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命子 3
しおりを挟むしかし命子に本当は帰りたくないのを我慢しているような気配が、本気では隠されていないような気色なのだった。美那子はこの知人の卵を本式に引き込みたいと願われたけれどその方法が見つからない。なにしろ場の活力が脆弱だった。
そこへ葛藤のないところから、舞と良助が軽やかに割り込んで来て、命子をさっさと引きずり込んだ。美那子は二人の無邪気さに任せてしまった。舞と良助は美那子がすでに引き入れているものと思っての勢いであった。みんなで良助の車に乗り込み、途中コンビニに寄ってから舞の部屋へ行った。
エレベーターの中で、舞宅と美那子宅の構造を舞が教えた。
「上下なの。いつか床に穴開けて、螺旋階段つける計画なんだ。ベランダに縄梯子ってのも考えたんだけど、これは外からバレるもんね」
「上が舞だとドンドンうるさいのよ」
「良助がうるさいんだよ。あたしは偏平足だから足音しないの」
「舞だよ。俺は静かに歩いてるよ」
「良助良助。夜中にもね、トイレ行くでしょ、ドアをガチャンて閉めるんだよ。こう最後までノブをひねって、静かに閉めてって言ってるのに、できないの。めっちゃ紙使うし、トイレットペーパーで鼻かむし、」
「お前――」
美那子がなだめて、舞が食器を並べ、それぞれの飲み物がコップに注がれた。命子は遅くなってもいいらしかった。芋焼酎の水割りを飲みながら、三人の関係を知りたがるのを、舞が買って出た。
美那子と舞は幼稚園からの仲であること、縁日ヶ丘は小さいころからの遊び場であること。良助は他県の出身で、工業高校を卒業して就職し、五年ほど勤めたけれど、ある日勤続四十年の先輩と話している時に神の啓示を受けて、辞職してアルバイトを転々としているうちにこの町へふらふら流れて来たこと、そうして友人の紹介で出会った舞の部屋に転がり込んで、今に至ること。
「みなさん同い年なんですか」
「そうだよ」と舞。
「美那子さんだけ年上なんだと思ってました。さん付けで呼ばれてるから」
「そうでしょ」と美那子。「みんなでそういうふうにするの。私だけ老けさすの」
「だって美那子さんは完璧ウーマンだから」
「そうそう」と良助。
「違うでしょ。舞の言い間違いから始まったんでしょ」
「そうだっけ?」
「そうよ。あだ名じゃん」
「あれェ。そうだったかな……」
それからしんじつの由来の話になると食い違いが起きて、良助も聞いた話と違うと言い出した。やがて美那子がだらだらしたやり取りを終わらせるために、なにか落ちをつけるようなことを言った。すると命子が先ほどの小噺を思い出して場とは無関連に笑うので、舞が笑うわけを執拗に尋ねた。それで小噺のことを聞くと驚いて、
「美那子さんがそんなオジン臭いこと言ったの?」
「美那子さん落語なんか聞くの」と良助。
「いいでしょ別に。お祖父ちゃんがいっぱいレコード持ってて、よく聞いてたのよ。それが鼓膜の隅に残ってたの」
「それだけであんなにしゃべれるんですか」と命子が笑いながら。
「美那子さん頭いいから」と舞が言った。
これに美那子が無言でいると、舞はもしや怒らせたのだろうかと小さくなった。良助を見やれば、口をすぼめてハイボールの気泡なんか見つめている。
すると美那子がとつぜん、
「『おめえ、どんな女が好きだ?』
『俺か? 俺は後家が好きだな。夫の菩提を弔うなんてェのはいじらしくっていいじゃねえか。……ああ、俺のかかあも早く後家にしてえ』――」
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