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埃が積もって行く 4
しおりを挟むリビングに戻って大画面のテレビをつけた。静華さんが無数のディスクをあさって映画を選んでいるうちに、美那子が以前見ていたバラエティー番組の昼の再放送が始まったので、三人でビールを飲みながらそれを見た。
久治さんからもうすぐ帰るという連絡が来たので、よろしくお伝えくださいと言ってお暇した。
ある夜、どうにも眠られなかった。命子はすやすや眠っていた。美那子はじっと目をつむり、やがてうつらうつらして来て、しかしまたしても睡眠には直結しない錯乱めいた脳裏の舞台に、舞と良助がいた。
良助が落ち込んでるから美那子さん慰めて。あたしはバカだから、うまく言えないから。そう言われて、舞になっている美那子は、良助を慰め、はげました。言葉を選んで頭を絞って話しているうちに目が覚めている。たいへん疲れていた。こういう夢は参る……脳味噌は、夢においてはもっとおのれを癒す義務があるはずだのに、なにを自覚させんとしておるのか。いいや、その手は桑名の焼き蛤だ、どうともとれる分析なんかしてやるものか。
命子が起きてトイレに行った。戻りしなに水を飲んだら目が覚めてしまったと言いつつとなりに寝ころがって、美那子さんはどんな少女だったの。小さな女の子のころからクールビューティーだったの?
美那子は、むろん自分ではクールビューティーとも思わぬけれど、しばしば言われ続けて来たことにあらがう気もとうになかった。
聞かれて考えてみる。小さな女の子のころ――根も葉もない醜聞。罠にはめられて嘘つき呼ばわり。手柄の横取り。先生も親も見抜けない。いや先生や親自体の持っている姑息さ狡猾さ。そうした時美那子は訂正も指摘もせず沈黙した。多々あった。ぜんぶ大した事件でもないけれど、そういうことが起こるたび、正当な賞罰はないのだ、この世のみならず、神さま仏さまにもどうせ間違った報告書が届けられているのだという気がして、気づけばだんだん無口になっていた。今もまた命子にそれを語らぬ。
命子は、美那子が答えず、あくまでクールビューティーなので、それなら持久戦・物量戦だと、あくまで質問し続け、なんでもいいから具体的な思い出話を聞きたがった。
あんまりしつっこいので、美那子はひとつ道連れにしてやる気持ちになって、恐怖の伴う記憶を一席。
幼女のころ、兄妹でお留守番をしていた折、兄がふざけて狐憑きのような真似をした。初めは冗談だと思って笑っていたが、もしかしたらそうではないのかもしれぬと思われるくらいしつこかった。あまり怖くて笑いながらやめてと言うが、やめてくれない。
とうとう本気で泣いたのでやめてくれたけれど、それから他人の、さらには自分の存在さえ疑わしくなる時があった。この世が本物なのかどうか、もし朝起きて私ではなくなっていたら――しかも周囲はそれと気づかずに。
そう考えると私はすでに違う私なのではないか。前の私は今朝すでに消えていて、そして翌朝は、今の私の消える番なのではないか。そののちの私は、また記憶を受け継いだ別の私が、これまでもずっと自分だったのだと思いながら生きて行く。そこに今の私はもういない。みんなは気づいていない。次の私も気づいていない。そう考えると泣くこともできないくらい怖かった。
それから「寝たら消える」という妄想にとりつかれた。今もその名残で時々眠られなくなる。今夜も然り。そのわりにはずいぶん背が伸びたけれども。
話し終えると、命子は美那子の手を取って、言葉で以て美那子の魂をさすろうとするように、美那子さんは眠っても消えない、別人にもならない、とくり返しささやいた。
美那子はされるがままで、しかしなんぞ慰むものもない。そんな自分が別に哀しくもないことが、ぼんやりと寂しかった。
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