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「二度とそんなことを言うな。とにかく、仕事帰りに夜道は歩くな。絶対に、だ」
「分かりました。ごめんなさい」
朝から仕事外のことで注意を受けて、思わずシュンとした顔をしてしまった。私はバッグを自分のデスクの椅子に置くとお湯を沸かしに行く。
「はい、お待たせしました」
先生のことは大好きなのだが、良かれと思ってしたことが裏目に出るなんて辛い。凹み気味のまま、淹れ立てのコーヒーを先生に届ける。すると――
「……野上がいなくなったら、淹れ立ての美味しいコーヒーも飲めなくなるからな」
先生がボソッと呟いた。私はその言葉が耳に入り、一気に気分が晴れやかになる。
「私はいなくなりませんし、何なら定年までコーヒーを淹れ続ける気持ちで勤務してます!」
「……ここで働いていたら出会いもないかもしれないんだぞ。一生、独身でもいいのか?」
先生は間を置いてから答えた。
「わ、私には素敵な出会いがありましたけど……!」
「俺は子供に構って遊んでる暇はないんだ。男探しがしたいなら、他の場所で働け」
「分かりました! その時はそうします」
売り言葉に買い言葉で、つい対抗してしまう。出会った当初はあんなに優しくて紳士的だったのに、今となれば、悪魔のように冷たい日もある。夜道のことといい、子供扱いばかり。
「いや、その前に仕事を一人前にこなしてからにしてくれ。教え損はしたくない」
「何だかんだ言って、私のことが必要なんですね」
「そう思うのは個人の自由だ」
先生の本心は読めないが、受け入れてくれたのだから嫌われているわけではなさそう。時折見せる優しさにキュンキュンしてしまう。まだ出会って間もない先生だけれど、私にとってはきっと運命の人。願わくば恋人になりたい。
しかし、恋人になるには乗り越えなければならない壁があることをこの時の私はまだ知らなかった。
第一章 攻防戦の開幕
木枯らしが吹いて、肌寒い一日。この瀬山法律事務所には代表兼弁護士である瀬山先生と秘書兼事務員の私の二人しかおらず、険悪な雰囲気である。
「一人で留守番の時は営業時間外にして鍵を閉めておけと言ったのに、何故そんな簡単なこともできないんだ」
外回りから帰って来た先生が、呆れた様子で大きな溜め息を吐く。
「だって、閉めている間にお客様が駆け込んでくるかもしれないじゃないですか! そしたら、お仕事を取り漏らしちゃいますし、いるのに不在対応だなんてお客様にも失礼かと……」
「言い訳はもういい。今後も決まりが守れないならば辞めてもらう。それだけのことだ」
以前も鍵を閉めておくようにと指示されたが、同じように開けていた。その時も注意されたのだが、私は訪ねて来るお客様に対して失礼だと思って逆らう。逆らったわりには来客はなく、更には今回は二回目で先生の機嫌を損ねてしまった。
どうして、私が一人の時は事務所を閉めなければならないのか理解できない。聞いても明確な理由を知らされないまま、毎日が過ぎて行く。
先生の秘書並びに事務員として、瀬山法律事務所で働いている私は野上杏沙子、二十六歳。自転車で走行中に怪我をして先生に助けてもらって以来、お世話になっている。
先生の名前を冠した瀬山弁護士は小さい法律事務所なので、大きな案件などほぼ飛び込んでくることなく、日々細々と運営している感じ。
仕事内容も司法書士が介入できない金額の債務整理や自己破産、財産分与の裁判などが多い。
「全く! 人選は面談等を経て決めるべきだったな」
ブツブツと文句ばかりを垂れ流している先生を上手く交わし、デスクの上に淹れたてのホットココアを置いてみる。
「何だよ、コレは? コーヒーにしてくれ」
先生が不満そうに私に訴える。
「ココアです。イライラしてる時は甘い物ですよ」
私は先生の言うことを無視をして、事務仕事を再開した。先生は何か言いたそうにも見えるが、無言でカップを口に近づける。
毎日が激務だったという有名な法律事務所を辞め、独立した先生。出会ったばかりの頃に『毛嫌いされていた』と先生が言っていたが、何となく分かった気がする。先生はお客様には優しく接するのだが、従業員には厳しい口調で接する。それでも私は先生のことが気になり出したら止まらなくて、そんなギャップも含めて好きになってしまったのだ。
出会った日に一瞬で心を奪われた私は、振り向いてもらえなくても良いから先生の側にいたいと願う。働き始めて半年になるが、進展など何もない。むしろ、子供扱いされていて眼中にもなさそうだ。
「甘すぎる!」
先生は一口飲んだだけで文句を言い、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して蓋を開けた。よほど口に合わないのか、一気にミネラルウォーターを喉に流し込んでいる。
「仕事中に甘い飲み物はやめてくれ! 俺は仕事に刺激を求めているんだから!」
「すみません!」
ストレス緩和のために出した甘い飲み物は、かえって逆効果だったようだ。先生は自分でドリップコーヒーを淹れ始め、ほろ苦い香りが私のデスクに漂ってくる。
普段は目つきが悪く、口も悪い先生は依頼に来た方を怖がらせてしまうが、時として逆効果になることもある。少し俯き加減で髪をかき上げる先生からは大人の男のセクシーさが溢れており、私を筆頭に先生の魅力に気づいた女性は怖がるどころかキュンとしてしまうからだ。
キリッと整っている眉、奥二重のシャープな目、すっと鼻筋の通った鼻、薄い唇――左右対称の均整の取れたこの美しい顔に見つめられたら、女性なら誰でも虜になってしまいそう。
実際、債務整理の依頼にきた女性が先生のことを気に入ってしまい、離婚騒ぎになったこともあった。
しかし、クライアントとの約束もなく、事務所にいるだけの日は、裁判中のようにキリッともしていない。髪型もワックスで毛流れを作るわけでもなくサラサラ前髪のままだし、常にノーネクタイでシャツの第一ボタンは開けっ放しなので、やる気すら感じないのが難点なのだ。
「暇だから、お前が俺に刺激を与えてくれてもいいんだぞ?」
先生はコーヒーカップを私のデスクに置き、隣の椅子に座って肩を組んできた。
「え? な、何言って……」
先生にこんなにも近づかれたことはないので、私の鼓動は早まるばかりで落ち着かない。ドキドキしすぎて肩も竦んでしまう。
