縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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縁日ヶ丘 2

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 舞がざっと露店を見渡して、パチッと指を鳴らし、

「今日は当たりだ」と言ったけれども、もう少し覗いているうちに、「そうでもなかったかな」
「舞センサーではどうだったの?」

 と美那子が尋ねると、舞は首をひねって、

「センサーでは、今日はどっこいどっこいのはずだったの。ただし、ぜんぶ平均的なのか、つまんないのばっかりの中に凄いのがちょっとだけあるのかは、わかんなかった」
「どっちな感じ?」
「うーん……どっこいどっこいかな」

 と答えて、眉間にしわを寄せたまま焼きトウモロコシの露店に吸い寄せられて行くから、良助が

「そんなにガッツリしたもん食うのか」
「おう。食うとも」
「晩ごはん食べたんでしょ?」

 美那子が良助に尋ねた。良助が「ちゃんと食べさせたよ」と答えると、舞はキッとふり返って、

「なにが『食べさせた』だよ。なんにも手伝わないくせに」
「舞は太らないから幸せね」
「美那子さんのほうがほっそほそのくせに」
「私は我慢してるもん」
「でもあたしだって大変なんだよ、早い時は食べて一時間もしたら出ちゃうんだから。ほとんどそのままの時だってあるし。トウモロコシなんてみんなこのまま生還するわ」
「食べながらそんな話しないの」

 金魚すくいがあるので見に行くと、よくわからない魚であった。ペンギンテトラという熱帯魚らしかったが、上から見ると地味だった。

「横から見ても地味だね」
 と言って、テキヤのおじさんが手で一尾すくい、横からの姿を見せてくれた。

 手のひらの上でぱくぱくしているペンギンテトラは、横に一本太く走る黒い線にかすかな金色が沿って、そう地味でもないけれども――戻してあげてくださいと舞が頼むと、ぴっと戻した。

「ヒーターだのエアレーションだの大変だから駄目だぞ」
 と良助が言うと、舞はあきらめた。おじさんも熱心にすすめなかった。今週の露店は総じて商売に不熱心らしかった。

 ひとめぐり冷やかして、良助が一服したいと言うので展望台に行くと、あんがい人がいたので露店のない小さな広場へ行った。白々した電灯が二本立っていたけれど、たいそう暗く、樹木の黒いシルエットの上に星がよく見えた。

 良助が離れて煙草を吸っているあいだ、美那子と舞は小さなころに遊んだシーソーのところへ行った。虫がついていないか、舞が携帯電話のライトで入念に調べた。

 向かい合って座ると、長身な美那子が沈み、小柄な舞がずっと浮いていた。美那子がぜんぜん蹴らないので、自分でのけ反りのけ反りしてシーソーの体裁を保っていた舞が、ふと「ンッ?」とそちらを向いたので、美那子も見ると、向こうの暗がりのベンチに誰か人がいるらしい。

 先客がいたとは知らずにはしゃいでいて、少々恥ずかしかったが、舞があまりじっと目を凝らすので、美那子が小声で

「そんなにじろじろ見るんじゃないの」
「あっ、そうだね」とうつむいた。

 携帯灰皿をパチッと閉めた良助が、灰がついていないか服を軽くはたきつつやって来て、大きな声で話し始めるので、舞がほかに人のいることを小声で告げると、良助はそちらをじっと見た。

 良助の凝視を舞が注意していると、ベンチの人は立ち上がった。いったん電灯の薄明かりの中へ現れて、颯爽と去って行った。

 若い女性だった。そうして、隠す気がないというよりも、むしろ挑戦的なくらい敢然と垂らして振っていた左腕の、手首から先がなかった。

「左手がなかったね」

 と舞が言うと、良助が「ああ」と答えた。高く浮かんだ舞は、良助を見下ろして、

「なにも言っちゃダメだよ」
「言ってないだろ」

 それからその女性について、独りでなにをしていたのだろうとか、我々に怒ったのだろうかとか、さまざまの臆測に興ずる際、舞が「左手の人」と呼ぶので、軽いひんしゅくを買ったけれども、舞に悪気はなかった。


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