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月を眺めて、就職する 2
しおりを挟む良助も当たり前のようについて入ったが、さすがに少し離れて見ていた。命子は慣れた様子ですたすた窓口へ行き、優しそうな婦人職員の前に座って、カードの期限が云々、それでは再発行を云々としばらく事務的のやり取りをしていた。
しかしいざ肝心の段になると命子はにわかに有無を言わさぬふうになり、これまで何度も言って来たらしい淀みない早口で以て諸々の辞退やら詳細な希望やらまくしたてた。それからやんわりした水掛け論が始まって、長々しい妥協点のすり合わせの結果、双方クタクタのほとんどやぶれかぶれに、長靴のソールを取り付ける工場が今すぐ面接可能ということで、あつくお礼を言うと建物を出た。
紹介状を握りしめて前方を見つめている命子の胸奥は不明だったけれど、どことなく良助の「ほんとにそこでよかったのか」という質問を封じるものがあった。工場まで送る車内は静かだった。
住宅街のただ中にある小さな工場だった。良助は車の中で待っていた。やがて戻って来た命子はたいそう嬉しそうに、決まりました、パートのおばさんの中にまじるんだと思ってたけど、事務員になりましたと報告した。
駐車場を使わせてもらっていた喫茶店で良助が昼食を奢った。それから近隣の様子を少し見て回ると、ウーファーを効かせたトランス音楽を流し、二人で首を前後に振りながら帰った。
美那子の部屋でお祝いをした。良助は舞から仕事を休んだことを叱られ、職安と面接について行ったことを褒められた。みんなで調べてみるに、工場までは交通の便が甚だよろしくないので、
「行き帰りはどうするの」と美那子。
「俺が送り迎えするよ」
「バスで行きます」
「送ってもらったらいいじゃん」と舞。「美那子さんどう思う?」
議論のすえ、バスで通勤することに決まった。舞は納得しかねる顔で、
「だけど一時間に一、二本とか、時間潰すの大変じゃない?」
「近くにホームセンターがあって、二階に大きいペットショップとかもあったから大丈夫です」
「へえ。ペットショップどんなのいた?」
「さあ……犬とか猫とか、魚とかですかね」
「ぜんぜん興味ないじゃん」
「でも、あと花屋さんコーナーにベンチのある温室みたいなところもあったし、小さいカフェとかもあったから、本とか読んで待ちます」
「なにを?」
「バスをだよ馬鹿」と良助。
「違うよ馬鹿。本なに読むの?」
「それは、まだわかりませんけど」
「当たり前だろ馬鹿」と良助。
「うるさい馬鹿」
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