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六 売り飛ばされた先は
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そんなある日、酷く眼つきの悪い男がやって来た。対応した私をじろじろと不躾に眺めるので私を使用人か何かと勘違いしているのかもしれない。
来客が来ても一番に出迎えなければならないはずのベンは普段からふらふらと出歩き今もどこにいるか分からない。他の使用人達はバークレイ男爵の身の回りの世話で手が一杯だと言われ何もしようとしない。
手入れの行き届いていた伯爵家が段々と全体的に薄汚れた感じになっていく。庭は草だらけ、廊下は埃だらけ。
ふと気がつけば私の側仕えだった侍女も既に他家へと転職していて、私の着替えの手伝いを頼むことすら困難になっていたのだった。
「俺はバークレイ男爵に呼ばれてきたんだ」
「分かました。呼んでまいります」
正直、いつの間にか私が使用人のような仕事までしていた。
「おば様、来客です」
「あら、誰かしら?」
「客間に通してありますが……」
名前を聞いていなかったけれどいいわ。私は使用人ではないもの。おば様もそろそろご自分の家に戻られるだろし……。
気がつけば両親の事故から半年近くが経とうとしていた。
私が部屋で休んでいると、いきなりバタンと乱暴に部屋の扉が開けられた。そこには先程の来客を連れて、おじ様とおば様が立っていた。男は不躾にじろりと私を睨んだ。
「あまり高くは引き取れねえな。ひょろっとし過ぎだ」
「まあ、いいわ。そろそろ潮時だし」
「おば様、一体何のお話ですか」
「ああ、この方がね。あなたにいい話を持って来たのよ」
「いい話ですか? お見合いとかでしたらまだ」
「お見合いだあ? 何言ってやがる。お前えはこれから売られるんだよ」
「売られる? どういうことですか」
「ごめんねぇ。ちょっとギャンブルで負けちゃって。一文無しになっちゃのよ。それで貴女を賭けたらやっぱり負けちゃった」
「負けちゃったって……」
「あと少しあれば勝っていたのだ!」
「おじ様まで……」
「そういうことだ。お嬢ちゃんは諦めな」
「そんな! 私とおば様は関係がありません」
「あら、嫌だ。私達はあなたの後見人なのよ。だからあなたの処遇は私達でどうにでもできるのよ」
「おば様……、どうして」
「グダグダと煩せえな。じゃあ、娘はもらっていくぜ」
嫌だと叫んだけれど私は軽々と男の小脇に抱きかかえられて伯爵家から連れ出されてしまった。
小汚い馬車の中で私は猿轡をされて両腕も縛られていた。
「騒ぎは面倒だから、暫くの辛抱だ」
男の口調が少し落ち着いた感じに変わり、先程の館のとき程の悪辣な表情もしていなかった。
「俺はそこまで非道ではない。たまたま、賭博場であの二人に知り合って、ゲームをしていたんだが、あんたには酷え話だよな。俺もそこまで善人じゃないが、気の毒なあんたに選択肢を与えてやるよ」
――選択肢? 猿轡のせいでしゃべることはできないので小首を捻ってみせた。
「あんたはあの男爵の借金のカタには間違いないからな。俺が売る先を斡旋できるのは娼館か食堂の下働きくらいだ。どっちもご令嬢には辛いだろうが、まあ生きてるだけましだと思いな」
――娼婦に食堂の下働きですって! 私は伯爵令嬢なのに。もごもごと猿轡ごしに抗議をした。
「まあ、あの男爵夫婦に散々食い散らかされてしまったんだろうな。あいつらは社交界どころか庶民の間でも詐欺師まがいと有名なやつだぞ。どこにでも顔を出す鼻抓み者だ」
……詐欺師まがい。そんな。
「残念だったな。あいつらも最近は後ろ暗いことにも手を出してるって噂だ。いずれはってところだろう。まあ、お互い関わったことが悪かったと思うしかない」
