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玄愛《炯side》
玄愛《炯side》2
しおりを挟む物凄く広い部屋の高級なソファーに腰をかけ、長い足を組んで雅彦は日本語で話し出した。
「コウメイさんは、小さい時から世話になっている俺の専属のお医者様なんだよ。知らなかったなぁ。こんなに可愛い孫がいたなんて。俺もここに戻るのは10年ぶりだからなぁ」
ソファーに座った雅彦は立っている俺を見て、「俺の隣に座りなさい」と空いている右側を手でポンポンと叩いた。
俺はそれを無視して対面のソファーに座った。
「この家は誰も住んでないってじいさんから聞いてたけど?」
すると雅彦は自分のソファーを離れ、俺の隣に座り直して続けた。
「あぁ、俺はずっとイギリスとかフランスとかスイスとか拠点を持たず世界を転々としていたんだけど、諸事情でここに戻ることにしたんだ」
執事が雅彦に紅茶を入れ、デザートやフルーツをテーブルに置いた。
マスカットを食べながら雅彦は続ける。
「父は有名な資産家なんだけど、俺は妾の子だからね。本妻が手切れ金とこの屋敷をくれたんだ。働かなくても孫の代まで不自由しない暮らしが出来るんだよ」
「《雅彦様、初対面の…しかも少年にそこまで話さなくてもいいのでは?》」
俺用にオレンジレンジジュースを用意しているエリックが会話を遮った。
しかし雅彦は無視をして更に日本語で続ける。
「でもね、俺がモデルをしている理由はその父と本妻に俺の存在を見せつけるためなんだ。こんなに有名になったらさすがに目に止まるからね。本妻の悔しがる顔が目に浮かぶ。妾の子供が世界で活躍しているんだから。嫌な男だろう俺は?」
「《雅彦様…私の言ったことは聞こえませんでしたか?》」
エリックが追加でクッキーやケーキを俺の前に準備しながら雅彦を見て言った。
「《エリックが、初対面の少年にそんなに話をするなって言ってるけど無視していいの?》」
「《おお、ヒカリ。英語が分かるのかい?エリックは日本語が分からないから大丈夫だよ》」
俺が英語を話せると知って、雅彦は驚いていた。
「《私は日本語が話せないだけで理解はしてます》」
「話せないだけで理解はしてるみたいだけど…」
マスカットを食べ終えた雅彦は次はどの果物にしようかしばらく悩み、好みの果物が無かったのか俺の目の前にあるクッキーに手を伸ばした。
そしてそれを一口食べて、俺を見つめて微笑んだ。
「じゃあ中国語でも覚えて、エリックには分からないように俺たち二人だけで秘密の会話ができるようにしようか?」
「《雅彦様、いい加減にしてください》」
雅彦の様子を見て、すかさずマスカットを追加で持ってきたエリックが雅彦を睨む。
「《あぁ怖い。エリック、そんなに毎日怒っていると血管が詰まっていつか死んでしまうから怒らないで。君が死んだら誰が俺にマスカットを用意してくれるんだい?》」
そんなエリックの態度を打ち消すかのように明るく冗談を交える。
エリックはため息をついた。
「《あなたと言う人は…》」
雅彦は再びマスカットを口にして、俺にもマスカットを差し出した。
俺がそれを貰って食べると、雅彦は嬉しそうだった。
「《うちの妻もモデルをしてして子供を連れて色々と世界を飛び回っている。今の拠点はスイスらしい。俺たちはお互いを縛らず自由なんだ。子供に会えないのは寂しいけどね》」
なんだこいつ妻子持ちなのか。
こんな軽いやつが家庭を持っているのが不思議に思えた。
「《だからヒカリ、アメリカに来るときは連絡をくれ。俺の相手をしてくれるかな?日本語を話せる友人なんてほとんどいないから、忘れたくないんだ》」
「《いいけど…俺は毎年春夏冬の3回しか来ない》」
雅彦はソファーを立ち上がり、俺たちの話しを立って聞いているエリックの背中を押して強制的にソファーに座らせた。
「《いいよ。俺もヒカリが来るときは予定を空けておくようにする。あぁ楽しみが増えた。エリック、今後はヒカリがいない秋にスケジュールを詰めてくれよ》」
そしてまるで賄賂かのようにマスカットをエリックの口へ運んだ。
仕方なく食べるエリック。
「《…努力はしますが…雅彦様、ご自分がおいくつスポンサー契約されているかご存じですか?》」
「《今年に入って一番難しいクイズだなぁ…5つじゃなかったかな?》」
「《…その2倍です》」
「《あははっ。働かせすぎじゃないかエリック。そりゃ忙しいわけだ。でもこれからヒカリに会えるなら仕事を減らしてくれて構わないよ。違約金払っても金は使いきれないほどあるからねぇ》」
エリックは苛立ちを隠せずにソファーから立ち上がり、空になったカップに紅茶を注いだ。
「《誰が謝罪などの後処理をすると思っているのですか?マスカットは没収します》」
「《冗談だよエリック!怒らないで。血管が詰まってしまうよ?そのマスカットは俺に食べて欲しいって言っているからこっちに持ってきなさい》」
それが雅彦と俺の出会いだった。
率直に、この場が楽しいなと感じた。
それからアメリカに行くときは必ず雅彦に会ってた。
日本に帰っても次の長期休みが楽しみで仕方なかった。
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