「……暇つぶし、するか?」
耳元で囁かれるように呟かれる。もうダメだ、緊張してどうにかなってしまいそう。先生の吐息が耳元にかかり、くすぐったい。
「あ、あの……暇つぶしって?」
声を絞り出し、問いかける。
「何だと思う?」
何だと思うと聞かれても、答えようがない。男女が二人きりの暇つぶし。想像してしまうことは、いかがわしいこと。先生は私から離れる様子もなく、ついに男女の関係になってしまうのか? と頭の中はショート寸前だった。みるみるうちに耳まで火照り、顔は真っ赤に違いない。
「お前の考えてることはお見通しなんだよ。だが、一緒に遊んでいる暇はない」
私の肩に乗せていた腕を外し、意地悪そうに言ってきた。
「か、からかいましたね、私のことを!」
本気にしてしまった私は残念に思いながらも、膨れっ面になる。
「勘違いする方が悪い」
ケラケラと笑いながら席を立ち、シュレッダーにかける書類を用意し始めた先生。先生は時々、私の気持ちを知ってて、からかって遊んでいるような態度を取る。
先生が離れてからも顔の火照りは消えず、まだ温もりも微かにあった。ドキドキしているのが私だけなんて、先生はズルい。
先生が、常に男の魅力を取り戻したら仕事も舞い込むはずだ。依頼人の離婚騒ぎはもうお腹いっぱいだけれど。それにしても、相変わらず私のことは子供扱いから変わらない。興味がないとはっきり言われているかのようだ。
「先生って……過去にお付き合いした女性はどんな方でしたか?」
現在、先生にお付き合いしている方がいないのはリサーチ済。一人暮らしだと言っていた先生に念押しで確認して、渋々フリーだと教えてもらうことができた。今までお付き合いした方にもあんな風にからかったり、普段からは想像できないような無邪気な笑顔を向けていたのだろうか?
気になったら止まらなくて、つい口に出してしまった。
「仕事中にする話ではない。少なくとも、野上のようなお子様ではないことは確かだな」
想像通りの返答で安心したと言い切るのは変かもしれないが、歴代の彼女たちが逆に私みたいなポンコツだったとしたら嫉妬してしまうかもしれない。あなたたちが良くて、私は何がダメなのだろう? と。バリキャリ美人ならば、私自身と比べても天と地の差があるから諦めもつく。
「お前の望む恋愛って何なんだ?」
先生は私の顔を見ながら問いかけてきた。先生からこんな話をしてくるなんて、一体どうしたのだろうか? 先程の流れだとしても珍しい。
「そうですね、私ももう良い大人ですし、学生みたいなお付き合いではなくて、大人の恋愛をしてみたいです」
週末には終電寸前までバーで飲んで、彼のお部屋に一緒に帰って、二人で朝寝坊なんかもしたりして。翌朝には彼に朝食を作ってあげたり、半同棲して彼が帰るのを待つのも良いな。想像するだけで、ドキドキしてしまう。相手が先生だとしたら、尚更……
「お前の考える大人の恋愛とやらは、朝まで一緒に過ごしたり、セックスしたりすることか?」
先生が座っている椅子の隣にいた私は、いきなり腕を掴まれ、先生の顔と私の顔が接近する。綺麗な瞳で見つめられ、唇同士が触れそうな程の至近距離に心臓の鼓動がバクバクと急ぎ足で動き出す。
「セ、セック……」
「違うのか? 何なんだ?」
ストレートな物言いに恐縮してしまい、赤面したまま動けず、反論もできない。お泊まりにはつきものかもしれないが、私はもっと心の繋がりが欲しいと思う。
「大人の恋愛だって……そ、そんなことばっかりじゃないはずです。職場恋愛して、結婚とか、そーゆーのだって、憧れの大人の恋愛だと思いますが?」
「そうか? とんだお花畑の頭の中だな」
正気に戻れないままに絞り出した答えを鼻で笑われた挙句、否定される。まぁ、こんなことも日常茶飯事なので、さほどは気にはならない。先生は私の気持ちに気づいてるはずなのに、からかうだけからかっては強制終了される。完全に相手にされてないのかもしれない。
友人に先生の話をすると私はMだなんて言われる。しかし、私は先生が大好き。前途多難な恋だけれど……!
「お花畑でもいいんです、別に! 何歳になっても素敵な夢を見ることは乙女の権利ですっ」
「権利を主張するなら、いつまでも見習い気分でいないで書類を間違えないように仕事をこなしてほしいものだな」
「……うぅっ、それとコレとは別問題でしょ? 酷い!」
はぐらかされた上に全く別の問題へと話題が振られる。
「ただいま戻りました! あーっ、またイチャイチャしてる!」
「おかえりなさい! イチャイチャしてるように見えます?」
「見えます!」
事務所の扉を開けて元気よく入ってきたのは、私よりも四学年下で弁護士の卵の湯河原大地君。湯河原君は先生に憧れて事務所の扉を開けた一人で、現在は司法試験に向けて目下勉強中だ。
裁判所での先生の立ち振る舞いは、まるでドラマのワンシーンのように格好良く、傍聴席では法律関係の仕事を目指している未来の弁護士たちの目を釘付けにしていた。女性だけではなく、男性の法曹関係者たちまで魅了してしまう先生は尊敬に値する。
「誰がコイツとイチャイチャするか! さっさと仕事しろっ!」
注意を受けた湯河原君は苦笑いしながらも、デスクに座って次の仕事に取りかかる。
「先生、債務整理の書類作りに入りますね。それから、こないだの遺産相続の渡辺さんですが、つい先程、街中でばったり会いまして。旦那さんの時みたいに問題が起きないように遺言書を書くお手伝いをしてほしいそうですよ。近いうちに事務所にいらっしゃるそうです」
「……ふうん? あのばーさんももうすぐ仏さんになるのか?」
「そんなことはないですよ、全然元気ですからまだまだ先ですよ」
「だよなー! あの乗り込んできた時の慌てぶりと元気さから見て、あと三十年は生きそうだよな!」
先生は本当に口が悪いのだが、悪気はないらしい。先生と湯河原君が二人で笑いながら話している話題の渡辺さんとは、先日に旦那様を亡くして、遺言書がなかったがために遺産相続で揉めた方である。
私有地を駐車場にしていたのだが、税金の支払い義務やその相続手続きなどなど、他にも色々と問題があり、先生が無事に解決したのだ。
湯河原君情報によると、先生は以前は大手事務所でスケールの大きく脚光を浴びるような弁護をしていたとか。詳しいことは分からないのだが、そういう仕事の依頼が舞い込んだら先生もやる気が出るのだろうか?