にたりと笑った男をただ茫然と見つめるだけだった。
――そして、私が選んだのは……。
来客が来ても一番に出迎えなければならないはずのベンは普段からふらふらと出歩き今もどこにいるか分からない。他の使用人達はバークレイ男爵の身の回りの世話で手が一杯だと言われ何もしようとしない。
手入れの行き届いていた伯爵家が段々と全体的に薄汚れた感じになっていく。庭は草だらけ、廊下は埃だらけ。
ふと気がつけば私の側仕えだった侍女も既に他家へと転職していて、私の着替えの手伝いを頼むことすら困難になっていたのだった。
「俺はバークレイ男爵に呼ばれてきたんだ」
「分かました。呼んでまいります」
正直、いつの間にか私が使用人のような仕事までしていた。
「おば様、来客です」
「あら、誰かしら?」
「客間に通してありますが……」
名前を聞いていなかったけれどいいわ。私は使用人ではないもの。おば様もそろそろご自分の家に戻られるだろし……。
気がつけば両親の事故から半年近くが経とうとしていた。
私が部屋で休んでいると、いきなりバタンと乱暴に部屋の扉が開けられた。そこには先程の来客を連れて、おじ様とおば様が立っていた。男は不躾にじろりと私を睨んだ。
「あまり高くは引き取れねえな。ひょろっとし過ぎだ」
「まあ、いいわ。そろそろ潮時だし」
「おば様、一体何のお話ですか」
「ああ、この方がね。あなたにいい話を持って来たのよ」
「いい話ですか? お見合いとかでしたらまだ」
「お見合いだあ? 何言ってやがる。お前えはこれから売られるんだよ」
「売られる? どういうことですか」
「ごめんねぇ。ちょっとギャンブルで負けちゃって。一文無しになっちゃのよ。それで貴女を賭けたらやっぱり負けちゃった」
「負けちゃったって……」
「あと少しあれば勝っていたのだ!」
「おじ様まで……」
「そういうことだ。お嬢ちゃんは諦めな」
「そんな! 私とおば様は関係がありません」
「あら、嫌だ。私達はあなたの後見人なのよ。だからあなたの処遇は私達でどうにでもできるのよ」
「おば様……、どうして」
「グダグダと煩せえな。じゃあ、娘はもらっていくぜ」
嫌だと叫んだけれど私は軽々と男の小脇に抱きかかえられて伯爵家から連れ出されてしまった。
小汚い馬車の中で私は猿轡をされて両腕も縛られていた。
「騒ぎは面倒だから、暫くの辛抱だ」
男の口調が少し落ち着いた感じに変わり、先程の館のとき程の悪辣な表情もしていなかった。
「俺はそこまで非道ではない。たまたま、賭博場であの二人に知り合って、ゲームをしていたんだが、あんたには酷え話だよな。俺もそこまで善人じゃないが、気の毒なあんたに選択肢を与えてやるよ」
――選択肢? 猿轡のせいでしゃべることはできないので小首を捻ってみせた。
「あんたはあの男爵の借金のカタには間違いないからな。俺が売る先を斡旋できるのは娼館か食堂の下働きくらいだ。どっちもご令嬢には辛いだろうが、まあ生きてるだけましだと思いな」
――娼婦に食堂の下働きですって! 私は伯爵令嬢なのに。もごもごと猿轡ごしに抗議をした。
「まあ、あの男爵夫婦に散々食い散らかされてしまったんだろうな。あいつらは社交界どころか庶民の間でも詐欺師まがいと有名なやつだぞ。どこにでも顔を出す鼻抓み者だ」
……詐欺師まがい。そんな。
「残念だったな。あいつらも最近は後ろ暗いことにも手を出してるって噂だ。いずれはってところだろう。まあ、お互い関わったことが悪かったと思うしかない」
にたりと笑った男をただ茫然と見つめるだけだった。
――そして、私が選んだのは……。
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