玄愛-genai-

槊灼大地

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玄愛《炯side》

玄愛《炯side》3

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中1の夏、じいさんが亡くなったときも雅彦は撮影を抜け出して葬儀に駆けつけてくれた。



しかし多忙のため、葬儀に出てすぐにまた撮影場所へ戻って行った。



それから1週間後に撮影が終わり、豪邸へ戻ってきた。



隣の豪邸の灯りが点いたことに気付いた俺は、雅彦の家に向かった。



雅彦も祖父母の家に来ようとしたのか、すぐに玄関が開いた。



「《ヒカリ…》」


「《すぐ戻ってくるって言ったのに…》」


「《すまない。悪天候で撮影が難航してスケジュールがだいぶ長引いたんだ。飛行機も運休してしまって…。ヒカリ…大丈夫か?大丈夫じゃないね。あぁ、悲しい顔をしないで。俺まで辛いよ》」



そう言って玄関で抱きしめてくれた。



「《俺…じいさんからバッシュもらったのに、ありがとうって言えなかった》」



じいさんとは、些細なことでケンカをしてしまった。



そんな時、じいさんから日本にバッシュが届いた。



次に会った時に謝ろう、礼を言おうと思っていたのに持病の発作が悪化して亡くなってしまった。



「《ヒカリがちゃんとバッシュを使ってバスケしていれば、喜んでくれるよ。そういう人だろう彼は?》」



悔しい…
過去に戻りたい…



「《俺がじいさんに最後に言った言葉…じいさんなんて好きじゃないって言った…それが最後の言葉になった。本当は好きだったのに…》」


「《よしよし、大丈夫。コウメイさんは分かってくれているよ。安心しなさい。大丈夫だから》」


大きな手で優しく頭を撫でてくれた。



あぁ本当に撮影してすぐ帰ってきたんだ。



オールバックの髪型のまま、いつもと違う撮影用の香水の残り香を纏った雅彦が新鮮だった。




「《ヒカリ、泣いていいから、たくさん泣きなさい。遠慮しないで。俺の胸で泣くと子供はすぐ泣き止むんだ》」


「《俺は子供かよ…》」


「俺は保護者だよ?ストリートで君を保護した」


久しぶりの日本語で冗談を言う雅彦に釣られて笑ってしまった。



「それは別の意味の保護者だろ…」


「《やっと笑ったね。エリック…席を外してくれるかい?》」


「《かしこまりました》」





それから雅彦の部屋で、泣けるだけ泣いた。



雅彦がいるだけで落ち着いた。



もっと傍にいたいと思った。














中2の夏休み、雅彦に山田の話をしたことがあった。



山田雅鷹の第一印象は名前に【雅彦】と同じ漢字が入ってるな、程度だった。



人には興味無いが、それだけは印象にあったから中1の頃から存在は知っていた。



同じクラスになっても山田財閥だからもてはやされていた。



それと反対に、俺は山田を特別扱いしなかった。



結果、クラス全員で俺を無視したり、カバンに大量の石を詰められたり、じいさんから貰ったバッシュを捨てられたり…色々な嫌がらせを受けた。



でも今は山田も改心して、一般人らしい部分も出てきた。




「《ははは。面白いじゃないかその子》」


「《面白くねぇよ》」


「《ヒカリを標的にするなんてすごい子だ。俺も彼に掃除を押し付けたら、石をプレゼントされるのかな?》」



冗談交じりにタバコを吸いながら俺の話を笑顔で聞いてくれた。



学生生活のことを聞かれるとバスケのことしか話さなかった俺が、初めて山田の話をしたのが嬉しかったようだ。



「《石が欲しいならいくらでも俺が拾ってきてやるけど?》」



「《ははっ。ヒカリからの石なら大切にしないとな。おっと…睨むなよ。ともかく、ヒカリに友達が出来て嬉しいよ》」



「《人のバッシュ捨てたりカバンに石詰めるやつが友達って…》」



雅彦はタバコを吸い終えると、エリックが準備してくれたケーキをフォークで三等分にした。



そしてそのケーキを三回に分けて俺の口へ運ぶ。



「《きっとその子をそう育ててしまった家庭環境が悪いんだね。ヒカリがちゃんと常識を教えてあげないと。俺も会ってみたいなぁ。まずはヒカリを宜しくって言わないといけないかな》」



「《…保護者かよ》」


「《忘れたのか?俺は保護者だろう?》」


「《あぁ…そうだった》」



雅彦はもう知ってるんだ。



俺が甘党ってことも。



フルーツよりケーキが好きだってことも。



俺が食べ終える度に嬉しそうな顔をして。



本当に保護者みたいだなと思った。



雅彦のくだらないジョークを、こうして笑い合える。



それだけで幸せだと感じた。

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