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食べ終わったランチのトレーを下膳台に置き、横目で二人の様子を伺う。
箸を置いたままだったアノ子は再び食べ始めて、添野と話をしているのか、表情に微笑みが混じっているかの様に見受けられる。
添野の目尻が下がり口角が上がっている様にも見えて、腹立たしく思う。私を拒絶したくせにアノ子と仲良くしているから?
アノ子も乗り気ではなかったのに、私が席を外してからは添野と話し出したから?
もしかしたらヤキモチ?
様々な憶測が頭を過ぎるが、結論には至らない。
頭の中のモヤモヤが晴れず、ご乱心中な私は真っ先に喫煙所へと向かう。
幸い誰も居なかったので、心身共に安らぐと心底思った。火をつけて口元に煙草をあてた瞬間に扉が開く音がして、ふと見てしまう。
「あっ、」
喫煙所に入って来た人物に気を取られ、思わず声に出してしまった。
そこには、意外な人物が居たのだ。
目の前には、会いたくても会えなかった元カレが立っていた。
新入社員で入社した時に同じ部署だった先輩であり、人生で一番好きだった人物。
海外転勤になり、あっさりと私を置いて行き、連絡の一つもなかった人物。
何も言わずに私を眺めている。
忘れていた感情を思い出したのか、見られている事が恥ずかしいのか、鼓動は早くなり、頬が赤らむ。
胸が張り裂けそうな位に心臓の鼓動が早くなり、呼吸が出来なくなりそうだった。辛いから、この場から逃げ出してしまおうか?
そそくさと煙草の火を消し、後ろを向いて一歩を踏み出そうとした時に腕を捕まれた。
「…モモ?」
紛れもなく、私は桃枝ことモモ本人。久しぶりに呼ばれた名前に動揺を隠せない。
「海外転勤中だけど、用事があって一時帰国したんだ」
「そう、なんだ?…仕事だから、また、ね」
何を話したら良いのか分からずに『またね』と言って立ち去ろうとしたけれど、また会う機会なんて無いだろう。
動揺から可笑しな事を言ってしまった。
「モモ…真面目なんだね。昔みたいにサボったりしないの?」
「…しない」
以前、この男と付き合っている時は、この男の都合に合わせて仕事をズル休みして1日中、抱きあったりしていた。
友達から電話がくれば、私を捨てて、約束していた日でもすっぽかされた。
それでも、この男にしがみついていたのは寂しさからだったかもしれない。
地方から上京して来て、知り合いも少なく、この男にしか頼れなかったから。
今は友達だって居るし寂しくなんてない、でも物足りなさはある。
愛情が欲しいと身体が欲している。
「まだタバコは止めてないんだね?」
「…うん。今じゃヘビースモーカーに近いよ」
「むせりながら、俺に合わせて吸ってただけなのに?」
「………そうだね」
興味本位で吸い始めてしまった煙草は、この男の海外転勤が決まってからは寂しさを補う為の道具と化していた。
その流れで喫煙所に行く度に、寂しさを紛らわせてくれる男を誘い出す道具になってしまっ今も尚、吸い続けている理由は…何だろう?
単なる依存症なのか、仕事や日々の生活のストレス緩和なのか……、ただ単に止める勇気がないだけか?
元カレが居なくなってからは真面目に仕事に打ち込み、業績が讃えられて大規模なプロジェクトにも参加させて貰えるようにもなった。
新入社員の時の様な初々しさもなくなり、髪型もふわふわウェーブからロングストレートへと変貌した。
大規模なプロジェクトにはやり手の男性社員が多数在籍している為、見かけだけでも仕事の出来る女性になりたかったからイメチェンをしたのだ。
その頃からだろうか?目付きも悪いと言われてしまう。
「モモ…、イメチェンしたんだね。雰囲気が変わった」
私のロングストレートの髪に手を伸ばし、少しだけ掬い取って感触を確かめている。
ふわふわウェーブの時の私の髪も手を伸ばし、感触を確かめていたなぁ…とふと思い出した。
………けれども、何もかんじない。
心の中はザワザワしない。
ときめかないし、ドキドキもしない。
数年の月日が流れて愛情がなくなり、興味が失せたのだ。
もう元カレにすがって泣いていた私はどこにも居ないのだ。
「……触らないで!貴方とはもう何の関係もないから」
睨みつけるように手を振りほどき、颯爽と立ち去る。
嫌だ、嫌だ、嫌だ────!
流されてしまう前に、以前の感情を取り戻してしまう前に逃げなければいけない。
愛情なんてなくても思い出してしまって、流されてしまったら負けなのだ。
「………っ痛、」
喫煙所から逃げるように立ち去ってしまい、前を向いて歩いていなかった私は誰かにぶつかり、左肩に鈍い痛みを感じた。
「…ってぇなー。てゆーか、お前…何で泣きそうなんだ?」
「か、…関係ないでしょ!」
謝る前に声をかけられ、その相手が添野だと分かった瞬間に突き放す言葉を浴びせる。
泣きそう?私が?そんなハズはない。
元カレに泣きそうになる、そんな感情なんて心の中にない。
………そう思いたい。
添野を振り切り、自分の部署へと戻ろうと思った時、腕を掴まれた。
「まだ、アイツに振り回されてるの?」
「……え?」
「海外事業部に転勤になったアイツだよ。一旦、帰国したって聞いた」
「な、何であの人の事を知ってるの?」
「………さぁね?」
何かを知ってるかの様にクスクスと笑い、人を小馬鹿にする様な態度を取る添野に次第に腹が立つ。
無性に煙草を吸いたくなるが、元カレがまだ居るかもしれないから今は駄目。
我慢しよう…。
箸を置いたままだったアノ子は再び食べ始めて、添野と話をしているのか、表情に微笑みが混じっているかの様に見受けられる。
添野の目尻が下がり口角が上がっている様にも見えて、腹立たしく思う。私を拒絶したくせにアノ子と仲良くしているから?
