
夕焼けの中、魔剣士の大きな背中をしっかりと掴んだあの日、ふと怪我をしていた場所に触れて「あれから随分たったんだね」と思わず微笑んだ。

そして、約2時間後。

魔剣士一行は、ついに"王都セントラル"本領地内へと足を踏み入れる―――…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――午前11時50分。
魔剣士たちは、予定よりも早く王都セントラルの土を踏んでいた。
入口の門には通常、兵士が幾人見張りとして立っているはずが、その様子はない。恐らく、クロイツ騎士団の選考のため、ある程度の怪しい人間が入ってくるのは許容しているのだろう。
だが、内部にはそれに反して兵士や見たことのない深い青色をベースにした白い"クロス"が刺しゅうされた面子が目を光らせている。ある程度予想はついたが、彼らこそ以前の選考会によって選抜されたクロイツ騎士団なのだろう。

魔剣士「……久しぶりで感動もあると思ったが、なんか戦々恐々な雰囲気で全く別の街に来ちまったみてぇだ…」
猛竜騎士「短期間でこれほどに変わったのか……」
白姫「これがあの、セントラル…?」

見慣れない騎士団はもちろん、外装も大きく異なっていた。
以前より"セントラル"を象徴する王城はそのままだったが、その周囲には見慣れない建物がいくつか。どちらかというと、氷山帝国で見たガラス張りの高層な建物に類似しているように思えた。
また、猛竜騎士の仕事場としていた市場も大きく変わり、露店として並んでいた市場は無くなり、道は赤煉瓦によって改修のうえ整備され、別の場所に移されているようだった。

ブリレイ「この壮大さ、一見すれば美しい大都市に思えますが……」
魔剣士「……ちっ」

しかし、力の象徴たる美しさ、華やかさは中心部のみに集中する。

猛竜騎士「まんま、氷山帝国のそれだな…」

氷山大地にあったランク制度、所謂"最下位"で"人権を持たざる民"の家々は相変わらず、遠くに見えて雨風に晒された納屋のようにボロボロだった。
そして、すれ違った二人のクロイツ騎士団と思われる人間の口から信じたくない会話の一片が聞こえてきた。
「……今日も、離れに行って楽しもうぜ」と。

猛竜騎士「…っ!」

この時、猛竜騎士だけが察する。
離れとは、人権外の民が住む場所の隠語。大の男二人が、楽しむと言った言葉の意味は。

猛竜騎士(金だけじゃない、暴れる冒険者たちを抑えるには、そういったことまで…!最悪の奴らが……!)

それを分かった時、すぐにでも彼らに殴りかかりたかった。
だが、それをしては計画が崩れてしまうことに、今は目をつぶるしかない。

魔剣士「……それで、オッサン」
猛竜騎士「ん、おっ?」

急に声をかけられ、心情を悟られるかと少し慌てる。

魔剣士「何慌ててんだ?」
猛竜騎士「いや、あれだ…。久々だという気持ちに浸ってな…。それで、なんだ?」
魔剣士「何だっていうか、アンタの家に案内してくれるんだろ?」
猛竜騎士「お、あぁ…そうだったな……」
魔剣士「しっかりしてくれよ」

やれやれ。
猛竜騎士は「分かった」と、先頭に立って誘導する。

猛竜騎士「…」

考えれば自分も戻ってくるのは相当久々で、現在セントラルは開発計画の真っただ中らしく、自宅が無事残っていれば良いのだが。
そして10分後、元市場からそれなりの距離にあった住宅街に到着すると、2階建ての赤茶色に煤けた屋根の家屋の前で足を止める。

猛竜騎士「さすがに住宅街はそのままか」

おおよそ1年近く、懐かしいそのままの姿で我が家は建っていた。

魔剣士「ここがオッサンの家なのか?」
白姫「これが猛竜騎士さんの家なんですか!」
猛竜騎士「……いや、白姫はともかく、考えたら魔剣士は俺の家を知らなかったかのか?」
魔剣士「オッサンとはずっと知り合いだったけど、市場でばっか会ってたじゃん」
猛竜騎士「そうか…、いやそうだったな」
魔剣士「そーいうこと。へぇー、ここがねぇ……」

