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命子 2
しおりを挟むとつぜん声色を使って話し始めたので、命子は目を丸くしていたが、落ちのあとでかたくなに黙っている美那子に、とうとう吹き出した。
「美那子さん、落語なんて話すなんて、意外です……」
「そう? でも意外はおたがいさまよ。命子ちゃんだって意外だよ」
命子は目尻を指でぬぐいながら、
「わたしもですか?」
「占いとかやってるから」
「意外ですか」
「うん。占いとか、どっちかっていうと毛嫌いしそうな感じだもんね。なんか激しい音楽聞いたり、バイク乗ったりしてそう……」
バイク乗ったりしてそう、などと言うつもりではなかったのだけれど、我知らず言ったらなるほどまさしくそう思われた。――けれども嗚呼やっぱり言うべきじゃァなかった……占いを毛嫌いしそうなんてことも。ヘタにお道化たりしたために口が馬鹿になってしまった……。
美那子が反省しながら、反射的に出そうになる気まずさ逃れの咳ばらいを、してしまってはほんとに気まずいと思って絞め殺していると、
「バイク、乗ってたんです。けっこう大きいやつ。それで事故っちゃって――こうなっちゃいました」
美那子は、命子が持ち上げてみせる左手を見つめた。なんだかわからない強い流れの中にいることを感じた。常識感覚なんぞ一発で吹き飛んでしまう速い流れ、安閑と留まること能わず、次々に決断し続けなければ命さえ落としかねない激流。
さっき別れたらしい男についての質問が頭をかすめたけれども、こちらは間違いの選択だとどこかで感じた瞬間、
「触ってもいい?」と尋ねていた。
命子はたいへん驚いていた。美那子だって我ながら呆れ果てていた。けれども命子は素直に手をさし出して来た。向こうも激流の中で色々なものが吹っ飛んでいるのであろうと察しられた。同じものに翻弄されながら美那子はそっと、指の腹を軽くくっつけるようにして触った。
冷たいのかぬくいのか判じかねた。縫合の痕のケロイドであろうか、よく見えないけれどもぷっくりふくらんでつるつるしていた。
命子は美那子を上目遣いに見ているばかりだった。そこへ舞と良助が探しに来て、「あれっ、その人」だとか、「美那子さんったらいつの間に」だとか、言ったかもしれなかった。
ともあれ美那子が指を離し、命子が左手を引っ込めたことに、舞と良助は気づかなかったらしかった。
それから軽く挨拶し合い、上の広場へ戻って露店を見たけれど、どうにも興が保たれなかった。空間自体の持つ活力とでもいうべきもの――場を愉快にし、和やかにするなにか――が明らかに脆弱であった。こうなってはまたしても円滑に別れて帰るほかないようであった。
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