「渡辺さんはいついらっしゃいますかね? お茶菓子とかが少なくなってるから買い足してきて良いですか?」
「そんなに急には来ないだろ? それにお前、頼んだ書類はまとめたのか?」
「ま、まだです」
「だったら、そっちを先にやってから買い出しに行け!」
ギロリと鋭く睨まれて、資料で机の上を二、三度叩く。湯河原君とは楽しく話してるくせに私には真逆の冷たい態度を浴びせる。
私だって湯河原君のように先生に頼られたいし一人前にもなりたいけれど、法律関係の事務は難しくて息抜きが欲しくなる。
先生の事務所にお世話になってから半年が経つが、まだまだ分からないことだらけだ。以前も事務職だったとはいえ、区役所で働いていたのとは勝手が全然違う。
私の自宅は先生が借りている事務所のすぐ側にあり、先生が引っ越し作業を行っていた時にたまたま通りかかり、転んで怪我していたところを助けてもらったのが縁で今に至る。
先生には運命を感じたので一週間粘って勤務の許可を得てから、一ヶ月後に区役所を辞めた。
転んだ時に自転車も壊れてしまったので今は歩いて事務所まで通勤しているが、自宅から近いので区役所勤務の時よりも出勤時間がかなり短縮できる。それに先生に毎日会える利点がある。
「区役所の方が安泰なのに、辞めるなんて馬鹿だな。うちの事務所は設立したばかりでいつ給料が払えなくなるかも分からないぞ?」
先生にはそう念押しもされたが、今のところ一度も給料の支払いが滞ったことはない。
そうして私が加わってから二ヶ月後、再び事務所の扉を叩いたのが湯河原君だった。
「どこかにもいたよな、募集も出てないのに急に来て雇ってくれって奴」
先生はそう言って楽しそうに笑っていた。
とりあえずこの『瀬山法律事務所』の従業員は先生と私と湯河原君の三人しかいないのだ。
湯河原君が弁護士の卵なだけあってサクサクと仕事をこなすのに対して、私はいつまでも初心者扱いの、どちらかと言えば使えない部類の役立たずに近い従業員。
私は主に先生の秘書兼事務系で、湯河原君はドラマの世界でよく知られている法律事務を主に取り扱うパラリーガルとして、先生の右腕となり働いている。パラリーガルになりたいわけではないのだが、少しでもお役に立ちたくて少しずつ湯河原君の仕事のお手伝いもしている。
私は入社して半年が経つ今も間違いが多く、このままではいけないとは思いつつ、日々修行中である。
「先生、いるぅー?」
ブラウン系の重めなクラシックな趣の扉を叩き、元気よく飛び込んできたのは噂の渡辺さんだ。
「さっきね、湯河原君に会って遺言書のお手伝い頼みたいってお願いしたんだけど聞いたかしら? 杏沙子ちゃん久しぶりね。これはね駅地下で買ったケーキよ! このお店、最近のお気に入りでね、週一で通ってるのよ。店員がまたイケメンで……!」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです」
相変わらず話がノンストップだなぁ。渡辺さんはいつも元気で、先生は常にタジタジしている。
「渡辺さん、こんにちは。ご依頼ありがとうございます。今日はひとまず、ご相談という形で宜しいですか?」
「はい、お願いします。先生は相変わらず、クールでイケメンね。こんなにイケメンなのに妻子がいないなんて残念だわぁー。誰か紹介しましょうか? それとも、うふふ、杏沙子ちゃんが彼女なのかしら?」
「そんなことより、あちらでご相談に乗りますからどうぞ」
速攻に彼女という区分は否定された。渡辺さんを無理矢理に応接用のソファーに案内して、先生はスマートにこの場を立ち去る。
全く、顔色一つ変えないんだから。先生は何を言われても動じることはなく、誰に対しても冷静沈着。
渡辺さんは良い人だけれどお節介が過ぎて、来る度にお見合いの話を持ちかけたりするが先生は交わしてばかり。素っ気ない態度なのに渡辺さんも先生が気に入ってるので、用事を作っては押しかけてくるのが日常。
先生は無愛想だけれども、とても親身になって考えてくれるし、渡辺さんみたいなクライアントの方々がご相談のある方にこの事務所を紹介してくれるパターンもある。
小さな事務所だが地域密着型というか、市民の味方のような事務所になっていると思う。
私は先生に怒られもするが毎日楽しく勤務している。区役所にいた頃よりも居心地は良く、それに何より大好きな先生の側で毎日仕事をできることが幸せ――
「では遺言書に書く内容をもう一度考えてから、またいらして下さい。それから毎度言ってますが、事務員を甘やかす手土産は持参しないで下さいね」
先生は笑いながら言っているように見えても、目は笑っていなかった。
「あら、私は杏沙子ちゃんが好きだから買ってきてるのよ? 杏沙子ちゃんも湯河原君も孫みたいに可愛いんだもの。もちろん、先生のことも好きよ!」
うふふ、とニヤけながら、口に手を当てて笑っている渡辺さん。
「お気持ちだけ受け取ります。……湯河原、渡辺様をお見送りして!」
「はいっ」
先生に渡辺様のお見送りを頼まれ、元気よく返事をした湯河原君。先生はめんどくさそうな態度をしている時もあるが、渡辺様のどんなわがままも聞いてあげている気がする。
私も先生の声にはすぐに反応してしまうが、湯河原君も負けずにすぐさますぐ立ち上がり、まるで犬のポチみたいだ。渡辺さんの帰り際に再びケーキのお礼を言い、バイバイと手をヒラヒラと振ってくれたので私も振り返した。
出口の扉まで送るはずだった湯河原君は外に連れ出されてしまい、しばらくは帰って来られない予感がする。
「また渡辺さんは湯河原を連れ出したか!」
「……多分ですけど、家まで送ってもらうつもりでしょうね? 以前もそうでしたから」
「困ったものだな」
渡辺さんは湯河原君のことも気に入っていて、商店街にある自宅まで話をしながら送ってもらうのが毎回のお決まりみたいなものである。呆れ顔の先生は無愛想な顔をして、ケーキの箱を開けて覗き込んでいる。先生が唯一食べられるのは、ブルーベリーソースがかかっているレアチーズケーキ。
「野上、コーヒー」
このお目当てのケーキがあるかどうかを確認してから箱を閉じて、私に向かっていつもの偉そうな口調で言い放つ。
甘い物は苦手だが、ブルーベリーソースがかかっているレアチーズケーキが大好きな先生は本心では喜んでいるのだ。
渡辺さんも先生の好みを私からリサーチ済みなので、他のケーキに密かにお気に入りを紛れ込ませて購入しているのだ。淹れたてのコーヒーと共にお皿に乗せたレアチーズケーキを差し出すと、先生は何も言わずに食べ始める。
ケーキを食べている先生の姿はとても貴重なので、写真に収めたいくらいだ。カップの柄を持つ仕草とケーキを口に運ぶ仕草が綺麗で見惚れてしまう。
「……何だ? ジロジロ見るなよ。このケーキが良かったのか?」
「ち、違いますけど!」
「物欲しそうな顔してる。そんなに食べたいなら一口やるよ。……ほら?」
先生はフォークでケーキを一口分にサクッとすくい、私の口の前に差し出す。目の前に差し出されたものの、本当に食べても良いのかな……?
