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「清楚系が好きって言うのは本当?」
「……まぁ、嘘ではない」
「嘘じゃないならアノ子はタイプなんでしょ?」
「…んー、そう言う訳では無い」
「………?良く分からないね、添野って…」
「分かってもらわなくても結構!」
添野はそう言い切ると私の左腕を引っ張り、胸の内に収める。
咄嗟に背中に回された腕が解けず、添野の吐息が間近で感じられる。急に抱き締めるなんて何なの?
「モモちゃん、絶対に許さないからな。今日からは好き勝手にさせてもらうから」
耳元で囁かれ、背後にある会議用のテーブルに押し倒される。
ガタンッと鈍い音がなり、身体が横たわった私に添野は首筋に紅いマークをつけた。
「………っ、」
「今日一日、否、跡が消えるまで俺の事を考えてなよ」
してやったり、という不敵な笑みを浮かべて私を置き去りにする添野。
私の思考回路が停止している中、会議室の扉が静かに閉まる。
素っ気ない態度を取っていたのに、急に何なの?
キスマーク…つけられた?
我に返り、慌てて化粧室に駆け込むと首筋にはくっきりと紅い斑点が残っている。
シャツの襟の部分で隠れているので幸い、ギリギリ見えないかとは思うが気が気ではない。
部署に戻って、仕事中でもお構い無しに速攻でアノ子に問い詰める。
「あのさ…総務課に居た眼鏡君って名前分かる?」
書類のやり取りをしている振りをしてのコソコソ話。
「知ってますよ!知りたいですか?」
「名前が思い出せなくて困ってるの。教えてっ」
アノ子が知っている名前をしれっとした態度でメモ用紙に書き出した。
「はい、この名前を見ても驚かないで下さいね。ちなみに私は二人の事を応援したいと思っています」
コソコソとメモ用紙を渡され、私の耳元付近でそんな事を言われた。
───気付いてしまった。
話の流れ的に罠に落ちたのは私だったんだ。
ずっと前からアノ子と眼鏡君は知り合いで、アノ子は眼鏡君の秘密を握っていた。
眼鏡君は知られたくなかったのに知られてしまい、アノ子が会う度にニヤリと笑って秘密を握っている素振りを見せていたから赤面してしまっていたのだろう。
本人に確かめたい。
確かめた上で謝罪したい。
喫煙所に行けば会えるだろうか?
出来れば二人しか居ない時に話がしたい。
広い社内で煙草を吸うタイミングがほぼ一緒だなんて、運命だと信じても良いのかもしれない。
お願いだから、喫煙所に居て下さい。
仕事を終えた後に祈りを込めて、喫煙所へと向かう。
首筋に付けられた跡を思い出して、鼓動が早くなる。
「…お疲れ様」
お目当ての人物が居て、しかも二人きりなので単刀直入に切り出す。
「やっぱり、居た!私、分かったわ。眼鏡君は添野自身だったのね。」
「だから何だよ?」
「別に…!ただ謝りたくて来たの。添野の事を覚えてなくて…」
「覚えてなくて丁度良かったのに。地方営業に回されて名誉挽回して本社に戻って来たら、偶然にもモモちゃんから話かけられた。だから拒絶された仕返しをしてやろうと思ってたのにな…。そのふわふわウェーブのモモちゃん見たら…」
添野は煙草の火を消して、煙がまだ目の前を掠める中で私をそっと抱き締めた。
「仕返しなんてどうでも良くなった。新入社員の時に会ったモモちゃんを思い出して…また手に入れたくなった…。ヘアスタイルとか見かけを変えてどんな女と付き合っても、モモちゃん以上の女なんて居なかったんだ…」
抱き締められている両腕に力が入って、少しだけ痛い。
「……だから振られた腹いせの憂さ晴らしなんて止めて、本気でモモちゃんを手に入れるから。そのつもりで居て…?」
「………はい。私ももっと可愛い女になるから、今みたいに優しく接してね」
「努力する……」
存在を確かめるかの様に強く抱きしめられていた身体を解放され、自由になったかと思えば…額に唇が触れた。
「……額にチューだけ?」
「…はぁ?こっちは我慢してんのに煽る訳?でもモモちゃんが完全に堕ちるまでは深入りはしません!」
ちょっとだけ添野をからかうと頬が赤く染まり、可愛い。
照れるのは意外な一面でもあり、そのギャップも好きになり始めている。
クールに見せていただけで、中身は目立つのが嫌いな眼鏡君なのかもしれないと思っている。
私も憂さ晴らしをしようと思っていた事は内緒にしておこう。
根は純粋な添野とお近づきになれるように、卑屈な私と底意地の悪い私は捨てなきゃいけない。
「……添野、私も努力して良い女になるから待っててね」
「………?どーゆー意味?モモちゃんは充分良い女だけど?」
「それがそうでもないんだ」
貴方に釣り合うように努力致します。
貴方が好きな清楚系に戻ります。
貴方の憂さ晴らしの罠に嵌りましょう。
o。+..:*END♡o。+..:*
「……まぁ、嘘ではない」
「嘘じゃないならアノ子はタイプなんでしょ?」
「…んー、そう言う訳では無い」
「………?良く分からないね、添野って…」
「分かってもらわなくても結構!」
添野はそう言い切ると私の左腕を引っ張り、胸の内に収める。
咄嗟に背中に回された腕が解けず、添野の吐息が間近で感じられる。急に抱き締めるなんて何なの?
