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仕事の評価は上の下でも、恋愛はハナマル評価です。
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私を見つめる時の艶のある表情とは裏腹に、Sモードに入った時は仕事での鬼軍曹みたいなキリッとした表情になるから全身にゾクゾクとした感覚が走る。私はMっ気はないはずなのにな、ベッドの中で意地悪される度に身体の熱は高ぶってしまう。
「今日は逆バージョンで、恵里奈にくっついて寝よう。おやすみ…」
「っわぁ、おやすみなさい」
「……恵里奈の心臓の音、良く聞こえるよ」
いつもなら私の事を両腕で抱きしめたまま寝たり、腕枕をしてくれるのに今日は違った。一颯さんは私の胸辺りに顔を埋めて、抱きついて来たので、私はそっと抱きしめた。
このギャップは反則だ。さっきまでのSっ気はどこに消えたのか、一颯さんが可愛い過ぎる!甘えたさんの一颯さんに悶絶してしまう。
「おやすみなさい」ともう一度呟き、一颯さんの額にキスを落とした。疲れている時は直ぐに寝てしまう一颯さんがたまらなく愛おしい。
時間を気にせずにずっと一緒に居られたら良いのにな。ホテル業の何がネックかと言うと出勤時間と退勤時間が変則なのと拘束時間が長い事だ。早番として朝早く出勤しても、中抜けとして2時間~3時間位の休憩を挟み、また出勤したりするのも疲れが取れない原因。一颯さんに関しては支配人だから、中抜けもなく朝から晩まで通し業務が多い。
一颯さんの休みの前日以外は来ないって自分で決めたくせに、考えたら寂しくなってきた。自分の中で一颯さんの存在が大きくなり過ぎていて、プライベートで少し会えないだけでも胸が苦しくなる。
「……恵里奈、眠れないの?」
「はい、今日は中々寝付けません」
「仕方ないな、おいで」
私が目尻に溜まった涙を堪えていると、少し震えていた私に勘づいたのか一颯さんがうっすらと目を覚ました。いつものように腕枕をしてもらい、向かい合わせになって眠りにつく。
依存は怖い。心地よくて離したくない温もりだけれど、いつの日か手放す日が来たら私はどうなるのだろうか?
───翌朝、目が覚めると隣にはぐっすりと深い眠りについている一颯さんが居た。「仕事に行って来ますね、一颯さん」と心の中で唱えてから、額にキスを落とした。一颯さんって横向きのままで寝るのが好きだよね。抱き合って寝なくても、いつも横向き。
愛おしい寝顔を見ながら、ベッドからそぉっとフローリングへと足を伸ばした。ひんやりとした感覚がつま先にまとわりつく。一颯さんを起こさないように静かに支度をして、部屋を出た。
エレベーターに乗り、途中の階で人が乗る為に止まった。エレベーターには私一人だったが、そこに男女が話をしながら乗って来た。一人は茶髪の男性、もう一人は……。
「し、篠宮さん……!?」
「ふ、副支配人!」
パンツスタイルのスーツを着こなし、高めのヒールを履いていたのは、副支配人だった。一緒に乗って来た茶髪の男性は
知らない人。こんな所で会うなんて思っても居なかった。このマンションに住んでいるのかな?一颯さんのマンションに通うようになってから初めて会った。
「しっ、…篠宮さんはこ、この…マンションに住んでるの?」
「す、住んでません…!」
お互いに驚き過ぎてしどろもどろになる。気まづいから早くエレベーターを降りたい。こんな時に限って、途中の階からは誰も乗って来ない。エレベーターを降りても、マンションの外に出るまでは憂鬱なんだろうけれど。
「祥子さんのホテルの子?」
茶髪の男性が私に話しかけてきた。
「はい、そうです。副支配人にはいつもお世話になっております」
「そうなんだぁ。朝早くとか夜とか、よくすれ違うよね?」
「えと…いつも急いでいて記憶になくてすみません…」
お願いだから、それ以上は聞かないで!