早速、魔剣士はドアに手を伸ばし、白姫も続こうとしたが、寸でのところで猛竜騎士とブリレイに二人はそれぞれ止められた。

魔剣士「な、何だよ!」
白姫「ふぇ?」

腕をつかまれる二人は驚いて声を上げたが、ブリレイは「しっ」と静かにするよう促す。

ブリレイ「魔剣士さん、白姫さん、お待ちください」
魔剣士「何だよ、びっくりするじゃねーか!」
ブリレイ「静かに…。念のため、確認は必要でしょう」
魔剣士「確認だ?」
ブリレイ「えぇ、自宅とはいえ…猛竜騎士さんも分かっております」
魔剣士「ん…?」

猛竜騎士は姿勢を低くし、家の窓際へとゆっくり足を運ぶ。

魔剣士(……あぁ!)
白姫(そ、そっか……)

ここでやっと理解。
例え自宅といえども、現状において家が何者かに占拠されている可能性はゼロではないと踏んだのだ。

猛竜騎士(気配は無い、が……)

何者かがいた際に対処できるよう、窓から中を覗く。

猛竜騎士(…)

カーテンに仕切られていた合間から、人がいないこと、出発した当時に置いておいたと思われる雑誌が埃に汚れているのを確認し、とりあえず安堵する。
「大丈夫だ、中に入ろう」と。

魔剣士「良いのか?」
猛竜騎士「問題ないだろう。鍵はドアの左下、そこのネコの置物の下に置いてあるから開けてくれるか」
白姫「……あ、可愛いっ」
ブリレイ「意外ですね」
魔剣士「ネコ……」

玄関の近くには、石で造られた寝転がる猫の置物がちょこんと置いてあった。

猛竜騎士「……好きなんだよ、ほっとけ!」

ネコ好きとは意外な、魔剣士は笑いながら置物をどかすと、言われた通り袋に入っていた鍵を取り出した。

魔剣士「あったあった、だけどわざわざ置いていったのか?」
猛竜騎士「長期間出かけるのに、置いていくのもと思ってな。…というか、あの時は下手をすれば戻っては来れないと思っていたんだが」
魔剣士「あ、あぁ……」
白姫「猛竜騎士さん……」
猛竜騎士「念の為に忘れないでよかったと思うぞ。ほれ、開けろ」
魔剣士「……はいはい」

鍵を扉に差し込み、ガチャリと回すと、
「入るぞー」魔剣士は玄関の扉を開く。
―――すると。

魔剣士「うぇっぷ!?」

"もわっ…!"
尋常ではない量の埃が舞い散り、白姫と魔剣士はゴホゴホと咳き込んだ。

白姫「け、けほけほっ!」
魔剣士「スゲェ埃…おぇっ!」
猛竜騎士「流石に掃除も無かったらこうなるか……」
ブリレイ「あらら……」

あまりの量に四人は一旦避難。とりあえず、一呼吸おいて落ち着く。

魔剣士「ぜぇ、ぜぇ……」
白姫「けほっ…!そ、掃除が必要そうですね……」
猛竜騎士「仕方ない…。市場に行って掃除用具を購入するか……」
ブリレイ「……僕は、手伝いたいところなのですが」

ブリレイは軽く頭をかいて、参ったなといった感じに後退する。

魔剣士「んあ?」
ブリレイ「猛竜騎士さんの自宅も分かりましたので、そろそろ研究者として王城に赴かねばなりません」
魔剣士「そういやそうだったな……」
ブリレイ「それと、魔剣士さんも一緒に広場のほうへ行ったほうが宜しいかと思います」
魔剣士「俺が?」
ブリレイ「えぇ、いつもならお昼過ぎ…13時より選考会が広場にて。どうやら、王都内のすれ違う冒険者たちを見るにまだ開催されていないようなので、先に向かっていたほうがよろしいかと」
魔剣士「あー…」

ちらりと白姫を見る。

魔剣士「……ま、オッサンもついてるし大丈夫か。そんじゃ、俺ぁクソ騎士団の選考会を受ければいいんだな?」
ブリレイ「そうなります。しかし、ローブだけでは心もとないので…少し前にもお話ししたことになりますが、顔の認識を変える幻惑魔法及び仮面の装着が必要でしょう」
魔剣士「か、仮面ね……」
ブリレイ「視界は悪くなりますが、ご容赦いただければ……」
魔剣士「まぁいいけどよ……」
ブリレイ「それでは、仮面をお渡ししますので、ローブのフードを深く被って仮面を装着していただけますか?…顔を知られたくないハンターや冒険者としては珍しくないスタイルですので、怪しまれることもないと思います」
魔剣士「窮屈だなぁオイ…。だったら仮面だけでも良いんじゃねーの?」
ブリレイ「魔法装着によって、外れないように致します。加えて、それを装着している間は"認識"自体が歪むようになりますから…一応に持っていて損はないはずです」
魔剣士「……どういうことよ?」
ブリレイ「例えば魔剣士さんの存在が公になった際、仮面を被った際に"仮面を被ったただの人"という認識にさせるため、いざという時に持っていて損も無いということです」
魔剣士「あ、あぁー…何となく分かった……。俺が俺じゃなく思わせるってことでいいのね?」
ブリレイ「そういうことです」