「俺が使ったフォークが嫌なら、自分で持って来い」
先生からこんなことをされたのは初めてで、私が戸惑っていて食べられずにいると、先生は差し出した手を引っ込めてケーキを自分で食べてしまった。
「な、何でくれなかったんですか?」
「お前が俺のフォークが嫌で食べなかったからだろ!」
「嫌じゃないです! 食べたいです! ……早く食べさせて下さいっ!」
ガッカリした私は先生に反論して、溜め息を吐かれながらも再度差し出されたケーキをパクリと食べた。甘酸っぱいブルーベリーソースと濃厚なレアチーズが口一杯に広がる。
「もう、やらないからな。他のケーキにしろ」
そう言って私の唇についたケーキをティッシュで拭った瞬間、先生の指が唇に触れた。こうして子供扱いされていても、ほんの些細な触れ合いにドキッとさせられる。
湯河原君がいない時はこうして私のことを構ってくれるが、彼がいると素っ気ない態度を取ってくる。これは先生がいつも言っている『暇つぶし』ということなのか、それとも少しは好意を持ってくれていると思っていいのだろうか……
「何だよ?」
そんなことを一人で考えていたら、思わず先生の顔をじーっと見つめてしまい、先生に睨みつけられる。
まるで彫刻のように整った顔立ちだが、睨みつけられると鋭い眼差しに怖さを感じてしまい、思わず目を逸らす。目の前に立ちはだかる先生の前で、私は右下辺りを見て目を合わせずにいた。
「……っひゃ……!」
先生の左手が私の右頬に触れ、変な声を出してしまう。そのうえ頬に火照りを感じ始めて、ますます顔を上げられなくなった。
先生は一体何がしたいんだろう? これまで先生に頬など触れられたことなどないので、緊張感が漂う。
「頬にもケーキがついてる。全く子供じゃないんだから」
左手の親指で頬をなぞり、文句を言いながら自分の席へと戻ってしまった。
このシチュエーションはキスされるかも……? なんて思って、思わず身構えた自分もいいて非常に恥ずかしい。
先生となら、キスもしたい。先生に限って職場でのキスも抱擁もありえないだろうし、そもそも私になんて興味がないのだから妄想にしても非常識だったと思い直す。
「……野上、キスされるとでも思ったか? 妄想ばかりしてないで仕事に戻れ」
「し、してません!」
頭の中を覗かれたかのようにピタリと当てられ、クスクスと面白がって笑っている先生が憎らしい。
いつの日か、先生と対等に向き合えるようになりたいと願う。日々、恋心は膨らんでいくばかりで胸を締めつけさえするけれど……距離感は少しずつ縮まっていると思う。
「野上みたいな恋愛経験の少ない奴が甘い言葉に騙されて結婚詐欺に引っかかるんだろうな?」
「……はい?」
心中穏やかではなく、まだドキドキの余韻が残っているというのに先生と来たら、突拍子もないことを言葉に出した。先程のやり取りなどは忘れたように先生はパソコンを弄り出し、並行して仕事用のスマートフォンも操作している。
確かに恋愛経験も少ないし、先生から見たら子供かもしれないけれど、引っかかるかどうかは別問題でしょう? けれども、私には詐欺グループの一員に騙されたという前科があるので一概に否定はできない。
「恋愛経験は別問題でしょ? 要は結婚願望が強くて焦ってしまったか、本当に好きになっただけじゃないですか?」
「そうか? じゃあ、例えばだが……野上の憧れている人が三百万振り込んだら結婚するぞって言ったら、するか?」
「したいです! 三百万で結婚できるなら!」
「お前は本当に持って来そうだから、怖いな。それに何度も騙されるんじゃない」
冗談だと分かっていても身を乗り出し、先生に近づいて返答した。そのことに対し、コツンと拳で軽く叩かれる。でも私は憧れの人、イコール先生と結婚できるなら三百万を出しても惜しくはないのだ。
結婚詐欺に遭った方々だって、貢いでいると気づかない振りをして、相手の方と結婚したかっただけなんだから。
純粋な気持ちほど、恋愛に吸い込まれてしまえば厄介なものはない。
抜け出せない負の連鎖から気持ちを断ち切ることができるのは、裏切られたと気づく時だけだ。
「憧れの人が用意しろと言うならば用意しますが、裏切られた時はとてつもない絶望からの怒りを感じると思いますよ?」
「うん、だろうな? 知人の知り合いから結婚詐欺の相談に乗ってほしいと持ちかけられたんだ。突然だが明日の夜は空けておいてくれ。クライアントの仕事が終わってからになるだろうから、夜は遅くなるかもしれないが……一緒に話を聞いてくれるか?」
「良いですよ、夜遅くて帰り道が怖いので先生が送ってくれるなら!」
願ってもない、お近づきになれるチャンスに浮き足立ってしまう。
「はいはい、ラーメンに餃子もつけます」
「……どうせなら、イタリアンが良かった」
遅い時間の相談だし、いつもなら湯河原君に同席を頼むのに頼まないということは相手が女性だと思われる。
「分かりました。ごめんなさい」
朝から仕事外のことで注意を受けて、思わずシュンとした顔をしてしまった。私はバッグを自分のデスクの椅子に置くとお湯を沸かしに行く。
「はい、お待たせしました」
先生のことは大好きなのだが、良かれと思ってしたことが裏目に出るなんて辛い。凹み気味のまま、淹れ立てのコーヒーを先生に届ける。すると――
「……野上がいなくなったら、淹れ立ての美味しいコーヒーも飲めなくなるからな」
先生がボソッと呟いた。私はその言葉が耳に入り、一気に気分が晴れやかになる。
「私はいなくなりませんし、何なら定年までコーヒーを淹れ続ける気持ちで勤務してます!」
「……ここで働いていたら出会いもないかもしれないんだぞ。一生、独身でもいいのか?」
先生は間を置いてから答えた。
「わ、私には素敵な出会いがありましたけど……!」