「そうだよね、いつも急いでるな~って俺も思ってた。あのカッコイイ人、彼氏?デキる男って感じのスーツ着てるあの人。あの人にもよくすれ違うし、二人で居たのも見た事あるよ」
どちらかと言えば高見沢さんみたいなアイドル系の顔をしている茶髪の男性は、人懐っこくて私にどんどん歩み寄って来る。
「えっと……」
副支配人に一颯さんとの関係は知られてはいけない。どう答えようか迷っていた時に丁度良くエレベーターが1階へと着いた。ふぅっ…と息を小さく吐き、先に降りた。
「祥子さんと俺の事、ホテルでは秘密にしておいてね。俺も秘密にするから。じゃあね~。祥子さん、今日も行くからまた夜にね~」
男性は先に降りた私に釘を刺して、副支配人に手を振ってから先に外に出てしまった。
「篠宮さん…」
男性が去った後、副支配人が低いトーンで私の名前を呼ぶ。何を言われるのかと思い、内心ドキドキしている。一颯さんとの関係を勘づかれたのだろうか?
「しょ、職場では…朝の事、ぜ…、絶対に言わないでね」
副支配人と茶髪の男性の事か。
「言いませんよ、絶対に!お約束します!」
私は顔色の悪い副支配人に対して、笑顔で答えた。約束するので私の事も余計な探りは入れないで欲しい。
「お願いよ、絶対にね!」
「はい、お約束致します」
副支配人に両手を握られ、再び誓いを立てた。あまり接した事がないが、職場のイメージとは違い、可愛らしい一面もある女性だと思った。職場では他人に厳しく、自分にも厳しい完璧主義者の様な副支配人が焦りを感じて慌てている。完璧主義者も恋をすると崩れるのね。
「ところで…、篠宮さんはこのマンションにお付き合いしている方が居るの?だとしたら、いつも来ていたのかしら?」
「あー…、そうですね、毎日ではないですが、週に何度か…」
「今日初めて会ったわね。このマンションには支配人も住んで居るのよ。基本、すれ違いだから出くわした時はないわね」
「そうですか……」
マンションを出て、ホテル方面へと二人で向かう。お願いだから、これ以上は聞かないで!
「篠宮さんのお付き合いしている方は年上?スーツ姿がカッコイイって、瑠偉君が言ってたから」
るい君?さっきの茶髪の男性かな?
「はい、年上です」
「そうなのね…。どんなお仕事をなさってるの?」
お仕事は貴方と同じホテルの支配人ですよ。……と言いたいけれど言えない。どう答えたら良いのでしょうか?
「今日は逆バージョンで、恵里奈にくっついて寝よう。おやすみ…」
「っわぁ、おやすみなさい」
「……恵里奈の心臓の音、良く聞こえるよ」
いつもなら私の事を両腕で抱きしめたまま寝たり、腕枕をしてくれるのに今日は違った。一颯さんは私の胸辺りに顔を埋めて、抱きついて来たので、私はそっと抱きしめた。
このギャップは反則だ。さっきまでのSっ気はどこに消えたのか、一颯さんが可愛い過ぎる!甘えたさんの一颯さんに悶絶してしまう。
「おやすみなさい」ともう一度呟き、一颯さんの額にキスを落とした。疲れている時は直ぐに寝てしまう一颯さんがたまらなく愛おしい。
時間を気にせずにずっと一緒に居られたら良いのにな。ホテル業の何がネックかと言うと出勤時間と退勤時間が変則なのと拘束時間が長い事だ。早番として朝早く出勤しても、中抜けとして2時間~3時間位の休憩を挟み、また出勤したりするのも疲れが取れない原因。一颯さんに関しては支配人だから、中抜けもなく朝から晩まで通し業務が多い。
一颯さんの休みの前日以外は来ないって自分で決めたくせに、考えたら寂しくなってきた。自分の中で一颯さんの存在が大きくなり過ぎていて、プライベートで少し会えないだけでも胸が苦しくなる。
「……恵里奈、眠れないの?」
「はい、今日は中々寝付けません」
「仕方ないな、おいで」
私が目尻に溜まった涙を堪えていると、少し震えていた私に勘づいたのか一颯さんがうっすらと目を覚ました。いつものように腕枕をしてもらい、向かい合わせになって眠りにつく。
依存は怖い。心地よくて離したくない温もりだけれど、いつの日か手放す日が来たら私はどうなるのだろうか?