理解は出来た。しかし、一つの疑問が生まれる。

魔剣士「あれ、だけど……」
ブリレイ「如何なさいました?」
魔剣士「そしたら、仮面同士で互いに認識できなくならないか?」
ブリレイ「……なるほどですね」

仮面を装着した同士、白姫を白姫、オッサンをオッサン、自身も理解されなくなってしまうのではないかという疑問。

ブリレイ「それは幻惑魔法の弱点でもあるんですが…、その、同一魔力を使った者同士の道具なら通じ合うことが出来てしまうんです」
魔剣士「あ、そうなの?」
ブリレイ「ですから、仮面には絶対に他人へ触れられないようお願いいたします」
魔剣士「あいわかった」
ブリレイ「それでは、恐縮ですが……」

掛けていたバックを下ろし、中から片目のみを覆う、鳥の眼のようなデザインが施された仮面を3つ取り出した。それぞれ赤、青、黒で目元部分にシュっとした塗り、鋭い眼光のような眼元、思っていたよりも洗練されたデザインに魔剣士は「おぉ!」と喜ぶ。

ブリレイ「この色のついた部分に魔力が込められています。朝にお話しした通り、道中村で準備を進めておりましたから」
魔剣士「ほっほー…!じゃあ俺は黒にするぞ!」

仮面を受け取り、早速左目側に装着する。

魔剣士「んおっ…!」

密着させた瞬間、パァっと淡い光を放ち、"スチャリ"という肌と仮面が密閉された音、仮面は魔剣士の皮膚にフィットして装着された。

ブリレイ「……っと、いけない。白姫さんと猛竜騎士さんもすぐに」
白姫「は、はいっ!」
猛竜騎士「おっと、そうか」

魔剣士を認識できなくなる前に、二人も同じようにして仮面を装着する。白姫は赤、猛竜騎士は青。それぞれ、問題なく仮面は装備された。

ブリレイ「…よし、これで大丈夫です」

術者であるブリレイは装着の必要なく、バッチリ恰好の決まった三人に「似合ってますよ」と小さく拍手する。

魔剣士「これであとはフードを被って……と」
ブリレイ「えぇ、それで大丈夫だと思います。それでは、参りましょうか?」
魔剣士「あ、そうだな。そんじゃ、オッサンと白姫は……」
猛竜騎士「俺らはとりあえず掃除だな。お前のことだから選考会は心配してはいない。あと、今日の選考会が終わったらここに戻ってこい」
白姫「え…、み、見に行かないんですか?」

どこか不安そうに、猛竜騎士に声をかける白姫。

猛竜騎士「短い日数とはいえ、帰ってくる家を綺麗にするのも待つ者の仕事だろう。それとも何だ、お前は魔剣士が選考会でポカをやらかすと思ってるのか?」
白姫「い、いえそんなことは!……そ、そうですよね。しっかり綺麗にして、魔剣士を待ちます!」

白姫は"ふんっ!"と鼻息を鳴らし、魔剣士に頑張ってね!と声掛けをした。

魔剣士「ハハ…、そんじゃまー頑張ってくらぁ!」
ブリレイ「えぇ、それでは僕も謁見が済み次第、魔剣士さんの様子とこちらに状況の報告を行うため顔を出しますね」
白姫「うん!頑張ってきて、頑張ってきてください!」
猛竜騎士「頼んだぞ、魔剣士」

魔剣士「……おうっ!」

ブリレイ「えぇ」

白姫「はいっ!」

猛竜騎士「ともに、武運を」

ついに、世界の未来を賭けた作戦が始まった。しかしそれは、魔剣士たちであるが故か、どこの緊張感もない、静かな静かな立ち上がりであった。
だが、この戦いがいよいよ明日を担うということは、四人全員が把握していたに違いない。
意気込んでも、笑っていても、その表情は真剣そのものだったのだから――…。

…………
……


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