「俺は子供に構って遊んでる暇はないんだ。男探しがしたいなら、他の場所で働け」
「分かりました! その時はそうします」
売り言葉に買い言葉で、つい対抗してしまう。出会った当初はあんなに優しくて紳士的だったのに、今となれば、悪魔のように冷たい日もある。夜道のことといい、子供扱いばかり。
「いや、その前に仕事を一人前にこなしてからにしてくれ。教え損はしたくない」
「何だかんだ言って、私のことが必要なんですね」
「そう思うのは個人の自由だ」
先生の本心は読めないが、受け入れてくれたのだから嫌われているわけではなさそう。時折見せる優しさにキュンキュンしてしまう。まだ出会って間もない先生だけれど、私にとってはきっと運命の人。願わくば恋人になりたい。
しかし、恋人になるには乗り越えなければならない壁があることをこの時の私はまだ知らなかった。
第一章 攻防戦の開幕
木枯らしが吹いて、肌寒い一日。この瀬山法律事務所には代表兼弁護士である瀬山先生と秘書兼事務員の私の二人しかおらず、険悪な雰囲気である。
「一人で留守番の時は営業時間外にして鍵を閉めておけと言ったのに、何故そんな簡単なこともできないんだ」
外回りから帰って来た先生が、呆れた様子で大きな溜め息を吐く。
「だって、閉めている間にお客様が駆け込んでくるかもしれないじゃないですか! そしたら、お仕事を取り漏らしちゃいますし、いるのに不在対応だなんてお客様にも失礼かと……」
「言い訳はもういい。今後も決まりが守れないならば辞めてもらう。それだけのことだ」
以前も鍵を閉めておくようにと指示されたが、同じように開けていた。その時も注意されたのだが、私は訪ねて来るお客様に対して失礼だと思って逆らう。逆らったわりには来客はなく、更には今回は二回目で先生の機嫌を損ねてしまった。
どうして、私が一人の時は事務所を閉めなければならないのか理解できない。聞いても明確な理由を知らされないまま、毎日が過ぎて行く。
先生の秘書並びに事務員として、瀬山法律事務所で働いている私は野上杏沙子、二十六歳。自転車で走行中に怪我をして先生に助けてもらって以来、お世話になっている。
先生の名前を冠した瀬山弁護士は小さい法律事務所なので、大きな案件などほぼ飛び込んでくることなく、日々細々と運営している感じ。
仕事内容も司法書士が介入できない金額の債務整理や自己破産、財産分与の裁判などが多い。
「全く! 人選は面談等を経て決めるべきだったな」
ブツブツと文句ばかりを垂れ流している先生を上手く交わし、デスクの上に淹れたてのホットココアを置いてみる。
「何だよ、コレは? コーヒーにしてくれ」
先生が不満そうに私に訴える。
「ココアです。イライラしてる時は甘い物ですよ」
私は先生の言うことを無視をして、事務仕事を再開した。先生は何か言いたそうにも見えるが、無言でカップを口に近づける。
毎日が激務だったという有名な法律事務所を辞め、独立した先生。出会ったばかりの頃に『毛嫌いされていた』と先生が言っていたが、何となく分かった気がする。先生はお客様には優しく接するのだが、従業員には厳しい口調で接する。それでも私は先生のことが気になり出したら止まらなくて、そんなギャップも含めて好きになってしまったのだ。
出会った日に一瞬で心を奪われた私は、振り向いてもらえなくても良いから先生の側にいたいと願う。働き始めて半年になるが、進展など何もない。むしろ、子供扱いされていて眼中にもなさそうだ。
「甘すぎる!」
先生は一口飲んだだけで文句を言い、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して蓋を開けた。よほど口に合わないのか、一気にミネラルウォーターを喉に流し込んでいる。
「仕事中に甘い飲み物はやめてくれ! 俺は仕事に刺激を求めているんだから!」
「すみません!」
ストレス緩和のために出した甘い飲み物は、かえって逆効果だったようだ。先生は自分でドリップコーヒーを淹れ始め、ほろ苦い香りが私のデスクに漂ってくる。
普段は目つきが悪く、口も悪い先生は依頼に来た方を怖がらせてしまうが、時として逆効果になることもある。少し俯き加減で髪をかき上げる先生からは大人の男のセクシーさが溢れており、私を筆頭に先生の魅力に気づいた女性は怖がるどころかキュンとしてしまうからだ。
キリッと整っている眉、奥二重のシャープな目、すっと鼻筋の通った鼻、薄い唇――左右対称の均整の取れたこの美しい顔に見つめられたら、女性なら誰でも虜になってしまいそう。
実際、債務整理の依頼にきた女性が先生のことを気に入ってしまい、離婚騒ぎになったこともあった。
しかし、クライアントとの約束もなく、事務所にいるだけの日は、裁判中のようにキリッともしていない。髪型もワックスで毛流れを作るわけでもなくサラサラ前髪のままだし、常にノーネクタイでシャツの第一ボタンは開けっ放しなので、やる気すら感じないのが難点なのだ。
「暇だから、お前が俺に刺激を与えてくれてもいいんだぞ?」
先生はコーヒーカップを私のデスクに置き、隣の椅子に座って肩を組んできた。
「え? な、何言って……」
先生にこんなにも近づかれたことはないので、私の鼓動は早まるばかりで落ち着かない。ドキドキしすぎて肩も竦んでしまう。
「……暇つぶし、するか?」
耳元で囁かれるように呟かれる。もうダメだ、緊張してどうにかなってしまいそう。先生の吐息が耳元にかかり、くすぐったい。
「あ、あの……暇つぶしって?」
声を絞り出し、問いかける。
「何だと思う?」
何だと思うと聞かれても、答えようがない。男女が二人きりの暇つぶし。想像してしまうことは、いかがわしいこと。先生は私から離れる様子もなく、ついに男女の関係になってしまうのか? と頭の中はショート寸前だった。みるみるうちに耳まで火照り、顔は真っ赤に違いない。
