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18 ガラム・ソードラーン男爵

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 ミルドの話を終えてから後日、エイベルと男爵夫妻と一緒にミルドから聞いた話をすることに決めた。
「コートナー侯爵家令息、いやエイベル殿。一体改まってお話とは……」
「うふふ。エイベル様。嬉しゅうございますわ」
 困惑する男爵とは対照的に満面の笑みを浮かべるローナ夫人。二人に私から切り出した。
「実はお話したいことがあります」
 マギーも近くに控えている。
「お話って、最近のメルティは何か他人行儀だねぇ」
 男爵はおっとりとしつつも確信めいた発言をした。
「そうねぇ。まるで大人の女性を相手にしているみたいだわ。メルティも大人になったのね。最近体調も良いみたいで。安心したわ。これなら貴族学院も社交界にデビューしても大丈夫そうね」
 しみじみと語るローナ夫人と見ながら、私は話し始めた。
「実はメルティア嬢は倒れてから、私は別人になったのです。メルティアの中に別の人の意識を取り込んでいます」
「は? メルティは一体何を言い出したのだ……」
 当惑している男爵に私は説明を続けた。
「実はメルティア嬢は願いが叶うというネックレスを手に入れ、そして、彼女はどうやらアニー隊長になりたいと願っていたようなのです」
「ど、どどどどういうことだ?」
 混乱してしまった男爵に今度はマギーが付け加えた。
「旦那様。メルティアお嬢様の仰っていることに間違いはありません。お嬢様が街の占い師にそのネックレスを買いに行かれた際に同行しておりましたから、それに私はお側でおつかえしております。目覚めてからのお嬢様は以前のお嬢様ではないと感じておりました」
「で、では、今のメルティアはメルティアではないのだと?」
 長年メルティア嬢付きの侍女をしていたマギーの言葉に男爵は動揺していた。エイベルはそのまま説明を続けた。
「正確に言えば、その占い師の鑑定によると死んで彷徨っていたアニー隊長の魂がメルティア嬢の願いに捉われて合わさってしまったようです」
 男爵は座っていたソファーからずるずると滑り落ちてしまった。ローナ夫人は言葉もなくプルプルと体を震わせて蒼ざめていた。
「じゃあ。メルティ、……私の娘の魂はどうなったのだ?!」
「占い師のミルドの鑑定では望みが叶ったメルティア嬢は満足して融合した魂の奥で眠りについている状態だと説明してくれました」
「そんな!」
 ローナ夫人が悲鳴を上げて倒れそうになったので男爵は夫人を支えつつこちらを見た。
「……だから、私がメルティア嬢のように振舞うのは難しいのです。アニーとしての記憶しかありませんから」
「……」
 夫人を支えながら、男爵は黙り込んでいた。
「気持ち悪いとか気に入らないと思われるなら出て行きますので」
「出て……。だが、その体はメルティなのだろう? 意識が、魂が、と言っても」
「ええ、それは間違いなく。この体はメルティア嬢のものです」
 だが、中身が違うとなればまた違うだろう。
「どちらにせよ。アニーの行き場がなければ私が引き取ります。いずれは結婚するつもりですので、一緒に住むのが早くなるだけですから」
 横で黙って聞いていたエイベルが男爵夫妻に話した。
 それは聞いてないぞ。エイベル? あとで裏庭まで来い。ゆっくりそのことについて拳で話そう。いいな?
 夫婦はお互いを見合わせて黙り込んでしまった。
「……」
 いっそ罵倒されたるほうが気は楽かもしれない。
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