縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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縁日ヶ丘 1

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 少々寸足らずのバスタオルを巻きつけたきりな美那子が、冷蔵庫目ざしてぺたぺた歩いてゆく途中、ふと携帯電話に蛍火が灯っている。見ればまいから七、八分前の着信であった。

 ひとまず髪を乾かしに行った。戻って来てかけ直すと、

「みぃなこさん」と舞が出た。「今から行ってもいい?」
「いいよ」
「良助も行っていい?」
「うん」
「じゃあすぐ行くね」

 それから二、三分で舞と良助がやって来た。舞が匂いを嗅いで、

「お風呂入ってたの」
「まあね。――なにか飲む人」

 舞も良助もハイッと手を上げた。けれども美那子が用意し始めると舞が

「やっぱり縁日ヶ丘えんにちがおか行かない?」
「そうする?」

 良助を見ると、ただ肩をすくめた。美那子も肩をすくめて、服を着替え直し、三人で出かけた。良助の車で行くかどうかで少し揉めて、良助の「俺もビール飲みたいよ」という希望が通り、歩いて向かった。

 その小山に着いた。頂上の広場の抽選にあぶれた露店がちらほら提灯を光らせている暗い坂を上りながら、美那子が
「お風呂上がりなのに汗かいたわ」

と言うと、舞は美那子の腕に自分の腕をからませて、

「ごめんちゃい」
「暑いからくっつかないで」

 舞は「えーん」と言って離れた。そのまま一つの露店に吸い寄せられて行き、金魚とマツモの絵が描かれた薄い団扇を買って来ると「あおぐから」と言ってまた腕をからめた。

 そのうち舞も汗をかいて来て、良助に団扇を渡し、あおぐよう命じた。やがて良助が美那子ばかりあおいでいると舞が騒ぎ始めたので美那子は腕を引きはがして、

「恋人同士でくっついてなさいよ」
「だって良助くさいんだもん」

 そう言われた良助は襟元をつまんでぱたぱたし、余計に放散させながら

「仕様がないだろ生乾きなんだから」
「だから乾いてるのあったのに」
「あれキライなんだろ」
「うんキライ。ふだんならその服が正解。でも今日はチョイスミス」
「ミスチョイス」

 と良助が訂正する。舞は眉をひそめて、

「美那子さん、どっち?」
「なにが」
「チョイスミスとミスチョイスの正しいほう」
「さあ。知らない」

 舞は美那子の服を引っぱって、

「ねえ真剣に。文法的にどっちが正しいの。最近良助調子こいてるから」
「うーん――たぶん和製英語だから、どっちでもいいんじゃないの」

 舞は「がーん」と言って、「またか」とつぶやいた。「またそういうのか」と言って、「がっくし」とつぶやいたあと、「――チョイスミスって、『ちょっとだけスミス』みたいね」と言ったのち、「……あっちいから、ちゃんとあおいでよ」
「あおいでるよ」
「届いて来ないんだよ」
「それなら自分であおげ」
「けんかするなら離れてね」

 と美那子が言うと舞は「もうしません」と誓った。

 遠くから見るとずいぶん明るんで見える小山だけれど、頂上の広場にずらりと並ぶ提灯は、じっさいに見るとなにか勢い足らずで、薄暗いくらいであった。

 一年中縁日のようなこの広場は、にぎやかにお囃子はやしが鳴っている日もあるけれど、今日はなんの音も流れていず、浴衣を着ている人もいなかった。


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