「お前の考えてることはお見通しなんだよ。だが、一緒に遊んでいる暇はない」
私の肩に乗せていた腕を外し、意地悪そうに言ってきた。
「か、からかいましたね、私のことを!」
本気にしてしまった私は残念に思いながらも、膨れっ面になる。
「勘違いする方が悪い」
ケラケラと笑いながら席を立ち、シュレッダーにかける書類を用意し始めた先生。先生は時々、私の気持ちを知ってて、からかって遊んでいるような態度を取る。
先生が離れてからも顔の火照りは消えず、まだ温もりも微かにあった。ドキドキしているのが私だけなんて、先生はズルい。
先生が、常に男の魅力を取り戻したら仕事も舞い込むはずだ。依頼人の離婚騒ぎはもうお腹いっぱいだけれど。それにしても、相変わらず私のことは子供扱いから変わらない。興味がないとはっきり言われているかのようだ。
「先生って……過去にお付き合いした女性はどんな方でしたか?」
現在、先生にお付き合いしている方がいないのはリサーチ済。一人暮らしだと言っていた先生に念押しで確認して、渋々フリーだと教えてもらうことができた。今までお付き合いした方にもあんな風にからかったり、普段からは想像できないような無邪気な笑顔を向けていたのだろうか?
気になったら止まらなくて、つい口に出してしまった。
「仕事中にする話ではない。少なくとも、野上のようなお子様ではないことは確かだな」
想像通りの返答で安心したと言い切るのは変かもしれないが、歴代の彼女たちが逆に私みたいなポンコツだったとしたら嫉妬してしまうかもしれない。あなたたちが良くて、私は何がダメなのだろう? と。バリキャリ美人ならば、私自身と比べても天と地の差があるから諦めもつく。
「お前の望む恋愛って何なんだ?」
先生は私の顔を見ながら問いかけてきた。先生からこんな話をしてくるなんて、一体どうしたのだろうか? 先程の流れだとしても珍しい。
「そうですね、私ももう良い大人ですし、学生みたいなお付き合いではなくて、大人の恋愛をしてみたいです」
週末には終電寸前までバーで飲んで、彼のお部屋に一緒に帰って、二人で朝寝坊なんかもしたりして。翌朝には彼に朝食を作ってあげたり、半同棲して彼が帰るのを待つのも良いな。想像するだけで、ドキドキしてしまう。相手が先生だとしたら、尚更……
「お前の考える大人の恋愛とやらは、朝まで一緒に過ごしたり、セックスしたりすることか?」
先生が座っている椅子の隣にいた私は、いきなり腕を掴まれ、先生の顔と私の顔が接近する。綺麗な瞳で見つめられ、唇同士が触れそうな程の至近距離に心臓の鼓動がバクバクと急ぎ足で動き出す。
「セ、セック……」
「違うのか? 何なんだ?」
ストレートな物言いに恐縮してしまい、赤面したまま動けず、反論もできない。お泊まりにはつきものかもしれないが、私はもっと心の繋がりが欲しいと思う。
「大人の恋愛だって……そ、そんなことばっかりじゃないはずです。職場恋愛して、結婚とか、そーゆーのだって、憧れの大人の恋愛だと思いますが?」
「そうか? とんだお花畑の頭の中だな」
正気に戻れないままに絞り出した答えを鼻で笑われた挙句、否定される。まぁ、こんなことも日常茶飯事なので、さほどは気にはならない。先生は私の気持ちに気づいてるはずなのに、からかうだけからかっては強制終了される。完全に相手にされてないのかもしれない。
友人に先生の話をすると私はMだなんて言われる。しかし、私は先生が大好き。前途多難な恋だけれど……!
「お花畑でもいいんです、別に! 何歳になっても素敵な夢を見ることは乙女の権利ですっ」
「権利を主張するなら、いつまでも見習い気分でいないで書類を間違えないように仕事をこなしてほしいものだな」
「……うぅっ、それとコレとは別問題でしょ? 酷い!」
はぐらかされた上に全く別の問題へと話題が振られる。
「ただいま戻りました! あーっ、またイチャイチャしてる!」
「おかえりなさい! イチャイチャしてるように見えます?」
「見えます!」
事務所の扉を開けて元気よく入ってきたのは、私よりも四学年下で弁護士の卵の湯河原大地君。湯河原君は先生に憧れて事務所の扉を開けた一人で、現在は司法試験に向けて目下勉強中だ。
裁判所での先生の立ち振る舞いは、まるでドラマのワンシーンのように格好良く、傍聴席では法律関係の仕事を目指している未来の弁護士たちの目を釘付けにしていた。女性だけではなく、男性の法曹関係者たちまで魅了してしまう先生は尊敬に値する。
「誰がコイツとイチャイチャするか! さっさと仕事しろっ!」
注意を受けた湯河原君は苦笑いしながらも、デスクに座って次の仕事に取りかかる。
「先生、債務整理の書類作りに入りますね。それから、こないだの遺産相続の渡辺さんですが、つい先程、街中でばったり会いまして。旦那さんの時みたいに問題が起きないように遺言書を書くお手伝いをしてほしいそうですよ。近いうちに事務所にいらっしゃるそうです」
「……ふうん? あのばーさんももうすぐ仏さんになるのか?」
「そんなことはないですよ、全然元気ですからまだまだ先ですよ」
「だよなー! あの乗り込んできた時の慌てぶりと元気さから見て、あと三十年は生きそうだよな!」
先生は本当に口が悪いのだが、悪気はないらしい。先生と湯河原君が二人で笑いながら話している話題の渡辺さんとは、先日に旦那様を亡くして、遺言書がなかったがために遺産相続で揉めた方である。
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湯河原君情報によると、先生は以前は大手事務所でスケールの大きく脚光を浴びるような弁護をしていたとか。詳しいことは分からないのだが、そういう仕事の依頼が舞い込んだら先生もやる気が出るのだろうか?
