縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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左手の人 1

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 職場で舞が左手の人の話ばかりして来るので、美那子がたしなめた。いくら悪気のない無垢な心でも、勝手な想像で人を超能力者やタイムトラベラーにするのはいけないと言うと、舞はしゅんとして、たいへん反省するらしかった。

 そのまま気分が落ち込んで元に戻らず、売り上げにも影響して、主任から嫌みを言われた。

 嫌みはやがて人格否定の様相を呈した。それは主任の人柄であった。売り子たちはみんな一通り食らっていた。中には体調をくずし、そのことで余計に責められ、回復できずに去ってゆく人もいた。

 主任からゆいいつ攻撃されない美那子は、売り子たちからも慕われていたけれど、美那子の信念では、可愛い後輩たちでも、陰で悪態をつくばかりで、自分を守るために真っ向立ち向かう気が誰にもない以上は、義侠心も起きず、職場環境の善し悪しは検討に値せぬものだった。

 その冷淡さは舞にも例外ではなかった。それなのでこのたびも、特別かばいも慰めもしなかった。

 舞は早番だったので先に帰って行った。美那子が終業してマンションに帰り、まず舞の部屋へ寄ってみると、ぐったりした良助がいて、その奥で舞はぷんぷんしていた。

「美那子さん、今日は飲もうぜ」
「飲めないくせに」

「なんか買って来ようか」と良助が聞くと、舞はセンサーがどうのと言って、今日は当たりなはずだから縁日ヶ丘で飲みたいと言う。けれども前回からまだ週は変わっていないので、良助が「露店は同じだろ」と言うと、

「そういうことじゃないの。あそこはあたしたちには揺り籠なの。ね、美那子さん」
「だけど私、今日はちょっと疲れてるから、二人で行っておいで」
「えー……美那子さん行かないならやめす」
「やめす?」

 と良助が言い間違いを拾うと、舞はソファをばんと叩いて立ち上がり、良助の傍を刺々しくすり抜けて、美那子の腕を引いて部屋を出た。階段を下りて、真下にある美那子の部屋へ入った。

「アホ抜きで、二人で飲もう」
「白ワインか料理酒しかないよ」
「それじゃあ……白ワインの炭酸割いっちょう」
「炭酸もない」
「ならオンザロックで」

 美那子はワインを二つ注ぎ、かちりとグラスを合わせると、一口だけ飲んで、シャワーを浴びに行った。
 戻って来ると、舞は携帯電話を耳から放して、

「良助も来ていい?」
「いいよ」

 ほどなくして良助が来た。舞はほとんど飲んでいなかったけれど、しきりに「飲むぜ、今日は飲むぜ」と言っていた。と思うと、持参の缶チューハイを開けようとプルトップに指をかけた良助に「待った!」と言って、

「展望台で缶ビール。いいよね美那子さん?」
「もう今日はしゃァないわね」
「美那子さん疲れてるから歩けないから、良助車出してね」
「そしたら俺は飲めないじゃんか」
「良助なんか飲まなくていいの」
「……いい加減に怒るぞ」
「怒らない」
「怒るぞ!」
「怒らないで!」
「けんかするなら行かないよ」と美那子。
「もうしません。ね、良助お願いね」

 良助はしぶしぶ立ち上がり、キーを取りに行った。


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