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手繰り戻して恩師の洋館 1
しおりを挟む舞と良助がなにか二人にゆかりのところへ二泊三日の旅行に行ったので、メールを送って招待してみると、間髪を容れず返信があり、命子が泊まりに来た。
美那子こだわりの少々くつろぎにくいアンティーク調な椅子の上で、命子はたいへん安らいで見えた。
「そういえば、弟さんはまた嗅ぎつけて?」
と美那子が尋ねると、ほとほとウンザリの吐息をついて、
「どうしてああ受信するんでしょうね。わたしそんなに飛ばしてるのかな。今度はさすがに一晩だけ泊めて、まあすぐ追い帰しましたけど」
と軽口をたたいてはいるものの、かなり水気が抜け、やつれてぱさぱさしているので、
「私たちもどこか行きたいね」
それはまったく言葉だけの、その場で咲いてその場でしぼむ気晴らしの台詞のつもりだった。ところが、命子は異様な熱心さで賛成した。どこか行きたいところがあるというわけでもないらしかったが、明日にも出発したいというような張り切りようで、ガスの元栓やら休暇願やらと具体的なものを整理し始めるから、
「今すぐは駄目よ。舞が休んでる分、私は休めないから。舞が帰ってからも、三日も休み取った大罪のほとぼりが冷めるまでしばらくフォローしとかないと、いじめ殺されちゃうから」
命子は見るからにガッカリしたけれど、旅行に行くという話をこのままうやむやに流す気はないらしかった。すぐにも行かなければならないような切羽詰まった観すらあった。追われの身ででもあるかのような。その胸中に吹き荒れている「御用だ御用だ」の声とけたたましい足音と無数の提灯の蠢きが美那子にまで漏れ聞こえて来るくらいの。
先ほど少し触れてみただけで、顔を曇らせ言葉を濁したので話題を変えたけれども、命子の仕事はうまく行っていないらしかった。凛々しい顔が卑屈にゆがみそうだった。そう見れば命子の顔は簡単に醜くなれそうな気がした。
美那子は舞が帰って来たら入れ違いに休暇を取る約束をした。易しからぬこと想像に難くない諸々は、舞には自力で切り抜けてもらうことにして、さて具体的にどこへ行くか。命子は痛々しいほど喜んで、
「美那子さん行きたいところはないの」
「これと言ってないのよ。ないのに行ってもね。それとも、ないくらいのほうがいいのかしら」
「期待しないから?」などとうきうきして尋ねる。「期待しないから幻滅もない?」
それで美那子は、そもそも旅行に求めらるべきものは新鮮さか懐かしさか、刺激か安らぎか、静やかな快癒かいったん滅びる復活か、拾いに行くのか捨てに行くのか、逃げ込むのか立ち向かうのか、そこへ帰るのかあとで帰るところを作るのか、そもそも旅行とは人間の欲望や本能にどうからんだもので、ほんらいどう楽しむのが正解なのか云々云々、漫然と並べ立ててあわよくば熱を冷まさせようと試みるけれど、命子は腹を決めている気色であった。
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