「渡辺さんはいついらっしゃいますかね? お茶菓子とかが少なくなってるから買い足してきて良いですか?」
「そんなに急には来ないだろ? それにお前、頼んだ書類はまとめたのか?」
「ま、まだです」
「だったら、そっちを先にやってから買い出しに行け!」
ギロリと鋭く睨まれて、資料で机の上を二、三度叩く。湯河原君とは楽しく話してるくせに私には真逆の冷たい態度を浴びせる。
私だって湯河原君のように先生に頼られたいし一人前にもなりたいけれど、法律関係の事務は難しくて息抜きが欲しくなる。
先生の事務所にお世話になってから半年が経つが、まだまだ分からないことだらけだ。以前も事務職だったとはいえ、区役所で働いていたのとは勝手が全然違う。
私の自宅は先生が借りている事務所のすぐ側にあり、先生が引っ越し作業を行っていた時にたまたま通りかかり、転んで怪我していたところを助けてもらったのが縁で今に至る。
先生には運命を感じたので一週間粘って勤務の許可を得てから、一ヶ月後に区役所を辞めた。
転んだ時に自転車も壊れてしまったので今は歩いて事務所まで通勤しているが、自宅から近いので区役所勤務の時よりも出勤時間がかなり短縮できる。それに先生に毎日会える利点がある。
「区役所の方が安泰なのに、辞めるなんて馬鹿だな。うちの事務所は設立したばかりでいつ給料が払えなくなるかも分からないぞ?」
先生にはそう念押しもされたが、今のところ一度も給料の支払いが滞ったことはない。
そうして私が加わってから二ヶ月後、再び事務所の扉を叩いたのが湯河原君だった。
「どこかにもいたよな、募集も出てないのに急に来て雇ってくれって奴」
先生はそう言って楽しそうに笑っていた。
とりあえずこの『瀬山法律事務所』の従業員は先生と私と湯河原君の三人しかいないのだ。
湯河原君が弁護士の卵なだけあってサクサクと仕事をこなすのに対して、私はいつまでも初心者扱いの、どちらかと言えば使えない部類の役立たずに近い従業員。
私は主に先生の秘書兼事務系で、湯河原君はドラマの世界でよく知られている法律事務を主に取り扱うパラリーガルとして、先生の右腕となり働いている。パラリーガルになりたいわけではないのだが、少しでもお役に立ちたくて少しずつ湯河原君の仕事のお手伝いもしている。
私は入社して半年が経つ今も間違いが多く、このままではいけないとは思いつつ、日々修行中である。
「先生、いるぅー?」
ブラウン系の重めなクラシックな趣の扉を叩き、元気よく飛び込んできたのは噂の渡辺さんだ。
「さっきね、湯河原君に会って遺言書のお手伝い頼みたいってお願いしたんだけど聞いたかしら? 杏沙子ちゃん久しぶりね。これはね駅地下で買ったケーキよ! このお店、最近のお気に入りでね、週一で通ってるのよ。店員がまたイケメンで……!」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです」
相変わらず話がノンストップだなぁ。渡辺さんはいつも元気で、先生は常にタジタジしている。
「渡辺さん、こんにちは。ご依頼ありがとうございます。今日はひとまず、ご相談という形で宜しいですか?」
「はい、お願いします。先生は相変わらず、クールでイケメンね。こんなにイケメンなのに妻子がいないなんて残念だわぁー。誰か紹介しましょうか? それとも、うふふ、杏沙子ちゃんが彼女なのかしら?」
「そんなことより、あちらでご相談に乗りますからどうぞ」
速攻に彼女という区分は否定された。渡辺さんを無理矢理に応接用のソファーに案内して、先生はスマートにこの場を立ち去る。
全く、顔色一つ変えないんだから。先生は何を言われても動じることはなく、誰に対しても冷静沈着。
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先生は笑いながら言っているように見えても、目は笑っていなかった。
「あら、私は杏沙子ちゃんが好きだから買ってきてるのよ? 杏沙子ちゃんも湯河原君も孫みたいに可愛いんだもの。もちろん、先生のことも好きよ!」
うふふ、とニヤけながら、口に手を当てて笑っている渡辺さん。
「お気持ちだけ受け取ります。……湯河原、渡辺様をお見送りして!」
「はいっ」
先生に渡辺様のお見送りを頼まれ、元気よく返事をした湯河原君。先生はめんどくさそうな態度をしている時もあるが、渡辺様のどんなわがままも聞いてあげている気がする。
私も先生の声にはすぐに反応してしまうが、湯河原君も負けずにすぐさますぐ立ち上がり、まるで犬のポチみたいだ。渡辺さんの帰り際に再びケーキのお礼を言い、バイバイと手をヒラヒラと振ってくれたので私も振り返した。
出口の扉まで送るはずだった湯河原君は外に連れ出されてしまい、しばらくは帰って来られない予感がする。
「また渡辺さんは湯河原を連れ出したか!」
「……多分ですけど、家まで送ってもらうつもりでしょうね? 以前もそうでしたから」
「困ったものだな」
渡辺さんは湯河原君のことも気に入っていて、商店街にある自宅まで話をしながら送ってもらうのが毎回のお決まりみたいなものである。呆れ顔の先生は無愛想な顔をして、ケーキの箱を開けて覗き込んでいる。先生が唯一食べられるのは、ブルーベリーソースがかかっているレアチーズケーキ。
「野上、コーヒー」
このお目当てのケーキがあるかどうかを確認してから箱を閉じて、私に向かっていつもの偉そうな口調で言い放つ。
甘い物は苦手だが、ブルーベリーソースがかかっているレアチーズケーキが大好きな先生は本心では喜んでいるのだ。
渡辺さんも先生の好みを私からリサーチ済みなので、他のケーキに密かにお気に入りを紛れ込ませて購入しているのだ。淹れたてのコーヒーと共にお皿に乗せたレアチーズケーキを差し出すと、先生は何も言わずに食べ始める。
ケーキを食べている先生の姿はとても貴重なので、写真に収めたいくらいだ。カップの柄を持つ仕草とケーキを口に運ぶ仕草が綺麗で見惚れてしまう。
「……何だ? ジロジロ見るなよ。このケーキが良かったのか?」
「ち、違いますけど!」
「物欲しそうな顔してる。そんなに食べたいなら一口やるよ。……ほら?」
先生はフォークでケーキを一口分にサクッとすくい、私の口の前に差し出す。目の前に差し出されたものの、本当に食べても良いのかな……?