「モモちゃん、絶対に許さないからな。今日からは好き勝手にさせてもらうから」
耳元で囁かれ、背後にある会議用のテーブルに押し倒される。
ガタンッと鈍い音がなり、身体が横たわった私に添野は首筋に紅いマークをつけた。
「………っ、」
「今日一日、否、跡が消えるまで俺の事を考えてなよ」
してやったり、という不敵な笑みを浮かべて私を置き去りにする添野。
私の思考回路が停止している中、会議室の扉が静かに閉まる。
素っ気ない態度を取っていたのに、急に何なの?
キスマーク…つけられた?
我に返り、慌てて化粧室に駆け込むと首筋にはくっきりと紅い斑点が残っている。
シャツの襟の部分で隠れているので幸い、ギリギリ見えないかとは思うが気が気ではない。
部署に戻って、仕事中でもお構い無しに速攻でアノ子に問い詰める。
「あのさ…総務課に居た眼鏡君って名前分かる?」
書類のやり取りをしている振りをしてのコソコソ話。
「知ってますよ!知りたいですか?」
「名前が思い出せなくて困ってるの。教えてっ」
アノ子が知っている名前をしれっとした態度でメモ用紙に書き出した。
「はい、この名前を見ても驚かないで下さいね。ちなみに私は二人の事を応援したいと思っています」
コソコソとメモ用紙を渡され、私の耳元付近でそんな事を言われた。
───気付いてしまった。
話の流れ的に罠に落ちたのは私だったんだ。
ずっと前からアノ子と眼鏡君は知り合いで、アノ子は眼鏡君の秘密を握っていた。
眼鏡君は知られたくなかったのに知られてしまい、アノ子が会う度にニヤリと笑って秘密を握っている素振りを見せていたから赤面してしまっていたのだろう。
本人に確かめたい。
確かめた上で謝罪したい。
喫煙所に行けば会えるだろうか?
出来れば二人しか居ない時に話がしたい。
広い社内で煙草を吸うタイミングがほぼ一緒だなんて、運命だと信じても良いのかもしれない。
お願いだから、喫煙所に居て下さい。
仕事を終えた後に祈りを込めて、喫煙所へと向かう。
首筋に付けられた跡を思い出して、鼓動が早くなる。
「…お疲れ様」
お目当ての人物が居て、しかも二人きりなので単刀直入に切り出す。
「やっぱり、居た!私、分かったわ。眼鏡君は添野自身だったのね。」
「だから何だよ?」
「別に…!ただ謝りたくて来たの。添野の事を覚えてなくて…」
「覚えてなくて丁度良かったのに。地方営業に回されて名誉挽回して本社に戻って来たら、偶然にもモモちゃんから話かけられた。だから拒絶された仕返しをしてやろうと思ってたのにな…。そのふわふわウェーブのモモちゃん見たら…」
添野は煙草の火を消して、煙がまだ目の前を掠める中で私をそっと抱き締めた。
「仕返しなんてどうでも良くなった。新入社員の時に会ったモモちゃんを思い出して…また手に入れたくなった…。ヘアスタイルとか見かけを変えてどんな女と付き合っても、モモちゃん以上の女なんて居なかったんだ…」
抱き締められている両腕に力が入って、少しだけ痛い。
「……だから振られた腹いせの憂さ晴らしなんて止めて、本気でモモちゃんを手に入れるから。そのつもりで居て…?」
「………はい。私ももっと可愛い女になるから、今みたいに優しく接してね」
「努力する……」
存在を確かめるかの様に強く抱きしめられていた身体を解放され、自由になったかと思えば…額に唇が触れた。
「……額にチューだけ?」
「…はぁ?こっちは我慢してんのに煽る訳?でもモモちゃんが完全に堕ちるまでは深入りはしません!」
ちょっとだけ添野をからかうと頬が赤く染まり、可愛い。
照れるのは意外な一面でもあり、そのギャップも好きになり始めている。
クールに見せていただけで、中身は目立つのが嫌いな眼鏡君なのかもしれないと思っている。
私も憂さ晴らしをしようと思っていた事は内緒にしておこう。
根は純粋な添野とお近づきになれるように、卑屈な私と底意地の悪い私は捨てなきゃいけない。
「……添野、私も努力して良い女になるから待っててね」
「………?どーゆー意味?モモちゃんは充分良い女だけど?」
「それがそうでもないんだ」
貴方に釣り合うように努力致します。
貴方が好きな清楚系に戻ります。
貴方の憂さ晴らしの罠に嵌りましょう。
o。+..:*END♡o。+..:*
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