アノ子も乗り気ではなかったのに、私が席を外してからは添野と話し出したから?
もしかしたらヤキモチ?
様々な憶測が頭を過ぎるが、結論には至らない。
頭の中のモヤモヤが晴れず、ご乱心中な私は真っ先に喫煙所へと向かう。
幸い誰も居なかったので、心身共に安らぐと心底思った。火をつけて口元に煙草をあてた瞬間に扉が開く音がして、ふと見てしまう。
「あっ、」
喫煙所に入って来た人物に気を取られ、思わず声に出してしまった。
そこには、意外な人物が居たのだ。
目の前には、会いたくても会えなかった元カレが立っていた。
新入社員で入社した時に同じ部署だった先輩であり、人生で一番好きだった人物。
海外転勤になり、あっさりと私を置いて行き、連絡の一つもなかった人物。
何も言わずに私を眺めている。
忘れていた感情を思い出したのか、見られている事が恥ずかしいのか、鼓動は早くなり、頬が赤らむ。
胸が張り裂けそうな位に心臓の鼓動が早くなり、呼吸が出来なくなりそうだった。辛いから、この場から逃げ出してしまおうか?
そそくさと煙草の火を消し、後ろを向いて一歩を踏み出そうとした時に腕を捕まれた。
「…モモ?」
紛れもなく、私は桃枝ことモモ本人。久しぶりに呼ばれた名前に動揺を隠せない。
「海外転勤中だけど、用事があって一時帰国したんだ」
「そう、なんだ?…仕事だから、また、ね」
何を話したら良いのか分からずに『またね』と言って立ち去ろうとしたけれど、また会う機会なんて無いだろう。
動揺から可笑しな事を言ってしまった。
「モモ…真面目なんだね。昔みたいにサボったりしないの?」
「…しない」
以前、この男と付き合っている時は、この男の都合に合わせて仕事をズル休みして1日中、抱きあったりしていた。
友達から電話がくれば、私を捨てて、約束していた日でもすっぽかされた。
それでも、この男にしがみついていたのは寂しさからだったかもしれない。
地方から上京して来て、知り合いも少なく、この男にしか頼れなかったから。
今は友達だって居るし寂しくなんてない、でも物足りなさはある。
愛情が欲しいと身体が欲している。
「まだタバコは止めてないんだね?」
「…うん。今じゃヘビースモーカーに近いよ」
「むせりながら、俺に合わせて吸ってただけなのに?」
「………そうだね」
興味本位で吸い始めてしまった煙草は、この男の海外転勤が決まってからは寂しさを補う為の道具と化していた。
その流れで喫煙所に行く度に、寂しさを紛らわせてくれる男を誘い出す道具になってしまっ今も尚、吸い続けている理由は…何だろう?
単なる依存症なのか、仕事や日々の生活のストレス緩和なのか……、ただ単に止める勇気がないだけか?
元カレが居なくなってからは真面目に仕事に打ち込み、業績が讃えられて大規模なプロジェクトにも参加させて貰えるようにもなった。
新入社員の時の様な初々しさもなくなり、髪型もふわふわウェーブからロングストレートへと変貌した。
大規模なプロジェクトにはやり手の男性社員が多数在籍している為、見かけだけでも仕事の出来る女性になりたかったからイメチェンをしたのだ。
その頃からだろうか?目付きも悪いと言われてしまう。
「モモ…、イメチェンしたんだね。雰囲気が変わった」
私のロングストレートの髪に手を伸ばし、少しだけ掬い取って感触を確かめている。
ふわふわウェーブの時の私の髪も手を伸ばし、感触を確かめていたなぁ…とふと思い出した。
………けれども、何もかんじない。
心の中はザワザワしない。
ときめかないし、ドキドキもしない。
数年の月日が流れて愛情がなくなり、興味が失せたのだ。
もう元カレにすがって泣いていた私はどこにも居ないのだ。
「……触らないで!貴方とはもう何の関係もないから」
睨みつけるように手を振りほどき、颯爽と立ち去る。
嫌だ、嫌だ、嫌だ────!
流されてしまう前に、以前の感情を取り戻してしまう前に逃げなければいけない。
愛情なんてなくても思い出してしまって、流されてしまったら負けなのだ。
「………っ痛、」
喫煙所から逃げるように立ち去ってしまい、前を向いて歩いていなかった私は誰かにぶつかり、左肩に鈍い痛みを感じた。
「…ってぇなー。てゆーか、お前…何で泣きそうなんだ?」
「か、…関係ないでしょ!」
謝る前に声をかけられ、その相手が添野だと分かった瞬間に突き放す言葉を浴びせる。
泣きそう?私が?そんなハズはない。
元カレに泣きそうになる、そんな感情なんて心の中にない。
………そう思いたい。
添野を振り切り、自分の部署へと戻ろうと思った時、腕を掴まれた。
「まだ、アイツに振り回されてるの?」
「……え?」
「海外事業部に転勤になったアイツだよ。一旦、帰国したって聞いた」
「な、何であの人の事を知ってるの?」
「………さぁね?」
何かを知ってるかの様にクスクスと笑い、人を小馬鹿にする様な態度を取る添野に次第に腹が立つ。
無性に煙草を吸いたくなるが、元カレがまだ居るかもしれないから今は駄目。
我慢しよう…。
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