縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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はらりと崩れる 2

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 命子から連絡はなかった。美那子からもしなかった。舞が命子の話題を出しても、美那子は舞に同調するかたちで懐かしんだり、怪訝がったりするばかりで胸底が読めない。

 舞は美那子が連絡しないので自分も我慢しているらしかった。命子の現状を知りたいけれど、美那子の内心がわからないので、ぐっと飲み込むらしかった。

 時々美那子は独りで散歩に出かけた。通りゆく人を注意深く見ながらあちこちさまよった。

 よく家々の窓を見上げた。道に木の枝など落ちていると、その示すほうへ歩いた。もしかしたら何度か散歩の道すがら、そこいらのアパートやメゾネットのポストまで行って表札を見たりしたかもしれなかった。

 良助は命子の心情を考えてみるらしかった。それでどのような結論に達したのか不明だったけれど、美那子が連絡しないことに対して不服そうだった。命子の勤務先で待ち伏せしようかと提案したけれど美那子は静かにかぶりを振った。

 ある晩、舞センサーがうんぬんと言うので縁日ヶ丘へ行くと、このたびの吉兆は今川焼きの露店のことだったと判明した。どこから流れて来たのか、たいそう風雪に磨かれた、いぶし銀なおじさんが売っていた。どんな秘密があってここまで達し得るのかといぶかられるような、嘘のように美味しい今川焼きの屋台に長蛇の列であった。

 後光の射す今川焼きを片手にいんちきヨーヨー釣りに苦戦する舞と良助からそっと離れて展望台に来た。そうしたら現れるような気がしたのではなかった。必ずここにいるという確信にしばらく気づかなかったこと、いや折々胸中にかすめたはずであるのになぜだか取り合わなかったことに対して、今まったく平然と来てみせることで強引に清算するような気分なのだった。

「新居はどう?」

 尋ねると、一緒にいたころにも伸び続けていたのだろうが、あたかもいっぺんに髪の長い命子は、少し痩せた頬に捨て鉢な笑みを浮かべて、

「上の階のおばさんは被害妄想でインネンばっかりつけて来て、となりのおじさんはヘビースモーカーで痰ばっかり切ってて、お風呂の床は黒黴だらけでぬるぬるで、廊下の電気は消えたままで、共同のトイレは――」云々。
「そっか」
「舞さんはお元気ですか」
「良助が帰って来て、また一緒に住んでるよ」

 これに命子は軽く目を見張り、小さいため息をついたのだったが、確かに一瞬、バイクを乗り回していたころの表情だろうと察しられる、眉間にしわを寄せ、小さな唇をめくらせて、あとは舌打ちでもすれば完成しそうな顔であった。

 けれどもすぐに、表情はおのれを保つ力も失したようになり、

「舞さん、よかったですね」
「また四人で遊びに行こうよ」
「はい」
「今、二人も向こうにいるけど、行く?」返事がないので、「もうすぐ来ちゃうと思うよ」

 それで別れた。広場を通らずに下りられる薄暗い道へすたすた消えて行く命子の後ろすがたに、

「番号とか変えちゃ駄目だからね」

 命子は立ち止まってふり返り、うなずいて歩き去った。


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