「俺が使ったフォークが嫌なら、自分で持って来い」
先生からこんなことをされたのは初めてで、私が戸惑っていて食べられずにいると、先生は差し出した手を引っ込めてケーキを自分で食べてしまった。
「な、何でくれなかったんですか?」
「お前が俺のフォークが嫌で食べなかったからだろ!」
「嫌じゃないです! 食べたいです! ……早く食べさせて下さいっ!」
ガッカリした私は先生に反論して、溜め息を吐かれながらも再度差し出されたケーキをパクリと食べた。甘酸っぱいブルーベリーソースと濃厚なレアチーズが口一杯に広がる。
「もう、やらないからな。他のケーキにしろ」
そう言って私の唇についたケーキをティッシュで拭った瞬間、先生の指が唇に触れた。こうして子供扱いされていても、ほんの些細な触れ合いにドキッとさせられる。
湯河原君がいない時はこうして私のことを構ってくれるが、彼がいると素っ気ない態度を取ってくる。これは先生がいつも言っている『暇つぶし』ということなのか、それとも少しは好意を持ってくれていると思っていいのだろうか……
「何だよ?」
そんなことを一人で考えていたら、思わず先生の顔をじーっと見つめてしまい、先生に睨みつけられる。
まるで彫刻のように整った顔立ちだが、睨みつけられると鋭い眼差しに怖さを感じてしまい、思わず目を逸らす。目の前に立ちはだかる先生の前で、私は右下辺りを見て目を合わせずにいた。
「……っひゃ……!」
先生の左手が私の右頬に触れ、変な声を出してしまう。そのうえ頬に火照りを感じ始めて、ますます顔を上げられなくなった。
先生は一体何がしたいんだろう? これまで先生に頬など触れられたことなどないので、緊張感が漂う。
「頬にもケーキがついてる。全く子供じゃないんだから」
左手の親指で頬をなぞり、文句を言いながら自分の席へと戻ってしまった。
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先生となら、キスもしたい。先生に限って職場でのキスも抱擁もありえないだろうし、そもそも私になんて興味がないのだから妄想にしても非常識だったと思い直す。
「……野上、キスされるとでも思ったか? 妄想ばかりしてないで仕事に戻れ」
「し、してません!」
頭の中を覗かれたかのようにピタリと当てられ、クスクスと面白がって笑っている先生が憎らしい。
いつの日か、先生と対等に向き合えるようになりたいと願う。日々、恋心は膨らんでいくばかりで胸を締めつけさえするけれど……距離感は少しずつ縮まっていると思う。
「野上みたいな恋愛経験の少ない奴が甘い言葉に騙されて結婚詐欺に引っかかるんだろうな?」
「……はい?」
心中穏やかではなく、まだドキドキの余韻が残っているというのに先生と来たら、突拍子もないことを言葉に出した。先程のやり取りなどは忘れたように先生はパソコンを弄り出し、並行して仕事用のスマートフォンも操作している。
確かに恋愛経験も少ないし、先生から見たら子供かもしれないけれど、引っかかるかどうかは別問題でしょう? けれども、私には詐欺グループの一員に騙されたという前科があるので一概に否定はできない。
「恋愛経験は別問題でしょ? 要は結婚願望が強くて焦ってしまったか、本当に好きになっただけじゃないですか?」
「そうか? じゃあ、例えばだが……野上の憧れている人が三百万振り込んだら結婚するぞって言ったら、するか?」
「したいです! 三百万で結婚できるなら!」
「お前は本当に持って来そうだから、怖いな。それに何度も騙されるんじゃない」
冗談だと分かっていても身を乗り出し、先生に近づいて返答した。そのことに対し、コツンと拳で軽く叩かれる。でも私は憧れの人、イコール先生と結婚できるなら三百万を出しても惜しくはないのだ。
結婚詐欺に遭った方々だって、貢いでいると気づかない振りをして、相手の方と結婚したかっただけなんだから。
純粋な気持ちほど、恋愛に吸い込まれてしまえば厄介なものはない。
抜け出せない負の連鎖から気持ちを断ち切ることができるのは、裏切られたと気づく時だけだ。
「憧れの人が用意しろと言うならば用意しますが、裏切られた時はとてつもない絶望からの怒りを感じると思いますよ?」
「うん、だろうな? 知人の知り合いから結婚詐欺の相談に乗ってほしいと持ちかけられたんだ。突然だが明日の夜は空けておいてくれ。クライアントの仕事が終わってからになるだろうから、夜は遅くなるかもしれないが……一緒に話を聞いてくれるか?」
「良いですよ、夜遅くて帰り道が怖いので先生が送ってくれるなら!」
願ってもない、お近づきになれるチャンスに浮き足立ってしまう。
「はいはい、ラーメンに餃子もつけます」
「……どうせなら、イタリアンが良かった」
遅い時間の相談だし、いつもなら湯河原君に同席を頼むのに頼まないということは相手が女性だと思われる。
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