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21 メルティア嬢とアニー・フィード

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21 メルティア嬢とアニー・フィード
 研究室の更に奥に通されるとそこには寝台があった。
 治療院とかで見かける物だった。
「そこで横になって、リラックスしないとね。ただ、このようなケースを扱うのは私でも初めてだから貴方の、皆の求める通りになるかどうかは分からない」
「ええ、構いません」
 偽りの生に縋りつくつもりはない。
 メルティア嬢の意識と体と言われても私はアニー・フィードなのだから。
 天涯孤独の孤児でスタンピードでも生き抜いて隊長まで上り詰めた。
 十分だ。
 私はただのアニー・フィードだ。これからも私は私自身であろう。メルティア嬢に返さなければいけない。
 私にはいなくなっても心配する家族もいないし。
 ああ、エイベルは……。私がまたいなくなるとどうなるのだろう。
 少しそのことを思うと無い胸の奥が痛んだ。
「さあ、そちらの寝台に横になって頂戴。楽にしてね。本当なら、あなたに心の準備をしてから術を行いたかったのだけど本当に今はとても忙しくてね」
 私はサニーライト師の指示に従った。
「ええ、そうですね。スタンピードの残滓や魔獣が狂暴化しているとのことを聞いています」
「ああ、そうよね。あなたはアニー隊長だものね」
「……」
「何か残したい言葉はある? ……その、コートナー卿に……」
 サニーライト師が言いにくそうに尋ねてきた。
「いえ、特には何も」
 エイベルに伝えたいけれど何を残して良いのか分からない。
 私はサニーライト師を見上げた。
「もう十分です。だから、お願いします」
 サニーライト師は心配そうな表情をしたものの、何かの呪文を唱え始めた。
 そうすると私の意識は暗転した。
 再び気がつくと真っ暗の中ただ一人立ち尽くしていた。
 どこからかすすり泣く声が聞こえる。
 ふと目の前に蹲った少女がいて、私に気がついたのか少女が顔を上げた。
 少女は見慣れた姿だった。メルティア嬢なのだから。
 メルティア嬢は泣きながら私に謝って来た。
『……ごめんなさい。アニー隊長。私は、私が彷徨っていたあなたを呼び寄せてしまったの。だから、あなたの意識は元に戻ることができなくなって……』
 彼女は泣きじゃくり始めた。
 一頻り彼女が泣くと落ち着いたようだった。
「まあ、仕方ないさ。そういう巡り合わせだったのだろう。もう済んだことだ。それに私はそのまま天国とやらに逝ってしまったかもしれないんだ。メルティア嬢の体になって仲間と話せて良かったよ」
『アニー隊長……』
「あなたに体を返すよ。返すという言葉が適切かどうかは分からないけれど……」
『アニー隊長は、それで良いのですか?』
「良いも悪いも、こうなったものはどうしようもないだろう? 私はもう……」
『私の融合を拒めば……、このままでいられるかもしれません』
「それもなんだかなあ。この体はメルティア嬢のものだし」
 もう、このままゆっくり眠ってもいいと思えるようになってきた。
 ここで眠るのは永遠の眠りになるのだろうか?
 私は目の前のメルティア嬢に手を差し伸べた。彼女も私の手を取ると目の前のメルティア嬢の体が縮んだ。
 すると早送りのように周囲に情景が浮かんできた。
 暫くするとこれがメルティア嬢の体験したことなのだと気がついた。
 男爵夫妻が若くなった姿でメルティア嬢に話しかけている。
 メルティア嬢の記憶が浮き上がってくる。
 喜怒哀楽。楽しい記憶、苦しい、辛いことまで思い出して、私の中のメルティア嬢とアニーとしての記憶が重なっていく。
「メルティア嬢……」
『アニー隊長。ありがとうございました』
 再び私は暗闇に飲み込まれた。
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