───翌朝、目が覚めると隣にはぐっすりと深い眠りについている一颯さんが居た。「仕事に行って来ますね、一颯さん」と心の中で唱えてから、額にキスを落とした。一颯さんって横向きのままで寝るのが好きだよね。抱き合って寝なくても、いつも横向き。
愛おしい寝顔を見ながら、ベッドからそぉっとフローリングへと足を伸ばした。ひんやりとした感覚がつま先にまとわりつく。一颯さんを起こさないように静かに支度をして、部屋を出た。
エレベーターに乗り、途中の階で人が乗る為に止まった。エレベーターには私一人だったが、そこに男女が話をしながら乗って来た。一人は茶髪の男性、もう一人は……。
「し、篠宮さん……!?」
「ふ、副支配人!」
パンツスタイルのスーツを着こなし、高めのヒールを履いていたのは、副支配人だった。一緒に乗って来た茶髪の男性は
知らない人。こんな所で会うなんて思っても居なかった。このマンションに住んでいるのかな?一颯さんのマンションに通うようになってから初めて会った。
「しっ、…篠宮さんはこ、この…マンションに住んでるの?」
「す、住んでません…!」
お互いに驚き過ぎてしどろもどろになる。気まづいから早くエレベーターを降りたい。こんな時に限って、途中の階からは誰も乗って来ない。エレベーターを降りても、マンションの外に出るまでは憂鬱なんだろうけれど。
「祥子さんのホテルの子?」
茶髪の男性が私に話しかけてきた。
「はい、そうです。副支配人にはいつもお世話になっております」
「そうなんだぁ。朝早くとか夜とか、よくすれ違うよね?」
「えと…いつも急いでいて記憶になくてすみません…」
お願いだから、それ以上は聞かないで!
「そうだよね、いつも急いでるな~って俺も思ってた。あのカッコイイ人、彼氏?デキる男って感じのスーツ着てるあの人。あの人にもよくすれ違うし、二人で居たのも見た事あるよ」
どちらかと言えば高見沢さんみたいなアイドル系の顔をしている茶髪の男性は、人懐っこくて私にどんどん歩み寄って来る。
「えっと……」
副支配人に一颯さんとの関係は知られてはいけない。どう答えようか迷っていた時に丁度良くエレベーターが1階へと着いた。ふぅっ…と息を小さく吐き、先に降りた。
「祥子さんと俺の事、ホテルでは秘密にしておいてね。俺も秘密にするから。じゃあね~。祥子さん、今日も行くからまた夜にね~」
男性は先に降りた私に釘を刺して、副支配人に手を振ってから先に外に出てしまった。
「篠宮さん…」
男性が去った後、副支配人が低いトーンで私の名前を呼ぶ。何を言われるのかと思い、内心ドキドキしている。一颯さんとの関係を勘づかれたのだろうか?
「しょ、職場では…朝の事、ぜ…、絶対に言わないでね」
副支配人と茶髪の男性の事か。
「言いませんよ、絶対に!お約束します!」
私は顔色の悪い副支配人に対して、笑顔で答えた。約束するので私の事も余計な探りは入れないで欲しい。
「お願いよ、絶対にね!」
「はい、お約束致します」
副支配人に両手を握られ、再び誓いを立てた。あまり接した事がないが、職場のイメージとは違い、可愛らしい一面もある女性だと思った。職場では他人に厳しく、自分にも厳しい完璧主義者の様な副支配人が焦りを感じて慌てている。完璧主義者も恋をすると崩れるのね。
「ところで…、篠宮さんはこのマンションにお付き合いしている方が居るの?だとしたら、いつも来ていたのかしら?」
「あー…、そうですね、毎日ではないですが、週に何度か…」
「今日初めて会ったわね。このマンションには支配人も住んで居るのよ。基本、すれ違いだから出くわした時はないわね」
「そうですか……」
マンションを出て、ホテル方面へと二人で向かう。お願いだから、これ以上は聞かないで!
「篠宮さんのお付き合いしている方は年上?スーツ姿がカッコイイって、瑠偉君が言ってたから」
るい君?さっきの茶髪の男性かな?
「はい、年上です」
「そうなのね…。どんなお仕事をなさってるの?」
お仕事は貴方と同じホテルの支配人ですよ。……と言いたいけれど言えない。どう答えたら良いのでしょうか?
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