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命子 5
しおりを挟むやがて荒ぶる横隔膜が静まると、しばらく円満に沈黙したのち、命子があらたまって、自分も他県から来た者であると自己紹介した。
「どうしてこの町に来たの?」と舞が聞くと、
「縁日ヶ丘があったからです」と答えた。「なにで見たんだったか、子どものころからなんとなく気になってて、じっさい見に来てみると、やっぱりなんだか不思議で、どこか懐かしいような感じがして」
良助が自分もそのクチだからわかると言った。それで舞が得意げに、縁日ヶ丘についてひとくさり論じた。おりふし美那子に「合ってるよね?」と確かめつつ。
いわく、いつも縁日のようなのは廃れゆく露店文化を保存するための、政府か民間か知らないけれど、そういう事業によること。しかし蓋を開ければけっきょく季節も様式もなくなった、いつでも手軽に体験できるという現代のだらしなさの象徴におちぶれているのではないか、これではかえって滅びを助長するのではないかという批判もなきにしもあらず。
いかさまじっさい保存されているものは、花やかな売り口上なんかもない、疲れ果てたようなテキヤのおじさんたちばかりで、その正体も謎なこと。ほんとは国家公務員かもしれぬというお噂。
週ごとに露店が変わる。各地の露店が雑然と来ては去って行くばかりで傾向も法則もない。甚だしきは真冬に風鈴を売っているし金魚すくいも来る。真夏に焼き芋やおでんやぜんざいを売っていることもある。
縁日ヶ丘といっても神社仏閣のたぐいは小山のどこにもなく、そもそも初めは露店ヶ丘といった。知らぬ間に縁日ヶ丘と呼ばれ始めて、俗称だったところがいつの間にやら公式にもそうなった。
「でもほんとによその人とか、みんな懐かしがるよね」と舞。「聞いてみたら本物の縁日を知らない人とかでも、懐かしいって言うの。どうして懐かしいんだろう。血の中の遺伝子が覚えてて、それで懐かしいんかな」
「こういうものが懐かしいんだって刷り込まれるようなシステムがあるんだ」と良助が言った。「教科書とか、娯楽作品に混ぜてな。陰謀だよ陰謀。世の中はぜんぶ誰かの陰謀」
「違うよ。血の中の遺伝子が懐かしいんだよ」
「落語もそうよね」
と美那子が言うと、舞が真顔で
「美那子さんマジでおかしくならないでね」
「――……まあ、あとはアレだな。俺の友だちの話じゃあ、テキヤのおっちゃんたちの中に、死んだはずの祖父ちゃんにすっごい似た人がいたとかいないとか」
そう言うと良助は美那子と舞を、なんだか抜け目がないふうに見るから、
「――なによ。やんの?」
と舞が言えば、
「いやそうじゃなくって。この噂って、この町のタブーとかじゃないの?」
「え? 美那子さんそうなの?」
「さあ? 別に違うんじゃないの。ちなみに死んだお祖父ちゃんそっくりの人なら私も見たよ」
「それはあたしも見た。話しかけはしなかったけど、『あっ、お祖父ちゃんだ』って思った」
これに良助は、ちょっと気味悪そうな顔で、
「……それで、その後どうなったんだ」
「どうもしないよ。帰って親とかに言ったら、よかったねって言われるの。ね、美那子さん」
「そうそう。ラッキーだったねって」
「それは、見守ってくれてるとかっていうニュアンスで?」
「ううん。もっと軽い感じ。ね、」
「そうそう。お猪口に桜の花びらが落ちたとか、お湯飲みに茶柱が立ったくらいの感じじゃないの」
「ほええ……」
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